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Vol.3 横浜こどもホスピスインタビュー〜後編〜【NPO Times】

後編~活動のきっかけと今後~

 前編では横浜こどもホスピスがどのような活動を行っているのか紹介しました。ここからはどうしてその活動をするに至ったのかや今後どのようにしていきたいのか代表理事の田川さんやスタッフの熱い想いを紹介します。

【活動のきっかけとこれまでのあゆみ】

 それではどのようにして、この横浜こどもホスピスの活動が始まったのでしょうか。
それは代表理事の田川さんの実体験から始まっています。

認定NPO法人横浜こどもホスピスプロジェクト代表理事
田川 尚登 さん

 以下、田川さんより

 次女は6歳のときに脳腫瘍と診断され、そのとき告げられた余命半年を待たず、診断後5か月ほどで旅立ってしまいました。最後は呼吸器を外す判断を迫られましたが、そのときの担当医をはじめとする医療者の助言や寄り添いのおかけで決断することができ、背中を押してもらったことに感謝の念がありました。加えて、娘が生きた証や伝えようとしたメッセージを考えるなかで、こどもの成長発達への配慮が薄く療育環境への取り組みが希薄であった状態を、治療に重きを置くためこどもの不安な気持ちを解消するようなことができずにいる状態を、よりよくすることが娘さんから託された「宿題」のように思えました。
 まずは例えばマクドナルドハウスのような、入院に付き添う家族のための宿泊施設を作ろうと思い立ち、神奈川県立こども医療センターの近くの県有地に家族滞在施設を開設しました(NPO法人スマイルオブキッズの事業として開始)。
 その活動のなかで看護師による緩和ケアの勉強会に参加したときに、イギリスから世界へ広まっている「こどもホスピス」を知りました。このこどもホスピスが娘の闘病生活のときにあれば、こどもの病気と向き合うことができ、どんなにか後悔の念も少なくなったのではないかと思い、こどもホスピスを設立したいと思うようになりました。そしてこの頃、こどもホスピスの設立を願いながら亡くなってしまった看護師・故石川好枝様からの遺贈を受けたこともきっかけとなりこどもホスピスの設立を決意しました。その後、募金活動を行い、横浜市内の中小企業経営者からの賛同、当時の横浜市長の支援したいという旨の発言が議事録に載ったこと、そしてそれを受けて担当部署が不明確ななか当時の医療局長が引き受けてくれるなどの追い風をうけ、さらに横浜市から市有地の30年間の無料提供や看護師1名分の給料の補助といった支援もあり、2021年に金沢区で「横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち」がオープンしました。

こちらでは、うみとそらのおうちの設立に関わる方の熱い想いが紹介されています。ぜひ、チェックしてみてください。


【地域に広がる共感と支援の輪】

 そして、横浜こどもホスピスは広報活動や啓蒙活動にも力を入れています。特に地域住民やその子どもたちに対して、こどもホスピスを知ってもらうための活動を積極的に行っています。こどもホスピスの考え方が浸透しているイギリスなどでは、それは地域課題として捉えられ地域の人の寄付で運営がやりくりされているそう。横浜こどもホスピスが地域の人に積極的に発信する理由は、イギリスなどと同じく地域の課題として捉えてもらい、こどもやその家族が孤立しないようにしたいという強い思いがあるからです。

 広報活動として、地域のイベントでのPR、小学校や塾などでの講演会、近隣に住む人を対象にしたクリスマスコンサートやチャリティーイベント等の開催など幅広い取り組みをしています。

 そしてそこには、その思いに共感する多くの人の支えがあります。横浜マラソンではチャリティー枠に選出されスタッフやボランティアなど30名もの方がチャリティーランナーとして参加しました。企業支援として、川崎フロンターレのサッカー試合会場や横浜・ビー・コルセアーズのバスケ試合会場に広報PRブースを出展したり、企業からチャリティーイベントの企画・開催があったりもします。

川崎フロンターレの試合会場にて広報PRブースを出展

 ボランティアの方々の協力も欠かせません。こどもホスピスの考えに共感し非常に多くの方がボランティアとしてこの活動を支えています。例えば、イベントのお手伝いだけでなく、チラシのデザインや動画の編集、施設の清掃、お庭などにある花壇の整備、会報誌の発送作業など、団体の運営面についても、それぞれの方が自分にできることを最大限発揮し、この団体を支えています。「団体のスタッフは6名しかいないため、多岐にわたる運営上必要な作業をボランティアの方々に手伝ってもらいとても助かっている」と話してくれました。

