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フュージョンエネルギー・イノベーション戦略のまとめ

 日本の各省庁においては様々な政策研究会が開かれ、今後の政策が議論されています。そうした議論を経て戦略として公表されるものの中には、広く一般には報道されないものも多数あります。ここではそうした戦略を紹介していきます。今回は2023年4月に公表されたフュージョンエネルギー・イノベーション戦略を取り上げます。


1.はじめに

 フュージョンエネルギー・イノベーション戦略はフュージョンエネルギーが実現する未来社会の姿を描き、その実現に向けた決意を表明したものです。この内容を要約いたしました。論理展開は概ね以下のようになされています。
 世界的なエネルギー問題と環境問題を背景に、フュージョンエネルギーが次世代エネルギーとして期待されています。こうした背景から、日本が持つ技術的優位性を活かし、フュージョンエネルギーの産業化を国家戦略として推進することを宣言した上で、産業化に向けた具体的な取り組みとして、フュージョンインダストリーの育成フュージョンテクノロジーの開発推進体制の構築などを行うとしています。

2.背景

 世界的なカーボンニュートラル目標達成に向けた取り組みが加速する中、エネルギー自給率の低い日本にとって、クリーンエネルギーへの移行とエネルギー安全保障の確保が重要課題となっています。
 フュージョンエネルギーは、カーボンニュートラル、豊富な燃料、安全性、環境保全性という特徴を持つ次世代エネルギーとして期待されています。また、資源の偏在性を解消し、世界の平和と安定にも貢献する可能性も秘めています。
 しかし、フュージョンエネルギーの実現には多様な技術群(フュージョンテクノロジー)が必要です。その基盤となる産業界(フュージョンインダストリー)は裾野が広がっています。
 世界では政府主導の研究開発の進展や民間投資の増加により、フュージョンエネルギーの産業化競争が激化しています。日本は技術的優位性とものづくり産業における信頼性を有しており、国際連携による相乗効果で海外市場獲得のチャンスがあります。
 しかし、産業化への取り組みが遅れると、市場競争に敗れるリスクがあります。よって、日本は原型炉の早期建設と、世界のサプライチェーンへの参入といった多面的なアプローチで、フュージョンエネルギーの実用化を加速する必要があります。

3.国家戦略のビジョン

 今後10年間の戦略として、「世界の次世代エネルギーであるフュージョンエネルギーの実用化に向け、技術的優位性を活かして市場の勝ち筋を掴む、“フュージョンエネルギーの産業化”」をビジョンに掲げています。このビジョン達成には産学官連携による民間投資の促進が不可欠です。

4.ビジョン達成に向けた基本的な考え方と具体策

 フュージョンインダストリーの育成戦略フュージョンテクノロジーの開発戦略フュージョンエネルギー・イノベーション戦略の推進体制等に一体的に取り組みます。

4.1.フュージョンインダストリーの育成戦略

 海外市場展開と、原型炉建設に向けた技術獲得を促進し、将来のフュージョンインダストリーエコシステムの基盤を構築します。
 「見える、繋がる、育てる」の各段階で、民間企業の参画を促進するための支援を行います。
 【見える】
 フュージョンエネルギーの社会的位置づけを明確化し、発電実証時期を早期に明確化します。
 技術成熟度も記載した技術マップ及び産業マップを作成し、経済安全保障の視点も踏まえて取り組みます。
 【繋がる】
 フュージョンエネルギーの要素技術を他の要素技術や他分野の技術とマッチングすることで、新しいフュージョンインダストリーの種を作ります。
 民間企業の情報交換やビジネスマッチング等を促進するため、産学官の場である核融合産業協議会(仮)の設立を目指します。
 【育てる】
 種をフュージョンエネルギー開発の成果として開花させ、製品・サービスとして社会実装できるようなイノベーションが生まれる環境を構築します。
 スタートアップを含めた民間企業の研究開発を支援します。
 安全規制に関する同志国間での議論に参画し、国際協調による規制の策定及び標準化を進めます。
 安全確保の基本的な考え方を策定します。

4.2.フュージョンテクノロジーの開発戦略

 戦略的自律性及び不可欠性を踏まえ、フュージョンテクノロジーのポートフォリオを描きます。
 ITER計画/BA活動及び関連する国内研究開発を通じてコア技術開発を推進するとともに、未来の可能性を拓く挑戦的な研究も支援します。
 ゲームチェンジャーとなりうる独創的な新興技術の支援策を強化します。
 ITER計画/BA活動を通じてコア技術を獲得します。
 将来の原型炉開発を見据えた研究開発を加速します。
 フュージョンエネルギーに関する学術研究を引き続き推進します。
 スタートアップを含めた民間企業等による新技術を取り込むことを念頭において原型炉開発のアクションプランを推進する。

4.3.フュージョンエネルギー・イノベーション戦略の推進体制等

 国家戦略を推進力を持って産学官連携で取り組むための枠組みを構築します。
 内閣府が政府の司令塔となり、関係省庁と一丸となって推進します。
 原型炉開発に向けて QST を中心に、アカデミアや民間企業を結集して技術開発を実施する体制民間企業を育成する体制を構築します。
 QST に ITER 計画/BA 活動等で培った技術の伝承・開発や産業化、人材育成を見据えたフュージョンテクノロジー・イノベーション拠点を設立する。
 将来のキャリアパスを明確化し、フュージョンエネルギーに携わる人材を産学官で計画的に育成します。
 国内大学等における人材育成を強化するとともに、他分野や他国から優秀な人材を獲得する取組を行います。
 国民の理解を深めるアウトリーチ活動を実施します。

5.フュージョンエネルギーが実現する社会

 フュージョンエネルギーは日本のエネルギー問題や環境問題を解決し、Society 5.0 を支える基盤となるだけでなく、地球規模で人類の持続可能な発展を可能にします。
 世界平和と安定、宇宙開拓や深海探査など、人類の未来に大きく貢献できる可能性を秘めています。
 フュージョンエネルギーの実現には、いまだ解決すべき課題が残されており、変化する市場や研究の進展等にも対応するため、本戦略の定期的な改訂を行います。

6.おわりに

 以上の内容は次の内容を参考にまとめたものです。皆様のお役に立てれば幸いです。

出典:内閣府 フュージョンエネルギーイノベーション戦略
https://www8.cao.go.jp/cstp/fusion/fusion_senryaku.pdf

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