
手術室で使う昇圧剤の特徴と使い方のポイント
低血圧の管理において、エフェドリン、ネオシネジン(フェニレフリン)、メトキサミンは、いずれも昇圧剤として広く使用される薬剤です。それぞれ作用機序や臨床的な使用場面が異なり、患者の状態に応じて選択されます。本記事では、これら3つの昇圧剤の特徴と臨床での適切な使用について、医療文献を基に考察します。
1. エフェドリン(Ephedrine)
1.1 作用機序
エフェドリンは、混合型の交感神経作動薬で、直接的および間接的なアドレナリン受容体刺激作用を持っています。α₁、β₁、β₂受容体のいずれにも作用し、次のような作用を引き起こします。
α₁受容体刺激により、血管を収縮させて血圧を上昇させる。
β₁受容体刺激により、心拍数や心収縮力を増加させる。
β₂受容体刺激により、気管支を拡張させる。

また、エフェドリンはノルアドレナリンの放出を促進する間接的作用も持つため、交感神経の活動をさらに強化します。
1.2 臨床での使用
エフェドリンは、急性低血圧や麻酔による低血圧においてよく使用されます。その効果は比較的速やかであり、特に心拍数の低下が伴う状況で有用です。また、β受容体を刺激して心拍数や心拍出量を増加させる効果があるため、心機能が低下している患者や、心拍数が減少している状況でも使用できます。
1.3 考慮点
心拍数が既に高い患者や、不整脈を持つ患者には注意が必要です。エフェドリンのβ₁作用が心拍数をさらに増加させ、不整脈を引き起こす可能性があります。
長期使用や連続投与では耐性が発生し、効果が減弱することがあります。
2. ネオシネジン(フェニレフリン, Phenylephrine)
2.1 作用機序
ネオシネジン(フェニレフリン)は、選択的なα₁アドレナリン受容体作動薬です。血管の平滑筋を収縮させ、末梢血管抵抗を増加させることで血圧を上昇させます。β受容体にはほとんど影響を与えないため、心拍数や心収縮力への影響は最小限です。
2.2 臨床での使用
フェニレフリンは、特に心拍数が正常または高い状態での血圧低下に適しています。心拍数を増加させないため、反射性の徐脈が生じることがありますが、これは通常軽度であり短時間です。麻酔による低血圧の補正や、急性出血時の血圧維持に頻繁に用いられます。
2.3 考慮点
心拍出量が低下している患者に使用する場合、心臓への負担を増大させる可能性があるため、慎重に使用する必要があります。
長時間の使用や高用量では、末梢循環障害や腎血流の低下が起こるリスクがあるため、使用期間や用量を注意深く管理します。
3. メトキサミン(Methoxamine)
3.1 作用機序
メトキサミンもフェニレフリンと同様、選択的α₁アドレナリン受容体作動薬です。主に末梢血管抵抗を増加させることで、血圧を上昇させます。β受容体への作用はほとんどないため、心拍数や心収縮力には直接的な影響を与えません。
3.2 臨床での使用
メトキサミンは、急性の低血圧や麻酔関連の血圧低下、出血性ショックなどの緊急時に使用されます。特に心拍数が上昇している患者に適しており、心機能が問題となる場合でも比較的安全に使用できます。
3.3 考慮点
強いα₁作用による末梢血管収縮により、反射性の徐脈が生じることがあります。この場合、過度の徐脈が起こると心拍出量が低下するリスクがあるため、患者のモニタリングが重要です。
心拍数の低下に対して慎重に対応する必要がある場面もありますが、通常は血圧が安定するまでの短時間で済みます。
4. 昇圧剤選択の臨床的なポイント
臨床でこれらの薬剤を使用する際には、患者の状態に応じて血圧、心拍数、心機能のバランスを考慮することが重要です。それぞれの昇圧剤の特性と使用場面は次のようにまとめられます。
エフェドリン
心拍数の低下が伴う低血圧や、心機能の低下を伴う症例で有用。
ただし、不整脈や過度の心拍数増加には注意。
ネオシネジン(フェニレフリン)
心拍数が正常または高い状態での血圧低下に適している。
β作用がないため、心拍数に影響を与えず、心臓への負担が少ない。
メトキサミン
心拍数の上昇が問題となる症例に使用され、反射性徐脈が生じる可能性あり。
緊急の低血圧管理で強力な昇圧作用が期待できる。
5. 結論
エフェドリン、ネオシネジン(フェニレフリン)、メトキサミンはいずれも効果的な昇圧剤ですが、それぞれの作用機序や臨床的な適応が異なります。エフェドリンは心拍数増加や気管支拡張を伴うため、循環不全時や気道問題が絡む場合に適しており、フェニレフリンやメトキサミンはα₁作用を中心に末梢血管抵抗を増加させるため、特に心拍数のコントロールが重要な状況で選択されます。使用時には、患者の全身状態や他の治療との兼ね合いを考慮し、適切に使用することが求められます。