
GX2040ビジョン脱炭素成長型経済構造移行推進戦略改訂のまとめ ②個別分野の取組とカーボンプライシング構想
日本の各省庁においては様々な政策研究会が開かれ、今後の政策が議論されています。そうした議論を経て策定された戦略の中には非常に影響力の強い戦略があります。2025年2月17日に閣議決定されたGX2040ビジョン脱炭素成長型経済構造移行推進戦略改訂を取り上げ、特に個別分野の取組とカーボンプライシング構想について焦点を当てます。
1.GX を加速させるための個別分野の取組
【エネルギー政策】
S+3Eの原則の下、安全性の確保を前提に、エネルギー安定供給を第一として、経済効率性と環境適合性の向上に向けて最大限取組を進めていくことが重要です。
【再生可能エネルギー】
再生可能エネルギーの主力電源化を徹底し、関係省庁や地方公共団体が連携して施策を強化することで、地域との共生と国民負担の抑制を図りながら最大限の導入を促します。
【原子力発電】
原子力の活用に当たっては、安全性の確保が大前提であり、不断の安全性の追求、立地地域との共生・国民各層とのコミュニケーション、バックエンドプロセスの加速化、既設炉の最大限活用、次世代革新炉の開発・設置、持続的な活用への環境整備、サプライチェーン・人材の維持・強化、国際的な共通課題の解決に、国は前面に立って責務を果たします。
【火力発電】
火力全体で安定供給に必要な発電容量(kW)を維持・確保しつつ、非効率な石炭火力を中心に発電量(kWh)を減らしていきます。
【水素】
水素は、アンモニアや合成メタン、合成燃料などの基盤となる材料であり、これら水素等は幅広い分野(鉄鋼、化学、モビリティ分野、産業熱、発電等)での活用が期待される、カーボンニュートラル実現に向けた鍵となるエネルギーです。
【CCS】
CCS は電化や水素等を活用した非化石転換では脱炭素化が困難な分野において脱炭素化を実現できるため、エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時実現に不可欠となっています。
【サーキュラーエコノミー】
資源循環は多岐にわたる分野に関連し、再生材や再生可能資源などの供給・利活用により排出削減に貢献することが可能であり、特に、産業部門の中でも排出量の多い素材産業での排出削減に大きな効果を発揮することが期待できます。
【その他】
鉄鋼、化学、紙パルプ、セメント等の脱炭素化が難しい分野、蓄電池、次世代自動車、次世代航空機、ゼロエミッション船舶、鉄道、物流・人流、くらし、住宅・建築物、インフラ、カーボンリサイクル、食料・農林水産業、半導体、CDR等の各分野における具体的な取組が示されています。
【脱炭素化が難しい分野(鉄鋼、化学、紙パルプ、セメント等)】
革新的な電炉への転換を図ります。水素を活用した製鉄プロセスの導入を目指します。
ナフサ由来の原料からの原料転換(バイオエタノールや廃プラスチック等からの化学品製造)を図ります。
安定的に調達できる木質パルプを活用したバイオリファイナリー産業への事業展開を行います。
石炭等を燃料とする自家発電設備・ボイラー等において、大幅な排出削減に資する燃料転換を行います。
AI・ロボティクスなどのデジタル技術の活用による産業の高度化を図ります。
【蓄電池】
2030年までの国内製造基盤 150GWh/年の確立を目標とします。製造装置を支援対象に追加します。
同志国・資源国との連携強化やリユース・リサイクルを促進すること等を通じた、サプライチェーン全体の強靭化を図ります。
DX・GX による先端的な製造技術の確立・強化の支援を行います。
製造時のCO2排出量の可視化制度の導入を通じた蓄電池製造の脱炭素化を図ります。
2030年頃の本格実用化に向けた全固体電池の研究開発及びサプライチェーン全体での生産技術開発の加速させます。
【次世代自動車】
EVの普及と多様な選択肢(合成燃料、水素など)を追求します。EVに必要な蓄電池の国内生産基盤確保を行います。
合成燃料の研究開発を推進します。
燃費規制や非化石エネルギー転換目標による電動車の開発・性能向上や導入を促進します。
クリーンエネルギー自動車や商用電動車、電動建機の導入支援を行います。充電・水素充てん設備、蓄電池等の国内立地・技術開発への支援を行います。
車載用蓄電池のリユースや車両からの給電設備の整備を促進します。
燃料電池自動車に関しては商用車に重点を置き、集中的に導入する重点地域に対して追加的支援を行います。
内燃機関に係る液体燃料の低炭素化・脱炭素化のため、バイオ燃料及び合成燃料の活用を図ります。
