ルイス・コール『アルバム 2』公開ライナーノーツ② 文:高橋健太郎
フライング・ロータス主宰のレーベルBrainfeederよりリリースの新作『Time』(2018年)を引き下げ、ソロ名義では初の来日ツアーがまもなく予定されているルイス・コール。
LAジャズ周辺シーンを拠点とするドラマー/マルチ奏者としてまずは頭角を現しつつ、同時にダークな、あるいはユニークなポップセンス溢れるホームセッション系動画をYouTubeに次々リリースすることで、その先駆的アーティストとして世界中に熱狂的なファンを生み続けています。
NRTより2013年に発売した『アルバム 2』は、ハイブリッドな音楽的趣向と高度な演奏スキルをベースに、ソングライターとしての個性が凝縮された、ルイス・コールの原点ともいえるアルバムです。
ソロ名義作として世界で初めてCDリリースされた本作に収録のライナーノーツを、本稿で公開します。(文章は2013年リリース当時のまま掲載)
※ルイス・コール『アルバム 2』公開ライナーノーツ① 文:国分純平
※ルイス・コール『アルバム 2』公開ライナーノーツ② 文:高橋健太郎
虚ろでいながら、どこか生暖かい感触が耳を離れない。堅実なソングクラフトは、ベックのような化け方をしても不思議ないと思わせる
――ライナーノーツ② by 高橋健太郎
2010年に日本のテレビが完全に地上波デジタルに切り替わって以来、消え去ってしまったものに、テレビ放送終了後の画面の砂嵐がある。砂嵐があった頃には、深夜にそれをじっと見つめてしまう経験をした人が、少なからずいただろう。見つめているうちに、何かが現れそうに思ったこともあるかもしれない。
ルイス・コールの『アルバム 2』を聞いていたら、なぜか、その砂嵐のことを思い出した。深い深い夜更けに、ふっと砂嵐が消えて、異界からの電波に乗った音楽が聞こえてきたら…。そんな妄想をたくましくさせる何かが、この音楽にはあるような気がする。
実際には、ルイス・コールの音楽はテレビからではなく、YouTubeから聞こえてきた音楽、と言うのがふさわしいようだ。2010年の5月にルイス・コールはYouTubeに最初のヴィデオをアップしている。以後、ルイス・コール名義で11本、ルイス・コール・アンド・ジェネヴィーヴ・アルタディというデュオでは29本のヴィデオがYouTubeにアップされ、それらが人々に彼の存在を知らしめる最大の役割を果たしたのは間違いない。
YouTubeというサービスが始まったのは2005年のことだが、今や、それは世界最大の影響力を誇る音楽メディアと言っていいだろうし、CDのリリースやコンサート・ツアーよりも、YouTubeにヴィデオを発表することを活動の中心とするアーティストも珍しくはない。リンクを辿って無数のヴィデオを見ていく中で発見し、ファンになってしまった、そんなアーティストが僕にも何組かいる。例えば、イギリスのシンガー・ソングライターであるトム・ローゼンタール(Tom Rosenthal)などは、新しいヴィデオが出たら、飛んで行かずにはいられなかったりするアーティストだ。
YouTubeを主戦場とする、そんなアーティスト達の情報は、他のメディアにはほとんど登場しないから、偶然見つける以外に出会う方法はなかったりする。そういう意味では、ある日突然、「異界からの電波に乗った音楽」に出会うような体験に近いとも言える。
ルイス・コールの場合は、僕は自分で彼を発見した訳ではなく、今回、CDをリリースするNRTレーベルの成田さんにYouTubeのリンクを教えてもらったのが最初の体験だったのだが、何か秘密のドアを開けてみるような興奮がそこにはあった。あるいは、それは彼の音楽そのものから匂い立つ何かによるものかもしれない。
ルイス・コールはジャズ・サックス奏者のスティーヴ・コールの息子だそうで、そもそもは南カリフォルニア大学でジャズ・ドラムを学んでいたようだ。YouTubeにアップされた当初のヴィデオには、自室でドラムンベースのビートを叩いているだけのものや、アウトキャストの曲に生のドラムスを乗せたものなどもある。iTunesでリリースされている2010年の最初のソロ・アルバムや、ルイス・コール・アンド・ジェネヴィーヴ・アルタディでの二枚のアルバムも、高速の生ドラムをベーシックにしたものが多く、ビート~ドラミングへのこだわりが、彼の音楽の原点にあることを窺わせる。が、2011年のこの『アルバム 2』では雰囲気ががらりと変わり、ヴォーカルを中心に置きつつ、トータルな音響作品としての主張が強くなっている。
僕の奇妙な興奮は、たぶん、そこにある時代錯誤的な感覚と結びついていそうだ。ブレインフィーダー一派など、現在のロスアンジェルスのミュージシャン・サークルとの親交もあるようだが、この『アルバム 2』に聞けるルイス・コールの音楽は現代のダンス・ミュージックからは距離が遠くなっている。そのアナログ的な音像には、1960年代を思わせるところが多い。歪みや残響の感覚から、僕が最初に連想したのは、イギリスのジョー・ミークの60年代初頭のサウンドだった。あるいは、多重録音のコーラスから、ビーチ・ボーイズを連想するのはたやすいだろう。「Your Moon」、「You'll Believe Me」、「Grains Of Sand」、「Below The Valleys」あたりは、ちょっとダークなソフト・ロック作品として、南カリフォルニアの音楽伝統に沿っているとも言えなくない。
とはいえ、中にはアウト・オブ・キーなシンセサイザーのサンプル&ホールド音と高速のドラミングが同時に鳴り響く「You Will See」のような曲もあれば、映画音楽のオーケストレーションのような「Leaving The Planet」のような曲もあるので、まだまだ定まった音楽性を語るような段階ではないのも確かだろう。ただ、アルバム全体に通底する、虚ろでいながら、どこか生暖かい感触は耳に残って離れないし、その一方で、ソングクラフトに堅実さがあるのは、将来、ベックのような化け方をしても不思議ないと思わせたりする。
そして、実は僕が一番、興味深く思っているのが、ブラジル音楽を中心にしてきたNRTレーベルが、このルイス・コールのCDをリリースするということ。NRTの優美なラインナップの中に、ある種、ジャンクな部分もある、この若いアーティストのCDが並ぶというのは、ちょっと不可解でもあると同時に、新しい何かの始まりのようにも思えたりするのだ。(高橋健太郎)
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ルイス・コール『アルバム 2』詳細:
http://www.nrt.jp/louis_cole/release_information.html
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