STARTUP LIVE #2 古川健介(けんすう)氏——イベントレポート
5/29に出版された『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』(NewsPicksパブリッシング)の刊行を記念して、本書に登場する起業家の方々をお招きする連続イベント「STARTUP LIVE」が開催された。
第2回目はアル株式会社の古川健介氏をゲストにお迎えし、著者堀新一郎氏、琴坂将広氏と対談。その様子をお届けする。
今日は、けんすうさん(古川健介氏)に根掘り葉掘り質問しちゃおうと思います。
古川健介氏(以下、古川):すみません、今日は、ビデオなしで配信している、古川でございます。
琴坂将広氏(以下、琴坂):顔出しNGということになっています。
古川:一度も顔を出したことがないので、顔出しがちょっと無理っていうね。
琴坂:めちゃくちゃイケメンという噂が世の中に流布されてるんですけど。
古川:キムタクですね。
琴坂:けんすうさん、本読んでいただけました?
古川:本読みました!おもしろかったです!
というのも、こういうスタートアップ系の本で、あそこまで体系的にまとまっていつつ、ケーススタディまでちゃんとついてるっていうのが日本にはあんまりなくて・・・。
海外の昔の本でHotmailの人の話とかがある、『Founders at Work』という本があるんですが、あれがすごく好きなんです。翻訳はちょっと読みづらいんですけど内容はすごくよいので、よく参考にしていました。
あれの日本版欲しいなと思っていたので、すごくよかったですね。
想像の3倍よかったです!
琴坂:堀さん、実はわれわれ『Founders at Work』って参照してましたよね、最初。
堀新一郎氏(以下、堀):そうです。やろうとしてることをすでにYコンビネータのパートナーがやってるってことに気付いて。ビジネスモデルでもそうですけど「このアイデアすげえ生きると思ったら、実はすでに世の中に存在した」みたいな感じでしたね。
ただ、あの本すごくいい本なので勉強になったんですけど、ケーススタディがそのまま載っていて、「要は何なの?」っていうところがわかりにくくて、読後ちょっと消化不良な感じがしました。
そこを頑張ってまとめたらいい本になるんじゃないかなあと思って、あの本を参考にしながら、その上位互換をつくりにいこうっていうチャレンジングな試みでしたね。
古川:すごーい。
琴坂:リード文、堀さんの壁打ち相手になってドキドキしながら書きました。けんすうさんとかから「まとめかたクソじゃね」って言われたらどうしようみたいなことを考えながら…(笑)。どういうふうに読んでいただきました?
古川:最大公約数として書くとしたら、これがベストかなという感じですね。「こういう考えもあるよ」とか、いろいろあると思うんですけど、「一番最初に書かなきゃいけないことはこういうことだよね」っていうのがすごくまとまってていいなと。
そこからこぼれたものは、ケーススタディの中で、個人の出来事として「こういう考えもあるよ」っていうのが入っているので、バランス取れててすごくいいなと思いました。
琴坂:ありがとうございます。ちなみにみなさん、これまったくやらせとか打ち合わせしてないですからね。心からの声です(笑)。
古川:心からの声ですね。ほんとにいい本だと思います。
琴坂:ありがとうございます。この本、ケースもそれぞれ分けていて、けんすうさんは第5章のところに登場です。ご自身のケースってどんなふうに読まれました?
古川:僕、基本的に自分が嫌いなので、「この人、嫌な人だな」と感じました(笑)。
あと、僕が資金調達のところ話すって結構面白いなと思って。資金調達とか交渉ごとがそんなに得意ではないので、そのチョイスはちょっとアリだなと思いました。
琴坂:堀さん、なんでけんすうさんがここに入ったんでしたっけ?
堀:もうほかのパートが全部埋まってたので(笑)。
古川:ちょっと!!穴埋めかよ!
堀:いや、でもすごい資金調達でしたよね。まず、小澤さん(ヤフー株式会社)っていう、当時の業界の中で相当有名なエンジェル投資家から投資を受けるのはすごいことだったので、それをどうやってやったのかなっていうのもあったし。あとグロービスさんからの巨額の資金調達。当時にしては、結構大きめの調達だったと思うんです。
「人生を懸けられる」と思った
琴坂:この本に書かれてなくて聴衆のみなさんが知りたいのは、今の事業のことですよね。今の事業に至った経緯とか、どうしてそのアイデアになって、それをどうして事業にしようと思ったかを少し教えていただいていいですか?
古川:もともと、全然違うものをやろうと思っていました。
何かをやろうかなと思ったときに、次はちゃんとビジネスモデルがはっきりしている、つまりは方程式がある、もうちょっと大人な感じのものをやりたいなと。
実際にプロダクトもつくって、事業計画書もできて、もうリリースできるなぐらいまでいったんですけど、友達に見せたときの反応が、みんな「いいんじゃない?」ぐらいの感じだったんですね。
そのときにちょうど出版社の偉い人から「こういう課題がある」みたいな相談されることがあったんです。
「どういう人ならやれると思いますか?」と聞かれたんですが、「IT企業の社長とか、IT分かっている人が、漫画に思いがあってフルコミットでやると解決できると思います」みたいな話をしたんです。
そうしたら、「そういう人がいたら探してくれ」と言われたので、探してたんですが・・・、「もしかして僕が、漫画系の何かをやったほうがいいんじゃないか」と思って。
琴坂:まさかの自分が。
古川:そうですね。すでに企画書とプロダクトがある、他のプランと、まだ何もない「漫画の何か」をやるのはどっちがいいかと、友達に聞いたら、みんな「うん、漫画だね」って言われたので。じゃあ、漫画の事業をやろうと思って始めました。
琴坂:どっちかっていうと企画とかよりも、やることが先行して、そのあとどうやるかっていうプランが出てきたんですね。
古川:そうですね。
僕、20年くらいメディアとかコミュニティで熱量高いものを作ってきたけど、毎回「ビジネスモデルどうするんだっけ」となってたので、今回は絶対やめようと思ってたんですが、結局似たことをやっちゃってますね。
琴坂:なんでそうなったんですか?
