【そんきか】第7話「役割のシャッフル」
本インタビューは、大学院生のヒアリングをベースに、NPO法人パノラマが大幅に加筆修正及び創作と演出を施した、校内居場所カフェをわかりやすく学ぶためのコンテンツです。
なお、本シリーズ記事は300円(寄付付き価格)とさせていただき、校内居場所の運営にかかる費用に活用させていただきます。
-------「生徒と一緒に不足を補いながら、場ができていく」と小川さんがおっしゃっていました。具体的にはどんな感じなんでしょうか?
石井:ある時、三人掛けのアウトドア・チェアがご寄付で届いたから、ちょっと隠れたスペースに置いてみたんですよ。さっそく嬉しそうに座った女子生徒が「これで屋根があったら最高なんだけどなぁ〜」と言って。大人にはそんな自由な発想はないから、僕も面白がってピクニック・シートでテント張るみたいな感じで屋根を作ってあげたら大喜びしてくれて。あれ以来、そこのセッティングは、あれで固定化しました。
小川:あそこは秘密基地感があって、人気スポットですよね。お菓子のゴミとかがそのままになってたりすることも多いんですけど、そういう大人の目の届かないところが設計としてあるのって、なんか大事な気がします。
石井:図書館って、空き教室とは違って、ある種の猥雑さがあるじゃない? あの場所はそれに輪をかけていると思うんだよね。大人からするとここでイチャイチャが始まるんじゃないかとか、リスクを考えがちなんだけど、実はそういうことが「安心と安全な居場所」には大事な要素な気がする。
小川:すべてが把握できて見渡せちゃう空間って、大人的には管理するのが簡単で安心なわけですけど、ある種の緊張感というか、見張られ感も同時にありますよね。
石井:そうそう。僕らが目指している「ヤンキーとオタクの共存」という裏テーマみたいなことを考えた場合、場のレイアウトとかすごい大事だよね。なんにもない空き教室で「はい、仲良くしてください!」って言われても気持ち悪い。
小川:生徒は本能的にパーソナル・スペースみたいな空間を見つけ出すから、そこ好きなんだって場所が出てくる。松ユリさんの司書目線でそこに椅子が置かれていたりもするし。そっと一人で本を読めるようにデザインされた場所で、コミュニケーションが生まれるって、なんか面白いですね。
-------なるほど、そういう気づきを生徒が与えてくれて、それを受け取った石井さんと小川さんが、場づくりに活かしていという循環があるんですね。他にも何かありませんか?
石井:他? う〜ん、けっこう無意識的にやってきちゃってるから、そんな風に訊かれてもなあ……。そうだ。例えば、ある時大道芸が好きなボランティアさんが皿回しを持って来てくれたんですよ。そうしたら生徒たちが夢中になって皿を回しはじめて。できるようになった生徒が鼻高々で、できない生徒に教えたりしているのがすごくよくて、あー、こういう成長が感じられる遊びっていいなと思って、すぐに買ったんですよ。
小川:1年生が入学してきてすぐに行う、ぴっかりカフェのオリエンテーションがあって、終わりのちょっと余った自由時間に、石井さんが皿回しをすると、みんな寄ってきてやってますよね。
石井:大袈裟に言えば、そこにコミュニティーが生まれてる。あれを一緒にやるだけで、距離がぐっと縮まって、「また、やりにおいで」なんて声を掛けらる。もうすっかり定番のツールになってますね。
小川:私はあんまり回せないんですけど、四苦八苦していると、回せる生徒がこうやってやるんだって、教えてくれるんですよ、回ってるお皿をくれたりして(笑)。そこで、意外な一面が見れたりすることもあるし、ボランティアの大人が全然回せないのをバカにしつつ、根気よく指導してくれてたりする。あれもいいんですよね。
石井:まさに「役割のシャッフル」が起こるんだよね。
-------な、なんですか、役割のシャッフルって?
石井:いつもは教える人が、教わる側になるとか、いつもは支援している人が、支援される側になるとか、そういう役割が変わることを「役割のシャッフル」と呼んでるんだけど、僕らが考えている、居場所のもっとも大切で、基本的な要素かなって思います。
-------皿回しの話だと、いつもはお世話する側の小川さんが、生徒にお世話されている。或いは、何かをしてもらう側の生徒が、何をしてあげる側に役割がシャッフルしているっていうことですね。
石井:サードプレイス理論で考えると、家というファースト・プレイスって、親と子、お兄ちゃんと妹とか、働きに行く人、家事をする人とか、役割が固定化しているじゃない? 同じようにセカンド・プレイスである職場や学校も、上司と部下、先輩と後輩、先生と生徒、お客と店員みたいに、やっぱり役割が固定化しているでしょ?
