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元祖アドレスホッパー!寅さんの持ち物を探る
ギネスブックにも掲載された一人の俳優が続ける世界最長の映画シリーズとして男はつらいよがある。長いシリーズのため、各作品の内容までは知らずとも、名前やテーマソングだけは聞いたことがある方も多いだろう。
松竹映画『男はつらいよ』シリーズは、山田洋次原作・脚本・監督(一部作品除く)・渥美清主演で1969年に第1作が公開され、以後1995年までの26年間に全48作品が公開された国民的人気シリーズです。
そもそも「男はつらいよ」は、山田洋次脚本・渥美清主演で68年に全26話のテレビシリーズとして誕生しました。
これは渥美清が少年時代に見てきたテキヤたちの思い出を語ったところから、山田洋次がイメージをふくらませたものでした。最終回、主人公のフーテンの寅がハブに噛まれて死んでしまうというエピソードに視聴者からの抗議が殺到したため、脚本を手掛けた山田監督が映画化を思いつき、69年8月27日に第1作を公開したことから、シリーズの歴史が始まりました。83年、“一人の俳優が演じたもっとも長い映画シリーズ”としてギネスブックに認定。日本中から愛される作品として、渥美清さんが亡くなるまで作り続けられました。
誰もが笑い元気になれる日本人の心の原風景を描きつづける本シリーズは、主人公の名前から、作品自体が「寅さん」の愛称で呼ばれることも多く、現在まで幅広い世代から愛され続けています。
松竹映画『男はつらいよ』公式サイトより
男はつらいよは、東京・柴又生まれの寅さん(車寅次郎)が、日本各地や海外へと旅に出ては、啖呵売(たんかばい)としてテキヤ商売をしつつ、現地で知り合った女性(マドンナ)を巻き込んでひと騒動ある……というような作品である。
フーテンの寅とも呼ばれる寅さんの生き方は、今風に言えば家に住むことをやめて多拠点生活をする人:アドレスホッパーと言えるかもしれない。(アドレスホッパーは定職のある方が大半とは思うが)
寅さんが育った街という設定の東京葛飾の柴又には寅さん記念館があり、寅の全財産というコーナーにて寅さんの持ち物が公開されている。
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フーテンの寅の二つ名の通り、ふらりと長旅に出ていた寅さんの荷物は旅行に出るときの参考に、またはアドレスホッパーを目指す人の参考になるかもしれない。さっそく内容を覗いてみよう。
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花札・サイコロ
手回り品に花札とサイコロがあるのがテキヤである寅さんらしいところだ。啖呵売のセリフの中にも花札のフレーズがでてくる。
兎を呼んでも花札にならないが、兄ィさん寄ってらっしゃいよ、くに八つァんお座敷だよと来りゃァ花街のカブ、憎まれっ子世にはばかる、日光結構東照宮。
ちなみに、啖呵売で売っていたのは食器、縁起物の鶴、古本、張子の虎、ネクタイ、健康サンダル、ウィーン製直輸入バッグなどとされる。
腕時計
シチズン製のレオパードが展示されているが、映画初期に使われていたのはセイコーのファーストダイバーというダイバーズウォッチである。それなりにする腕時計を身に着けることで啖呵売の商売に箔をつける効果もあったのかもしれない。どこでも使える時計を身に着けておくのは旅暮らしをする寅さんらしい。
近年では限定で寅さんコラボモデルが復刻販売されていたようだ。
指輪
寅さんは結婚しそうになりつつも独身であり続けたが、手には指輪をしていた。純金製ともいわれている指輪は、何かあったときに換金できるようにであろうか。
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蚊取り線香
民宿に泊まることの多かった寅さんは部屋で蚊取り線香(金鳥渦巻)を焚いていたようだ。今は空間に噴射するタイプのスプレーが増えたものの、蚊取り線香も風情があっていいものだ。
富山の薬(ケロリン・龍角散)
富山の薬と書かれつつ、ケロリンと龍角散が展示されている。銭湯の風呂桶で有名なケロリンはアスピリンと生薬の桂皮を配合した解熱鎮痛剤で、頭痛や生理痛に効果がある薬だ。公式ファンサイトには寅さんが持ち歩いていたことに関する記述がある。
龍角散はキキョウ、セネガ、キョウニン、カンゾウを中心とした生薬が配合された粉状の薬で、せき、たん、のどの炎症による声がれ・のどのあれ・のどの不快感・のどの痛み・のどのはれに効くという。啖呵売ではのどは商売道具なので気を使っていたようだ。
財布
シボのある黒革の札入れが展示されている。作中でもたびたび出てくるものだ。本当に黒革なのかは分からない。
こよみ
こよみと言ってもカレンダーではなく易断本のことである。展示物では高島易断のものであった。
啖呵売をする上で大安や仏滅といった六曜を気にしていたのかもしれない。男はつらいよ 噂の寅次郎では浅草寺境内で易断本を啖呵売するシーンもあるようだ。
ふんどし
今やふんどしを着用する文化は廃れつつあるが、かつては軍で支給していたほど下着として一般的なものであった。軽量であること、紐付きで簡単に干せること、速乾性が高いことを考えても旅向きである。
