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科学技術・イノベーション基本計画における分野別戦略の推進 #2 応用分野
第5期科学技術基本計画期間中に、基盤分野として、AI技術、バイオテクノロジー、量⼦技術、マテリアル、また、応⽤分野として環境エネルギー、安全・安⼼、健康・医療、宇宙、海洋、⾷料・農林⽔産業についての分野別戦略が策定されてきました。これらの戦略に基づき、第6期基本計画期間中にSIPやムーンショット型研究開発制度など関係事業と連携しつつ、社会実装や研究開発を着実に実施とされました。今回は応⽤分野である環境エネルギー、安全・安⼼、健康・医療、宇宙、海洋、⾷料・農林⽔産業についての方向性概要を見ていくことにします。
※過去に公開したこちらの記事の増補版です。
1.応用分野:環境エネルギー
日本は2050 年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050 年カーボンニュートラルを実現すると宣言しました。また、健全で効率的な廃棄物処理及び資源の⾼度な循環利⽤による循環経済を実現します。これらの実現に向けた対応がグリーン産業の発展を通じた経済成⻑へとつながることで、世界をリードし、経済と環境の好循環が⽣み出されるような社会を⽬指します。
そのためには、国⺠のライフスタイル、産業構造や経済社会全般の変⾰及び社会的な課題の解決を⽬指すための「脱炭素社会」、「循環経済」、「分散型社会」への三つの移⾏による経済社会の再設計(リデザイン)とともに、⾮連続なイノベーションが不可⽋であり、⾼い⽬標とビジョンを掲げ、それに向かって産学官が⼀体となって、まずは2030年に向けて総⼒を挙げて幅広く取り組むことが必要となります。こうした観点から、カーボンニュートラルの実現に向けては、グリーンイノベーション戦略推進会議などの議論をもとに、省エネルギーの徹底、電化の促進と電⼒の脱炭素化(再⽣可能エネルギーの最⼤限の導⼊に向けた技術の加速度的普及、安全最優先での原⼦⼒利⽤)を進めるとともに、次世代型太陽電池、CCUS84/カーボンリサイクル、⽔素等の⾰新的イノベーションを強⼒に推進します。
⾰新的環境イノベーション戦略について、グローバルな状況を踏まえ、イノベーション・ダッシュボード、アクセラレーションプラン、東京ビヨンド・ゼロ・ウィークを適時適切に⾒直し、産学官が⼀体となって着実に推進します。
また、カーボンニュートラルを⽬指す上で不可⽋な分野について、①年限を明確化した⽬標、②研究開発・実証、③規制改⾰や標準化などの制度整備、④国際連携などを盛り込んだ2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成⻑戦略を踏まえて、⾰新的な技術開発に対する継続的な⽀援を⾏う基⾦事業等を活⽤し、⾰新的技術の社会実装を推進します。
さらに、2050年カーボンニュートラルの実現や、国際的なルールメイキングへの積極的関与も含めた「みどりの⾷料システム戦略」を2021年5⽉までに策定するとされました。
2.応用分野:安全・安心
日本の平和を保ち、国及び国⺠の安全・安⼼を確保するために、関係府省庁、産学官が連携して我が国の⾼い技術⼒を結集するとともに、「知る」「育てる」「⽣かす」「守る」の視点が重要です。『安全・安⼼』の実現に向けた科学技術・イノベーションの⽅向性に基づき、いかなる脅威があるのか、あるいは脅威に対応できる技術を「知る」とともに、必要な技術をどのように「育てる」のか、育てた技術をどのように社会実装し「⽣かす」のかを検討し、また、それらの技術について流出を防ぐ「守る」取組を進め
るとされています。
3.応用分野:健康・医療
第6期基本計画期間中は、2020年度から2024年度を対象期間とする第2期の健康・医療戦略(2020年3月閣議決定、2021年4月一部変更)及び医療分野研究開発推進計画(2020年3月閣議決定、2021年4月一部変更)等に基づき、医療分野の研究開発の推進として、AMEDによる⽀援を中核として、他の資⾦配分機関、インハウス研究機関、⺠間企業とも連携しつつ、医療分野の基礎から実⽤化まで⼀貫した研究開発を⼀体的に推進するとされました。特に喫緊の課題として、国産の新型コロナウイルス感染症のワクチン・治療薬等を早期に実⽤化できるよう、研究開発への⽀援を集中的に⾏うとされました。
4.応用分野:宇宙
第6期基本計画期間中は、宇宙基本計画(2020年6月閣議決定、その後2023年6月閣議決定)に基づき、産学官の連携の下、準天頂衛星システムや情報収集衛星等の開発・整備、災害対策・国⼟強靱化や地球規模課題の解決に貢献する衛星開発、アルテミス計画による⽉⾯探査に向けた研究開発、宇宙科学・探査の推進、基幹ロケットの開発・⾼度化、将来宇宙輸送システムの検討、各省連携による戦略的な衛星開発・実証の推進、衛星データ利⽤の拡⼤・⾼度化、スペースデブリ対策や宇宙交通管理を含む将来の宇宙活動のルール形成、宇宙活動を⽀える⼈材基盤の強化等を推進するとされています。
5.応用分野:海洋
第6期基本計画期間中は、海洋基本計画(第3期は2018年5月閣議決定、第4期は2023年4月閣議決定)に基づき、海洋に関する施策を総合的かつ計画的に推進するとされています。特に海洋観測は海洋科学技術の最重要基盤であり、MDAの能⼒強化や、カーボンニュートラル実現に向けた広⼤な海洋環境の把握能⼒を⾼めるため、氷海域、深海部、海底下を含む海洋の調査・観測技術の向上を⽬指し、研究船の他、ROVやAUV、海底光ファイバケーブル、無⼈観測艇等の観測技術の開発を進めていくとされています。
さらに、データや情報の処理・共⽤・利活⽤の⾼度化を進めるため、データ・計算共⽤基盤の構築・強化による観測データの徹底的な活⽤を図るとともに、海洋観測のInternet of Laboratoryの実現により、海洋分野におけるデータ駆動型研究を推進することを通じて、⼈類全体の財産である海洋の価値創出を⽬指すとされています。
6.応用分野:食料・農林水産業
第6期基本計画期間中は、⾷料・農業・農村基本計画(2020年3月閣議決定)に基づき、農林⽔産省において農林⽔産研究イノベーション戦略を毎年度策定し、農林⽔産業以外の多様な分野との連携により、スマート農林⽔産業政策、環境政策、バイオ政策等を推進するとされています。その中で、我が国発のスマート農業技術・システムを⽣かした⽣産拠点をアジア太平洋地域等に展開することで、我が国の農業のブランド⼒向上、⾷品ロス削減等に貢献します。
また、林業・⽔産業においても、現場へのICT、AI、ロボット技術等の新技術実装を着実に進めていきます。さらに、農林⽔産業・地域の活⼒創造プランに基づき、2021年5⽉までに策定するみどりの⾷料システム戦略において、2050年に⽬指す姿を⽰した上で、⾷料・農林⽔産業の⽣産⼒向上と持続性の両⽴をイノベーションで実現するとされています。
7.おわりに
以上の内容は次の内容を参考にまとめたものです。皆様のお役に立てれば幸いです。
出典:内閣府 第6期科学技術・イノベーション基本計画
https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index6.html