きみはケルアックなんて知らない


きみはケルアックなんて知らない

アレン・ギンズバーグもナナオサカキも

きみはケルアックなんて知らない

12フィートのタイプライターの巻物も部族のことも

ルート66やそれを題材にしたブルースの楽曲も

ビートジェネレーションも

第一次世界大戦も

まして第二次世界大戦もベトナム戦争も

きみはケルアックなんて知らない

ゲーリースナイダーも山尾三省も

きみはケルアックなんて知らない

ニールキャサディも知らない

ドクターサックスもクイァも知らなければ

アシッドテストも受けたことはない

サマーオブラブもウッドストックも

マルディグラやニューポート

ジャズフェスティバルも行ったことがない

ポエトリーリーディングも

スポークンワーズも知らない

白石和子も知らない

まして英語の詩なんて知らないし

原著で読んだこともない

きみはしらない

ぼくもしらない

まして英語の詩なんて知らないし

原著で読んだこともない

僕はパブリックエナミーなら知ってる

ブギ・ダウンプロダクションなら知ってる

デラソウルやジャングルブラザーズを知ってる

SL1200のターンテーブルやAKAIのサンプラー

ベスタクスのミキサーは知ってる

ノトーリアスBIGのBig Poppaが

アイズレーブラザーズのビトゥイーン・ザ・シーツを

サンプリングしていることも

the rootsのドラマーがクエストラブで

JDillaやディアンジェロと組んだチームが

「ソウルクエリアンズ」だということも知ってる

泉山真奈美の対訳で少しだけ内容は知っている

言葉の生み出すリズムがかっこいいことなら知ってる

ループジャンクションを知っている

韻シストやDIYTOKIONを知っている

SUIKAやTEMPLEATSなら仲間だし

シュレン・ザ・ファイヤーやHISOMI-TNP

あとECDのことも少し知ってる

ニューヨリカンポエッツカフェなら知っている

サウルウィリアムズの映画SLAMなら知っている

フライングブックスやロバートハリス、沢木耕太郎なら知ってる

そのころにはもうジャック・ケルアックなんていなかった

ちなみにピニェロなんて詩人も生きてはいなかった

きみはしらない

ぼくもしらない

まして英語の詩なんて知らないし

原著で読んだこともない

映画パターソンで長瀬正敏が演じる翻訳家が言った

「詩を訳すのは雨ガッパを着てシャワーを浴びるようなものだ」と

まるで、生まれたての赤子が天上的な恋愛や

アルコール、野球のルールを知らなかったように

けれど彼らに出会ったことならある

興味の風に吹かれていこう

きみはケルアックなんて知らないけれど

きみはケルアックに出会うだろう

一体どこで?

多分きみは出会ってしまう

もしくは、この路の上に突っ立っていれば

自然と向こうから歩いてくる

まるで小学生がアナルセックスや

LSDやアワヤスカ、アマニタ・パンセリナや

JAVAのプログラミングを知らなかったように

きみは出会ってしまう

例えば今日のような午後に

フライング・ブックスやアルスクモノイで

神戸外国語大学やBBミュージアムで

アレクサンダーテクニークのワークショップで

サダルストリートのドミトリーで

長澤哲夫が住む諏訪野瀬島の西日がさす本棚で

図書館で閲覧するインターネットのアーカイブスで

白土三平やつげ義晴の漫画で

JAZZやヒップホップ、ロックやブルーズで

ハウスから、ロフトから、レイブや野外から

ヘッドフォンをして山手線の車窓から

投げ出されてしまう、その路の上へ

どこからだって

さてどこへ向かおうか

知識の量なんて必要ない

保証された情報が大切なわけじゃない

どうせ出会ってしまうのだから

自由に歩き出そう

リズムとタイミングだけで

あなたの興味が枝のように伸びる

その四つ角の向こうへ

地球の歩き方もロンリープラネットも

Green BooksもWhole earth catalogも

全部読んでもいいし全部読まなくてもいい

きみは僕のことなんか知らない

でも僕にに出会ってしまう

この路の上で

それはたとえばこんな夜に

僕はきみのことなんか知らない

でもきみに出会ってしまう

この路の上で

それはたとえばこんな夜明けに

どこからきたの

どこまでゆくの

まあいいやどうだって

まずは路傍に佇みタバコでもひとつ

きみはケルアックなんて知らない

でもケルアックに出会ってしまう

所在なく突っ立っているギンズバーグに出会ってしまう

暇を持て余したバロウズやナナオサカキに出会ってしまう

この路の上で

それはたとえばこんな午後に

出会うのは いつだって この路の上で

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