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コラム「境を越えた瞬間」2022年9月号-安平有希さん‐
プロフィール
安平 有希(やすひら ゆき)
1981年、母の実家のある仙台で産まれる。
茨城県つくば市で育つ。小学校時代はハンドボール、中学校・高校時代は文化祭実行委員をやるなど活発な子供だった。
2000年冬、突然Progressive Encephalomyelitis with Rigidity(筋拘縮を伴う進行性脳脊髄炎)を発症。
2001年1月、生きるために気管切開をせざるを得なくなる。
2004年には呼吸器をつけ、声を失う。
大学を卒業後、空白の時間を過ごす。
だが、母に「自分達が死んだら困るのはあなただから施設か自立を選びなさい」と言われ、自立への道を選ぶ。
ちょうどその頃、今の夫と出会う。そして数ヶ月のお付き合いの末、2015年結婚する。そして、夫の住む東京都足立区に引っ越し、夫と2人の自立生活を始める。
その頃、呼ネット事務局に入り2022年から代表を務める。
また、バクバクの会では編集長を務める。
その他、NPO法人足立福祉会障害者パーソナルアシスタントでは理事も務め、現在に至る。
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Voice Retrieverと出会って
私の境を越えた瞬間はVoice Retrieverと出会った時です。
Voice Retrieverとの出会いは、知人が戸原先生や山田先生のクラウドファンディングをFacebookでシェアしていて、その時「実現すると良いですね」という趣旨のコメントをしたら、それを見た戸原先生が「興味があったら個人的にメッセージを下さい」という内容のメールをくださったからです。
私はすぐに戸原先生のメッセンジャーにコメントを入れ、今の状態をお伝えしました。すると「山田先生と共有したいからこちらのアドレスにメールを下さい」と言われ、すぐにメールをしました。
それから、山田先生と歯型を取る打ち合わせをして、11月に東京医科歯科大学で歯型を取る運びになりました。そして2週間後、また東京医科歯科大学に足を運び、Voice Retrieverを試すことになりました。
最初に簡単な説明を受け、実際、口にスピーカーの付いたマウスピースをはめて喋ってみる段階になりました。
まずVoice Retrieverに介護者さんの声を入れてもらい、いざ喋る番になるともうドキドキしながら最初に咄嗟に出た言葉は夫の愛称の「しゅんちゃん」でした。
何度も「しゅんちゃん」と呼びましたが、ちょっと音が割れてる気がして山田先生の顔を覗くと先生も気がついたのか、「多分音声を録音した時にノイズが入ったんでしょう」と、もう1度介護者さんに音声を録音してもらいました。
そしてもう一回「しゅんちゃん」と言うととてもよく聞こえました。
その次に、なぜか「(香取)慎吾ちゃん」と言うとなかなか通じません。3回目でようやく夫に「慎吾ちゃんか‼︎」と通じました。なんでここで慎吾ちゃんの名前が出たのかは今でも謎の一つでした。
すると夫が「なんだそれは‼︎酷いなぁ期待していたのにぃ〜でも話せるね」と言いました。だから私は「ちゃんとしゅんちゃんって言ったでしょ」と言うと「うん」と言っていました。その後「嬉し〜」と言って私も夫も涙が溢れてしまいました。
この時から私のVoice Retriever生活が始まりました。
Voice Retrieverがあるおかげで、今までは視線入力や透明文字盤でなかなかすぐに返事を返す事が出来なくレスポンスに時間がかかって話がどんどん進んでしまい会話についていけなかったのですが、Voice Retrieverがきてからはすぐに返事を返す事ができ、言葉のキャッチボールがスムーズにできて境を越えたなと思った瞬間でした。
その後は、Voice Retrieverのヘビーユーザーと言われゆずさんのネットラジオ「いきなり介護」や、先日はNHKの朝のニュース番組「おはよう日本」やNHKのLINENEWSの昼刊で特集に出させて頂くなどしました。
今はさらに新しい試みに参加させて頂いています。
これが実現すれば、私が諦めていた歌を歌う事も可能になるかもしれません。
またさらに、境を越える瞬間がくると思います。
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今年の5月3日、Voice Retrieverにも関係するオタマトーンの開発者土佐社長のサイン会が実家のあるつくば市であり、それを見つけた母が教えてくれて東京から向かいました。サインを書いてくれる時は私の話を熱心に聞いてくれ、サインを書いた後は快く巨大オタマトーンの前で一緒に写真も撮ってくれました。
「Voice Retriever(ボイス レトリーバー)」とは?
口の中で音を鳴らし、話すように口を動かすことで、「声」を出すことやコミュニケーションをサポートするためのものです。
…(中略)…
自身の声で話す体験に近い発話・会話ができる機能を備えた器具を目指して、開発と改良をしています。
使い方はいたって簡単で、マウスピースで前歯の裏側にスピーカーを仕込んで、外部の音源をそのスピーカーにつないで、口の中で音が鳴っている間に口を動かして話す、ただそれだけです。
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境を越えてでは、毎月「境を越えた瞬間」というテーマで、福祉や医療、障がいに携わる方にコラムの寄稿を依頼しています。
2022年4月号よりnoteでの掲載となりました。
それまではメールマガジン「境を越えて通信」での掲載となっていましたので、バックナンバーを順次noteへ掲載しているところです。バックナンバーもぜひご覧ください。