恋をした。2ーいってらっしゃいー
文=ひーさん(N高6期生・通学コース)
おばあさんへ
夕日が沈む時間は妙なことを思いつく。
僕らももうじき、迎えがくる頃だろうから
あっちにいく前に土産話を整理しようと思ったんだ。
こんなことを言ったら怒りそうだけれど本当の気持ちを書くことにするよ。
今まで色々あったなぁ。いろんなことがあった。
高校を卒業して進路に悩む日々の中、些細なことで喧嘩になってしまうことも少なくなかったね。
でも最後は僕が「ごめんね」君が「いいよ」って言って終わるんだ。
「ごめんね」はあったけど、君に「ありがとう」って数えるほどしかいってない。
だから言う。
長年愛用している僕のマグカップ。君が落として割ってしまったとき、怒鳴ってしまってごめんな。朝、接着剤とテープで直されたものと新しいマグカップをみて目が覚めたよ。
僕の思いをつなぎ合わせてくれてありがとうな。
ガラガラッと玄関を開けたときに、「おかえりなさい」って笑顔で出迎えてくれてありがとう。今まで毎日毎日、ご飯も洗濯も掃除も任せてしまってごめん。
美味しいご飯を、シワひとつない服を、大切な居場所を綺麗にしてくれていつもありがとう。
ーーこんな老いぼれになってから君の手がちいちゃいくて温かいことを知ったんだ。
ーー君の目尻の皺が増えていることを知ったんだ。
僕は君に出会った。
僕の中でいちばんの幸せだよ。
君に恋をしていた人生だった。
神様と約束はしてないけれど、「病める時も」「健やかなる時も」僕たちはイチョウの前で僕は君に、君は僕に誓ったんだ。
悔いることなど何もない。
だから川の向こう側でのんびりこの土産話をして待っとるぞ。
君は僕の手を握ってそばにいる役目があるんだ。一緒に行くんだよ。役目を放棄されちゃ困る。
それに仲良くしてたあいつらも嫁さん置いていった奴らだ。臆病だけどやるときはやる男達だ。
君とはずっと一緒だからな。面白い話題が尽きないだろう?
……話の分別は弁えてるよ。ほうれん草は勘弁してくれ。
思い出話に花を咲かせるとするよ。
やっぱり話の盛り上げ役は僕だろう。
またな、ふみこ
「はい。こうきさん。」