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【活動報告】厚労省で生活保護の施設収容問題に関する申し入れと記者会見を行いました。~大手企業から生活保護に。案内されたのは劣悪施設~

執筆者
学生ボランティア・東洋大学2年
目黒息吹

2024年12月27日、生活保護行政の不正義と闘う当事者2名と共に、NPO法人POSSEで生活相談を受けているスタッフとボランティアは、厚生労働省に対して、劣悪な環境であることが少なくない無料低額宿泊所等の施設への入所を強制しないことと、居宅保護の原則の遵守を要求しました。

◆大手企業のエリート社員だったMさん。病気がきっかけでホームレスに

 出版社、不動産デベロッパー等での勤務を経て、2018年から4年間、アパレル系大手上場企業の管理部門で勤務していたMさんは、2021年5月に突然脳梗塞で倒れ、自己都合退職扱いで退職しました。その後、2022年5月には借りていた港区のマンションの家賃が支払えなくなり、退去することになりました。

ビジネスホテルやネットカフェを転々とした後、2022年6月ごろ、港区役所で生活保護の申請をしました。すると、空いている無料低額宿泊所(以下、「無低」)がないことと本人が精神障害者手帳2級をもっていたことを理由に、合理的な説明もないまま、港区から遠く離れた神奈川県の「閉鎖病棟」にほかの選択肢はなしに案内されました。その閉鎖病棟では、鉄格子のはめられた部屋に監禁されたり、13人の相部屋で過ごしたり、朝起きると廊下中に糞尿が撒き散らされていたりするような生活でした。

Mさんが入居させられた精神病院

 この施設から抜け出すために議員にSOSを出し、転宅の交渉をしてもらうと、神奈川県内の「無低」の住所と地図が書かれたFAXが送られてきました。この際も他の選択肢は用意されておらず、その無低へ行かざるをえませんでした。マンションの2D K に2人で住まわされ、食事は非常に劣悪(毎食そうめん、漬物、揚げ物)で、共同風呂は使えないほど汚く、共同食堂も非常に不潔な環境でした。意に反して、「閉鎖病棟」・「無低」とたらい回しにされるなかで、Mさんは精神疾患が悪化するだけでなく、希死念慮も抱きました。

Mさんが入所させられた無料低額宿泊所

 再度、転宅の交渉を行い、東京都内の「精神病棟」で2か月ほど過ごした後、2023年6月まで都内の「更生施設」に入所させられました。Mさんはずっとアパートへの転宅を要求していましたが、ここでも他の選択肢は示されずに施設生活を余儀なくされました。

 更生施設の入所期限が満了する日に港区役所に呼び出されたため、アパート転宅の交渉をするもケースワーカーはそれに聞く耳をもたず、何区のどこの施設に行くのかも分からないまま、その日の夕方に車に乗せられて、現在滞在している葛飾区の「無低」に入所させられました。そこは、3DKに3人(Mさんの部屋は4畳半)住んでおり、同居の老人らは認知症を患っており、トイレがうまくできないので非常に不潔です。また、個室と玄関の鍵がかからないため、盗難に遭わないか常に不安を抱えています。

◆MさんとPOSSEとの出会い

 上記のような生活保護行政に抗議し責任をとってもらいたいと考えていたMさんは、2024年11月にPOSSEに相談をしました。「生保受給開始から精神病院や無抵をたらい回しにされてきました。病状も悪化し精神的に深く傷つけられました。2年以上このような生活をしています。もう限界です。」という相談メッセージを見たとき、最後のセーフティネットであるはずの生活保護によって、その利用者が傷つけられるという絶対にあってはならないことが起きているということが一目で分かりました。

◆生活相談会での聞き取り

すぐにPOSSEの生活相談チームで月に2回、全体で行っている生活相談会の場で問題を共有し、Mさんに電話で聞き取りを行いました。その聞き取りで私が印象に残ったことは2点です。

