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宇宙技術戦略のまとめ(③技術開発戦略:宇宙科学・探査)

 日本の各省庁においては様々な政策研究会が開かれ、今後の政策が議論されています。そうした議論を経て戦略として公表されるものの中には、広く一般には報道されないものも多数あります。ここではそうした戦略を紹介していきます。今回は2024年3月に公表された宇宙技術戦略を取り上げ、その中から宇宙科学・探査に関する技術開発戦略を細かく見ていきます。宇宙技術戦略の全体概要はこちらをご覧ください。


 宇宙空間は、安全保障および経済・社会活動において不可欠なものとなっており、その重要性は今後ますます高まっていきます。宇宙科学・探査は、宇宙空間における活動を支える基盤となる科学的知見や技術革新を生み出すとともに、将来の宇宙利用に向けた可能性を拓く重要な役割を担っています。

1. 宇宙科学・探査技術開発の重要性

 近年、宇宙空間の利用は安全保障分野においても重要性を増しており、宇宙科学・探査分野における技術開発は、将来の防衛技術の優位性を確保する上で極めて重要です。
 例えば、高精度な航法誘導制御技術は、ミサイル誘導システムや衛星軌道制御の高度化に貢献します。また、極限環境におけるエネルギー技術は、将来の宇宙におけるエネルギー供給システムの構築に役立ちます。さらに、宇宙環境観測・予測技術は、宇宙空間における活動の安全確保に不可欠です。

2. 主要技術分野と開発戦略

 宇宙技術戦略において、宇宙科学・探査は宇宙物理分野太陽系科学・探査分野月探査分野地球低軌道・国際宇宙探査共通分野の4つの技術分野に大別され、それぞれにおける具体的な開発戦略が示されています。

2.1.宇宙物理分野

 将来像として、宇宙の起源や進化、生命の可能性の探求といった科学的知見の獲得を目指すことが掲げられています。 世界的にミッションの大型化・高精度化が進む中で、我が国は国際協力を通じて存在感を持ちながら、独自の中・小型計画も実施し、革新的な成果創出を目指します。具体的には宇宙用冷却技術観測技術軽量化・高精度制御技術精密協調編隊飛行技術データ解析技術が挙げられています。

 【宇宙用冷却技術】
 より遠く、より鮮明な観測を実現するために、世界トップレベルの機械式冷凍機の開発を進めます。 特に、数 K 級冷凍機の開発と宇宙実証、そして将来的には 1K 以下級冷凍機の実現を目指します。
 【観測技術】
 高感度観測とデータ解析を可能にする宇宙用センサシステム技術を、国内外の最先端コンポーネントと独自技術を組み合わせることで、高度化を目指します。 また、太陽系外惑星の観測に有用な、近赤外線・紫外線望遠鏡の観測技術の実証も進めます。
 【軽量化・高精度制御技術】
 将来の大型宇宙望遠鏡や観測機器の開発に必要となる軽量構造と高精度な姿勢制御の技術開発を進めます。
 【精密協調編隊飛行技術】
 複数の小型衛星を精密に制御し、一体として運用することで、大型の単一衛星に匹敵する性能を実現する技術です。 世界に先駆けて段階的に開発を進め、当該分野における我が国の優位性獲得を目指します。
 【データ解析技術】
 大量の観測データから科学的成果を創出するために、AI等を活用した高度なデータ解析技術の開発を進めます。

2.2.太陽系科学・探査分野

 将来像として、火星や小天体・彗星など、太陽系の天体の探査を通じて、太陽系形成や生命起源の謎に迫ることが掲げられています。 特に、火星衛星からのサンプルリターン計画など、独自の強みを持つ分野を深耕することで、世界のリーダーとしての地位を維持・向上させます。具体的にはサンプルリターン技術超小型探査技術大気突入・空力減速・着陸技術深宇宙軌道間輸送技術表面等探査技術が挙げられています。

