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人間中心のAI社会原則のまとめ
日本の各省庁においては様々な政策研究会が開かれ、今後の政策が議論されています。そうした議論を経て戦略として公表されるものの中には、広く一般には報道されないものも多数あります。ここではそうした戦略を紹介していきます。今回は2019年3月に公表された人間中心のAI社会原則のまとめを取り上げます。
1.はじめに
人間中心のAI社会原則はAIが社会に受け入れられ、適切に利用されるための基本的な考え方を示しています。この原則はSociety 5.0の実現を目指して、AIを人類の公共財として活用し、持続可能な社会を構築することを目的としています。今回はこれを要約しました。
2.基本理念
基本理念として、人間の尊厳が尊重される社会 (Dignity)、多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会 (Diversity & Inclusion)、持続性のある社会 (Sustainability)の3つが掲げられています。
2.1.人間の尊厳が尊重される社会 (Dignity)
AIに過度に依存したり、人間の行動をコントロールするためにAIが利用されるのではなく、人間がAIを道具として使いこなし、能力を発揮し、豊かな生活を送れる社会を構築することとされています。
2.2.多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会 (Diversity & Inclusion)
多様な背景と価値観を持つ人々がそれぞれの幸せを追求し、新たな価値を創造できる社会を目指すとされています。AIは、この理想に近づけるための強力なツールとなり得えるとされています。
2.3.持続性のある社会 (Sustainability)
AIの活用によって、社会の格差を解消し、地球規模の環境問題に対応可能な、持続性のある社会を構築するとされています。
3.AI-Readyな社会
Society 5.0を実現するためには、AI-Readyな社会への変革が必要とされています。この変革には人、社会システム、産業構造、イノベーションシステム、ガバナンスの5つの観点ついて、技術の進展との相互作用を考慮しながら考える必要があります。
3.1.人
AIの長所・短所を理解し、特にデータのバイアスや悪用を認識する能力が重要となります。AIの活用により、創造性や生産性の高い労働に従事できる環境を整備していきます。また、データやAIの基礎教養から実装・設計等の応用力を身につけた人材育成が不可欠です。
3.2.社会システム
社会システム全体がAIの進化に応じて柔軟に変化し、対応できるようにする必要があります。社会システムのソフト面・ハード面の両方において拡張性や相互接続性を確保していきます。様々な社会システムに共通のデータ利活用基盤を整備します。
3.3.産業構造
柔軟で国際的に開かれた労働・雇用環境、創業環境の整備が必要です。公正な競争を促進し、スタートアップへの投資を促進します。
3.4.イノベーションシステム
産学官民が連携し、AI研究開発・利活用・評価に参画する環境を構築します。プライバシーやセキュリティを確保した上で、データが安全にAI解析可能で利用できる環境が必要です。
3.5.ガバナンス
社会情勢や技術進展に伴い、上記の要素に関する議論や目的設定を継続的に更新します。多様なステークホルダーが協働し、ルール、制度、標準化、行動規範などを策定する体制を構築します。また、国際的な整合性を確保する必要があります。
4.人間中心のAI社会原則
7つの原則から構成されています。これらの原則は、AIが社会に浸透していく中で、人々の権利や尊厳を守り、持続可能な社会を構築するための指針となるものです。
4.1.人間中心の原則
AIの利用は基本的人権を侵害してはなりません。AIは人々の能力を拡張し、幸せの追求を可能にするために活用されるべきです。AIへの過度な依存や悪用を避け、リテラシー教育や適正な利用を促進します。
4.2.教育・リテラシーの原則
AIに関する正確な理解と社会的に正しい利用ができる知識と倫理を育成します。AI利用者には概要を理解し正しく利用できる素養を、開発者には技術の基礎に加え、社会科学や倫理などの素養を求めます。
幼児教育から社会人まで、幅広くリテラシー教育の機会を提供し、文理の境界を超えた学習が必要です。
4.3.プライバシー確保の原則
パーソナルデータの利用においては、個人の自由、尊厳、平等が侵害されないようにすべきです。AIの利用が個人に害を及ぼすリスクがある場合は、技術的仕組みや非技術的枠組みを整備します。パーソナルデータの重要性に応じて適切な保護を講じます。
4.4.セキュリティ確保の原則
AI利用におけるリスクを評価し、リスクを提言するための研究を推進します。サイバーセキュリティの確保を含むリスク管理のための取り組みを進めます。
4.5.公正競争確保の原則
不当なデータの収集や主権侵害、不公正な競争が行われる社会であってはなりません。富や影響力が一部のステークホルダーに偏る社会であってはなりません。
4.6.公平性、説明責任及び透明性の原則
AI利用によって、人種、性別、国籍等の多様な背景による不当な差別がないようにします。AIの利用、データの取得方法、動作結果の適切性などについて、適切な説明を行います。AIの提案を理解するための対話の場を設けます。
4.7.イノベーションの原則
継続的なイノベーションを目指し、幅広い知識、視点、発想に基づいた人材育成と研究を推進します。産学官民連携、国際化・多様化を推進します。AI工学の確立、AIの品質や信頼性の確保、データ整備手法、開発・テスト・運用方法論などを確立します。AI関連データの独占を避け、国境を超えて有効活用できる環境を整備します。AI研究を促進するコンピュータ資源や高速ネットワークを共有し、活用します。
4.8.AI開発利用原則
また、開発者及び事業者は基本理念及びAI社会原則を踏まえたAI開発利用原則を定め、遵守する必要があり、国際的なコンセンサスを形成し、非規制的で非拘束的な枠組みとして共有されるべきです。
5.おわりに
「AI-Readyな社会」を構築するため、本原則を政府、企業、団体等で共有し、政策に反映させるとともに、国際的な議論の場で本原則を共有し、リーダーシップをとり、コンセンサスの形成を目指す必要があります。また、AI技術の進展、社会の変化、世界の情勢に応じて、本原則を今後柔軟に進化・発展させる必要があります。
以上の内容は次の内容を参考にまとめたものです。皆様のお役に立てれば幸いです。
出典:内閣府 人間中心のAI社会原則
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/aigensoku.pdf