「インク」について
ボトルインクについてのお話
万年筆の魅力の一つにいろいろなインクが使えるという点があります。特にボトルインクは万年筆メーカーから出ているものや、インクのみを作っているメーカー、文具店がオリジナルインクとして販売しているものまでさまざまです。今回は筆記具としての万年筆のもう一つの主役であるインクについて、特にボトルインクについてのお話です。
色について
まずはインクの色について。ボールペンなどでも、黒、青、赤、緑など、おおまかな色展開はありますが、例えば青色ボールペンの各メーカーそれぞれの色合いに拘る人は少ないのではないかと思います。
ブルーブラック
一方、万年筆では青といっても黒っぽい青、緑っぽい青、紺色、濃い空色…のように色合いが豊富で、同じ色の名前であってもメーカーごとにずいぶん違うものです。青系だけでも多くのバリエーション展開をしているメーカーもあります。
とりわけ黒と青の中間的な色合いをもつブルーブラックは、最も万年筆インクらしいインクとして人気があります。そのためメーカーごとに多彩な商品展開のされる最大の激戦区となっています。
酸化作用による
本来のブルーブラックは、書いた直後は青色ですが、時間がたつと次第に黒く変化してゆく、色の移り変わりが特徴となっています。これは含まれる鉄分の時間経過に伴う酸化作用によって、黒色沈殿が起こるためです。この化学変化によって、インクはより紙に定着し退色しにくくなり、耐水性も上がるという性質をもっています。
没食子
没食子(もっしょくし)インクともよばれるこのインクは、9世紀ごろからヨーロッパで用いられてたもので、滲みや裏うつりのより少なく、濃淡のできにくいボールペンなどの手軽で新しい筆記具の台頭するまでは、公文書や各種の証書用としても、ブルーブラックか黒のインクがひろく使用されていましたので、筆記具としてたいへん長い歴史を持っています。
また、性質上酸性の強いインクゆえ、ペン先として比較的腐食に強い金属である金を用いるようになった理由のひとつともなっているそうです。
変遷をもつブルーブラック
このような変遷をもつブルーブラック。現在では本来の製法で作っているメーカーは数えるほどしかありませんが、製法や色合い、伝統などを含めた諸々の要素が人の拘りのポイントを刺激するためか、今でもカラーバリエーションのひとつとしてその名をとどめ、根強い人気の色となっています。
ボトルインク 色彩雫
現在、一般的に万年筆のインクは染料系のインクが用いられています。黒、青、ブルーブラック、赤などの基本色以外にも、緑や黄色などまさに色とりどりのインクが販売されています。
「パイロット ボトルインク 色彩雫(いろしずく)」のように独自のネーミングを付け、珍しい中間色などの多種多様な色をシリーズ化しているラインナップもあります。また、プラチナ万年筆では、自分好みのブレンドで色を作りたいという要望に応えるように、混ぜ合わせることのできる「ミクサブルインク」といったシリーズもあります。
筆者お勧めインク
「モンブラン インク」
万年筆と言えば、真っ先に思い浮かぶのはモンブラン。そのモンブランのボトルインクです。インクのボトルにも風格が漂っています。ボトル前方にはインクを溜めやすいように仕切りがあるため、インクが少なくなっても前方にインクを溜めれば吸入しやすいようになっています。
超微粒子顔料インク
このように種類も豊富な染料系インクですが、滲みやすい、耐水性が低いという欠点もあります。そこで近年は耐水性に優れた顔料系インクも発売されるようになってきました。モンブランの「パーマネントインク」やセーラー万年筆の「超微粒子顔料インク」などは詰まりやすいという欠点を解決して扱いやすく実用的なインクとして知られています。まだ製品化しているメーカーは少ないですが、顔料系インクは、万年筆は水に弱いというイメージを覆すインクとなっています。
万年筆の豊かな嗜みのひとつ
以上、万年筆のインクについてあれこれ書いてきましたが、同じインクを使っても万年筆本体のメーカーやシリーズの違い、ペン先の太さの違い、またボトルインクとカートリッジインクでも色合いが変わってしまうこともよくあります。このような無限といっていいほどの組み合わせから、お気に入りを選び出していくのも万年筆の豊かな嗜みのひとつと言えるでしょう。