金融を通じてソーシャルビジネスを支援する ヒューファイナンスおおさか(一般財団法人大阪府地域支援人権金融公社)
NPO法人福祉のまちづくり実践機構ではホームレスや障がい者、ひとり親家庭など職につくことが難しい人たちを就労につなげるしくみづくりとして、「行政の福祉化」の発展につながる調査研究に取り組んでいます。
ここでは、大阪版ソーシャル事業者認証にかかわっているさまざまな団体、企業を紹介します。
今回は「ひと・まち・げんき融資」や「ひと・まち・げんき助成」といった融資や助成制度によって、コミュニティビジネスやソーシャルビジネスを応援しているヒューファイナンスおおさか(一般財団法人大阪府地域支援人権金融公社)の活動についてご紹介します。専務理事の前田浩さんにお答えいただきました。
ヒューファイナンスおおさか(一般財団法人大阪府地域支援人権金融公社)
財団法人大阪府同和金融公社は1969年10月に大阪府及び大阪市の出資により設立された。2002年3月に財団法人大阪府地域支援人権金融公社と名称変更。2003年からはNPO(法人及び個人)向けの「ひと・まち・げんき融資」をスタートし、大阪の金融機関の中でもいち早くコミュニティビジネスへ融資の支援を始める。2019年には休眠預金活用事業によるコミュニティビジネスを応援するための「ひと・まち・げんき助成」をスタート。大阪のソーシャルビジネスを支援している。
ソーシャルビジネスを応援する大阪で初の金融機関
ー-ヒューファイナンスおおかさの設立経緯について教えてください。
1968年、同和地区の事業者さんに対して大阪府や大阪市が独自の制度融資を開始しました。
当時の同和地区の事業者さんの中には字を書くことができなかった方も多く、銀行から融資を受ける際の書類を書くのが難しい方もいて、なかなか融資を受けられませんでした。同和地区の事業者向けに大阪府及び大阪市の独自の制度融資を信用保証として特別に作ることで、銀行からお金を借りられるようにして地域の事業者を応援しようとしたのですが、銀行に融資申込み書類を作成し提出し、審査後融資を受けることを前提として信用保証制度を申し込むという利用の仕方だったので、なかなか利用が促進できませんでした。
このままでは同和地区の事業者を応援できないということで、大阪府と大阪市の出資により、直接お金を貸す金融機関を作ろうとなり、1969年10月に前身である財団法人大阪府同和金融公社が設立されました。
ー-ヒューファイナンスおおさかの特色として「ひと・まち・げんき融資」や「ひと・まち・げんき助成」などでコミュニティビジネスやソーシャルビジネスの支援をしているということがありますが、それはどのような経緯があったのですか。
当初は同和地区の事業者さんに対する融資や記帳指導を行う金融機関として設立されましたが、2003年同和対策事業の終了にともなって同和地区向けの融資は必要ないのではないかという議論になりました。金融公社の今まで果たしてきた役割は今後も必要であろう、さらにこれまでのノウハウを府民にも生かそうということで大阪府域の事業者の方にもお金を貸すようになりました。
新しく事業を始めるにあたって、当時まだ数が少なかったコミュニティビジネス(今で言うソーシャルビジネス)を応援する商品を作ろうということになり、大阪の金融機関としてはいちはやくNPO(法人及び個人)向けの融資制度をスタートさせました。
ー-大学進学時に入学金を一括で納められない人のためのつなぎ融資制度はヒューファイナンスおおさかさんが初めてで、利用も多いそうですが、どういった形で始まったんですか。
創設当時年間100件以上の利用があり、多くの方に利用していただいてきました。大阪府の教育委員会(現教育庁)などからの相談事例で、私立大学の入学前の入学金や諸経費には100万円近いお金を一括で納めることが必要ですが、それが払えずに進学を断念してるご家庭があると知りました。公的な奨学金等の利用は決まっていますが、奨学金の支給は学校入学後になるため、自分の預金などで支払いが出来るご家庭はいいのですがそれ以外のご家庭は一時的に金融機関などから教育ローンなどでお金を借りて支払にあてないといけません。ご家庭の事情(例えば保護者の事業失敗や破産等)などで金融機関の教育ローンなどが利用できないご家庭を応援するためにつなぎ融資制度をつくりました。
2003年にスタートし、2004~2005年になると年間100件以上の利用があり、進学したくてもできなかった方々ができるようになったと多くの方に喜んでいただけました。
ー-NPO法人向けの「ひと・まち・げんき融資」についてはいかがですか。
2003年にスタートしましたが最初はなかなか利用が伸びず、事業型のNPO法人に対する融資が中心でした。まちづくりや制度外の福祉領域など収益をあげることが簡単ではない事業者さんのご利用は少ないです。どうしてもお金を借りると返さなくてはいけないので、融資を利用するというのは難しいのが現実です。利用が多いのは、清算払いの助成金や補助金のつなぎ資金としての利用です。
