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航空無線通信士の科学 #2 インサイト
航空無線通信士の試験科目には英語があります。そのうちの一つの設問は航空宇宙に関わる記事が出題されます。その内容には科学の知識が詰まっており、受験しない方にとっても魅力的なものです。そこで、航空無線通信士の試験問題を引用し登場した話題を紹介していきます。今回は2019年8月期の試験に出題された『インサイト』です。
1.問題の解答解説
設問1は「宇宙船が火星に着陸する方法について、この記事はどのように述べているか?」と問うています。正解は選択肢1。『NASAは過去に成功した実績のある、使い慣れた技術を使用する』です。
設問2は「次のうち、このミッションのユニークな目的の一つは何か?」と問うています。正解は選択肢2。『このミッションは、他のどのミッションよりも深く掘削することを計画している』です。
設問3は『これまでの火星への着陸はどれくらい成功しているか?』と問うています。正解は選択肢2。『火星への着陸は成功するよりも失敗する方が多い』です。問題文中には成功率が40%と低いことが述べられています。
設問4は「カリフォルニアのフライトコントローラーにとって最も困難でストレスの多い時間はいつか?」と問うています。正解は選択肢3。『 火星の大気圏に突入してから表面に着陸するまでの数分間』です。問題文中には大気圏突入から着陸までの6分間が最も緊張する時間であることが述べられています。解答に当たって混乱しそうな選択肢は2です。選択肢2は「火星表面への着陸後の6分間」とありますが、着陸後ではなく、大気圏突入から着陸までが困難な時間として示されています。
設問5は「火星の着陸場所の重要な要件は何か?」と問うています。正解は選択肢3。『着陸船が片側に倒れないように、着陸場所ができるだけ平らであることが重要である』です。
2.インサイトとは?
それでは、問題文やNASAによる紹介も参酌しつつ、インサイトとは何かを見ていきましょう。
2.1.概要
インサイトは2018年5月に打ち上げられた火星探査機です。 2018 年11月 26日に火星に着陸しました。インサイトの目的は2つです。岩石惑星がどのように形成され進化したかを理解するために火星の内部構造とプロセスを研究することと、火星の現在の地殻変動がどの程度活発であるか、また火星に隕石が衝突した頻度はどの程度であるかを解明することです。
インサイトは火星の赤道近く、エリジウム平原と呼ばれる平坦で滑らかな平原の西側に着陸しました。エリジウム平原が着陸場所として選ばれた理由は安全性を考慮した結果です。
インサイトは前述の目的を達成するため、地震計と熱流量プローブを火星に設置しました。1.8メートルあるアームを利用しての作業でした。火星の地震を感知できる場所に地震計を設置しました。火星の内部構造を測定する一環で熱流量プローブを設置する必要があり、過去にない5メートルの掘削を行いました。
問題では火星への着陸の成功確率は40%であり、過去のミッションで成功した方法を採用しての着陸を試みようとしましたが、この瞬間が最も緊張する瞬間であるという点について言及されています。
なお、インサイトは2022年12月15日にその運用を終了しています。
2.2.問題文前半
2012年のキュリオシティ以来、数年ぶりに火星へアメリカの探査機が到着しようとしています。この探査機インサイトは3本足と1本のアームを持っており、地中を掘り、地震を観測することを目的としています。地下探査に特化した最初のミッションです。
インサイトは過去のミッションで成功した着陸方法を踏襲し、エンジン噴射で最終的な降下速度を減速させて硬い脚で着陸します。1.8メートルのアームで2つの科学実験機器を火星表面に設置します。これは今までにない初の試みです。
火星内部の温度を測定するために、火星地表から5メートルまでの掘削を試みます。これはアポロの月面探査機が月で行った2.5メートルの掘削記録を大幅に更新するものです。インサイトには火星地震を監視するための地震計も搭載されています。
2.3.問題文後半
今回は内蔵されたボールが跳ねながら着陸したり、スカイクレーンで着陸したりする方式は採用されていません。火星への着陸は困難であり、成功率は40%です。アメリカは失敗例もありますが、火星に着陸して運用することに成功した唯一の国です。
管制官にとって最も緊張する時間は、宇宙船が火星の大気圏に突入してから着陸するまでの6分間です。InSightは時速19,800kmで火星の大気圏に突入し、白いナイロン製のパラシュートとエンジン噴射で減速し、赤道付近の平原であるエリジウム平原に軟着陸します。プロジェクトマネージャーは、着陸地点が平らであれば、着陸機が倒れる心配がないと考えています。
3.インサイトに関する記事
インサイトについては、以下のような記事があります。どうやら、この試験問題はこれらの記事が出典元ではないか、と考えられます。
2018年11月20日 VOA
Mars Getting 1st US Visitor in Years, a 3-Legged Geologisthttps://www.voanews.com/a/mars-getting-1st-us-visitor-in-years-a-3-legged-geologist/4666570.html
2018年11月21日 AP
Mars revisited: NASA spacecraft days away from risky landinghttps://apnews.com/article/us-news-ap-top-news-mars-planets-north-america-80b0bb92a4a147a0bb0b99626c96044d
4.試験問題を解くために
航空無線通信士の英語試験にはこのような科学的な話題が出題されることがあります。英語が得意ではなくとも、このような知識を持っていれば問題を解きやすくなるのではないでしょうか。
この問題のようなことを日本語で出題されれば読み解けるとは思いますが、知らないことは日本語で問われてもわからないことがあります。英語で問われたならなおさらそうです。しかし、自分の知っていることであれば、多少わからない箇所があったとしても、読み解けることがあるのではないでしょうか。例えば、インサイトのことを知っているだけでもかなり問題文は読み解けると思います。それに付け加えて、インサイトがどのように火星に着陸したのか、インサイトの目的は何なのか、その目的を果たすために火星地表を掘削したこと、こうしたことを知っていると問題文はかなり読みやすくなるのではないでしょうか。
5.出典など
本記事は2019年8月期航空無線通信士「英語」の内容を出典とし、解答解説を加えるとともに、NASAのサイトを参考にインサイトの説明記述を加えました。
NASA InSight Lander
https://science.nasa.gov/mission/insight/
タイトル画像は以下に示す利用規約に基づいてNASAのサイトより引用して利用しました。
NASA Images and Media
https://www.nasa.gov/nasa-brand-center/images-and-media/