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航空機産業戦略のまとめ

 日本の各省庁においては様々な政策研究会が開かれ、今後の政策が議論されています。そうした議論を経て戦略として公表されるものの中には、広く一般には報道されないものも多数あります。ここではそうした戦略を紹介していきます。今回は2024年4月に公表された航空機産業戦略を取り上げます。


1.はじめに

 2024年4月に経済産業省より「航空機産業戦略」が公表されました。日本の航空機産業は、2019年時点で年間売上高ベースで2兆円規模にまで発展してきましたが、欧米主要国と比較すると規模は依然として小さく、米国の10分の1程度です。今後の世界市場の拡大が予測される中で、日本は国際連携の下に完成機事業を創出し、自律的な産業規模拡大を可能とする産業構造の実現を目指すとされています。この内容を要約いたしました。

2.背景

 近年、航空機産業を取り巻く環境は、脱炭素化、デジタル技術の進展、サプライチェーンリスクの顕在化、スタートアップによる新たな市場創出など、大きく変化しています。三菱重工業株式会社が開発を進めていた完成旅客機「SpaceJet」の開発中止は、自律的な成長機会の喪失という大きな課題をもたらしました。従来のサプライヤー構造のままで は、環境変化に取り残され、世界的な航空需要の成長の果実を取り込むことができず、衰退してしまうおそれがあります。

3.今後の戦略

 日本は以下の3つの柱に基づき、航空機産業の自律的な成長を実現する産業構造の創出を目指すとされています。その3つとは、1.インテグレーション能力の戦略的獲得・蓄積、2.ボリュームゾーンにおける成長、3.新たな市場における成長です。

3.1.インテグレーション能力の戦略的獲得・蓄積

 これまで確固たる地位を築いてきたボリュームゾーン市場において、海外OEMとの連携の中で、上流工程でのプログラム参画を継続的に追求することで、収益基盤を着実に構築しつつ、インテグレーション能力を獲得するとされています。
 小型機市場・新興市場において、将来ボリュームゾーンで採用され得る環境新技術の先行的な技術開発に幅広く投資するとともに、主導的な立場での国際共同開発に取り組みます。
 これらの取組を通じて、2035年頃までに産業を飛躍的に成長させ、それ以降の単通路機プログラムにおいて、海外OEMと伍する立場として、国際連携による完成機事業の創出を目指します。

3.2.ボリュームゾーンにおける成長

 今後需要が伸びると予測されている100~250席程度の民間航空機市場において、革新的な低燃費化やゼロエミッション化に関する技術を生かし、課題解決に貢献します。
 既存事業モデルの延長では産業基盤、収益基盤の構築が困難であることを踏まえ、あらゆる選択肢に対して検討を行い、機体、エンジン、装備品、MROの各事業において具体的な取組を進めます。

3.3.新たな市場における成長

 比較的市場規模の小さい小型機や、AAMなど新興市場において、環境新技術を搭載した航空機の投入を促進します。
 技術とビジネスモデルの変革が見込まれる市場で、我が国が国際連携の中で主導的な立場で、あるいは単独で開発を実施することで、全機/主要系統のインテグレーションの経験を積み、ボリュームゾーンでの成長のみでは得ることのできない能力を獲得します。
 環境新技術の開発・導入にあたっては、ルールメイキングにも積極的に取り組み、国際標準化団体に参画し、我が国で開発された技術の社会実装を推進します。
 航空需要の着実な成長を実現するため、燃料関連政策、航空機産業政策、航空輸送に関する政策の連携を強化し、「航空」産業全体としての成長を目指します。

4.成長の原動力を生む基盤の強化

 上記戦略を支える基盤として、以下の4つの強化に取り組むとされています。

4.1.サプライチェーン強靱化

 経済安全保障上の重要物資として指定された航空機の部品について、国内サプライチェーンの構築・強靱化を支援します。
 海外サプライチェーン構築においても、アジア太平洋地域を中心に、現地進出やJV設立等を後押しすることで、海外需要の取り込みと競争力の強化を図ります。

4.2.人材確保・育成

 産業の魅力向上を図りつつ、人材不足への対応として、産学官連携による多面的なアプローチを進めます。
 国際水準の人材育成として、海外政府や主要OEMとの協力枠組み等を活用し、国際的な人材交流を促進します。

4.3.開発製造を支える環境の構築

 デジタル技術を前提とした航空機ライフサイクルのプロセス変革(DX)を推進し、経済安全保障重要技術育成プログラム等を通じて、開発製造プロセスの革新を支援します。
 国内航空機産業全体で共通認識を持ちながら、試験・実証インフラの協調的な整備を促進します。
 航空機産業の構造的な課題に対し、官民で資金的な支援スキームを検討し、産業界全体でリスクを応分する体制づくりを進めます。

4.4.エコシステムの拡大

 脱炭素化に向けて、旅客機製造業を越えた運航方式の改善などを後押しし、航空産業全体での連携を強化します。
 AAMの国内需要創出に向けた環境整備を進めるとともに、新たなサプライチェーン構築を支援し、航空機産業全体への波及効果を高めます。

5.おわりに

 以上の内容は次の内容を参考にまとめたものです。皆様のお役に立てれば幸いです。

出典:経済産業省 航空機産業小委員会 航空機産業戦略
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/kokuki_uchu/pdf/20240409_1.pdf


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