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AI戦略2019フォローアップのまとめ
日本の各省庁においては様々な政策研究会が開かれ、今後の政策が議論されています。そうした議論を経て戦略として公表されるものの中には、広く一般には報道されないものも多数あります。ここではそうした戦略を紹介していきます。今回は2020年6月に公表されたAI戦略2019フォローアップを取り上げます。
1.はじめに
2019年に公表されたAI戦略2019では具体目標として「本戦略の定期的なフォローアップと見直し」が挙げられていました。これに基づいて、公表後にどのようなことが起きたのかがまとめられています。7つの柱について、どのような進捗だったか、どのような課題があるかについてまとめました。AI戦略2019のまとめはこちらをご覧ください。
2.その後の進捗と新たな課題
AI戦略2019はAIを社会全体に浸透させ、日本の課題解決と強みを生かすことを目指し、教育改革、研究開発体制の再構築、社会実装、データ関連基盤整備、デジタル・ガバメント、中小企業・ベンチャー企業への支援、倫理という7つの柱で構成されました。
2019年度は、各分野で概ね計画通りに進捗が見られましたが、2020年度以降は、新型コロナウイルス感染症拡大という未曽有の事態に対応し、新たな課題にも取り組む必要が生じました。
3.教育改革
課題:社会人向けリカレント教育、教育現場のICT環境整備
教育改革では、数理・データサイエンス・AIに関する知識・技能を育成するため、リテラシー教育、応用基礎教育、エキスパート教育が推進されました。特に、GIGAスクール構想により、小中学校での一人一台端末の整備が前倒しで進められ、遠隔教育の早期実施も求められました。一方で、社会人向けのリカレント教育の充実や、教育現場のICT環境整備が課題として残りました。今後は、時間や場所に縛られない柔軟な学習環境の整備や、社会人のリカレント教育の推進が重要になります。
4.研究開発体制の再構築
課題:研究者・エンジニアの確保、計算資源の強化
研究開発体制の再構築では、AI関連中核センター群を核とした研究開発ネットワークが構築されました。しかし、研究者・エンジニアの確保や、計算資源の強化など、研究成果の社会実装を加速するための課題が残りました。今後は、研究開発ネットワークの拡充、海外人材の確保、そしてAIの信頼性を担保する技術開発が求められます。
5.社会実装
課題:中小企業へのAI導入支援、ものづくり現場でのAI活用
社会実装では、健康・医療・介護、農業、国土強靭化、交通インフラ・物流、地方創生(スマートシティ)の重点5分野を中心に、AI導入が進められました。特にインフラ分野では、AI導入が目標を大きく前倒しで達成しました。しかし、中小企業へのAI導入支援や、ものづくり現場でのAI活用が課題として残りました。今後は、サービス・ものづくり分野でのAI活用を推進し、中小企業がAIを導入しやすい環境整備が重要になります。
6.データ関連基盤整備
課題:データ利活用を推進するルール策定
データ関連基盤整備では、スマートシティ共通アーキテクチャの構築や、5Gエリアの整備が進められました。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の中で、データ連携の弱さが浮き彫りになり、データ利活用を推進するルール策定が急務となりました。今後は、データ連携基盤の整備や、Beyond 5Gに向けた研究開発も重要になります。
7.デジタル・ガバメントと中小企業・ベンチャー企業への支援
デジタル・ガバメント分野では、公共サービスの効率化や、中小企業の生産性向上に向けた施策が進められました。しかし、自治体や中小企業へのAI実装を加速する必要性が高まりました。今後は、AIサービスの開発実証や、自治体間でのAI共同利用プラットフォームの構築が求められます。
8.倫理:国際協力と社会受容の重要性
課題:AIの社会受容を高めるための制度設計、説明性、安全性、公平性を担保する技術開発
倫理分野では、「人間中心のAI社会原則」と整合した「G20 AI原則」が策定され、国際的なAI推進において中心的な役割を果たしました。しかし、AIの社会受容を高めるための制度設計や、説明性、安全性、公平性を担保する技術開発が課題として残りました。今後は、AIガバナンスの在り方を検討し、国際協力を強化していくことが重要になります。
9.おわりに
AI戦略2019は着実に進捗している一方で、新型コロナウイルス感染症拡大という予期せぬ事態に対応するため、多くの課題に直面しました。今後は、これらの課題を克服し、AIを社会全体に浸透させることで、持続可能な社会の実現を目指す必要があります。
以上の内容は次の内容を参考にまとめたものです。皆様のお役に立てれば幸いです。
出典:内閣府 AI戦略2019フォローアップ
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/aistrategy2019_fu_honbun.pdf