古川:趣味が漫画しかないんです。今は漫画がすごく売れてるし元気だけれども、なんらかの外部要因で、漫画自体が衰退してYouTubeとかばっかりになったら老後困るなと。
あとは、漫画によっていろいろ助けられたり人生の支えになったなと思ったので、人生を懸けるとしたら、そういうところに貢献できたほうがいいなとか、その辺ですね。
琴坂:人生を懸ける、ですね。
古川:100歳までやるとしたら、今から60年ぐらいあるのかって考えると。
琴坂:今のサービスは60年続けられる可能性がある?
古川:そうですね。60年飽きないものを探すのって結構大変だなと思うんですけど、これならできるなと思った感じですね。
失敗を恐れるより大きくチャレンジする
琴坂:2週目3週目と(事業開発を)行なっていくなかで、アイデアを発見して事業つくって…という流れは、どういうふうに進化していくんですかね?
古川:いや、僕あんまり進化しないなって思ってます。stand.fmとかnewnやってる中川綾太郎さんっていう仲いい友達がいるんですけど、いまだに話し合うのって「ビジョンってつくったほうがいいですか」とか「エンジニアの採用どうやってますか」みたいな感じで、若手起業家と変わらないんです。
なので、実際そこが短縮できてるとかは、あんまりないなと思ってますね。
ただ、つらいことがあったときに「このぐらいのつらさだけど、3カ月後にこうなるな」みたいなのが分かってるので、メンタルは安定するかもしれない。
琴坂:こんな落とし穴があるとかそういう引き出しはあるんだけど、毎回解いている問題、直面する課題は同じで、それにひたすらアタックし続けてるっていう…。
古川:そうですね。問いは同じだけど、思考は深くなってるとは思いたいですね。
堀:僕からも質問なんですけど、1回目成功して2回目挑戦される方って、2回目だからこそ「1回目より高い山登ろう」っていう意識だったりとか、あるいは失敗に対する恐れみたいなのって生まれたりするんですか?
古川:ある人もいますね。特にメルカリとか、CASHの光本くんとか、連続起業家がものすごい成果を出すのを目の当たりにしているので、すごく緊張するというか、しょぼいことできないなってみんな思ってます。
メルカリの山田進太郎さんからは「けんすうが失敗すると、みんなやりやすくなるからドーンと失敗してよ」って言われました。「進太郎さん、すごいこと言うな」と思ったんですけど(笑)。
ただ、それいいなと思って。「あ、失敗する人もいるんだ」「こんなしょぼいことになるんだ」みたいな例もあったほうが全体としてはいいので。
僕は、失敗を恐れて、小さいことをやっちゃうより、大きくチャレンジして、「うわ、めっちゃ失敗したけど、ああいうチャレンジありだよね」って言われるようなものにしよう、みたいなのはありますね。
アイデアは無限に出てくる
(質問)60年かけてもいいと思えたアルがなかったとすると、どんな業界で、どんなサービスをやってみたいですか?
古川:実際つくっていたやつのひとつなんですけれども、「インターネットを使わないメッセンジャー」をつくってました。
琴坂:糸電話だ(笑)。
古川:糸電話みたいな。要はBluetoothでバケツリレーすると理論的にはメッセンジャーとして機能するよねってやつです。
すでに海外にはFireChatとかあるんですけど。
世界で一番人口密度が高いのって東京なので、まず東京の高校生向けにパケ代が一切かからないメッセンジャーとして出してみると、高校生が多分2万人ぐらい東京で使えば理論上は東京をカバーできるんですよ。
とすると、インターネット回線に一切つながらないので、政府もキャリアも監視できない。何が投稿されているのかわれわれにも分からないメッセンジャーができます。それは面白いんじゃないかと思って、実際につくったりはしましたね。
最初は使いづらいメッセンジャーになっちゃうので「ギガを使わずに画像交換を学校でできる」みたいなコンセプトで作っていました。
ただ、iOSとAndroidの場合は、画像とかを送るのにめっちゃ時間かかるということがあって…。もうちょっと時代を待たないと心地いい使い勝手にならないなと思ってやめちゃいましたが、アプリとして、一応動作はしましたね。
琴坂:検討される際のアイデアの広がりってどこまで行くんですか? 今の(アイディアは)サービスからハードウェアまで踏み込んだサービスですけど。「こんな変なのも考えた」みたいなものがあれば、教えてもらいたいです。
古川:これも実際につくって動いていたんですけど、まずGmailでログインして、今までのYahoo!ショッピングとかAmazon、楽天のECの履歴を全部引っこ抜いて、ログにする。そのあとに、Amazonで買ったときに、それより安いものがYahoo!ショッピングとかにあったら通知をくれるっていうサービスをつくったんですよ。
そうすると、要はAmazonで2,000円だけど、Yahoo!ショッピング1,000円だよってことがある。ポイント入れるとYahoo!ショッピングは超安いので。あとから価格比較ができて、Amazonで買っているときに安いときは安心してYahoo!ショッピングに変えられるじゃないですか、キャンセルして。
琴坂:みなさん「Yahoo!ショッピングで買いましょう」っていう堀さんからのメッセージが(笑)。
古川:「あとから価格比較する」っていうのをつくっていたりしましたね。これ、いまだに欲しいですね、自分でも。
琴坂:けんすうさん、そういうアイデアとかって何個ぐらいつくるんですか? 決め打ちで2、3個なのか、それともいろんなものをブレストして100個くらいリストアップするのか。
古川:リストアップはしないですけど、めちゃくちゃ出てきますね、やりたいサービスが。
琴坂:その発想の源泉ってどこにあるんでしょう。
古川:こういうことできるよねっていうのが、ひっきりなしに出るので。出そうと思えば無限に出せます。
「自分だけが知っているデータ」が大事
琴坂:リスナーの方々へのアドバイスとしては、どんなことすればそうなるんですかね? どうすればけんすうさんに近づけるのか?
