検定試験の勉強で「過学習」が起きるとき…?
先日、「資格試験の勉強で「過学習」が起きていませんか?」という記事を公開したところ、大きな反響がありました。
あくまでも私個人の持論や推測に過ぎないのですが、もしかしたら心当たりのある方も多かったのではないでしょうか。
ただ、必ずしも当てはまる訳ではないのも事実だと思いますが、その要因の1つに「受験する級やレベル」があるのではないかと思い、先日の記事の補足として、もう1つ記事を書くことにしました。
級やレベルごとの基本的な考え方の複雑さ
私が講義を担当する日商簿記検定や建設業経理士は、一般的に3級が入門的な級という位置づけとして知られており、2級、1級と級が上がるにつれて、試験範囲が広くなるほかに、学習する内容自体も複雑さが上がります。
もし、これを先日の記事(「資格試験の勉強で「過学習」が起きていませんか?」)の中で使ったグラフのような図にすると、以下のようなイメージと考えることができるでしょう。
基本的な考え方を示す線が、級が上がるにつれて複雑な形になるイメージです。
基本的な考え方自体が、級が上がるにつれて複雑になるからこそ、1つひとつの内容をマスターするのも大変になるイメージ自体は、実際に2級、1級と進級して学習している方にとっては自然に受け入れられるのではないでしょうか。
ただ、これだけで試験の難しさは語れません。
もう1つ大切な、そして多くの受験生が正しい認識ができずに苦戦する要素が「基本的な考え方と実際に試験で出題される問題との間のズレ」です。
級やレベルごとの本試験問題のばらつき
日商簿記3級や建設業経理事務士3級のような入門的な級で本試験に出題される問題のパターンや内容と、先ほど紹介したような基本的な考え方を照らし合わせると、以下のような図になると考えています。
試験で出題される内容を青い丸で先ほどの図の上に並べると、以下のようなイメージになると見てください。
入門的な級では、テキストなどで紹介している基本的な考え方と実際の試験で出題される内容にそこまで大きな差は生じないことが一般的です。
ただ、級が上がってくると、段々と基本的な考え方と実際の試験で出題される内容との間に差が生じてくるものです。
あくまでも私の勝手なイメージですが、中級(例えば日商簿記2級や建設業経理士2級)だと以下のような感じです。
上級レベル(日商簿記1級や建設業経理士1級)になると、もっとズレが大きくなってこんな感じで考えています。
段々と基本的な考え方と実際に出題される問題との差が大きくなっていますが、その差を埋めるのが、いわゆる「応用力」や「思考力」という感じです。
あくまでもイメージ図に過ぎませんが、このような関係を考えると、段々と級によってあるべき学習が変わってくることが見えてきます。
過去問題で学べるか否か
日商簿記3級など、入門的な級の試験だと「とにかく過去問を解いてやり方を覚えたら合格した」という体験談を仰る方もいらっしゃいます。
今まで話してきた「過学習」の話とは無縁の体験談もありますが、この関係性は、先ほど載せた図にある青い丸を線で結んでいくと、段々とその背景が見えていきます。
入門的な級の図に載せた青い丸を線で結んでいくと、以下のような図になります。
入門的な級の場合、基本的な考え方(赤い線)と実際に出題された内容(青い丸)との間に大きなズレが無いため、実際に出題された内容(青い丸)をとりあえず結んで青い線を引いていけば、基本的な考え方を示す赤い線にかなり近い形になります。
そのため、過去問題を解いていけば基本的な考え方が見えてくる可能性も高いほか、「他の問題も予測しやすい」ために過去問題で十分な対策も可能といえば可能なのです。
しかし、レベルが上がるにつれて段々と基本的な考え方である形が複雑になる上に、実際に本試験で出題される内容と基本的な考え方にズレが大きくなるので、出題内容(青い丸)を結んでいっても、基本的な考え方は段々と予測しづらくなってしまいます。
日商簿記2級や建設業経理士2級のような中級のイメージは、下のような感じで考えています。
そして、日商簿記1級や建設業経理士1級のような上級の試験になってくると、実際に出題された問題(過去問題)自体が基本的な考え方から距離を取っているものも多いため、それを結んで行っても、基本的な考え方も見えなければ、他の問題の考え方も予測できないという関係になってきます。
あくまでも私の勝手なイメージに従って作った図ですし、定量的な評価というのは難しいのですが、これまでいろんな試験や、その試験対策を見てきて感じる姿をまとめるとこんな感じです。
こんな感じで試験のレベルが上ってくるにつれて、
基本的な考え方自体が複雑になる
実際に出題される試験問題が基本から手を加えた"応用的な出題"が増える
ということに加えて、「そもそも勉強すべき試験範囲が広い」という要素も加わることが、過去問題などだけで上位級の試験対策をするのが困難になっている背景にあるのではないかと考えています。
試験の級やレベルが上がると、基本からあまりにかけ離れた問題は解かなくて良い、むしろ解かずに別の問題に時間を使った方が良いというケースもあり、その判断基準としての「基本の理解」という側面も無視できません。
どうすれば良いのか?
では、受験生としてはどのように対処すればよいのでしょうか?
先日の「資格試験の勉強で「過学習」が起きていませんか?」という記事の内容と重複してしまいますが、「基本を正しく押さえること」がやはり重要だと思います。
今から始める方・今は入門・初級レベルの方
もし、これから勉強始める方や、現時点では入門・初級レベルの勉強をしている方で、これから「より上位の級にも挑戦したい」という構想もお持ちでしたら、今のうちから上位の級になったときのことを考えて、基本的な考え方を押さえるようにすることをお勧めします。
他の分野も勉強しないといけないなどの理由で、その分野の試験で上位の級まで進む予定でなければ、過去問題などをとにかく繰り返すといった学習でもおそらく問題はありません。
ただ、「より上位の級にも挑戦したい」と思っている方は、自分と違って「3級さえ取れたら十分」というタイプの人が多いことも認識しておきましょう。
例えば日商簿記の受験者数を見ると、3級が年間30万人近くいるのに対し、2級が年間15万人程度、1級だと年間2万人程度まで減るので、3級で簿記の学習を終える方がたくさんいます。
そのため、過去問だけをやっておけばOKというタイプの方が多数派であることを認識しておかないと、ネットの記事や体験談などで多数派だと思われている勉強法に流れてしまう結果、より上位の級に進みたいという自分の目標からは遠ざかってしまう可能性があることを意識しておくことが大切です。
すでに上位級の勉強を始めている方
すでに上位級の勉強を始めている方の中で、基本を押さえながら学習している方は問題ないでしょう。
ただ、学習相談などを受けていると、初級レベルの学習スタイルをそのまま続けて混乱してしまう方が多い印象があります。
過去問題などを解きまくっても知識が整理できている感覚がなかったり、応用的な問題に対処できなかったりといった自覚がある方は、基本的な考え方を押さえながら学習しているかを今一度見直すことをお勧めします。
自分の学習スタイルを変えることに恐怖心が働くかもしれませんが、早いうちに自分の学習スタイルを良い方向に軌道修正したほうが合格は近くなるはずですから、心当たりがある方は、ぜひ見直してみましょう。
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