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【レポート】尾木ママと一緒に考える『子どものウェルビーイング』

放課後NPOアフタースクールでは、8月24日(土)にオンラインフォーラム「尾木ママと一緒に考える『子どものウェルビーイング』」を開催しました。

当日は、長年教育に携わってこられた尾木直樹氏(以下:尾木先生)をお招きし、子どもたちが今も未来も幸せに生きていくために必要な 家庭や学校、放課後のあり方について、小学生パネリストとの対話を通じて考えました。

本フォーラムには、47都道府県から、870名以上のお申し込みがあり、多くのご関心をお寄せいただきました。当記事では、当日のイベントレポートをお届けします。

▼登壇者のプロフィールなどはこちらから


【第1部】尾木 直樹 氏 講演「子どもの声からはじまるウェルビーイング」

まずはじめに、尾木先生より「子どもの声からはじまるウェルビーイング」の講演をいただきました。

■自分の存在そのものを認める「絶対的自己肯定感」の重要性

尾木先生:
令和6年版「こども白書」の「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査」の自己肯定感に関する項目をみると、「自分自身に満足している」と答えた層は、日本だと57.4%なのに対し、諸外国では75%前後の国が圧倒的に多いんです。

尾木先生:
日本の教育においては、社会的に認められることを求める「社会的自己肯定感」が重視されていますが、「社会的自己肯定感」よりも、自分の存在そのものを認める「絶対的自己肯定感」のほうが重要です。例えば、「忘れ物ばかりでいつも叱られているけれど、自分のことは大好き」と思えるような親や専門機関の関わりが求められています。

■AI時代に求められるHQ(人間性知能)

尾木先生:
近年では、ウェルビーイング(心身ともに満たされた状態をさす言葉)が注目されるようになってきました。

AIの台頭により、今後は国際的にも、AIを使いこなせる人材が求められています。AIには感情がなく、人間が感情や想像力を入力することで、擬似的な対応が可能となります。そこで求められるのが豊かな人間性を示すHQ(Humanity Quotient:人間性知能)です。

今の親世代は、IQ(知能指数)が重視される時代を生きており、IQが高いことが評価されてきました。しかし、今はAIのほうが圧倒的に知識量が多いため、IQよりもHQが求められるようになっています。

■新たに加わったArt教育

尾木先生:
世界的に、STEAM教育(科学:Science、技術:Technology、工学:Engineering、芸術・リベラルアーツ:Art、数学:Mathematicsの5つの分野を統合的に学ぶ教育のこと)に注目が集まっていることは希望でもあります。

自分を含めて、かつては、「Art(芸術・リベラルアーツ)」が重視されない教育を受けてきました。Artの重要性が高まった背景には、AIの発展があると言われています。現在、アメリカやイギリスでは、音楽の授業を徹底して重視しています。

■変わりゆく、子どもの権利

尾木先生:
国連の子どもの権利委員会が、昨年に新しい指針を出したことも希望だと感じています。新しく提示されたものは、①環境問題への意見表明の権利、②世代間格差の解消です。

環境問題については、地球温暖化を超えて、地球沸騰化と言われるなかで、これからを生きる子どもたちにも発言権を与えるべきだという声が強くなっていったことが背景にあります。

世代間格差の解消については、大人が子どもを下に見るのではなく、お互いにパートナーシップを持って付き合っていく重要性が示されました。

■日本の子どもを取り巻く状況にも変化の兆しが

尾木先生:
日本にも変化の兆しがあります。昨年4月に、こども基本法が施行されたことに加え、こども家庭庁も発足しました。

尾木先生:
こども基本法の第一条では、日本国憲法と子どもの権利条約の精神に則るということが記載されています。
 
昨年の12月にはこども大綱も定められました。それに伴って、どのようにこども大綱の内容を具体化していくかを、子どもたちの意見を取り入れながら、都道府県、市区町村がこども計画を立てています。
 
子どもの権利条約ができたのは1989年ですが、日本が条約を採択したのは、その5年後の1994年、世界の158番目という遅さでした。子ども関連の施策は、世界の中でも遅れをとっているといえます。
 
子どもの権利は、①生きる権利 ②育つ権利 ③守られる権利 ④参加する権利の大きく4つがあります。それらの最善の利益を追求することが求められています。

日本では、2022年12月に、生徒指導提要が12年ぶりに改正されました。それまでは、子どもたちをどのように管理し、指導していくのかの記載が中心でしたが、こども基本法と子どもの権利条約を中心とした内容に大幅に刷新されました。

尾木先生:
それに伴い、校則の見直しが進められています。校則においては、保護者や学校の先生だけでなく、子どもたちが中心となって決めていくことが重要です。

■子どもを中心に据えて、大人も幸せに生きられる社会の実現を

尾木先生:
今後は「子どもセンタード社会」を実現していくことが求められています。以前は「子どもファースト」と言われてきました。それは間違いではないのですが、子どもを中心に据えて、子どもにかかわる大人たちみんなが幸せに生きられる社会をつくることが大切です。言い換えると、子どもと大人のパートナーシップの追求が必要なのです。

