全経簿記上級試験 原価計算・管理会計の理論対策について
全国経理教育協会主催の簿記能力検定上級試験(以下、「全経簿記上級」)の受験を検討中の方、実際に学習中の方からお聞きする不安や悩みとして、「理論問題が出題されるのが不安」という声を多くいただきます。
特に日商簿記1級と並行して学習・受験をお考えの方が驚かれるのは、原価計算・管理会計(工業簿記・原価計算)でも理論問題が結構な割合で出題されているということです。
その点で全経簿記上級の受験を躊躇してしまう方もいらっしゃるようですが、その背景には受験生の皆さんの誤解が含まれているかもしれないので、この記事では全経簿記上級の原価計算・管理会計の理論対策について、誤解を解きつつ、私の思うところについて、つらつらと書いていきたいと思います。
理論問題は受験生への"思いやり"と考えよう
こんなことを書くと、「嘘でしょ!?」と一気に嘘っぽい印象を与えてしまうかもしれませんが、全経簿記上級の原価計算・管理会計(工業簿記・原価計算)の理論問題は、受験生に対する出題者の"思いやり"や"優しさ"を反映した問題と思って向き合った方が、結果的に上手くいく可能性が高くなります。
原価計算分野の問題は、商業簿記や財務会計の分野以上に1つのミスが連鎖的な失点につながる可能性が高い問題がたくさんあります。
そのため、きちんと理解している内容や得意だと思っていた問題でも、数字の見間違いや電卓の叩き間違いなど、些細なミスで大量失点してしまうというリスクが高い科目とも言えます。
もちろん、こういうミスをしないのが一番ではありますが、試験本番の緊張感や制限時間に追われる焦燥感などを考えると、こうした些細なミスをゼロにすることはなかなか難しいものです。
もし、計算問題だけで構成された場合、こうした些細なミスが大量失点につながった結果、受験生の理解度と試験の点数に大幅な乖離を生み出してしまう可能性があるのです。
おそらくこれは、試験の主催者や作問者にとっても本意ではないはずです。
そこで全経簿記上級の試験では、計算の前提や目的、計算の特徴や計算結果の活用法などを理論問題として問うことで、万が一、計算ミスをした受験生であったとしても、きちんと勉強している場合に点数を与えられるセーフティラインを設けている(と考えられる)のです。
100%そういう問題ばかりではないですが、全経簿記上級試験の原価計算・管理会計(工業簿記・原価計算)で計算問題と理論問題が融合したような問題が多いのは、こうした考え方によるものだと考えるのが自然でしょう。
ですから、受験生としては、可能な限り理論問題で点数を取れるようにしておいて、もしも計算問題でミスをしても被害を最小限するような姿勢が求められるのです。
理論問題の対策について
理論問題の出題傾向
全経簿記上級の原価計算・管理会計(工業簿記・原価計算)で出題される理論問題としては、以下のような内容が問われる傾向にあります。
計算の目的
計算過程・計算手続きについて
複数の計算方法の対比(特徴や長所・短所について)
計算の前提となる用語や数値について
計算結果の分析
計算結果の活用方法
その他
純粋な知識を問う問題や原価計算基準の内容を問う問題などもありますが、前述の通り、計算問題と一緒に問う問題が多いため、自然と計算に関係する内容が多くなる傾向にあります。
基本スタンスは「計算問題対策と一緒に進める」
全経簿記上級の理論問題の出題傾向や(うかがいしれる)趣旨を考えれば、基本的な学習のスタンスは計算問題の対策と可能な限り連動させるべきです。
計算手続きに関する内容や計算方法の比較に関する知識は、計算問題を解くにも必要なもので、敢えて「理論問題のために…」と考えるのではなく、計算問題をより確実に解くための一環として理論的な背景を押さえていく方が、理論と計算、双方の得点力を上げることができて効率的です。
例えば、みなさんがここまで学習したであろういくつかの計算方法を比較する問題として、
総合原価計算における度外視法と非度外視法
標準原価計算における仕損・減損の処理方法(いわゆる第1法と第2法)
設備投資の意思決定における投資案の評価方法
事業部を評価するときの評価方法(ROIとRI)
などを学習しているはずですが、それぞれどんな違いがあるのか、それぞれの計算の長所・短所はなにか、きちんと理解できているしょうか。また、それをきちんと理論問題に対応できるように言語化できているでしょうか。
「ばっちり!」という方はまったく問題ないと思いますが、「いざそんなこと聞かれても…」と思った方は、この機会にテキストなどでどのように説明されているのかを確認しましょう。
これが全経簿記上級試験で必要な理論対策のポイントです。
最初から模範解答のような表現を狙わない
過去問題集などで文章記述式の模範解答を見ると、いかつい堅苦しい模範解答が書かれていて、「そのとおりに書けないよ!」と思った方は多いのではないでしょうか。
だからといって、模範解答の表現をそのまま覚えようとするのは避けましょう。
私たちが模範解答を作る際には、複数人で相談して、時間を掛けて、参考となるような文献(公式テキストなど)も参照しながら作成しています。
一方、実際の試験では受験生が1人で、制限時間の中で、何も参考となる文献等をみずに文章を作らなければなりません。
そもそも条件が異なる訳ですから、同じような文章を本番で解答するのは至難の業です。そして、合格する方がみんな模範解答のような文章を書いているかというと、おそらくそんなことはないと思います。
前述の通り、記述式の理論問題は「受験生の理解」を問うほか、実務で求められることの多い「説明能力」が試されているもので、模範解答のような文章をそのまま覚えているかは二の次ではないかと思われます。
ですから、模範解答の文章をそのまま覚えて、そのまま書こうとするのではなく、まずは「自分のことば」で説明するような訓練を積むように心がけるのがオススメです。
同様に文章の記述が求められ、私が講師を担当する建設業経理士1級の受験生に向けて、自分の言葉で理解しながら学習する方法についての記事を公開しています。全経簿記上級を受験される皆様にとっても役に立つものが多いと思うので、よろしければそちらもご覧ください。
最後に
今は細かくて大量の計算はコンピューターがすべてやってくれるような時代です。ただ、「どんな計算が必要なのか」や「計算結果が何を意味するのか」を理解し判断すること、また、それらを関係者に説明したり、後進に教育したりすることは、まだまだコンピューターではなく人間の役割として残るでしょう。
そう考えると、記述式の問題を含む理論問題の比重が大きい全経簿記上級の試験は、日商簿記1級よりも実務的で実践的な能力が身につく試験だと思っています。
理論問題の対策をきちんとやって、理論問題にもきちんと向き合うことで計算ミスをリカバリーできるんだと、試験に合格するために必要だという話をしてきましたが、合格した後に必要なスキルも伸びる可能性があることを考えると、限られた時間の中で大変だと思いますが、ぜひ、原価計算・管理会計の理論対策もできる限り頑張って頂きたいと思います。
なお、私が講師を務めるネットスクールの全経簿記上級対策講座につきましては、下記のリンク先にてご案内しています。興味がある方は、ぜひ受講をご検討ください。
https://www.net-school.co.jp/web_school_course/zenkei/