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コラム「境を越えた瞬間」2024年12月号-新井智さん‐

自立生活センター・小平 健常者マネージャー
新井社労士事務所 代表
特定社会保険労務士
NPO法人境を越えて 運営顧問

新井 智(あらい さとし)

1979年 埼玉県秩父市で生まれる
2000年 21歳(大学4年生)の時、自立生活センター・小平にてアルバイトヘルパーを始め、大学卒業後から現在に至るまで継続して勤務している
2022年12月 社会保険労務士として開業し、副業として在宅障害者福祉専門社労士としての活動をスタート、2024年10月からはそれを本業にしている


恩に報いるための誓い

「お前の塾講師の時給いくら?」
大学4年生の時に友達に聞かれた質問です。
当時1,200円の時給でしたが、それならウチの方が時給高いから来なよ。と誘われたのがきっかけで、在宅障害者福祉の世界に学生アルバイトヘルパーとして飛び込みました。

当時の代表で筋ジストロフィーの川元恭子さん(2014年55歳で亡くなりました)との面接が、障害者の方と話をする初めての経験でした。

大学生の私は不真面目で、介助の仕事にも遅刻や欠勤を繰り返し、いつクビになるか分からない失格ヘルパーでしたが、代表の川元やコーディネーターの馬場から人として育ててもらい、次第に更生していきました。

大学卒業後は正職員として採用していただき、介助現場に加えて社内研修の担当や事務・総務の仕事、また30歳からは事業所管理者や理事の仕事もさせていただくようになり、そして代表の川元が行っていた全国の自立生活センターの設立サポート、その後の運営支援の仕事を一緒にさせてもらうようになりました。
川元と一緒にセンターの運営支援をしていると、センターと労働者の間の問題、介護事業と福祉関係法令や労働関係法令の適合の問題、事業運営における経営面の問題、採用や人事の問題など多種多様な課題を抱えて、センターの皆さんが必死に運営している実態を目の当たりにしました。

残念ながら、川元は2014年、当時の私が36歳の時にこの世を去ることになったのですが、亡くなる2日前の私に向けた遺言が「全国を頼むぞ」というものでした。

川元は境を越えての岡部代表と同じように、自分の時間と身を削って、仲間の障害者のために、また全国の障害者支援をするセンターのために、粉骨砕身する人でした。

「制度がなければ障害者は死んでしまうんや」
「制度があっても、重度な障害者はその人を支えるセンターがなければ死んでしまうんや」
「だから制度を作る運動をしながら、全国のセンターを支えていかなあかん」

香川県小豆島出身の川元は、よくそんなことを言っていました。
その言葉、そして言行一致して行動する姿に、また多くの障害者やセンターが助けられる様子に、私も同じように全国のセンター支援をしたい。と思うようになっていました。

それなので、川元から言われた「全国を頼むぞ」に対して、私からは「川元さん安心してください。川元さんと一緒に全国支援にまい進する覚悟はとうにできています。だからどうか元気になって、一緒に全国を回りましょう」と精いっぱいの言葉を振り絞ることができましたが、その誓いが、私の“境を越えた瞬間”となりました。

その誓いを果たすために、まずは一人でできる範囲で、全国のセンター支援を続けましたが、より専門性を高めるために、またより有益なサポートとなるように、社会保険労務士(通称:社労士)の資格を取得しようと決意しました。
この流れは、境を越えての立ち上げメンバーでもあった故・海老原宏美さんと種々語り合う中でも、私の誓いとしてお伝えしておりました。
海老原さんからは、「それいいよ~!絶対にやった方がいいよ。がんばれ!」と応援していただきました。

私の一番の長所は“根性”です。私に対してスマートな印象を持たれる方は多いですが、世の中には私などが頭脳で勝負しても敵わない人ばかりです。
ただ、スマートさで敵わなくても、私は根性で負けることはありません。
コロナ禍に突入し1年が経過した頃です。外出自粛のタイミングも重なり、せっかくの機会だから勉強を開始しようと決め、1年7か月の猛勉強の末、5.3%という狭き門の試験を突破することができ、それからは社労士として全国の自立生活センターをはじめ、在宅障害者福祉事業専門社労士としての活動をしております。

それ以降、月々日々に忙しくなっていることを実感しますが、それは川元との誓いを果たしている証ですし、その川元と互いに共鳴していた岡部さんや海老原さんからも託された私の役割を果たすことでもありますので、持ち前の根性を武器に、これからも粉骨砕身していきます。

当会の会員でもある「一般社団法人 一心」代表の渡部さん宅にて、お互いに好きな芋焼酎で乾杯 

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