学校を休むことも、子どもたちの権利です。学校を休んでいても、学びを保障できるように、学びの多様化が求められています。

いじめが社会問題となっていますが、一番大切なのは、子どもたち自身が「嫌がっているから、やめようよ」と主体的にいじめを脱していく声かけができるような学校や地域づくりが行われることだと考えています。

■子どもの主体性を引き出すかかわりが、子どもとの協働につながる

最後に、よくいただくご質問をQ&A方式で回答します。

尾木先生:
1つ目は、親自身に余裕がなくて、子どもにイライラしてしまうことについて。僕自身、その気持ちが本当によくわかります。
気持ちに余裕がない時は、まずは無理をしないでと伝えたいです。親自身がありのままの姿でいてよいと思うんですよ。子どもに「今日はイライラしていてごめんね。今、ひどい言い方しちゃったね」などと、子どもにお詫びができることが大切です。

2つ目は、「こうあるべき」「こうしなさい」と子どもを管理したくなることについて。これは、子育てへの責任感が強いからこそ、生まれる感情だと思っています。
「あなたはどう思う?」と子どもに意見を求めてみることが大切です。このように子どもの主体性を引き出すかかわりをしていると、管理から脱し、子どもと協働していくことができます。

3つ目は、共働きで子どもとかかわる時間が短く、どう接したらよいかということについてです。
家事を一人で担うのではなくて、子どもと一緒にやってみるのはいかがでしょうか。また、時間がある時に、とことん子どもの話を聴くこともおすすめします。


【第2部】子どもたちと一緒に考える「あなたにとっての幸せは?」

第2部では、尾木先生に加えて、小学生パネリストのゆうまさん、かほさん、はるさん、放課後NPOアフタースクール代表理事の平岩が登壇し、現在や未来の幸福度、放課後の過ごし方についての対話を行いました。

■今どのくらい幸せに感じているか

平岩:
「今、どのくらい幸せに感じているか」を10段階(10が最大)評価で教えてください。

ゆうまさん:
以前は8だったけど、7になりました。夏休みが終わりかけていることが理由です。

かほさん:
夏休みに入ると、お友達も旅行に行ってしまい、アフタースクールで一緒に遊べなくなったので、8にしました。

はるさん:
さっきみんなと仲良くなれたので、8にしました。

尾木先生:
みなさんの回答を見て、幸福感は刻々と変わっていくものなのだと感じました。子どもたちは、今を生きているんだなと痛感しました。

■大人になったら、どのくらい幸せだと思うか

平岩:
先ほどは今の幸せ度合いについて質問しましたが、今度は「大人になった時に自分はどのくらい幸せになっているか」について、10段階で教えてください。

ゆうまさん:
会社で大変な思いをするかもしれないけど、子どもよりも大人のほうが自由に感じたので、8をつけました。

かほさん:
私の将来の夢はミュージカルに出ることです。大人になったら、その夢が叶っていると思うので、9にしました。

はるさん:
お仕事が大変そうなので、7にしました。

■子どもたちが幸せに過ごすために、大人たちにできることは何か

平岩:
子どもたちが幸せに過ごすために、大人たちは何ができるとよいと思いますか?

ゆうまさん:
大人は子どものやりたいことを叶えてくれるから、自分にとっては完璧に見えています。

かほさん:
私もゆうまさんと同じで、大人が完璧に見えます。

はるさん:
もっとお休みが増えて、一緒に遊ぶ時間が増えてほしいです。

尾木先生:
そうだよね~。お休みが増えて、余裕がほしいですよね。「子どもと遊ぶ休暇」を会社が作ってくれるといいですね。尾木ママも頑張ります!

平岩:
大人たちが時間をとって、子どもたちと過ごす時間が増えていくと、子どもたちの幸せにつながっていくのかもしれませんね。

■放課後はどのように過ごしているか

平岩:
みなさんは放課後どのように過ごしていますか?

ゆうまさん:
絵を描くことが好きなので、絵を描いています。小さい頃から絵を描いているので、段々とうまくなってきた気がします。

かほさん:
私は、宿題や習い事、友達と遊ぶことを楽しんでいます。

はるさん:
友達と約束して、家の近くの公園で遊んでいます。

尾木先生:
それぞれ好きなことを大切にしているのがよいなと感じました。好きなことをとことんやるといいですよ!好きなことを大切にするうちに夢が実現するかもしれないですしね。

平岩:
放課後は子どもたちの良さが生きるんです。ゆうまさんが絵を描いていたとしても、かほさんが絵を描くことを強制されることはない。それぞれの楽しみ方が尊重されるのが放課後の良さだと感じています。

■大人に自分の意見が大切にされたと感じる瞬間はあるか

平岩:
学校やアフタースクールで、自分の意見が大切にされたと感じる瞬間はありますか?