古川:初期の頃、大学生の頃とかはセンスなんてなかったので、2ちゃんねるのひろゆきさんとかに「こういうサイトどうですか」「こういうアイデアどうですか」っていうのを送りまくってましたね。
そうすると、大体ロジカルに論破されるので、引っ掛かりどころというか、これ駄目なんだなっていうのを学んで精度上げてました。
あと、やっぱりつくらないと分からないというか、自分だけのデータをためないといけないと思っています。市場調査とかをしても、あんまり僕は役に立たない派です。
自分でつくって自分だけのデータを詳しく知ってる、というのが大事なので、実際につくるっていうのがいいと思ってますね。
琴坂:つくって、使う人にぶつけてみてデータにするっていう。
古川:そうですね。実際、このボタンがどのくらいクリックされたかとかって、他の企業の情報がメディアに出ないので。
堀:プロダクトづくりする際は、自分が使いたいものをつくるところから始めるのか、今おっしゃっていたみたいに、ほかの人に使ってもらって検証するのか。正解はなくて、人それぞれだと思うんですけど、けんすうさんは、自分がこれあったら絶対使うのになとか、欲しいなっていうところから始めることが多いんですか?
古川:僕はどちらかというと、こういう場をつくるとユーザーさんはこう動くはずだっていう仮説が先にあります。仮説があるとめっちゃ試したくなるというか、実際どうなるんだろうに興味があり過ぎて、やっちゃうっていうのが正しい感じですね。
琴坂:やっちゃうっていうのは、それが検証できるぐらいのMVPまでつくってしまって、それで実際のユーザーのリアクションから検証するっていうことなんですよね?
古川:そうですね。最近、アルペイントっていう、Twitterでお題を募集するとその場でお絵描きしてシェアできるみたいなものをつくったんですけど、これは先週に話が出て、今週月曜日にリリースしました。そしたら結構ブワーッと使われてます。
そうすると「これ、ただイラストアップされるだけじゃなくてGIF動画にしたほうがいいよね」とか「意外とApple Pencil使いたい人多いよね」とかの意見が出て来て、そういうアップデートを入れたりしてます。
そうすると1、2週間で結構試せて、インパクトも与えられるので、そういうのはつくっちゃうっていう感じですね。
琴坂:先ほどアイデアのとき「昔はすぐ思いつかなかったけど、壁打ちをしながらそのスキルを磨いた」とおっしゃいましたけど、そういう検証方法は、今に至るまでにどうやって学んでいったんですか?
古川:検証スキルはあんまりないです。単にリリースが早い人と組んでるだけだと思いますね。
サービスを、ちゃんと後々のことを考えて創るのは、ある意味では簡単なんですけど、「これはあとでいいや」っていう、タスクのボールをひたすら前に投げ続けて、いち早く最低限の実装ができるっていう人は結構貴重です。
こういうのをつくってくれる人たちって大体そこが得意なので、アイデアがあったら1日2日で触れるものをつくって、そこから検証していくみたいなケースが多いですね。
琴坂:けんすうさんはそのチームを持っているんですか?
古川:そうです。
起業のネタはやり尽くされたのか?
(質問)昔と比べ、起業の金銭的・資源的ハードルが下がったのは間違いないと思いますが、企業ネタはまだまだあふれているのでしょうか? インターネット黎明期に比べると、気軽に始められるネタがかなり少なくなってきたのではないかと思います。
古川:すごく「インターネット老人」的に言うと、それ2000年のときにもう言われてました。「もう黎明期みたいにネタがあふれてなくて、やり尽くしたよね」って2000年に聞いてたんですよ。僕もそう思ってたんです。もうさすがにないなって。
でも結局、そこからGoogleとかYouTubeとか、SNSとかメルカリとか生まれたりいろいろあったので、全然あるんじゃないかなとは思っていますね。
堀:これ定期的に言われるテーマですよね。
古川:そうですね。これ多分、2007年ぐらいにもめちゃくちゃ言われていましたね。
堀:僕日本国内でベンチャー投資に携わるようになったのは2013年からなんですけど、2015年ぐらいに「もうBtoCは終わった」みたいな話になって、これからはBtoB、SaaSの時代だって言ってて。
でも最近でいくと、アルもそうだし、stand.fmだってそうだし、コンシューマー向けのサービスも面白いのがたくさん出てきているから、決めつけるのはよくないという気はしますけどね。
古川:多分2021年、22年ぐらいにまたぶわっと出ると思うので。ちょうど今、僕の感覚だと2008年ぐらいの感じなので、2010年にぶわっと出てきたのと同じことが起こるんじゃないかなと思ってますね。
琴坂:確かにそうですね。石油とかそういう堅い産業に比べると、ユーザー側の変容も起きているし、ユーザーの持っているデバイスも環境も変わっている。だから、実は枯れたようでいて、変容したユーザーの行動とか変わったデバイスなどの状況によって、また新しいスペースって生まれてくるんでしょうね。業界が流動的な状況はまだ続いていくのかなと。
古川:みんなテクノロジーの進化で考えるので、「音声プラットフォームって駄目だったよね」とか15年ぐらい前に言われてたんですよ。2004年くらいには「ねとらじ」というサービスをlivedoorが買収してたりするんで。
ただそこから15年たって、AirPodsとかがでて、今また聴くようになってきました。
テクノロジーとか規制とか経済とか、いろいろ見たほうがいいのは事実なんですけど、ユーザーの変容が一番遅いと思ってます。そこに差すと、まだまだあるんじゃないかなという気はしますね。
「波が来たときに沖にいないと乗れない」
(質問)Why now?に対して、今だって思える瞬間、思えた瞬間。そのとき、どういう思考と感覚を持っていたのですか?