1点目は、生活保護は誰もが利用する可能性がある制度ということです。先に述べたように、Mさんはアパレル系大手上場企業の管理部門で勤務していましたが、脳梗塞で倒れたことがきっかけで、生活保護を利用することになりました。平均年収を大きく超え、港区のマンションに住んでいたころに、生活保護を利用することになるとはMさん自身も思っていなかったはずです。しかし、一度何らかのアクシデントによって働くことができなくなると、急速に貧困に陥り、生活保護を利用するという選択が現実のものとなります。私たちは生きていくために、誰もが安心できる住まいや十分な食料を必要としています。ですが、現実の社会ではお金がなければ、だれもが必要とするものを手に入れることができません。国籍や障がい、病気などの理由で労働市場から排除されたり、虐待等で家族を頼れなかったりすると、どれほど努力をしていても、普通の人であっても貧困に陥ってしまうのが今の社会の現状なのです。困窮する背景には社会構造や公的支援の不足があるにもかかわらず、「自己責任」の名の下で生活困窮者は見捨てられている状況があること、そして無料低額宿泊所等の施設に収容するなど、最後のセーフティネットである生活保護の行政は、その利用者の生存権を保障していないということを目の当たりにしました。

2点目は、Mさんが既に生活保護行政の不正義と闘い、より多くの利用者の生きる権利を守ることに積極的だったということです。Mさんは、自身の体験を話す中で、何度も、「この生活保護の闇を社会に告発したい」「こんなことは絶対にあってはならないことだ、僕と同じような思いを誰にもさせたくない」と強く述べていました。POSSEにも、施設収容に関する相談は後を絶たない状態で、生活保護行政の人権侵害の告発と、運用の改善を求めていく直接行動を計画していました。12月という寒空の下で、生活保護の申請を諦め路上生活を余儀なくするか、自らの意に反して施設に入所させられ、劣悪な環境のなかで体調を悪化させるかという、最悪の2択を変えるための直接行動を一緒に行いたいと伝えると、Mさんは二つ返事で参加を決意してくれました。同じような思いをもったMさんとの出会いは、今回の申し入れと記者会見を大きく前進させる契機となりました。

◆厚労省での申し入れ&リレースピーチ&記者会見

 そして、12月27日に厚労省で生活保護の施設収容問題に関する申し入れを行いました。私たちからは、「無低に入らないと生活保護を受けられない、という説明をしてはならないこと」「無低が絶対の選択肢とならないよう、他の選択肢を示し、本人に選んでもらうようにすること」など、生活保護法第30条「居宅保護の原則」の遵守に向けた具体的なガイドラインを示すことを要求しました。Mさんは、劣悪な環境の無低等の施設にたらい回しにされた港区役所の生活保護の運用実態と、実際に入所していた無低の写真をみせ無低の実態を告発しました。写真をみた厚労省の担当職員が「(このお風呂には)入りたくない」と述べる場面もありました。また、生活保護の申請時に「無低に入らないと生活保護を受けられない」と説明することは、生活保護法第30条2項の「施設入所の強制」にあたるという返答も厚労省の担当職員からありました。

厚労省に対する申し入れの様子

 申し入れの後、厚労省の前でリレースピーチを行いました。参加した当事者とスタッフ、ボランティアの全員がマイクを取り、厚労省に向かって、施設収容問題をはじめ、生活保護の問題や公的支援の不足に対して抗議しました。そして、生活保護の改善と貧困対策の早急な取り組みを求めました。「人間らしく生きさせろ」「施設に閉じ込めるな」「生活保護を差別するな」と、当事者と共に声をあげたとき、このような連帯をさらに広げることができれば、生活保護の問題だけではなく、新しい社会を共に作り出すことができると確信しました。

