殺し屋とは誰か 『ボーダーライン』ドゥニ・ヴェルヌーヴ(映画 2015)
麻薬カルテル撲滅任務に加わった、FBIの捜査官ケリー(エミリー・ブラント)。彼女は、CIAや国防総省に率いられたチームの、非情で違法な作戦を目の当たりにする。
原題は“SICARIO”(殺し屋)。
殺し屋とは誰か。
毎日何百人もの人を誘拐・殺害するカルテルはもちろんだ。
しかし、カルテルに対抗する米国側も、やっていることは同じ。米国に住むカルテル幹部を、国内では立件できないからと、メキシコにおびき出し射殺する。メキシコでは、周囲に一般市民がいても構わず作戦を実行する。
フィクションなので、これがすべて実際に起こっていると受け取るべきではない。けれど、米国の警察官もカルテルに買収されているエピソードなどは、麻薬の蔓延状況を考えると現実味がある。
現実味という点では、CIAが雇った男(ベニチオ・デル・トロ)が、カルテルのトップを殺害する場面は、警備が手薄すぎると思う。あんなにやすやすと豪邸の奥まで侵入して、しかも悠長に話し込んでいていいのだろうか。
(対照的な場面として、『スカーフェイス』のラストシーンを思い出した。あそこでは、何十人もの刺客が、麻薬王トニーの屋敷になだれ込んでいた。)
逆に、現実感が際立っていたのは、CIAの顧問が率いる麻薬取締チームが、国境を超え、シウダ・フアレスに入るシーン。
途端に街の雰囲気が変わる。
標識など、道路のデザイン。道沿いの壁の落書き。トペ(スピードを落とさせるために設けられた車止め)を踏んで、車が上下に揺れる様子。
メキシコだな、と思った。
実際の撮影地は、メキシコではヴェラクルスだけど、製作チームはフアレスを事前に視察したらしい。
⭐︎食の場面
麻薬の密輸に関わるメキシコの警官が、家で食べる朝ごはん。彼のベッドまで、息子が運んで来てくれる。ちらっと映るだけだが、炒り卵と煮豆、トルティージャが皿に乗っている。
息子は、父がパトカーで麻薬を運んでいるとは知らない。