古川:GREEの田中さんの言葉でめちゃくちゃいいなと思っているのが、「波が来たときに沖にいないと乗れない」っていうやつです。確か2004年とか05年とかに言ってたのかな。すごくいいなと思います。「だから僕はmixiがぐわって来てても焦らずに、いいエンジニアのチームをつくる」って言ってたんですよ。
2006年とか07年ぐらいの(GREEの)カンファレンスの取材記事とかを見ると「これから確実にモバイルゲームが来るのでそこに張ってます」って言っていて。そして、本当にモバイルゲームの波が来たときにGREEは沖にいて海で泳いでいたので、波に乗れました。
というのを考えると、「今だ」と思える前に海に出て、波が来た瞬間に乗るっていう感覚に近いですね。
琴坂:沖に出てるから、陸にいる人間より早く波をつかめますものね。
古川:みんな波が来てザバーッて乗ってる人を見て、慌てて海に行くケースが多くて。これだとちょっと大変なイメージですね。
アルだと「ここ1週間ぐらいでこういう波かな」みたいに見つかったときにすぐ乗れるようにエンジニアがいて、会社があって、ユーザーや出版社とつながりがある。そういうの重要だなと思っていますね。
琴坂:それって学生とか、これから起業する方には多分できないと思うんですが、そういう方はどうすればいいですかね? できるかもしれないですけど、つらいですよね。まだ波をつかんでないのに会社つくれないし、お金がない人たちもいる。
古川:でも、みんな海には出てますね。delyとかもそうですし、海に出てないほうが難易度高い気はしますね。
なので、海に出てなんとか溺れ死なないようにしておけばいいんじゃないかなと思ってます。
琴坂:その中に行かなきゃいけないってことですね。
初めてつくったのは「呪いのサイト」
(質問)初めに何かつくろうと思ったきっかけは何ですか?
古川:一番最初につくったのは「呪いのサイト」っていう、めちゃくちゃくだらないやつでした。
16歳ぐらいのときにホームページのつくり方を学んで、「世界中とつながるのすごいな、出してみたいな」と思って出してみました。
当時、アクセスカウンターっていうので何人来たか数字で出てたので、これをめちゃくちゃ増やそうと思って、このページ見た人は10人に教えないと呪われるっていう…。
琴坂:チェーンメールみたいなやつ(笑)。
古川:そして、そこのサイトには「呪いの掲示板」っていうのを設定していて。
このサイト自体が友達ぐらいにしか見せないジョークサイトだったので、一応友達が来たときにコメントできるぐらいのノリで掲示板つけたら、人を呪いたい人が、呪いたい人の名前と呪い方を書いていった。
琴坂:かなりダークな感じがしますけど(笑)。
古川:めちゃくちゃ盛り上がる掲示板になってしまいました。それを見て「インターネットすごいな」って思った記憶はありますね。
堀:ネットサーフィンするんじゃなくて、HTMLを覚えてつくるほうに動いたっていうのが、やっぱり違いますよね。多くの人はネットサーフィンで終わっちゃうじゃないですか。
古川:多分、時代のおかげはあったのかな。マジでサイトがなかったんですよ。なので自分でつくるしかないって感覚はみんなあったでしょうね。
琴坂:分かるかもなあ。私も黒歴史としてモバイル携帯サイトをつくってたんですけど。
古川:「なかったのでつくる」っていうのはありましたよね。
琴坂:そこが原点なんですかね。
古川:あとどのサイトもしょぼかったので、高校生が数時間で覚えたHTMLでも、まあ許される感じはありましたね。
琴坂:今、そういうスペースってあるんですか? 許される感があるぐらい、まだ成熟していないところ。リスナーの方々、学生とかが行けそうな領域で。
古川:めちゃくちゃあると思いますね。アルペイントとかは、まさにそれです。Twitterと連携して、Twitterに投稿するってところだけサーバ側使っているんですけど、他はほぼフロントだけで動くし、実装自体は、そんなに難しくないので。Twitterとか既存のSNSに乗るものとかはまだまだあって、今だったらそういうやつじゃないですかね。
琴坂:自分で全部つくろうとしないで、既存のAPIとかを活用したライトな開発をして、ユーザーニーズとか変容をつかめばそこを取っ掛かりにつくれるイメージは今持ちました。
古川:質問箱も3日でリリースとかで、1カ月で数千万PVとかですし。全然あると思いますね。
優秀なエンジニアを連れてくるより優秀なやつにやらせてみる
琴坂:けんすうさんは先ほど「プロトタイプをガンガンつくれるのはチームがあるから」っておっしゃってたと思うんですけど、そのチームって、どうしたらつくれるんですか?
古川:これも持論があって。あんまり賛同してもらえないんですけど。
みんな優秀なエンジニアとかを連れてこようとするんですけど、優秀な友達にエンジニアやらせるほうがいいんじゃないかと思ってます。
僕、前職も今回の会社もCTOが中高の同級生なんですけど、仲いい友達で頭よければ、プログラミングをやってもらったほうがいいんじゃないかと思っていて。
これの成功例は、多分Facebookですね。たしか、同じ寮の同じ部屋だからCTOにさせられて…させられたっていうか、「手伝うよ」って言って土日でプログラミングを教えて月曜日からやるみたいな感じと聞いています。なので、仲いい人とやる、というほうが早いのかなと。
琴坂:できあがった人たちを連れてくるのではないってことですよね。
古川:そういう人たちって、ほかにも組みたいと思っている人もいますしね。
そもそも仕事から関係が始まって、組んでみたら全然できないとちょっとムカつくじゃないですか。
でも友達だと「しょうがないかな」と思えるので。
琴坂:「おまえエンジニアできるって言ったのにまだ何もプルーブしてないじゃん」みたいなのありますよね。一緒に成長する関係性っていうのは結構重要なのかな。
古川:そのほうがやりやすいんじゃないかなと。
難易度の低い場所で起業する
(質問)北海道で起業準備中です。今札幌に住みながら起業するならどんなビジネスがよいですか?
