『コロンブス』の何がアウトなのか
Mrs. GREEN APPLEが盛大にやらかしたと聞いて、問題のMV『コロンブス』を視聴してきました。(なお、現在公式の動画はコメントも含めて削除されていますが、Xで探せば普通に見れたりします)
率直な感想としては「ああ……これは……アウトやな」でしょうか。公式サイトにアップされた謝罪文で、大森元貴さんは「決して差別的な内容にしたい、悲惨な歴史を肯定するものにしたいという意図はありませんでした」と述べられていますが、いや~さすがにそれは苦しいです。
だって『コロンブス』の曲名で、孤島に暮らす類人猿に、音楽や乗馬といった文化を教える、そういう3アウト構成ですよ?いくらなんでもこの構成でそれは通らんでしょう。
とはいえ、意図がなかったというのも、それはそれで本音なのだと思います。少なくとも筆者はそこを疑っているわけではありません。あくまで「そう捉えられてもなんらおかしくない構成になっている」ことを客観的に指摘しているまでです。
意図があったのかなかったのかでいえば、わざわざ好き好んでそんなリスクを彼らがとりにいくとは到底思えません。このように言うと、いかにも筆者が普段からMrs. GREEN APPLEに熱を上げているかのようですが、実際はというと、おそらくもっとも売れたであろう曲のサビぐらいしかわからない程度の熱感です。
それでもそんなリスクをあえてとりにいくバンドじゃないことぐらいは、そういう音楽性で彼らが勝負していないことぐらいは、今回のMVを見れば一目でわかります。
これほどセンシティブなテーマを取り扱い、当人たちも「意図とは異なる伝わり方をするかもしれない」と認識していながら、結果的に誰も止めずに世に出て大炎上を引き起こし、すぐさま映像を引っ込めた事実から察するに、いわゆるハンロンの剃刀(無能で十分に説明できることに悪意を見出してはならない)だったのでしょう。
これ以上彼らについて言及すると、昨今何かと問題視されがちなキャンセルカルチャーに加担してしまいそうな気配があるので、このへんで本題に入るとして、ところで今回の件でコロンブスの人物像をアップデートしたという人も、少なくないんじゃないでしょうか。
「コロンブスってあれでしょ。アメリカ大陸を発見したなんか偉い人でしょ。あと卵を机にぶつけて立てる人だよね」
こういう認識の人、きっとたくさんいると思うんですよ。さすがにもうちょい詳しいわいという人でも、ゆうて五十歩百歩だと思うんですね。筆者だって学生の頃の知識のまま何もアップデートされていなければ、こういう認識のままでいたことでしょうから。なぜ今回の件がこんなにも炎上するのかについても、まるでピンときてなかったと思います。
そりゃあwikipediaなんかをちらっとでも読めば、コロンブスが強奪と虐殺を繰り返していたことぐらいはすぐにわかりますから、炎上する背景について理解はできると思うんですが、それだけではいまいち実感がともなわないのが本音ではないでしょうか。
そんな方々にぜひとも読んでいただきたい本がありまして。この本を紹介したいがために本稿を書いている次第なんですけど、岩波文庫からでている『インディアスの破壊についての簡潔な報告』という本です。
著者のラス・カサスはスペインの神父で、1492年にコロンブス率いるスペイン軍がアメリカ大陸を発見し、その後約50年間にわたって先住民であるインディアスに対して、スペイン軍がいかに残虐非道な行為を繰り返してきたのかをまとめた報告書です。岩波文庫にしては珍しく、文体が平易なので読みやすいと思います。あくまで文体は、ですが。描写についてはおぞましいの一言に尽きるので、そういう描写がダメな人は厳しいかもしれません。
キリスト教化と文明化の名の下に一体何が行われたのか。ぜひその目で確かめてみてください。本書を読めばなぜ今回の件がこれほど炎上してしてしまうのかが、たしかな実感をともなって理解されることでしょう。筆者はこれが人間の本質そのものだとは思いませんが、少なくとも人間の本質のある部分を鋭く抉り取っているのは、間違いないと考えています。