ダボシャツ上下+腹巻
寅さんといえばこの服装。祭り用品としても使用されるダボッとしたシャツだが、寝間着から普段着まで広く使える便利な品で、日本の暑い夏でも涼しく過ごせる品である。
腹巻きの中には先程の黒革の財布が入っている。
マッチ
単に出先で火が必要なときのためのものであろう。寅さんはやけ酒をしてもタバコは吸わないキャラクターであった。
寅さん役の渥美清さんは酒もタバコもコーヒーさえ摂らない生活をしていたという。売れない役者時代に「タバコを一生吸いませんので仕事をください」と小野照崎神社で願掛けをしたら寅さんの役が舞い込んだ逸話がある。
目覚まし時計
そこそこの大きさがあり、トランクの中でも目立つ存在である。2つの鐘を往復してベルを鳴らすレトロなタイプだ。かつてはこのベルのタイプかパタパタのタイプの二択だったようだ。
時刻表
かつては長距離の旅をするなら持っていくべきは最新の時刻表であった。いわゆるシティ電車化するまでの国鉄列車は特急・貨物列車優先で、都市圏でも本数・発車時刻がバラバラであり、駅に行けば列車に飛び乗れる今のような旅の仕方は難しかった。
今や青春18きっぷを手に旅をする限界旅行勢でも時刻表を買うのは珍しくなってしまった。
トイレットペーパー
昔の公共トイレといえば暗い・狭い・汚いの三拍子であった。トイレに紙がないのも日常茶飯事……ということで、トイレットペーパーを持ち歩くのは非常時の対応のためだろう。水に流せるトイレットペーパーは、ティッシュの代わりにも、タオルの代わりにもなる便利な存在だ。
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展示の中では、男はつらいよ 寅次郎心の旅路にてウィーンで日本人観光客に託したトイレットペーパーが展示されている。トイレットペーパーを手紙に使うとは大胆だ。
さくら心配するな おれは生きている 寅
余談ながら、中国語だとトイレットペーパーは手紙とも書くらしい。
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洗面具入れ
展示されているものでは両刃カミソリ・くし・爪切り・はさみ・ピンセット・耳かき・手鏡がある。ドライバーのようなものも見えるが、これが何なのかは分からなかった。
両刃カミソリのホルダーは軽量で、替刃が安いにもかかわらず深剃りができるため旅行用品としてぴったりである。
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うちわ
小型になる扇子ではなくあえて竹製のうちわなのは、構造的に壊れにくいからであろうか。
封筒・便箋
割と頻繁に手紙を送っていた寅さんは、封筒と便箋を持ち歩いていた。はがきではなく便箋なあたり長文を書く気満々だったようだ。
近年は電子メールや端末のメッセージでやり取りすることが増えたが、かえって手紙の持つ良さが見直されているように思う。
鉛筆・赤ペン・筆ペン・赤鉛筆
便箋とセットになる筆記用具として赤ペンなどが見える。競馬や競艇をやるエピソードもある寅さんだが、赤鉛筆は新聞に書き込むためだろうか。
はさみ
洗面具入れにもあったことを考えれば、こちらは紙などを切るためのものだろう。
寅さんのトランクの中身まとめ
今まで見てきた荷物をまとめると次のようになる。
花札・サイコロ・腕時計・指輪・蚊取り線香・富山の薬(ケロリン・龍角散)・財布・こよみ・ふんどし・ダボシャツ上下+腹巻・マッチ・目覚まし時計・時刻表・トイレットペーパー・洗面具入れ・うちわ・封筒・便箋・鉛筆・赤ペン・筆ペン・赤鉛筆・はさみ
いま同じように荷造りするなら?
腕時計・財布・目覚まし時計・こよみ・時刻表・封筒・便箋あたりはスマートフォンを持ち歩くことで代替できそうだ。しかしながら、現代の生活を考えれば、PC(タブレット)や充電器、モバイルバッテリー・イヤホンなどを持ち歩く必要があるだろう。そういう意味では、荷物の総量はさほど変わらないのかもしれない。
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寅さんミュージアムの展示では他にも、寅さんが愛した鈍行列車の旅と題して旅行中の様子も再現したコーナーがある。
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客車列車の向かい合いの座席に座り、帽子をフックに掛け、手ぬぐいを座席で干しつつ、冷凍みかんとおむすびを食べる……。旅情に溢れた昭和の旅の姿である。網棚の上には先程の持ち物が入ったトランクが載っていた。
トランク一つだけで浪漫飛行へin the sky……という歌詞が米米CLUBの浪漫飛行にあるが、トランク一つで生きていくというのはアドレスホッパーでなくとも旅行好きならば一度は考える憧れである。
当然ではあるが、私生活に必要なすべてを一つのトランクに詰めて持ち歩くことはできない。寅さんの荷物にある程度の割り切りが感じられるように、本当に使うものだけを持ち歩くようにする必要がありそうだ。
そういう意味では、一度持っている生活用品を無理やりにでも一つのトランクに詰めてみると、新たに気付くことがあるかもしれない。