古川:無数に「もし地方だったらどうしますか」って質問来るんですけど、僕、絶対に地方でやらないっていうふうに答えています。
『年収は「住むところ」で決まる』という本もありますけど、どこでやるかってめちゃくちゃ重要なんです。
たとえば、札幌でやるってなった瞬間に難易度がめちゃくちゃ跳ね上がります。その難易度でできる自信がある、優秀な人ならいいと思うんですけど、そうでなければ難易度低い場所でやったほうがいいんじゃないかと。
日本からアメリカにとか、中国に行くっていうのは、ビザの関係とかもあって敷居が高いんですけど、札幌から東京はそこそこ低い。東京の渋谷とか、難易度が低い場所に行った人のほうが成功している気がするし、そっちのほうがいいんじゃないかと思ってますね。
琴坂:確かにそうですね。私、一回研究室で、マザーズにIPOした企業全社と、ファイナンスした企業全部のロケーションのマッピングしたんですけど、ほとんど東京。85%ぐらい東京でした。
古川:Google Venturesの調査で面白かったのが、VCと会社の物理的な距離が近いと成功率が高いっていう。なかなか会えないとか、物理的距離が遠いと目が行き届かなくて、結局ケアできなくて成功率が低くなる。
今だとZoomで話せたりすると思うんですけど、そうなると、より会う価値が高まるんじゃないかなと。
おそらく札幌の起業家と会うときって、わざわざ札幌行ったりとか、来てもらうことも避けるのでZoomになると思うんです。
でも打ち合わせではなくて、たまたま会った場所での立ち話10分とかのほうが価値が高いときがあるから、それがある人のほうがどんどん有利になる。
琴坂:私、多国籍企業の研究もしてるんですけど、多国籍企業の地域全体の統括責任者とかって、30個とか国見てると各地域に行けるのが数カ月に1回しかないんですよね。そうすると、ビジットするときってすごく入念に計算して、自分の発言とか、会う人とかを決めていて。ほとんど電話会議でしかマネジメントができないので、実際に行くときは本当に考えて、台本も決めて、みたいなことをやっているんですね。
多分それって、リモートワークの時代になるとスタートアップもやらなきゃいけなくなる。そうすると、会う機会を劇場化する必要があって、これって相当難しいんだろうなって感じがしますね。
古川:まさに。うちだと、会う日をどうマネジメントするかみたいなものは気にしていますね。
けんすうさんみたいな子どもを育てるには?
(質問)自分の子どもをけんすうさんみたいに育てたいです。どういう環境で育ってこられたんですか? 子どもの頃の経験で、今起業した上での原体験みたいなものはありますか?
古川:別にないんじゃないですかね。
多分、教育はそんなには影響しないんじゃないかと思っています。たとえば、親に言われたことと友達に言われたこと、どっちが影響度高いかっていうと、友達らしいんです。「親に言われたことの影響って全体でほとんどない」みたいなことを本で読んだことがあって。
感覚的にも「こういう髪型にしなさい」と親に言われるのと、「その髪型ダサいよ」って友達に言われるの、友達に言われるほうが深刻じゃないですか。
堀:僕もまったくその通りだと思って。でも、1個あるとすると、呪いのサイトつくったりとか、「明らかにこの子ちょっとほかの子と違うことしてるわ」っていうのを親も気付くと思うんですよね。そのときの親の接し方は何かあったのかな、と思います。「やめなさい」って言うのか「面白そうなことやってるわね」って言うのか。けんすうさんのご両親は、けんすうさんのちょっと狂った行動に対してどういう接し方されてたんですか?
古川:みんなマイペースなので、大学時代とか裁判所から訴状が来たりとか、あと毎日のようにFAXで捜査関係事項照会書っていうのが…。
堀:僕が親だったら発狂しますよ(笑)。
古川:でも「いいな、裁判。やったことないから面白そう」って言われましたね(笑)。
堀:そこだと思うんだよね。けんすうさんみたいに育てたいと思ったら、自分がそういう親にならなくちゃいけないってことですね(笑)。
古川:そうですね。気にしないというか「へぇー」ぐらい。多分、それも考えて言ってなくて。「へぇ、面白そう」みたいな感じでサッと終わりましたね。
堀:自分のケツは自分で拭きなさい、みたいな感じの教育なんですかね?
琴坂:鈍感力ですね、間違いなく。
(質問)「波待ち」でキャッシュが尽きちゃう可能性もありますが、波のうねりをどう見極めますか? また、そこをどうマネージするのですか?
古川:多分、波が来るまでの規模感だと思うんですけど、普通に波に乗れる5人10人のチームだったら何しても食えると思ってます。普通に受託をするとかでもいい。そんなに無茶しなければつぶれないかなと思ってますけどね。
琴坂:この波待ちのタイミング、アイデアを最後固めていくタイミングって、相当リーンな体制が正解っていうことなんでしょうね。
古川:そうですね。受託とか僕は肯定派です。
受託って自社サービスが来ると思ったら、「3カ月の契約ですから今回で終わります」って言って後腐れなく終われる。割とスピーディに波に乗れる。その意味だと安定しているし、かつ働けばお金がもらえるっていうモデルですよね。
琴坂:しかも、いろいろトライができますからね。「この新しいのを使ってみよう」とか。
古川:おっしゃる通りですね。「この技術を使いたいからこれで提案しよう」とか。こういうサイトを試したいからリクルートからお金もらってリクルートに納品しようとか。そういうことをできたりするので、いいんじゃないかなと思ってますね。
琴坂:研究開発的な受託だとやめやすいし、キャッシュにもなるし。全然それはいいんじゃないかと。
自分で考えるより、頭のいい人たちに考えてもらう
(質問)「自分の頭で考え抜くこと」と、「周りの人や先輩のアドバイスを吸収したり、取り入れること」のバランスってどうしてますか?
古川:僕は、自分の頭で考えるの反対派なんです。これ、日本の教育がいけないんだと思うんですけど…。
どう考えても、それぞれの分野で、高い確率で自分より頭のいい人がいるじゃないですか。
堀:いますね。
古川:極限まで自分で考えないで、頭のいい人たちに聞いて、一番いい答えを取ってくっていうのが多分、正解で。
その上で、絶対に自分で考えなきゃいけないもの、どう考えても世界で一番自分が考えてて、自分が一番答えに近いっていうことがあるはずなので、そこに集中したほうがいいと思ってます。
堀:僕も思ったけど、どっちかっていうと、最終的に自分は「考える」というか「決める」側ですよね。
古川:そうだと思います。
堀:それで追加の質問なんですけど、自分で決められないときは、さらにいろんな人のアドバイスを聞いて、オプションAとオプションBのいい点・悪い点みたいなのをさらに検証しに行くのか、どういうアプローチするんですか?