金融を通じて災害に強いまちづくりを応援したい
ー-「ひと・まち・げんき助成」についてはいかがですか。
2019年に福祉のまちづくり実践機構のコンサルティングにより、一般財団法人日本民間公益活動連携機構(通称JANPIA)が募集していた休眠預金の分配団体に応募し、採択されました。
これまで事業性が高くなくても地域にとっては大事な事業をやっているという団体さんからのご相談を受けることが多かったのですが、融資をお断りすることが多くありました。そういったご相談の中には、将来的には事業化できそうなモデルもあり、もったいないと感じることがありました。そこで、そういった事業を応援できるようなしくみとして、「ひと・まち・げんき助成」を立ち上げました。
ー-どのような団体が助成を受けたのでしょうか。
「ひと・まち・げんき助成」で、これまで助成を行った団体は8団体あります。どの団体の事業も印象的です(詳細はこちら)。
たとえば、「誰もが暮らしやすい地域の創造」をテーマとして、大阪府の岬町に高齢者が高齢者を支えるという事業があります。その地域では子どもが少なくて高齢化が進んでいるのですが、古民家を使って食事会を行ったり、レンタカーを借りてスーパーまで週2回地元の高齢者の方を送迎するサービスをしているそうです。ほかには、「被災者支援からインクルーシブコミュニティネットワーク構築事業」をテーマとして、高槻では古民家を使って子どものサードプレイスをつくったり、「I♥〈愛ラブ〉新小校区福祉プロジェクト」をテーマに、富田林ではLINEを使って各自治会や地域の自治組織にお知らせし、ボランティアネットワークづくりにつなげたり、いろいろあります。
私どもとしてはこれらの事業は各地域に存在する共通する課題解決の糸口になると期待しています。今後も「ひと・まち・げんき助成」は続けていきたいと考えていて、今後は、地域によっていろいろな課題が違うので、課題を絞って集中して助成できたらと考えています。
ー-「ひと・まち・げんき助成」を通じてどのようなことが実現できればいいですか。
仮に地域で孤立している人がいたとしても、その人のことを誰かが気付いていたり知っていたりするような街になってほしいですね。そういった取り組みを通じて、誰も孤立しないような街ができたらと思います。そういった各地域の取り組みが、近い将来必ず起きる東南海地震のときに役立つはずです。
災害時に「あのうちには高齢者や障がい者がいるから確認に行かないと!」と誰かが気づいてくれるまち、引きこもっている人がいてもその人のいつもいる場所を街の誰かが把握していて災害時には探しに行けるような地域になってほしいなと思います。
こういったまちづくりがそのまま防災や減災に繋がっていけばと思いますし、これからはそれを意識したまちづくりをしていかなければならないのではないでしょうか。私どもとしては融資を通じて間接的にでも防災のお役に立てたり、そのような地元の事業者さんをお手伝いしていきたいですね。そのためには何かあったときだけでなく、ふだんからのつながり作りが大切だと考えています。
個人事業主もできるSDGsを応援するのが大阪版ソーシャル事業者認証
ー-最後に大阪版ソーシャル事業者認証に対する期待があればお願いします。
大阪版ソーシャル事業者認証は事業内容だけでなく、雇用の形態や事業のマネジメント、従業員を大事にしているか、外国人労働者の扱いといったいろんな面で判断されます。現在金融機関がお金を貸す場合は事業面や財務面で判断されがちです。大阪版ソーシャル事業者認証ができて事業面や財務面だけでなく、マネンジメントや地域貢献などの部分が評価されるようになれば、より多くの企業が多様な面から評価され融資対象事業者となるはずです。
当財団では「ひと・まち・げんき融資」や「ひと・まち・げんき助成」の対象事業者を独自に選定していました。しかし今後は、大阪版ソーシャル事業者認証制度ができれば、取得した事業者であれば、はじめからソーシャル事業者として応対できると思います。
また大阪版ソーシャル事業者認証によって、こんな事業者さんがいるという広報ツールとして使うことができたらいいなと思っています。SDGsは大きい会社でしかやれないわけではなく、小さい会社でも、あるいは個人事業主でもできると期待しています。さまざまな事業者によっていろいろな形で社会貢献ができるということをもっと広げていけるといいなと思います。
例えばの話ですが、おっちゃんとおばちゃんが2人でやっているようなお好み焼き屋さんで、車椅子のお客さんにも来てもらいたいから、トイレや段差がないように店を改装したい。このことが社会的包摂の取り組みだと認証することになると思うんです。このような個人事業主さんや取り組みも認証しながら、地域の事業や産業を応援していきたいですね。