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天下茶屋北健康広場のテーブルとベンチをみんなでつくる! ベンチプロジェクト×シェッド西成(2024年12月活動報告)

このレポートは、地域における孤立・孤独対策に関するNPO等の取組モデル調査研究業務に取り組む釜ヶ崎支援機構の「孤立・クローゼットの奥にある新世界ジェンダーフリーシェッド事業」を記録し、最終的に報告書として紹介する目的で作成したものです。

プロジェクトをご一緒している山王訪問看護ステーションでは以前からすでに「にしなりベンチプロジェクト」をはじめておられます。

山王訪問看護ステーションの患者さんは高齢の方や障害をお持ちの方が多く、ちょっと街中を出歩くにしても座って休憩したい方が多いので、「界隈を休憩できるまちにしたい」と商店街のお店などに協力してもらって小さなベンチを置くプロジェクトをコツコツと募金ベースで活動されています。

そのベンチをつくる作業が孤独、孤立の解消につながるのではと考えて、シェッド西成ではベンチプロジェクトとコラボさせていただく運びとなりました。

釜ヶ崎支援機構の松本裕文さんはその背景を振り返ります。

建設現場で働いてきた人が多いので、釜ヶ崎で生活保護を受けている方には大工仕事をできる方が一定数います。そういった方はもともと身体を動かしたり物をつくったりするのが好きなので「もっとこんなことをやってみたい」とか「それつくるのオレやったろか」とかポテンシャルが高いんです。ただ材料を買うお金がなかったり、地域で大工仕事をする機会が少なくて、極端な場合はお酒やギャンブルにのめりこんでしまったりすることもあります。ひと花プロジェクトやベンチプロジェクトではそうした方が活躍できる機会を作ってきましたが、地域ではもっともっと活躍できる場が必要です。広場でのテーブルやベンチづくりを題材にしてこれまでよりもたくさんの方が参加し、作業の結果、広場での催しがしやすい環境が整えば、孤独・孤立の継続的な解消につながるのではないかと考えました。

そこでチラシを配布し、大工仕事ができる人も関心があるけどこれまで経験がなかった人も集まって楽しめる天下茶屋北健康広場のテーブルとベンチをみんなでつくるプロジェクトを開始。

実際、週に1〜2回の木工ワークショップを企画してみると、毎回10人以上の人が参加するワークショップとなりました。

ここからは12月に行われた取り組みを、写真をもとにダイジェストでご紹介します。

2024年12月4日(参加者17名)

1回目は材木を切ったり、寸法に合わせて切っていく作業です。好川拓建築設計事務所の好川さんを講師に迎えました。好川さんはこう解説してくれました。

好川さん 今回は普段みんなで農作業をしている畑で使うためのベンチとそれに見合った大きさのテーブルをつくることになりました。ベンチは同じ形のものを4台、テーブルは長さ3mあるので大勢で集まっても大丈夫です。

まずは材料選定。プロジェクトには木工作業がほぼ未経験という人も参加することや、今回のベンチの設置場所が屋外であることを前提に、材料は加工のしやすいスギ材を用い、その板厚を厚くすることで耐久性と強度を確保するようにしました。具体的には足場用のスギ板の流通品を使いました。

ベンチの形状については、
①できるだけ単純な加工で材料の切り出しなどができ、
②少ない工数で数人が協力すればそれなりに組み立てることができ、
③4台を組み合わせることでいろいろな使い方がイメージできること、
を念頭にデザインを絞り込んでいきました。

形が決まってくると次はそれをどのように具体的に組み立てていくかを考えます。同じ形のベンチを複数作る場合、ビスを留め付ける位置などある程度のルールを決めなくてはいけません。ただその都度寸法を測っていては作業が煩雑ですし必ず間違いが生じます。そのような事がないよう、ビス穴の位置を落とし込んだダンボール製のテンプレート(型板)を作りました。これで作業効率はグンと上がりました。また参加者の中には木工作業が未経験の人もいます。そのような人でもこのテンプレートを使えばビス穴の位置に印を付ける作業には参加できます。結果、順序さえ間違わなければ「それなり」の技術でも「そこそこ」の精度で組み立てられるベンチが完成します。

2024年12月5日(参加者11名)

2回目も材木を切り、やすりがけなどをしています。

作業のあとにご飯を食べて、集まった人たちが仲良くなったり、顔見知りの関係になることが狙いのひとつです。

2024年12月11日(参加者18名)

ひと花センターの2階で寸法どおりに切れなかった木の修正カットをしています。

2024年12月12日(参加者10名)

これはニスを塗るなどの作業をしている様子です。

2024年12月19日(参加者8名)

インパクトドライバーは人気のある工具です。

2024年12月25日(参加者17名)

3個目のベンチの組み立てをしています。

ストーブを持ち込んで、お餅やパンを焼いています。

記念写真をパチリ
2024年12月26日(参加者12名)

単管にクランプを入れてテーブルの脚を組み、脚の先を土に埋めています。

天板を載せて完成。山王訪問看護ステーションのblogも写真が豊富なので、あわせてご覧ください。

全体のワークショップを通じてみんな顔見知りの関係になり、自分が得意な作業ができるのでわくわくもしている。大成功だったので、この活動が継続できるように地道に続けていきたいです。

ただ順調だったわけではなく、ひとつの学びがあったと松本さんは言います。

松本さん 段取りで揉めることもありました。シンプルに言うと、高齢者の方が段取りにイライラして木材を投げる、ということもありました。高齢者の男性たちは建築現場では普通のピラミッド型の組織形態に慣れていて、指示を待って行動するのが習慣づいてしまっています。指示にしたがってくれるのですが、段取りや指示が悪いとイライラするわけです。一方で山王訪問看護ステーションの看護師さんたちは、みな横並びのティール型組織。何事かを決めていく際、みんなで話し合ってやっていくことが普通なので、木工作業においても「話し合ってきめよう、穏やかにやりましょう」という考えが基本になります。高齢の男性たちが慣れ親しんできたピラミッド型の考え方と孤独・孤立の解消に役立ちそうなティール型の考え方、両方ともとても面白いものですが、二つの考え方の橋渡しが孤独・孤立の解消のためには重要だと考えました。釜ヶ崎支援機構の役割も地域にある二つの考え方の橋渡しをする言うなれば「工法」を工夫することにあるのかもしれません。

この学びは釜ヶ崎界隈に限らず、高齢男性の居場所をつくる上での重要なことではないでしょうか。大工仕事を通じてコミュニティを居場所にする試みが、これからの釜ヶ崎でどんどん広がっていきそうで楽しみです。

文/狩野哲也

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