古川:まず、決断と判断を分けて考えていて。
堀:決断と判断、違うんですか。
古川:違うんですよ。判断できるものって、要はAを取ると50万稼げて、Bは100万だったら、100万のほうがいいよねって判断できて、データを集めまくって判断するんです。
マッキンゼーの人か誰かが「3日かけてデータ集めたものと、1週間以上かけたものってほとんど変わらないから、大体3日でデータ集めて2日で判断ぐらいが一番精度が高い」って言ってるので、判断するときはそんな感じです。
決断は、1秒で決めても、1分で決めても、1時間で決めてもそんなに差がないらしいので、不可逆な問題以外は早く決めて動かすっていう。この2つでやってますね。
琴坂:けんすうさんは、スタイル的にエビデンスとか理論を参照して決められてますよね。それって昔からそうなんですか?
古川:「思ったより自分は頭がよくないな」って大学生ぐらいで気づいたんです。自分の頭で考えてこうじゃないかって思ってやると失敗するなと思っていて、一番正しそうなものをより集めてやってるっていう感じですかね。
堀:16歳から大学生のときはノリでやっちまえみたいな感じでやって、大やけどするみたいなことも多かったんですか?
古川:大やけどまではいかないですけど、あんまり何も考えてなかったですね。大学に入って、たとえばひろゆきさんとか、堀江(貴文)さんとかと話すと、「あ、頭いい人ってめちゃくちゃ頭いいんだな」と思ったので。そういう勝負には行かないほうがいいなと思いました。
堀:到底かなわない人っていますものね。
古川:到底かなわない人めちゃくちゃいるじゃないですか。最近だと、リクルート時代の同僚の尾原さんという方なんて、めちゃくちゃ頭いいんですよ。
死ぬほど知識もあるし、しかもその知識が、世界中飛び回って実際に経営者とかと話している生のものなので、すごくいい。だから尾原さんにLINEで、「これどうしたらいいですか」って聞いて、そのままやったりしますね。
琴坂:なるほど。
古川:バランスは、99%優秀な先輩のことを聞いてたほうがいい。ヤフーのCOOの小澤さんの投資先が集まってる小澤起業家牧場っていうのがあるんですけど、そこの起業家で一致してるのは「小澤さんの言うこと全部聞いてたほうが早かった」っていうことなんです。
当時は「『いや、違うと思います』って反発したりしたけど、振り返ってみると全部正しかった」ってみんな言ってるんです。
もちろん、小澤さん自体は「いや、俺も間違えることあるし、そんなことはない」と言ってるんですけど、やっぱり経験のない若者が考えても、小澤さんが「いや、それは違うよ、こういう落とし穴があるよ」って言うほうが正しい。
クラウドワークスの吉田さんとか「自分はサラリーマンで株主は上司だと思って、言われたことは全部ちゃんとやる」っていうのを決めてたって言ってました。それは一つの考え方としてすごくいいなと思いましたね。
人の話を聴けるという才能
琴坂:起業家っていうと「自分で決めて自分の信念で」みたいなイメージがある中で、けんすうさんも吉田さんも違う。実は起業家の方々ってオープンにガンガン取り入れてるって、私も感じますね。
古川:そうですね。自分の手柄が欲しいわけじゃなくて、会社を成長させなきゃいけないっていうことにほぼ全員が気付いてる。自分が考えたとかどうでもいいから、一番正しそうなものを取らないと死ぬって思うからそうなるのかもしれませんね。
堀:ほんとそうですよね。いい話だなって。多分delyの堀江さんとかもそうです。すごく狂犬的なキャラクターで皆さん認識してるかもしれないですけど、ほんと人の話聞きますよね。
古川:めちゃくちゃメッセージとかしてきます。「どうしたらいいですか」とかすごく聞いてくるし、アドバイスもくれますね。年齢とか関係なしに。
堀:ちなみに、けんすうさんのところに「出資してください」って相談しにくる起業家の方たちを見るとき、「ちゃんと人の話聞く人かどうか」についてはチェックされるんですか?
古川:多少はありますね。たとえば、動画をやっているONE MEDIAの明石さんは、すごくガツガツしてて自分の意見はっきり言うんですけど、「こうじゃないですか?」って言ったときに、それが正しいと一瞬で手のひら返せるんですよ。
堀:朝令暮改。
古川:そう。「あ、ほんとそうですね。僕が間違ってました」って言える。ああいうキャラクターの人でもその変わり身の早さはすごいなと思います。
琴坂:これってスタートアップの経営者だけじゃないかもしれないですね。私、大企業にアドバイスもするんですけど、こんな若造が言う話でも、中身があったらちゃんと聞いてくれるんですよね。
偉大な経営者って、外から見るとはそういう弱みを見せない強いリーダーですけど、専門家の話を聞くときは本当にちゃんと聞いてくれて、怖いぐらいの目でジャッジしてくるんですよね。中身がよければスッと受け入れちゃう。その柔軟性を持っている人じゃないと成功しないのかなって思いましたね。
古川:堀江(貴文)さんとかでもそうですものね。昔、ライブドアにアルバイトでちょっといたんですけど、時給710円の僕の意見とかでも、社長の堀江さんがロジックで正しいと思ったら受け入れるんですよ。
琴坂:この本も最初のパッションとしては、いろんな人同士が知識を共有するという世界観が実は起業家の中にはあって、そこで共有できるようなものをオープンにしちゃおうっていうのがありました。アクセスできない人たちにも最低限のものをあげちゃおうっていう…。
堀:もうこの本のことはいいんだよ。
古川:え、いいの?(笑)
堀:けんすうさんの話のほうが大事だよ。
堀:今回はパーカーとスマホケースもけんすうでそろえてきてる。今日のために(編集注:堀さんはけんすうさんが販売したパーカーを着て、同じくスマホケースも装着していた)。
古川:仕事ができる人って、こういうことやりますよね。ほんとすごいなと思いました。発売した瞬間に買ってて、次のミーティングで着てたんですよ、もう。これはやっぱ徹底力ですよね、堀さんの。
堀:こびる力ね、こびる力。
古川:絶対嫌な気しないですし。コストも3,000円するのでちょっと高いんですけど、それでも、それをやりきれるのはすごいですよね。
琴坂:それも事業を成功させるとか、目的を達成するための手段として認識されてるっていうのもあるのかもしれないですよね。話を聞く、相手に受け入れてもらうっていうときに必要なことを丹念に、全てやり抜く力。
コメント欄に「(楽天の)三木谷さんも実はめっちゃ話聞いて受け入れてくれます。」って尾原さんが。
古川:赤川さん(ミラティブ)も(コメント欄に)いますね。赤川さんは今一番ヤバいオーラが出ていて、すごい経営者になってるっていう話をいろんな方から聞きますね。
VCの方とかお会いした偉い人から「彼は10年に1度ぐらいの衝撃だ」って言う話を結構聞くので(笑)。すごいんでしょうね。経営者オーラ、略してケーラがある。
芸術は問題提起、事業は問題解決
(質問)なぜ芸術家ではなく、起業家という手法を選ばれたのでしょうか?
