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千葉ロッテ/佐々木朗希投手のポスティング移籍が招いた、国際FAのドミノ現象。

今回は、佐々木朗希投手のポスティング移籍を巡る、国際FAのドミノ現象について書き連ねていくこととする。彼のポスティング移籍が引き金となり、中南米の国際FAに何が起こっているのかを書き留めようと思い、今回のnoteを書くに至った。

25年1月18日、LADとサインボーナス650万ドルで契約合意との報道。現在進行形の話題につき、過去に書いたnoteのようなコラム形式ではなく、状況説明/解説/推測にシフトした内容となります。

1.予兆

24年11月9日、ポスティング移籍によるMLB挑戦の容認を千葉ロッテがプレスリリース。かねてより、MLB移籍の意志を持っていることが伝えられていたが、25歳以下の国際FAとのサラリー/サインボーナスを制限する”25歳ルール”に抵触するため、数年先のポスティング移籍が予想されていた。

予想外とも思えるプレスリリースだったが、その予兆は確かにあった。

彼の意中の球団と噂されていたLAドジャースによる、国際FA市場における不可解な動きこそが、その予兆だったと推測される。

24年7月末、LAドジャースは国際FAの台湾人プロスペクト/蕭斎投手の獲得を目指し、80~90万ドルで大筋で合意。しかし、同年10月には、何らかの理由でこの合意は破棄されたとの報道。後に東北楽天と契約合意したことから、コンディション不良やスキャンダルによるものではないことが推測されるなど、明らかに不可解な動きだった。

その後もLAドジャースは、国際FAとの契約で大きな動きを見せることはなく、12月15日に使用期限を迎える200万ドル弱のボーナスプールは温存されたままとなった。そこに舞い込んできたのが、佐々木朗希投手のポスティング移籍容認のプレスリリースである。

一連の事柄を時系列で並べると、LAドジャースは佐々木朗希投手のポスティング移籍に関する情報を掴んでいた可能性を感じ取れる。そうでなければ、トレードチップとしても使用できるボーナスプールを200万ドル弱余らせた上、蕭斎投手の大筋合意が破談になる理由がつかないのだ。MLBコミッショナー/ロブ・マンフレッドが釘を刺さなければ、24年度中に合意に達していた可能性が高かったのではないかという印象さえある。


2.何が起きたのか

まずは、状況の説明/解説から始めようと思う。

MLB球団は国際FAとの契約に際し、予め割り当てられたボーナスプール(予算)内に収めることが求められている。こうした国際FAは、契約が解禁される数年前、14~15歳でMLB球団と入団に関する口頭合意を結ぶ。また、将来を約束されるほど有望な少年に対しては、12~13歳の時点で数百万ドルの契約をオファーするケースもある。

この口頭合意に法的拘束力はないが、現地で”ブスコン”と呼称されるスカウト/トレーナー/アカデミー主催者が間を取り持つため、大怪我などの重大な要因がない限り、反故にされることは滅多にない。国際FAとの契約は、彼らとの信頼関係の上に成り立っているからだ。

※"ブスコン"に関しては、以前のnoteで触れているので、興味がある方は下記をご覧ください。

つまり、佐々木朗希投手との契約が25年度になったとはいえ、各球団は既に他の有望な国際FAと口頭合意に達しており、使用できるボーナスプールには限りがある。また、トレードでボーナスプールを得る方法もあるが、彼と確実に契約できる保証はない。

こうした状況の中、LAドジャース/SDパドレスらが打ち出した苦肉の策が、25年国際FAと交わした口頭合意の”破棄/1年先送り”である。

前述の通り、口頭合意に法的拘束力はない。1月15日/国際FAとの契約解禁を待ち、実際にサインすることで契約が成り立つためだ。言い換えると、この選択肢を取らない限り、ボーナスプールに大幅な余裕を持たせることは非現実的なのである。

この方針を打ち出したLAドジャースは、事前に口頭合意していた25年国際FA/TOP4、ダレル・モレル(110万ドル)、テイロン・セラーノ(59万ドル)、オルランド・パティーノ(40万ドル)、フランシスコ・リベラ(数十万ドル)らの口頭合意を破棄。また、SDパドレスは、ジョアン・デラクルーズ(200万ドル)、デイビス・コロニル(100万ドル)、セバスチャン・ペーニャ(90万ドルが)らの口頭合意の破棄/1年先送りの可能性が報道された。

このように書いたところで、MLBを見ない方々にはイメージし辛いと思う。以前NPBドラフトで導入されていた、逆指名/自由獲得枠/希望入団枠で入団合意を得た選手に対し、ドラフト数日前に合意の破棄を通達するようなものだとイメージしてもらえると、大きくは外れていないと思う。但し、対象となる選手の多くは、16~17歳の少年であるが。

候補と噂されていた、NYヤンキースやTEXレンジャーズには、同様の動きは見られないとの報道。結局、口頭合意の破棄/先送りを打ち出したLAD/SDPに加え、情報の出なかったダークホースのTORブルージェイズを加えた3球団に絞られる結果となった。

