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第168回日商簿記検定1級 工業簿記・原価計算 雑感


第168回日商簿記検定1級を受験された皆様、お疲れ様でした。
現在、ネットスクールでは特設サイトにて解答速報や講評動画、解説動画を配信中です。

https://www.net-school.co.jp/event/nis/kaitou/

試験当日(11月17日)は、14:30から配信した『講評会』という名で問題の感想や難易度などをお話していたり、解説動画などもYouTubeで公開していますが、改めてnoteでも、今回の工業簿記・原価計算の問題で感じたこと、思ったことを簡単に書き記しておきたいと思います。
受験された皆さん、これから日商簿記検定1級を受験予定の皆さんにとって、何か1つでもヒントや気づきがあれば、幸いです。

第168回日商簿記1級本試験に関する動画

工業簿記

全体的な難易度・感想

  • 今回の試験問題は、費目別計算(特に材料費と労務費)の知識と仕訳・勘定記入の知識が中心に問われてる問題でした。

  • 前回(第167回)の工業簿記の問題ほどではありませんでしたが、今回も材料が3種類あり、複数回の仕入・払出があるなど、細々とした計算のボリュームがやや多めで、計算ミス無く処理するのが少し大変だったかもしれません。

  • 講義の中で、受講生の方々に対して「費目別計算の内容は間違えると連鎖的な失点につながるかもしれない」とか、「仕訳や勘定記入を甘く見ていると"計算できても解答できない"ことになるかもしれない」といった注意喚起を、ちょこちょこやっていたのですが、もう少し強く忠告していればよかったな…と思っています。
    (その話を聞いて、意識的に対策をしている方もいらっしゃると嬉しいのですが…)

細かい話

  • 補助材料Cは「棚卸計算法」によって実際消費量を把握するよう指示されてイました。
    材料費は「単価×数量」で計算されるものですが、棚卸計算法の指示はあくまでもこの式の「数量」の方にフォーカスを当てたものであって、単価に関しては資料にある予定価格を使うという点に気づけたか否かが、ちょっとつまずきやすいところかなと考えています。

  • 本問は時間外作業手当に関する指示がわかりにくいように感じました。いくつか処理方法が考えられるポイントですから、もう少し明確に指示があってもいいのかなと思います。

  • そのため、間接労務費の計算とともに製造間接費実際発生額の集計と予算差異の計算ができずに困ってしまった受験生も多いかもしれません。その一方で、時間外作業手当の処理で迷ってしまったとしても、実は問3の操業度差異問4の製品別当月実際製造費用は問題なく解答できますので、そこに気づけたか否かが、もしかしたら合否を大きく分けるポイントになるかもしれません。
    ※これが、予定価格を用いたり予定配賦を行ったりすることの利点として語られる「実際発生額の集計が終わらなくても計算できる"計算の迅速化"」の話と繋がります。知っておくと便利な視点です。

原価計算

全体的な難易度・感想

  • 今回の試験問題の問題は、問題1がCVP分析に関する空欄補充問題、問題2が受注可否に関する業務的意思決定の問題でした。

  • 問題1のCVP分析に関する空欄補充問題は、空欄③や④で迷うかもしれません(実際に専門学校間でも解答速報が割れているようですね…)が、そこさえ気にしなければ、計算を含めて全体的に易しめの問題ではなかったかと思います。

  • 問題2の受注可否に関する業務的意思決定の問題は、臨時の注文で生産する製品と今まで作ってきた市場向け製品とで生産に要する時間が異なる点をきちんと考慮できたか否かがポイントになります。具体的な時間数が書かれていないため、慌てて考えようとすると間違った考えになってしまうおそれもありますが(実際に私がその状態になりました)、全体的なボリュームが少ない回でしたので、落ち着いて処理したい問題と言えます。

  • 余談ですが、「ここ数年、日商簿記1級の工業簿記・原価計算の問題が、全経簿記上級の原価計算・管理会計(以前の工業簿記・原価計算)の問題に近づいている説」をちょくちょくと話しているのですが、今回、日商簿記でよく見かける『第1問、第2問』ではなく、全経簿記上級でよく見かける『問題1、問題2』という表記だったのは、この説がさらに確証に近いものになっている気がします。

