精神障がい・発達障がい者が長く働き続けられるようにサポートする NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク(JSN)
NPO法人福祉のまちづくり実践機構ではホームレスや障がい者、ひとり親家庭など職につくことが難しい人たちを就労につなげるしくみづくりとして、「行政の福祉化」の発展につながる調査研究に取り組んでいます。
ここでは、大阪版ソーシャル事業者認証にかかわっているさまざまな団体、企業を紹介します。
今回はNPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク(JSN)の活動についてご紹介します。副理事・統括施設長の金塚たかしさんにお答えいただきました。
精神・発達障がい者に特化した就労支援施設として、2007年に有志の精神科医師らによって設立されました。就労移行支援と就労継続A型を主な事業とし、門真、茨木、新大阪、東京を拠点に活動しています。専属のジョブコーチを4名おき、これまで600名以上の就職をサポートしてきました。大阪府の障がい者や就職困難者の就職支援について定めたハートフル条例の「障がい者等の職場環境整備等支援組織」にあたります。
精神障がい者が働き続けるために
--NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク(JSN)の概要について教えてください。
当法人は精神科医師の有志によって2007年に設立されたNPO法人です。
2006年に障害者の雇用の促進等に関する法律で、精神障がい者も対象となりました。が、当時はまだ精神障がいのある方々が一般企業で障がいをオープンにして働くことが当たり前ではありませんでした。
これまで精神障がいはどちらかというと福祉の対象者ではなく医療の対象者として捉えられていたこともあり、支援も少ない状態でしたので、働き続けることを後押しするために法人が作られました。
現在は就労移行支援事業、就労定着支援事業、就労継続支援A型事業を実施しています。その他にリワーク支援や学生支援で大学の相談室と連携して大学生へインターンシップや座学を提供しています。また、医療機関へは出前講座を実施しています。
--どうして精神科の医師が就労支援事業所を設立したのでしょうか。
精神・発達障がいの方が働く上で最初にお医者さんに相談する事が多いです。
例えば統合失調症の場合は慢性疾患なので、発病してから一般企業で働けるくらい状態が安定するまでに10年ぐらいかかる人もいます。本人にとっても再発したらどうしようという不安があるため、お医者さんに相談し、先生たちも相談を受けて、働ける方はハローワークに行って仕事を探すようアドバイスしますが、当事者の方たちは働くことから離れているため、ある一定のトレーニングが必要であり、就労移行支援事業所を立ち上げました。
就労移行支援事業所の役割は、障がいのある人たちが訓練を通じて働けるようになり一般企業に送り出し、6ヶ月間定着支援をすることです。特に私たちは就職をゴールではなくてスタートという位置づけ、5年後10年後も働き続けられるような支援を目指しています。
--どのような方が利用されているんですか。
統合失調症、気分障がい、鬱病、双極性障がい、発達障がい、不安神経症、高次脳機能障がい、依存症の方などがいらっしゃいます。利用の流れとしては、医療機関や他の福祉サービスから紹介され、一度見学して体験していただき、使いたいということであれば契約してもらう流れです。
まずは外に出ることに慣れることから
--トレーニングはどんなことをしていますか。
利用開始の面接を経てから、基礎訓練でまず通うことからスタートです。そして、事業所内でプログラムをこなしてもらいます。今までずっと在宅していた方々が多いので、最初から週5日フルタイムで来れる方はほとんどいません。外に出ていくこともままならなかった方も結構いるので、まずは外に出ることに慣れていただきます。
週3から4〜5日、午前だけから午後と少しずつ伸ばしていきます。内容は、座学やグループワーク、パソコン、事務、軽作業などをやってもらいます。特に私達が大事にしているのは企業実習です。実際の企業に行って、体験をさせていただくインターンシップでのトレーニングに重きを置いています。
--就職するまでにどれくらいインターンシップに行くんですか。
就職するまでに1人3〜4ヶ所ぐらいインターンシップに行きます。そこで何かを学んでもらうことも大切ですが、体験の中から自分で学び、いろんなものに気づくことが大切だと思います。座学も大切ですが、実際に社会に出てできるかどうかが大事ではないかと思います。
実際に企業で体験してみてここで学んだことができるかどうかを、実習で確かめてみて、できたことと、できないことを実感してもらいます。そして、できなかったことについて、どうすればできるようになるのか、あるいはそれは障がいがあるがゆえにできないものなのか、といったことを明確にしていってもらいます。
自分でできることできないことを自覚し、自己理解し、できることを伸ばすきっかけにしてもらえればということで、インターンシップを重視しています。
--実習先はどうやって決めていますか。
なるべく本人の希望を尊重します。あまりにも本人の希望とできることがかけ離れている場合でも、基本的には否定しないで希望を受け入れて、実際に体験してもらうようにしています。そういう際には極力受入先からフィードバックをいただくようにしています。