ここまでは、日メディアも現地メディアを引用/翻訳して報道しているが、本件の問題点はこの先にある。


3.ドミノ現象

上記で名前の挙がるような注目選手に関しては、ボーナスプールに比較的余裕のある球団が獲得するため、口頭合意を破棄される影響は限定的なものだとされている。

実際に、LAドジャースから口頭合意を破棄されたダレル・モレルは、事前の合意額(110万ドル)を大幅に上回り、PITパイレーツと170万ドルで合意との報道。不確定な状況に陥る期間はあったが、結果的に三者の利害が一致したため、比較的丸く収まった感はある。

しかし、ここから先が、本件最大の問題点である。

ダレル・モレルは大幅なサインボーナスの上積み、LAドジャースはボーナスプールの確保、PITパイレーツはプロスペクトの獲得と、全てが上手くいったように見えるが、実際はそう簡単な話ではない。

多くのジャーナリスト/インサイダーが懸念しているのは、このドミノ現象により、PITパイレーツのボーナスプールが圧迫されたことにある。

前述の通り、MLB球団は国際FAとの契約に際し、予め割り当てられたボーナスプール内に収めることが求められている。つまり、PITパイレーツはダレル・モレルとの契約に際し、ボーナスプールから170万ドルを調達したことになる。これは、本来PITパイレーツが他の国際FAに与えることが可能だった、170万ドル分の資金が市場から消滅したこと意味しており、これを多くのジャーナリスト/インサイダーが問題視しているのだ。

要するに、このドミノ現象により170万ドル分の資金が消滅したことで、他の国際FAとの契約の見送り/サインボーナスの減額、口頭合意の破棄/予算不足による契約者数の減少が、我々の目に見えない部分で起きている可能性について、指摘していると考えてもらえると良いかと思う。

たかが170万ドルだと思う方がいらっしゃるかもしれないが、数十万~数百万ドルのサインボーナスをもらえる選手は一握りで、多くは数千ドル~数万ドル、契約金なしでMLB入りする。多くのジャーナリスト/インサイダーが、たかが170万ドルで済まさず、声を上げた理由がここにあるのだ。

4.制度の改定

こうした口頭合意の破棄/先送りを重く見た、国際独立野球協会(AIBI)が声明を発表。簡単に説明すると、今回の佐々木朗希投手のような極めてイレギュラーな事態が起こった際、現行の制度/慣例のままでは、中南米のアマチュア選手が大きな影響を受けるので、制度の改定を求めるという内容である。

これに関しては、制度上の不備があったことは確かだが、数年待てば数億ドル級の契約が見込める選手が、たった数百万ドルの契約でMLB入りするなど、通常ではありえない極めて稀なケースなので、致し方ない面はあるのだ。

国際独立野球協会(AIBI)と、文字にすると中立な組織をイメージするかもしれないが、実際はそうでもないことが推測される。副理事がCristian "Niche" Batistaという、フアン・ソト/グレゴリー・ポランコ/エリー・デラクルーズらを送り出した大物”ブスコン”であり、理事にも”ブスコン”が含まれているので、どういった機関なのかは察して欲しい。

また、MLB/"ブスコン"/国際FAとの間にある様々な慣例は、非常に複雑な利害関係の上に成り立っており、手の入れ方を間違えるとドミニカ野球自体が機能不全に陥る可能性すらあるので、非常にデリケートな問題でもある。

そういった事柄を踏まえて考えてみたが、NPB側で制限やルールを設けるのが一番良い形になるとの私見。加えて、昨今のポスティング移籍関連は、行き方だけでなく帰り方に関して議論されているのをよく見かけることもあり、NPBが根本的な制度改革をする良い機会なのではないかと思う。

5.まとめ

千葉ロッテ/佐々木朗希投手のポスティング移籍に関しては、制度上の不備が多くの人や組織を巻き込んでしまった。ただ、今回の騒動はネガティブな面がクローズアップされる形となったが、ポスティング制度自体が大きく取り上げられた点は非常に良かったと思う。

行き方/帰り方に関する議論に加え、花巻東高/佐々木麟太郎選手や桐朋高/森井翔太郎選手らに代表される、MLBを目指すプロスペクトの海外流出を避ける為にも、現行のポスティング制度の在り方を考えなければいけない時期にあるのではないか。

近年はオリンピックやWBCなどの影響もあり、野球人気が回復しつつあるとのこと。アマチュア/国内リーグの充実こそが、国際大会での好成績に直結することは広く知られている。今回の千葉ロッテ/佐々木朗希投手のポスティング移籍が、NPBやアマチュアにとってより良い方向へ向かう機会になればと切に願う。


あとがき

短くまとめるつもりが、長々と書いてしまった。

佐々木朗希投手のポスティング移籍の内情/是非に関しては、見識がないことと別件で考えるべきとの観点から割愛させて頂いた。ファンの方々の心境もただならぬ物があるだろうし。

個人的な感想は、ポスティング制度自体が大きく取り上げられた点は非常に良かったと思う。昨今の行き方/帰り方はもちろん、プロスペクトの流出を避ける意味でも、現行のポスティング制度の在り方を考えなければいけないと思う。

ただ、制度上の不備が多くの人や組織を巻き込んでしまったという事実が重くのしかかる。そして、そのしわ寄せが16~17歳の少年に及んでしまったため、どのような結末を迎えようとも、後味の悪さが残ってしまうことが残念でならない。

こうした少年が憂き目に遭わぬような、より良い制度/慣例の構築が進んでいくことを願いつつ、これにて結びとさせて頂くことにします。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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