ゆうまさん:
僕はアフタースクールで化石の先生をやったことがあって。自分がやりたいことをアフタースクールの先生に伝えたら、自分のために場を準備してくれて、話を聴いてくれているんだなと感じました。

かほさん:
アフタースクールで、おやつの時に、グミを食べたいと言ったら、グミを出してもらったことがあります。その時に自分の言葉が大切にされた感じがしました。

尾木先生:
子どもたちは年齢が小さくても、自分の意見を持っています。それを大人たちが受け止めることが必要ですよね。
ゆうまさんは化石の先生にチャレンジしたと聞きましたが、子どもたちは自分の好きなことでは博士なんですよ。今回の例のように、子どもたちの出番をどんどんつくっていけるといいですね。

平岩:
学校だと学習指導要領や教科書があり、その内容に沿った活動をする必要がありますが、放課後は自由度が高くて、いろいろなことを実現できます。放課後は子どもの意見反映をしやすい環境なので、活用していただけると嬉しいです。


【第3部】視聴者からの質疑応答

第3部では、尾木先生が視聴者から寄せられた質問に答えました。

■昭和育ちの大人の現代の子どもとの向き合い方について

平岩:
まずは、昭和育ちの大人の現代の子どもとの向き合い方について、尾木先生はどう思われますか?

尾木先生:
これは僕の悩みでもありますね~。昭和の世代は、年長者の意見が絶対でしたが、インターネットが発展した今は、素晴らしい意見にたくさん触れることができ、大人が絶対ではなくなりました。

そこで大人の権威を示そうとするのではなく、子どもとパートナーシップを結び、家族運営の仲間として向き合えると楽になると思います。子どもから学ぶこともたくさんありますよ。

■子どもが自分に自信を持つためにはどうしたらよいか

平岩:
続いて、2つ目の質問です。「子どもが自分に自信を持つためにはどうしたらよいか」についてです。保護者のみなさんや、学校の先生からも多く寄せられた質問です。

尾木先生:
一番のポイントは、自分のことは自分で決めることです。成功したら自己肯定感が高まりますし、失敗したとしても、責任を自分で引き受ける機会を得られます。その積み重ねが自信につながっていくと感じています。

平岩:
自己決定は幸せとの相関関係が高いというデータもあります。ご覧になっている保護者のみなさんも、小さなところから、子どもたちが自分で決められる機会をつくれるとよいかもしれません。

■大人と子どもが対等にコミュニケーションできる方法

3つ目の質問は、大人と子どもが対等にコミュニケーションできる方法について、尾木先生はどのように思われますか?

尾木先生:
僕の時代では、学校の先生から、こうやりなさいと言われて、その通りやっている子どもたちが多かったです。
僕は、帰宅すると、いつも母親が「直樹、今日はどう過ごすの?」と聞いてくれてたんですね。母親に自分で考えた過ごし方を伝えると、「自分で決められて偉いね」と褒めてくれていたんです。

どうするのか聞かれたから答えていただけなんだけど、すごく気持ちがよかったことを覚えています。

尾木先生:
まずは、子どもの声を聴いてみることから始めると良いと思います。子どもは自分のことを一番よくわかっています。

平岩:
これからの放課後や学童保育のあり方についても質問をいただいていたのですが、その答えも子どもの声を聴くことに尽きると思います。
学童保育での過ごし方を大人がほとんど決めているケースもあると思います。運営の一部に子どもたちの声を反映することから始められるとよいですね。

■反抗期・思春期の子どもとの向き合い方について

平岩:
最後の質問です。反抗期や思春期の子どもとの向き合い方について、尾木先生にお聞きしましょう。

尾木先生:
小学校5年生の夏休み明けくらいから、反抗期や思春期が始まることが多いです。女性のほうが早く、男性は中学生になってからのこともあります。
親に反発する時期は、親から離れて、心がひとり立ちしようとする移行期でもあります。親や学校の先生が言っていることは違うのではないかと、大人の弱点や社会の問題がたくさん見えてくる素晴らしい時期です。

かかわり方ですが、一人前としてかかわるように目線を変えることが大切だと思います。また、「あなたはどう思うのか?」と子どもの意見を頻繁に聞いてみることもおすすめですね。
学校でも、事前に問題を防ごうとするのではなく、一緒に考えていく姿勢が大切になります。

平岩:
夏休みが終わるなか、子どもが学校や学童に行きたくないと言ったとき、保護者はどのように受け止めたらよいでしょうか。

尾木先生:
ありのままを受け止めて、お休みしてもらうことが大切です。親が自分のことをわかってくれる味方だと思えると、元気が出てくるんですよ。
まずは子どもの声を聴くことから始めてみてください。


尾木先生や小学生パネリストのみなさんのお話を伺い、子どもの声を聴き、子どもと一緒に考えることの大切さが伝わってきました。これからも、放課後NPOアフタースクールでは、事業の運営と並行して、子どもたちが幸せに過ごしていける社会づくりについても考えていきます。

文・写真:菊川 恵