全経簿記上級試験の過去問を解いた後に見ておきたいもの
全経簿記上級試験が近づくにつれて、持っている過去問題集を解く時間も長くなってくるのではないかと思います。
特に日商簿記1級の受験を経て全経簿記上級にチャレンジする方にとっては、試験範囲や学習すべき内容は似ているといっても、全経簿記上級特有の出題傾向や出題実績に慣れる必要があるため、過去問題対策はすごく重要なプロセスと言えます。
ただ、過去問題をただ「解いて答え合わせをする」だけでは、なかなか点数は伸びないものです。
解説を読んでも分からないところがあればテキストに戻って確認したり、下書きやメモに過不足が無いかを検証したり、今後の問題演習、ひいては本試験の得点につながる"振り返り"が肝心です。
これらに加えて実はもう1つ、見過ごされがちな「解いた後にやっておいた方が良いこと」があります。
それは、主催者である公益社団法人 全国経理教育協会(以下、「全経協会」)が公式ホームページで公表している『採点を終えて』を読むことです。
全経簿記検定を実施する全経協会の公式ホームページの簿記能力検定のコンテンツ内、「出題実績」の下の方に各回の『採点を終えて』という文章がPDF形式で公開されています。
この『採点を終えて』という文章は、各回の上級試験の採点が終わった後、作問や採点に関わった(と思われる)方々が、実際に受験生の答案であったり採点結果を踏まえて書いたものです。
その中には、
・全体的な正答状況
・設問ごとの正答状況
・多く散見された誤答例
・採点に当たって考慮したこと
・その他、受験生へのお願い
などが記されています。
私のような講師も似たようなことを話したり書いたりすることはありますが、『採点を終えて』の特徴は、それが主催者側の公式発表であるということです。その点は他の誰にも真似できないものであり、受験生にとっての"気づき"も多く含まれているはずです。
そうした"気づき"に加え、全経簿記上級試験だからこそ読んでおきたいといえる点が2つありますので、ご紹介しておきましょう。
1.論述問題などの採点方針が分かる
前述のとおり『採点を終えて』の中には、採点にあたっての考慮事項が書かれることもありますが、その中には「こういう答案も加点対象としています。」といったことが明言されることもあります。
例えば、2023年2月に実施された第209回試験の工業簿記では、単一基準配賦法による部門別計算の計算問題を解いた流れで、原価管理の観点で改善する方法について受験生に説明させる問題が問われました。
問題の流れからすれば、「単一基準配賦法ではなく複数基準配賦法を採用すべき」という解答がオーソドックスな模範解答となりますが、改善方法は決して1つとは限りません。その点は採点者も配慮するようで、実際にこの回の『採点を終えて』には
と、活動基準原価計算(ABC)を指摘した答案についても加点する旨が明示されています。
こういったことは過去問題集の解説ではフォローしきれない部分もあり、解いていて不安になる部分かもしれませんが、模範解答と異なる自分の考えが正しいのか否かを確認する良い資料となるはずです。
2.他の受験生の正答状況が分かる
全経簿記上級試験も合格率が概ね10%台前半で推移していることから、いわゆる「相対試験」や「競争試験」と呼ばれるような、得点上位の受験生が合格する試験と言われています。
そういった試験では、多くの受験生が解ける問題は確実に正解し、多くの受験生が正解できない問題は解けなくても気にせず、できることならスルーして他の問題に時間を使うべきとされています。
ただ、「他の受験生が解ける問題/解けない問題ってどれ?」というのは実際のところ、なかなか判断が難しいところです。
しかし、この『採点を終えて』では、受験生の正答状況も比較的細かく書かれることがあります。
例えば、209回の原価計算 第1問で問われたCVP分析に関して、『採点を終えて』では、
のように、比較的細かく各設問の正答状況を教えてくれています。
過去問題を解いて自己採点したあと、当時、本物の試験を受験した受験生と比べてどうなのかを確認することで、問題集の予想配点だけでは判断しきれない自分の実力も確認することが可能となります。
がっつり時間を掛けて読むほど余裕は無いかもしれませんが、いろいろと濃い内容が書かれていますので、ぜひ『採点を終えて』も過去問題とともにチェックしてみましょう。
ネットスクールの全経簿記上級試験対策WEB講座の詳細はこちら