-------はい、固定していますよね、というか固定されていないと混乱しちゃいそうですよね。
石井:では、コミュニティーとか居場所というサードプレイスはどうかというと、今の話みたいに役割がふとした拍子にシャッフルするんですよ。僕なんかお父さん世代ですけど、「え、なにそれ?教えて!」なんて、生徒に若者文化を教わる側にするっと入れるんですよね。
-------なるほど、コミュニティーとか居場所なら、役割が変わったからと言って何も混乱は生じないですね。
石井:居場所というサードプレイスは、別に達成するゴールが決まってるわけじゃないから、いくらでも脱線という混乱が許されるんですよね。教室っていうセカンドプレイスは、ちゃんと授業計画があるから、脱線をデザインとして組み込むことが難しいわけ。
-------西成高校の山田校長がおっしゃったと言う「学校というセカンドプレイスに出現したサードプレイス」という意味が、今明確に理解できました!
石井:子どもや若者って、役割がシャッフルして、支えられる人が支える人になったときに成長するんだよね。例えば、いつも支援機関で支援されている引きこもりの若者が、小さな子供たちの面倒を見るという保育園のボランティアに行くと、危険を察知しつつ、楽しく遊んであげるお兄さんにならざるをえない。そういうときにやんわりと世界が広がって、成長するんだと思う。
小川:今は、コロナでリアル開催はしてないですけど、居場所居酒屋「汽水」という飲み会をパノラマで毎月一回開催していて、そこに今は支援をしてもらっている側にいる方が来て、タロットで「占いの館」みたいなことをやってくれるんですよ。
石井:あー、さすらいの占い師!
小川:地域の方が順番待ちして、「なんだか救われた」と言って泣いてしまう人もいたりするんですよ。普段支援を受けている方も、心を癒す側にまわれて、表情がイキイキしているんですよね。ああいうのを見てると、役割のシャッフルって大事なんだなあって思います。
石井:「生徒と一緒に不足を補いながら」って言うのは、生徒に助けてもらいながらっていうことで、すでに役割がシャッフルしているんだよね。ちなみに、支援する人と支援される人の関係が固定していたら、それはカウンセリング・ルームだし、先生と生徒の固定した教室と変わらないですよね。それは居場所じゃないんですよ。
小川:はいっ!ということで今回もお時間となりました。なんだか今回はお腹いっぱいですね。では、また次回もよろしくお願い致します。
(つづく)
【第7話 聞き手くんメモ】
✏「安心と安全な居場所」には、パーソナルスペースが大事!
大人がすべて把握できてしまう(見渡せてしまう)空間は、リスク面からも管理しやすいが、常に見られているような要素がある。図書室は死角スペースなどもあり、自分だけのパーソナルスペースを見つけることができる。
✏“役割のシャッフル“は何故必要なの?
いつもは教える人が教わる側、支援している人が支援される側になる等役割が変わることが役割のシャッフル。パノラマでは、居場所のもっとも大切で、基本的な要素であると捉えている。子どもや若者は、役割がシャッフルして、支えられる立場が支える立場になったときに成長する。普段支援を受けている人も、心を癒す側にまわると表情がイキイキする。
NPO法人パノラマ:2015年3月設立、職員11名の小さな法人。横浜の北部エリアを中心に、高校内で中退や進路未決定、早期離職等を予防する校内居場所カフェや相談事業等を運営。また、引きこもり等の社会に出にくい若者たちの社会的自立を支援する「よこはま北部ユースプラザ」の運営などを行ない、途切れのない支援を地域の中で実現することをミッションとしている。「すべての人をフレームイン!」がミッション・ボイス。
石井 正宏(いしい まさひろ):NPO法人パノラマ代表理事。無資格・未経験で引きこもり等の若者支援に偶然取り組むようになり早21年。支援の言語化が得意な文学系支援者。未だ無資格だが、内閣府や厚労省、行政や民間から講師依頼が来る若者支援業界ではちょっとした有名人。「ぴっかりカフェ」「BORDER CAFÉ」のマスター。社会人となった3人の子供の父。アナログ・レコードを集めすぎて置き場に困っている人。ギターやウクレレを奏で歌う人。
小川 杏子(おがわきょうこ):NPO法人パノラマのスタッフ。東日本大震災後から福島の子どもたちの居場所づくりに取り組む。トルコ研究&放浪生活中にパノラマに出会い、無資格未経験で若者支援分野に飛び込み早4年。生徒たちから「あんこ(杏子)」と呼ばれるナメられキャラ。まずはやってみて考えるタイプ。パノラマが運営する2つの校内居場所カフェでボランティアさんのお世話をしたり、お世話をされたりしている。石井と共にカウンターに立ち日々生徒と過ごしている。
聞き手くん:若手居場所研究家。理屈や理論、理想が先行するタイプ。ネットで見つけた「ぴっかりカフェ」の活動に感銘を受け、今日は意気込んでインタビューに来たものの、研究者と実践者との感覚の違いにカルチャーショックを受ける。秘かに居場所カフェ・デビューを狙っている。
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