【経済面からの課題は2つ】

 こどもホスピスが抱えている課題についてお聞きしました。
運営費については課題を感じていると言います。こどもホスピスの活動は「楽しい時間を過ごす」ためのものであるため、なかなか予算が得られないためです。現在、支援者の方々のご寄付で運営しているため、その資金集めは大きな課題となっています。そのため、助成金や寄付を集めるために、いかに共感してもらえるかが鍵になっており、実際にどのような活動をしているのかが鮮明になるような発信を心がけていると言います。この横浜こどもホスピスでは多くのボランティアの協力があって運営がされており、田川さんらが強く意識している地域の人による支援は上手くいっているようにも感じました。
 そこでその”成功の要因”について伺うと、
「建物を作る前の準備活動の中で、遊びの研究会や小児緩和ケアはどういうケアなのかという研修会を実施し、どういう活動をしているのかが広まり団体の信用が高まったのではないか。さらに活動開始までの準備期間に時間をかけてまいたタネが建物の完成と活動の開始によって、より広まったのではないか。」
と話してくれました。

 また、こどもホスピスの開設にもお金がかかり全国でもまだ2件(横浜の他に大阪)しかないことも解決したいと話してくれました。大阪にあるTSURUMIこどもホスピスでは、UNIQLOが主宰する支援制度に採択されたことにより建設費や初動の運営費を確保することができ、開設に向けた大きな一歩となりました。開設には、土地代や建設費そして当面の活動資金など大きなお金が必要になります。そのため、田川さんは国や地方自治体とタイアップして取り組むことがベストではないかと考えており、ここ横浜こどもホスピスでも多額の遺贈というきっかけはあったものの行政と協力して開設に至っており、このケースを1つのモデルとして全国へ広げていきたいと言います。そして、その知見も踏まえて全国のこどもホスピスを作ろうとする団体のサポートにも乗り出しており、横浜が中心となって全国のこどもホスピスの運営団体やこどもホスピスを作ろうとしている団体も合わせて年に一度会合を開いたりとネットワークの構築にも務めていると言います。

【さいごに】

 最後に、メッセージを頂きました。
田川さん「全国に約2万人いる生命に関わる病気・状態のこどもは、医療費以外の支援がなく、家族も合わせて社会との繋がりが希薄になっています。人間にとって一番つらいことは孤独になることであり、こどもやその家族を社会と繋げることが役割だと考えています。成長発達を続ける子供たちの手助けをし、その意思を尊重してやりたいことを叶えることが大人の、そして地域の役割です。ホスピスと聞くと亡くなるまでの痛みを取り除くというイメージもありますが、こどもホスピスというのはこどもたちが楽しく過ごせ命輝く場所であることを知ってもらえたら嬉しいです。」

杉山さん「病気のあるなしによらず成長するこどもが楽しく過ごせる社会になって欲しいです。頑張るこどもたちがいてそれを支える大人、そして地域の人があるというこどもホスピスとそれを支える周囲の環境を、たくさんの人に知ってもらえたら嬉しいです。」


【執筆者】

東京大学工学部4年 足利 留樹
大学では分子生物学など化学的な視点で生命現象を理解するような分野を専攻。
ちなみに、休日にお菓子を自作するくらい甘いものが好き。

【編集後記】

 横浜こどもホスピスはこどもたちが楽しめるように様々な工夫をしてスタッフの方々が温かく待っていることがインタビューを通して強く伝わりました。利用者からは、お子さんの楽しむ姿が見れた喜びだけでなく、スタッフの方々との交流を通して親御さんも心が軽くなったというような声も聞こえます。今回は、利用者の生の声を記事の中で紹介していませんが、InstagramやFacebookなどの各種SNSでは利用者の喜びがあふれているので是非確認してほしいです。加えて、ホームページに掲載されているYouTube動画には、この団体設立に向けた田川さんをはじめとするスタッフの皆さんの熱い思いやそれに共感し支える周囲の熱い思いが紹介されています。是非そちらも確認してください。

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