長く働くためのポイント
--精神障がい、発達障がいをお持ちの方が長く働くためのポイントはありますか。
長く働き続けるためには自分に合った会社を探すことが大事です。インターンシップを通じて、自分ができることを明確にしていただき、できない部分については会社に合理的配慮を求めていくことが重要になってきます。
それだけでなく、病気や障がいには波があるので、自分の体が出しているSOSを察知できるようにしておくのも大事です。例えば眠れなくなるとか、食欲がないとか。そういった症状が出たらやばいなと自分でわかるようになったら、どんな対応をすればいいのか、ここにいる間に学んでもらうようにしています。
随時面談をしていますが、寝られない、食べられないといったようなサインがあったときには面談をして、本人の中に原因と対処法をしっかりと落とし込んでいくようにしています。
--関係性をしっかり作っていくんですね。
そうですね。そういう関係性があれば、就職した後に困ったことが起こっても、また相談に来てもらえます。だから、面談の機会はとても大事で、そこで彼らの苦しみや不安、悩み等を聞き、どう解決していくかを一緒に考え、乗り越えていくようにしています。
--就職後の定着や継続の支援はどういったことをされてるんですか。
2018年にできた就労定着支援事業やジョブコーチという制度を活用しています。当法人では専属のジョブコーチを4名おいて、定着をはかっています。
--ジョブコーチの役割はなんですか。
採用された精神障がいの方の指導担当になる方(キーパーソン)に対して、声かけや病気の説明をします。たとえば「がんばれ」って声かけがきつく聞こえてしまうなら、表現なんかを変えてもらえるようにお伝えします。
また、キーパーソンの方で障がい者の方の指導することを負担に感じる方もいるので、キーパーソンだけでなく会社の全体でしっかりとケアしてもらうような状況を作っていってもらえるよう、アドバイスするのも役割です。
--精神障がいの方が職場で定着するにおいて、ジョブコーチが必要となるのはどうしてなんですか。
現在働いている障がい者の数は身体障がいの方が一番多くて次に知的障がいだったのですが、ここ数年、年間の就職の件数が10万件を超えてきました。ところが、定着率が他の障害に比べて良くない。国の調査では精神障がいの方々の1年後の定着率が5割を切っています。
なので就職後の支援をしっかり応援しましょうということでやってきました。
これまで利用いただいた総勢600名以上のうち7割の方が今でも働き続けられています。中には10年以上お勤めされている方もいます。
企業が障がい者雇用から学べること
--当事者の指導ではなく、当事者に関わる人や場の調整をするのがお仕事なんですね。
知的障がい、身体障がいの方たちとの違いはありますか。
就職先は一般就労がほとんどで、A型、B型はほとんどありません。
かなり高い専門性をお持ちの利用者さんもたくさんおられます。そうなると、仕事のスキルを上げるというより、気持ちへの支援が必要とされたりします。
症状の波があるとはいえ、仕事や病気の悩みを聞くのはもちろん、人間関係やコミュニケーションをとったりするのはあまり上手くない人が多いので、共感的に話を聞くようにしています。しんどいよなって共感しつつ、頑張っていきましょうと励ます。そういうマインドを企業の方たちにも持ってほしいと思います。そのための環境整備をお手伝いすることも私たちの役割です。
企業が彼・彼女らを戦力化していく過程でいろいろな事を学び、自社の仕事に生かしている企業さんもあります。これからのダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂)が重要とされる時代の中では、障がい者雇用から学べるのではないでしょうか。
--ほかに工夫されていることはありますか。
職場だけでなく彼・彼女らを支えるための地域をつくることを大切にしています。一言でいうと、就労支援というのは、地域づくりだと思います。就労支援=生活支援=人生支援なので、彼・彼女らが働き、地域で住み続けるような地域をどう作っていくかが大事です。
--就労支援のやりがいはどんなところにありますか。
就労支援の面白みは変化があることです。彼らも変化するし、それにともなって企業もどんどん変化をしていく。そうやってお互いが影響を与え、変化していく姿を見れたときはやっぱり私も嬉しいです。そういった変化の上に、地域づくりがあるのではないでしょうか。
長く働いてられる方が、会社でのコミュニケーションや仕事がうまくいかなかったなど、ちょっとしたことでやめていかれることがよくあります。その原因が恋人ができたとか別れたとか一人暮らしを始めた等々、生活の変化が関係しています。
そういったときにジョブコーチや我々が彼らを支えるためには、地域の関係機関と知り合っておくことがとても重要なことです。
--最後に大阪版ソーシャル事業者認証に対して何か希望や期待はありますか。
やはり、表彰された事が地域に認められて、利用者の方がどんどん来てくれるとか、優秀なスタッフが来てくれるようなメリットにつながると嬉しいです。そのためにも、大阪版ソーシャル事業者認証が多くの府民の方に知られてほしいですね。
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