 【サンプルリターン技術】
 小惑星探査機「はやぶさ」シリーズで培った技術をさらに高度化し、次世代の小天体探査や彗星探査計画への参画を目指します。
 【超小型探査技術】
 限られたリソースで効率的な探査を行うために、超小型探査機の開発を進めます。
 【大気突入・空力減速・着陸技術】
 惑星探査において、安全かつ確実に探査機を着陸させるために必要な技術です。
 【深宇宙軌道間輸送技術】
 深宇宙探査機や物資の輸送を効率化するために、軌道間輸送技術の確立を目指します。 将来的には、月や火星への輸送ビジネス展開も視野に入れます。
 【表面等探査技術】
 惑星表面の探査に必要な、大気・表層・磁気圏等の観測技術を開発します。

2.3.月探査分野

将来像として、アルテミス計画との連携を視野に入れ、月面における科学的探査や資源利用の可能性の探求が掲げられています。 将来的には、月面基地の建設や月面経済圏の形成も視野に入れています。具体的には月面科学に係る技術月着陸技術エネルギー技術月通信・測位技術月表面探査技術月資源開発技術が挙げられています。

 【月面科学に係る技術】
 月面天文台、月サンプル分析、月震計などの技術開発を進め、国際的な月面科学・探査において我が国のプレゼンスを高めます。
 【月着陸技術】
 高精度な着陸技術を確立し、月面における活動の自在性を高めます。 特に、極域を含む全月球へのアクセス能力の獲得を目指します。
 【エネルギー技術】
 月面における活動に必要なエネルギーを確保するために、太陽光発電、蓄電池、燃料電池などの技術開発を進めます。
 【月通信・測位技術】
 月面における通信・測位インフラを構築するために、光通信、惑星間インターネット、月測位システムなどの技術開発を進めます。
 【月表面探査技術】
 月面を移動し、探査を行うローバの開発や、その運用に必要な技術開発を進めます。
 【月資源開発技術】
 月面における水資源や鉱物資源の探査・利用技術を開発し、将来の月面基地建設に備えます。

2.4.地球低軌道・国際宇宙探査共通分野

将来像として、国際宇宙ステーション(ISS)計画で得られた技術や経験を活かし、ポストISS時代における地球低軌道活動や、月以遠の深宇宙探査の貢献が掲げられています。具体的には地球低軌道往還技術有人宇宙滞在・拠点システム技術宇宙環境利用・宇宙実験技術が挙げられています。

 【地球低軌道往還技術】
 地球低軌道への安全かつ効率的な輸送手段を確保するために、再使用型宇宙船や有人宇宙船の開発、そして地上への安全な帰還技術の開発を進めます。
 【有人宇宙滞在・拠点システム技術】
 将来の有人宇宙活動に必要な、宇宙ステーションや月面基地などの拠点システム技術を開発します。 特に、環境制御・生命維持システムやロボット技術の高度化を目指します。
【宇宙環境利用・宇宙実験技術】
 微小重力環境や宇宙放射線などを利用した、新たな科学実験や技術実証を進めます。

3. 防衛分野への応用

上述の宇宙科学・探査技術は、防衛分野においても幅広い応用が期待されます。
 高精度な航法誘導制御技術は、ミサイル誘導システムや衛星軌道制御の高度化に貢献します。
 極限環境におけるエネルギー技術は、将来の宇宙におけるエネルギー供給システムの構築に役立ちます。
 宇宙環境観測・予測技術は、宇宙空間における活動の安全確保に不可欠です。

4. まとめ

 宇宙技術戦略は、我が国の宇宙開発の方向性を示す重要な指針であり、宇宙科学・探査技術開発は、将来の安全保障環境の変化に備えるとともに、我が国の宇宙におけるプレゼンスを高める上でも非常に重要です。
 以上の内容は次の内容を参考にまとめたものです。皆様のお役に立てれば幸いです。

出典:内閣府 宇宙技術戦略
https://www8.cao.go.jp/space/gijutu/siryou.pdf

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