問題1の細かい話

  • 原価予測のために変動費率と固定費を算出する方法として高低点法や最小自乗法を用いることを知っている受験生は多いと思いますが、この方法はあくまでも過去の実績(データ)に基づいたものであり、将来に起こり得る変化は織り込まれていないということは、ビジネスシーンで活用する際に知っておいておきたいものです。昨今の物価上昇の流れを考えると、特に必要です。
    これを問題の中で触れるのは、受験生にとって非常に良いことではないかと思います。

  • 空欄⑥・⑦の計算は、パッと問われて答えに困った受験生もいらっしゃるかもしれません。ただ、YouTubeの解説動画でもお話していますが、こういうときに「例えば、固定費が100万円から90万円に減ったとしたら…」といった具合に、わかりやすい数値例を用いて考えられると、これも検定試験以外の場面でも役立つスキルになるのではないかと思います。

  • 経営レバレッジを求める「経常利益/営業利益」という分数式の上下は、直接原価計算による損益計算書における上下の並びと一致していることを知っていると、忘れる心配がグッと減ります。

問題2の細かい話

  • 問題2の受注可否に関する業務的意思決定の問題でした。

  • 「臨時の注文1個を製造するのにかかる時間は、通常の製品1個を作るのにかかる時間の半分である。」という文章の解読が、本問を解く際のポイントになります。言い換えれば、通常の製品1個を作る時間で、臨時の注文は2個作れることを意味します。

  • (3)の問題を解く際には、現状での生産余力で対応できるのであれば一般市場向け製品の生産を諦めずに済むが、生産余力を超えると市場向け製品の生産・販売を諦めなければならないという点を考慮する必要があります。
    現状の生産余力は市場向け製品2,000個分ですから、臨時の注文だと4,000個まで対応できます。すなわち、4,000個までであれば臨時の注文を引き受けることで追加の利益が見込めるが、4,000個を超えると(4,001個以上だと)市場向け製品の生産を諦めることによる利益の犠牲、つまり機会原価を考慮しなければなりません。その境目となる臨時の注文4,000個前後の利益を計算すれば、比較的自信を持って解答できたのではないでしょうか。


今回の問題は、原価計算の計算量が非常に少ないので、原価計算を先に、できれば短い時間で解答して、残りの時間で工業簿記にじっくり取り組んで部分点を稼いでいくという戦略が有効だったでしょう。

なお、今回の工業簿記の問題で、工業簿記の仕訳や勘定記入が苦手だったこと、ちゃんと確認できていなかったことが明確になった受験生の方もいらっしゃるかと思います。
日商簿記1級の工業簿記では、(ボリュームや内容の差はありますが)第150回辺りから仕訳や勘定記入を問う問題がコンスタントに出題されています。
1級ならではの難しい計算や複雑な計算にどうしても気を取られがちですが、工業簿記に"簿記"の2文字が入っていることからも明らかな通り、帳簿への記入に関する問題が出ることもきちんと想定しておきましょう。

なお、そういった意味で考えると、2月に行われる全経簿記上級試験の受験も非常に勉強になります。なぜなら、全経簿記上級の原価計算の方が日商簿記1級よりも仕訳や勘定記入に関する出題が多いからです。
特に、今回の日商簿記1級の試験で手応えを感じられず、来年6月の日商簿記1級の再受験をお考えの方は、半年以上先の試験のことだけを考えずに、約3ヶ月後にもう1つ別の試験を受験する前提でモチベーションを維持することも視野に入れた学習計画を考えてみてはいかがでしょうか。

※実は全経簿記上級の対策WEB講座も担当しています。日商簿記1級を受験された方には「試験対策コース」がお勧めです。よろしければ、ご検討下さい。

試験直後の記憶が残っているうちに、第168回日商簿記日商簿記1級の工業簿記・原価計算の問題を実際に解いてみて、また、解説動画を撮影してみて感じたことや気づいたこと、できれば受験生の皆さんにお伝えしたいことをパパッと書いてみました。

第168回の試験を終え、また次なるステップをお考えの方も多いかと思います。
ネットスクールでは、これから様々な講座の無料説明会を配信予定なので、よろしければぜひご覧下さい。

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