スピーチを行う学生ボランティア

 記者会見では、申し入れの報告をおこなうとともに、Mさんをはじめ当事者から施設収容の実態について詳細に告発してもらいました。Mさんからは、「港区の保護下にいた約三年間は私にとって取り戻すことが不可能な時間です。この間、私は大いに傷つき持病も悪化してきました。」と、健康で文化的な最低限度の生活を保障するはずの生活保護によって、むしろ持病が悪化し、自立することが困難になったという発言がありました。そのような生活保護なら利用したくないと、今日も凍えながら路上で寝ている人がどれだけいるでしょうか。日本の最後のセーフティネットである生活保護は生活困窮者を見捨てるような制度でいいのでしょうか。Mさんは、会見の最後に次のように言いました。「普通のサラリーマンだった私に起きたことは、誰にでも普通に起こりうることなのです。私のような悲惨な状況に追い込まれないためにも、無低は全面的に廃止するべきですし、港区のような生活保護行政はあってはならないのです。」

 今日も当事者は生活保護行政の不正義に抗い、闘っています。自分と同じように劣悪な施設に入る人をなくしたいと声をあげています。私たちも誰もが無条件に「生存」と「自由」が保障されるその日まで、当事者と共に闘い続けます。

記者会見の様子


POSSEの今後の活動のお知らせ


①1月3日(金)10時30分ー
新春なんでも相談会&食糧支援 場所:鐘塚公園(大宮駅西口より徒歩5分)
 
 物価高の影響で「もう生きていけない」状況に追い込まれている生活困窮家庭が広がっています。しかし、年末年始には公的機関の窓口は閉まってしまいます。公的な支援へのアクセスが閉ざされてしまう期間にこそ、路上生活をしている人やネットカフェやファストフード店で夜を明かす人たちへの支援がとても必要になってきます。そこで、POSSEでは反貧困埼玉と連携して、1月3日に大宮にて無料で食料配布・相談会を実施します。物価高や寒さの中で9連休を多くの人が生き抜けるようにするために、あなたも支援に関わりませんか?

>当日のボランティア例:相談会場の設営、食料配布、駅前でのチラシ配り、誘導など

参加申し込み:
https://forms.gle/oRrDZSWnY8rc69Ek6

②1月18日(土)14時ー
オンライン講演会「エッセンシャルワーカーの待遇改善を考えるー社会的に不可欠な仕事はなぜ「安い」のかー」

 私たちの暮らしを支える不可欠な仕事を担うエッセンシャルワーカー。介護・保育、医療・看護などケアの仕事や、物流・建設・清掃など、社会の基盤を支える仕事は、コロナ禍を通じてその重要性が再認識されました。しかし、エッセンシャルワーカーの待遇や労働環境には課題が多く、賃金の低さや、慢性的な人手不足、長時間労働、安全対策の不備、などが指摘されています。なぜ、社会にとって不可欠な仕事が適切に評価されないのでしょうか?
 この講演会では、筑波大学名誉教授で『エッセンシャルワーカー 社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか』の著者である田中洋子さんを講師に迎え、エッセンシャルワーカーの働き方について、歴史・経済・ジェンダーの視点などから考えるとともに、いくつかの業界・分野については具体的になぜ労働条件が低く抑えられてしまうのかをみていきます。

イベント詳細・参加申し込みはこちら:https://peatix.com/event/4238362
参加費:無料(要事前申し込み)
主催:ブラック企業対策仙台弁護団、NPO法人POSSE

<ボランティア随時募集中です!>
POSSEでは貧困・労働問題の解決を目指して、学生メンバーを中心にさまざまな活動を実施しています!来年の春からは、学生たちで農地を借りて有機栽培した野菜を生活困窮家庭に配る取り組みや、夜間に街中を歩いてカウントをしながら若年ホームレスの人口調査を行う取り組みなどを実施する予定です。ボランティアに関心がある人向けに、個別でボランティア説明会も実施しています。ご希望の方は、下記の連絡先まで連絡をお待ちしています!

ボランティア参加申し込み・説明会申し込みはこちら:https://possevolunteer.tumblr.com/


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