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関西演劇祭2023全上演感想/Artist Unit イカスケ『フェイク・アウト・ハーモニー』
Artist Unit イカスケ『フェイク・アウト・ハーモニー』ゲネプロ。
演じる楽しさがドライブする、湯けむりスパイ大作戦。楽しいです。銃弾が飛び交います。
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Artist Unitイカスケ『フェイク・アウト・ハーモニー』初日。
空港で温泉地で、銃弾と策謀とびかう殺し屋たちのガンアクション。でも物語の中心にいる令嬢が本当に望んだ武器は、銃ではなく「歌」なのでした。
登場人物たちは皆かっこよくて、程よく間抜けで楽しくて、
さすがエンターテイメント・コメディを作る名手・イカスケらしく、
笑ってみていられる作品です…なのですが。
今この時代に銃弾飛び交う物語をつくり、
タイトルには「フェイク・アウト」という言葉が置いてあること。
そこに、物語の作り手の切なる願いを感じずにはいられません。
登場人物たちは皆、
組織や過去や役割など、いろんなものから与えられた目的の中で、
銃と弾丸を手にして戦っています。
それは真実自分の選んだ道なのか。
それはフェイクではないのか。
銃に限らず、
私達も自分たちの人生で、
自分が選んだわけでもない何かを成し遂げようとしているかもしれない、
そんな思いも私の心には湧きました。
しかし、
そうした比喩的解釈が吹き飛ぶほど、
銃と弾丸に関してはのっぴきならない「今」の中、
もっと切実な、痛烈な、物語の叫びが聴こえるような気がしたのです。
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Artist Unitイカスケ『フェイク・アウト・ハーモニー』2ステージ目。
レディ・ゴルゴの物語として幕があがり、
イチくんニコちゃん、長慶寺、女将さんの群像劇として展開し、
007の活躍劇として進行し、
歌姫の付き人・野坂の葛藤でクライマックスを迎え、
歌姫の歌で終幕する。
つぎつぎに主人公が移ってゆくという
実に変わった構造なのです。
この構造が意図的でないわけがない、と私は思いました。
それは、どのような戦場にも、大きな一つの物語があるのではなく、
無数の、銃弾の数だけの悲劇があり、
銃弾の数だけ主人公がいて、
それが無数のまま忘れられていっている
という現実を映し出そうとしているのかもしれません。
まだ答えは私にはわかりませんけれども。
私達の歌は、演劇は、
こうした世界の中に何か可能性をつなぐことができるのか。
目をそらしてはいけないことを、
改めて自分に問う時間と、私にはなりました。
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Artist Unitイカスケ『フェイク・アウト・ハーモニー』3ステージ目。
クライマックス、演者たちのほとばしるような演技が、
物語の枠を超え、舞台の外へとはみ出して遠くへ向かってゆく、
その光景に、胸打たれる上演回でした。
そこに向かってスタートしたからでしょうか、
物語序盤から全てのエピソードがクリアに組み上がり、
スパイ・アクション・エンタテイメントとして、
より娯楽性も高まって感じたのでした。
ニコちゃんが2丁の拳銃を構える時の強さの土台に
仲間への愛以外には非情を貫く悲しさを見ました。
あれほど敵を撃てと切実に叫んだ節子が、
主人凪子の歌う姿から目をそらさないその気迫、
レディゴルゴが揺るぎない背中を見せる精神の筋力、
世界から吹きつける風圧に立ち向かう演劇の闘いを見ました。
あと私は、
いろいろこの物語の続きを思いついたりもしました!
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(追記)
クライマックスの歌もよかったし、女将さんの歌も良かったですね。そして途中の「♪バンバンババンバン 」、と歌う歌が、 温泉地での銃撃戦を思わせて楽しく切なく。
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