古川:僕はよく、サービスを出すと「それ現代アートだよね」って言われることがよくあるので、もしかしたら現代アーティストなのかもしれないですね、ノリ的には。
琴坂:どういうことですか?
古川:要は、こういうサービスを出したときに、人はどう反応して、どう動くか? みたいなのがめちゃくちゃ気になって、やりたいからつくっちゃうみたいなのが原動力としては強いんです。
堀:先ほどもおっしゃってましたね。
古川:そこで言うと、現代アートをやってる人に近い。その事業と芸術の違いは、芸術は「課題の提案・問題提起」で、事業は「問題解決」だと思っています。
琴坂:同じことですよね、方向性が少し違うだけで。
古川:そうですね。問題提起側のほうがおもしろいという感じですね。
問題解決はできちゃうけど、問題提起のほうが難しいというか。そっちのほうが好きなのかもしれないですね。
アーティストとか芸術家に近いって言われるのは、そういうところかな。
琴坂:今コロナ禍で状況がだいぶ変化してるっていう声もあれば、全然変化してないっていう声もあるんですけど。1年、2年その先の世界って変わるのか変わらないのか、どう見立てられてますか? これから事業つくっていく人たちが、リスナーの方にいると思うんですが。
古川:変わるというよりは、10年かかるだろうなと思っていた変化がめちゃくちゃ早く来たっていうのが僕の感覚に近いです。たとえばこのイベントも、コロナがなかったら普通に登壇してやりそうだけど、Zoomでもいいよねってなってるとか、取材とかもZoomになったり。あと5年ぐらいかかるかなと思ってたんですけど、すごく早く来て、そういう意味では前倒しにしてなってるなと。
これが進んでいくと多分、僕のアイコンで出ているように、顔とか動きとか性別とか、リアルとかけ離れたものが出てくるはず。堀さんが堀さんっぽいキャラクターで、ちょっと「どうぶつの森」っぽく動いてるほうが聞きやすいとか、そっちのほうがバイアスが入らないよねとか。もっと言うとボイスチェンジャーで男性か女性かも分からないほうがフェアだよね、とかになってくると思います。
そういった10年後以降に来そうだった動きが、意外と3年ぐらいで来るんじゃないかなと。
琴坂:すでに兆候があったものが加速するっていう話であって、何か新しいものが生まれるっていうわけではない。
古川:そうですね。基本的に、人は絶対バーチャルな世界にどんどん入り込んでいくはずです。それは不可逆だと思っているので、それが早まったっていう感じですね。
琴坂:この変化を受けて、アルの今後って変わります?
古川:エンタメはもろに影響を受ける最初のところなので、影響はあると思いますね。特に漫画家って、性別も、顔もよく分からない人のほうが多数で、バーチャルな世界に出てきてクリエイティブをするっていう存在に、最初のほうになるんじゃないかなと思っていて、その意味では注目してますね。注目というか、何かやりたいなと思っています。
堀:確かに。この間『鬼滅の刃』の作者の方が女性っていうの、意外でしたものね。
古川:そうですね。女性で年齢も平成生まれというか30代そこそこで。それは作品読んでても分からないですし。
琴坂:その意味では、今けんすうさんは、すぐ波に乗れる場所にいるということなんでしょうね。
古川:いないといけないなっていう感じですね。
思考は頭の外に出して検索できるようにする
(質問)けんすうさん、こんばんは。けんすうさんの文章化力と言語化力は高すぎると思うのですが、どのくらい時間をかけて1ブログ書いているんでしょうか。見直しているのか、それは最初からそのスピードだったのか、知りたいです。
古川:僕の昔のブログとかあるので読んでもらうと分かるんですけど、昔、めちゃくちゃ下手なんです。なので、ある程度書いたから上達してるというのがひとつです。
あと、途中で上手な表現とかを全部切り捨てて、ただ分かりやすいだけの、冷凍食品みたいな文章にしようっていうのがあって、それで読みやすいように感じるんだと思います。
堀:ちなみに不勉強なんですけど、今までブログって何本ぐらい書かれているんですか?
古川:ええ、全然分からないですね。nanapiとかでも相当書いてたので1,000本とか余裕で超えてますね。時間で言うと、たとえば昨日出した「誹謗中傷かどうかよりも、批判の量のほうが問題じゃないかなという話」は結構読まれたんですが、これはかなり気を遣って書いたので1時間ぐらいはかかっていると思いますね。
堀:その前に一回、Facebookで投稿してたじゃないですか。
古川:あれは10分ぐらいで。そこからここまでやるのに1時間くらいかかった感じですね。
堀:あそこから1時間かかるんだ。
古川:やっぱりこれは気を遣いましたね。
堀:Facebook投稿してるのは、ブログに投稿するためのテストでやってるんですか?
