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関西演劇祭2023全上演感想/無名劇団『あげとーふ』
無名劇団『あげとーふ』ゲネプロ。
いやーいい芝居を見ました。
技術を超えた、計画や予想を超えた何かが、物語には、演技には、演劇には、人生にはある。
その証明のような作品。是非とも見ていただきたい素晴らしい芝居です。
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今もかわらぬ質感であることの素晴らしさ。
無名劇団『あげとーふ』初日。
アメリカの砂漠地帯で立ち往生する、日本の高校生5人組の、涙と笑いの青春譚。
ただ卒業記念の気楽な旅に見えて、実は、悩んで自殺しかねない仲間を救うための旅なのでした。
そもそもその仲間・タクトゥは確かに悩んでいたけれども、
本当に自殺しようとしていたかどうかは実はわからないのです。
それでも、その万が一が心配で心配で、
タクトゥの旅に無理やりついてきて、しまいには殴ってでも彼を止めようとする、
空回りかもしれないオガチャンの悪戦苦闘。
服装もせっかくの観光旅行なのに運動ジャージのオガチャン。
海外旅行のお金を作るのは大変だったのしょう。
作品タイトルの「あげとーふ」は、オガチャンが叫んだ「 I get off」のことで、つまり彼は英語も全然できないのに必死でこの旅に同行してきたのです。
そうしたディティールに胸が熱くなります。
そんな2人と一緒に馬鹿騒ぎをしながら旅を楽しむ仲間たち、
助け舟を出すアメリカ先住民のツアーガイド、
そしてオガチャンの心の底からの願いに誘われて現れ、皆を見守る、精霊の幻。
精霊が最後、幻ではなかった証拠の「羽根」を残して消えます。
(追記:あとでまたその羽根は回収されますけれども)
オガチャンの心配は取り越し苦労かもしれないし、
空回りかもしれない。
けれどその羽根は、友達を思う心は真実なのだということの、証明のようでした。
もはや誰かが書いたセリフではなく、
俳優の、本当の心の底からの叫びとしか思えないオガチャンと仲間たちの声が
心に残ります。
これは、友情物語という名の、ラブストーリーだと私は思いました。
大阪の高校の演劇部が母体となって結成された無名劇団が、
その高校演劇部時代に作った16年前の作品『あげとーふ』を、
ほぼそのままの内容で、現在のキャストで上演するという、この試み。
演劇は、長いキャリアがなくても、技術や大金がなくても、
徒手空拳の高校生たちでも、ここまでやれるということ。
演劇は、上手な嘘をつく芸術ではなく、
真実を作り出す芸術なのだということ。
私は勇気をもらいました。
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無名劇団『あげとーふ』2ステージ目。
初めてこの作品を見た時、
能天気で最高にバカバカしい前半から、深刻な後半へと一挙に進む。
そのような印象があります。
しかし、彼らの旅行の真の目的を知ってしまってから見る2回目以降の観劇では、
前半のバカバカしい大騒ぎはすべて、
深刻な事情に対して彼らが選んだ、
薄氷を踏むような、
極限までに張り詰めた行動だとわかるのです。
それをわかりながら見る前半全てのシーンの、
その緊張感がすごい。
もちろん2回見ることを想定して作られた物語ではないので、
我々は前半を能天気に楽しんで見ていいのです。
それで十分、価値のある物語になっている。
ですから2回目のこの見方は、本来の味わい方ではないのでしょうけれど。
それにしてもすごい。
ずっと辻褄が合っているのです。
登場人物たちの全ての行動は、実は最初からとても重い。
切実なまでに友人を想う、
友を失いたくない一心の、悲痛な旅。
雄大なアメリカの大地の中、
楽しいだけのはずの卒業旅行をかなぐりすて、
友を守ろうとして必死に戦う若者たち。
その想いが、冒頭から身に刺ささってきます。
是非2回見ていただきたいものです。
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無名劇団『あげとーふ』3ステージ目。
いやー素晴らしいですよね。
この物語は、
高校を卒業した若者たちが、これからも続いてゆく自分たちの人生を
「レールのある列車に乗って進むのか」
それとも
「自分の脚で歩いてゆくのか」
それを決断する一夜を描いた作品なのでした。
彼らは決断し、歩いてゆきます。
その決意を得るために、
彼らはなにもない「駅」で一旦考える必要があったのです。
友達といっしょなら、楽しく歩いてゆける、
その先で見るものが、たとえ険しい大渓谷であっても、
そこにはきっと大きく美しい原始の太陽があるのでしょう。
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