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コラム「境を越えた瞬間」2025年2月号-石井純さん‐

石井 純 (いしい じゅん)/ALS当事者・境を越えてPR担当

1976年千葉県生まれ
高校1年の時にバイト先の美容学生に感化されて美容師になると決意
以来、17歳から42歳まで美容師一筋
2018年5月右手から発症 2019年9月診断
2人の息子と1人の娘(長男のお嫁ちゃん)と介助者さん達に恵まれて自分らしく生活中
2023年1月より、境を越えてのPR担当としてSNSで活動発信中

『2つの境を越えて得たもの』

生きがいは何ですか?
そう聞かれたとき、私は迷わずこう答えます。

「人のために生きること」

17歳から美容師一筋でひたすらに働いていた私の右手に異変が起きたのは2018年5月、そこから1年4ヶ月後の2019年9月にALS当事者となりました。
42歳のときでした。

今思えばあのときに「健常者の境を越えた」のだと思っています。

健常者のときには、大抵のことは当たり前に出来ていたから、それは当たり前のこととして私の中にあったのに、箸が持てないとか、少しの段差が怖いとか、障がい者になって初めて感じた「当たり前は当たり前ではない」
今はこのことを日々、身を以て感じながら生きています。

私は元々脳天気で、うじうじ悩んでいても一定のところでプチッと吹っ切れて「なるようになる精神」でケロッと切り替えられていました。
それは私の取り柄でもありました。

ALSの体以外の症状である「情動制止困難」が出始めた頃、私の取り柄の「なるようになる精神」は見る影もなくなり、ALSってやつは、体の自由だけではなく心までも奪うのかとまるでALSに囚われてしまったような日々を過ごしていました。

そんなある日、リハビリの先生が紹介してくださったのが、今お世話になっているこの「境を越えて」の代表、岡部さんなのでした。

岡部さんとの出会いこそが、「ALSの境を越えた」出来事でした。

たくさんの相談をさせていただくたびに、目から鱗が落ちる思いで話を聞き、ヒントを得て、また生きる、そして壁にぶつかり、岡部さんに泣きつく、また目から鱗が落ち…その繰り返しで私はほんの少し、強くなりました。

情動制止困難と向き合い、動かなくなる体を受け入れて、自分らしく生きるために介助者さんたちに心を開くことが出来ています。
とはいえ、動かせない悔しさで叫びたくなる日もありますけどね。
私が私らしく生きるためには、最早、介助者さんの存在が必要不可欠になりました。

自分の人生を生きるために、人の手を借りなければいけないということは、どこか矛盾している風に捉えられますが、私はそうすることで、人のために生きる自分らしい人生を手に入れることが出来ました。

健常者の境を越えたことで、当たり前は当たり前ではないという世界を生きて得たものは、大事に生きるということ。
ALSの境を越えて得たものは、人の出会いと困難を抱えても生きる勇気。
どれも、私の人生を彩るかけがえのないものです。

生きがいは何ですか?
そう聞かれたとき、私は迷わずこう答えます。
「人のために生きること」
それが私らしく生きていく、2つの境を越えて得たものだからです。

2024年3月 岡部さんと文字盤で会話(写真左・石井さん/介助者さん、写真右・岡部さん)


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