古川:そうそう。ブログは相当気を遣うので、Facebookにテスト投稿して弾みをつけてるみたいなのはあります、友達限定とかで。
(質問)けんすうさんにとってのブログってなんですか?
古川:トイレです。
琴坂:トイレ(笑)。
古川:僕は頭の中の思考方法がブログ形式なんですよ。頭の中でブログ書いて、1記事の思考がまとまると、それを外に出しておかないとずっと頭の中で占有しちゃうので。
外に出しておいて、あとで自分で検索して見に行けたほうが便利だなと思って出す、っていうのが一番意図としては大きいですね。
琴坂:そろそろ締めていきたいと思うのですが、(コメント欄の質問の)バーチャル世界論だけで、また別番組ができそうなぐらいな感じですね。
古川:マイネットの上原さんは、まさにそこの最前線というか。小さくなっているゲームを買収して再生させているみたいなイメージの方もいると思うんですけど、そこに人が住んでいるコミュニティと社会があるっていう観点で上原さんは事業をやっていると思ってます。
相当先進的というか、未来見てあれやってるんだろうなと思うので、マイネットは5年後とかに「そういうことだったんだ」って振り返られることをやってるような気がしますね。
全然違ったらかっこ悪いので、どうしよう。違うかもしれないです(笑)。
「ホリシンさんがけんすうに求める成長要素ってなんですか?」ってコメント欄の尾原さんから。
堀:別に何も求めてないので、ないですね(笑)。
古川:求めてくださいよ(笑)。
堀:求められないですよね。逆に学ばせていただいてる。
(質問)1次情報を1番持っているのは起業家自身だったりすると思うんですけど、頭のいい人に聞くっていうのはどうやってるのですか?
古川:これは言い方難しいんですけど「こういう1次情報があって、なんとなくこうじゃないかと思ってます」って頭のいい人に言うと、その人の中でテンション上がって「それってこういうことじゃないか」みたいに会話が盛り上がったりするので、そういう感じでやってますね。
なので「答えを教えてください」「あ、こうですね」っていうのも、もちろんあるんですけど、それよりかは一緒に材料を目の前に、ああだこうだ話して、それがめっちゃ知的労働として楽しいみたいな、そんな感じの聞き方が多いかもしれないですね。
琴坂:イエスかノーかじゃなくて、オープンな質問なんですよね。ここら辺の話教えてくださいみたいな、そういう網の張り方をするっていう。
古川:そうですね。たとえば今日だと、アルペイントを尾原さんに見せたときに「なんとなく既存のネットワークの上でやったほうがいいと思うんですけど、どう思いますか」みたいなことを聞いて。そうすると「実はZoomはそういう戦略を取っていて、フリクションレスでどうこうするとか、バリューチェーンをこうしてる」みたいな話がぶわっと出てきて、解説してもらって、議論が始まって、みたいな感じですね。
やりたくないと脳が感知する前にやり始める
(質問)やりたくないけど、やらねばならないことをやり始めるきっかけとして、どんなことをしますか?
古川:掃除とか、それこそ、この番組終わったら食器を洗わなきゃいけなくて嫌ですね(笑)。これよく言うんですけど、「モチベーション」と「やる気」と「テンション」をまず分けて考えていて。
堀:違うんですか、その3つ。
古川:違うんですよ。これまさに尾原さんに聞いたんですけど。
テンションはみんなで円陣組んでテンション上がる曲流して、かけ声とかで上がるらしいんですね、強制的に。
やる気はそもそも存在しないらしくて。やり始めたら作業興奮でやりたくなるっていう。部屋の掃除って、やり始めるまでは面倒くさいけど、やり始めたらハマって結構頑張れちゃったりするじゃないですか。
堀:止まらなくなったりしますよね。
古川:モチベーションは、どちらかというとふつふつと湧き上がって、起業とか事業とかに使うようなもので。
皿洗いとかやりたくないものをやれないのって、大体やる気の問題なので、答えは、すぐやるだと思っています。
ちなみに、やりたくないと脳が感知する前にやり始めるというテクニックをよく使います。お皿を1枚でも洗っておくと、やってる途中っていうステータスになるので、そうするとやれるようになるっていうライフハックでやっています。
こういう話でいいんですか(笑)。
琴坂:はい、今日はけんすうさんスタイルを深掘りしていくという企画なので。私も今日お話をずっと聞いていて、けんすうさんのすごいところは、単なる謙虚さのプレーではなくて、ほかの方からの情報とかを受け入れようとするスタンスを崩していないところだと思いました。しかも、それをそのまま受け入れるんじゃなくて、かみ砕いて、けんすうさんの中で統合されて一つの形にしているなって勝手に感じました。
堀:そうなんですよ。誰かのことをディスってるとか全く見たことがなくて、生放送だからこそそういうアクシデント見たいと思って期待したんですけど(笑)。
琴坂:残念でした、そんなことは起きませんでした(笑)。
堀:鉄壁ですね。
琴坂:この番組は『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』の出版を記念した番組ですので、ぜひ皆さん、この本読んでください。中にはいろんなことが書いてあります。これをもとにしてわれわれはスタートアップコミュニティに貢献していきたいなというふうに思っています。
次回は、LayerXの福島さん。
古川:福島さんは半端じゃないですよね。
堀:何か聞きたいことあります? テレフォンショッキングじゃないですけど。
古川:僕、ほんとにスタートアップの経営者で一番すごいの福島さんじゃないかと思っているぐらいです。多分、僕とテーマが似てるって言ったら失礼かもしれないですが、大企業とイノベーション起こすっていう共創・コクリエイトがテーマになるよねっていうのを考えているんじゃないかなと。
それって、いわゆる」ディスラプトでも、ルールハッキングでもなくて、ルールメイキングなんですが、それを意識してやっていそうな気がするので、その辺、聞いてほしいです。
琴坂:いいですね、いい質問来ました。次回はそこら辺から。
古川:楽しみです。
琴坂:ありがとうございました。
『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』書籍のご案内
書籍のご紹介
古川健介(けんすう)氏のご紹介
STARTUP LIVEのアーカイブ動画(YouTube)