【次世代航空機】
カーボンニュートラルに向けた次世代航空機について国際連携の中で完成機事業を創出します。次期単通路機プロジェクトに上流工程から参画します。最終組立工程を含む量産体制を構築します。次世代の環境新技術を搭載した新たな航空機の開発を主導します。
協業体制でMRO拠点を集約・増強を図ります。競争力のあるサプライチェーンを構築します。
持続可能な航空燃料(SAF)の活用を促進します。
新技術を搭載した航空機の国内外需要を創出します。
【ゼロエミッション船舶】
内外航のゼロエミッション船等の普及に必要な導入促進支援制度の検討を行います。
国際ルール作り等の主導を含む環境整備をします。
【鉄道】
高効率化や次世代燃料を利用した車両・設備の導入に向けた支援制度の検討を行います。
モーダルシフトによる鉄道利用を促進します。
駅舎などの鉄道アセットを活用した再生可能エネルギー導入の拡大を図ります。
【物流・人流】
事業用のトラック・バス・タクシー等の次世代自動車の普及を促進します。
輸送効率の向上に向けたデジタル技術の導入を支援します。
共同輸配送等の推進を図ります。
【くらし】
国民・消費者の意識改革や行動変容を喚起します。GX価値の見える化を図ります。CFP表示製品の普及に向けた業界ごとのルール策定や人材育成の支援を行います。国民運動「デコ活」を推進します。国、地方公共団体等の公共部門による率先調達を行います。
【住宅・建築物】
2050年にストック平均でのZEH・ZEB基準の水準の省エネルギー性能確保を図ります。省エネルギー基準の段階的な水準の引上げを行います。
より高い省エネルギー水準の住宅の供給を促す枠組みを創設します。
住宅性能表示制度における基準の充実化を図ります。非化石転換やDR推進に向けた制度面での対応を図ります。
ZEH基準の水準を大きく上回る省エネルギー性能等を有する住宅の導入を図ります。断熱窓への改修を促します。高効率給湯器の導入も含めた既存住宅・建築物の省エネルギー改修を促進します。
ZEHの定義の見直しを行います。建築基準の合理化や中大規模木造建築物に対する支援等により木材利用を促進します。
【インフラ】
空港、港湾、道路、ダム、上下水道等の多様なインフラを活用した再生可能エネルギーの導入を促進します。
エネルギー消費量削減を徹底します。
都市緑化やエネルギーの面的利用等を進めるまちづくりGX等を推進します。
カーボンニュートラルポート(CNP)の形成を推進します。
建設施工に係る脱炭素化を促進します。
【カーボンリサイクル】
合成燃料、SAF、合成メタン、グリーンLPGの導入拡大に向けた制度を整備します。
【バイオものづくり】
微生物設計・プラットフォーム事業者の育成、バイオファウンドリ基盤の整備を行います。
【CO2削減コンクリート等】
新たな製造技術の確立やCO2固定量の評価手法のJIS/ISO化に向けた取り組みを行います。
【食料・農林水産業】
「みどりの食料システム戦略」に基づき、脱炭素化、吸収源の機能強化、森林由来の素材をいかしたイノベーションを推進します。
資源・エネルギーの地域循環等に向けた投資を促進します。
【半導体】
最先端半導体やパワー半導体等の国内製造基盤の強化を図ります。光電融合技術・先端メモリ等の技術開発を行います。専用半導体設計に対する支援を行います。
【CDR (二酸化炭素除去)】
地方公共団体と国、企業が連携し、新たな産業の創出につなげていくために必要な政策を検討します。
地域の自然状況や既存産業を基に、新たな産業を創出します。
これらの取り組みを通じて、各分野における脱炭素化を推進し、GXの実現を目指します。
2.成長志向型カーボンプライシング構想
事業者による GX 投資の収益性に関する中長期的な予見可能性を高めていくことが必要です。
2026年度からは制度に係る公平性・実効性を高めつつ対象企業の業種特性や脱炭素への道筋等を考慮する柔軟性を有する形で、排出量取引制度を本格稼働させます。
化石燃料使用に伴うコストを社会全体で広く負担することで、広範な対象に GX への動機付けが可能となるよう、炭素排出に対する一律のカーボンプライシングとして2028年度から導入します。
3.おわりに
以上の内容は次の内容を参考にまとめたものです。皆様のお役に立てれば幸いです。
出典:経済産業省 GX2040ビジョン脱炭素成長型経済構造移行推進戦略改訂
https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250218004/20250218004-1.pdf