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【キャリア】10年不変な「賢い人たち」との差別化戦略

スキルや情熱だけでキャリアを選択していくのは心もとない。事業と同じように「市場環境」を見極めるべきだ。キャリアにおける「顧客」は、なぜあなたにお金を払うのだろう? 「同業他社」はどんな相手だろう?

世界最大のビジネスSNSリンクトイン創業者のリード・ホフマンらが10年ぶりに全面アップデートし上梓した『スタートアップ的人生(キャリア)戦略』から一部を抜粋してお届けする。



理想と現実、大事なのはどちらか?

キャリアに関する本には、厳しさが足りないと思う。
情熱や理念ばかり重視していて、活動していかなければならない場所である市場の現実についての情報が不足しているのだ。

市場経済における事業は、需要と供給の睨み合いに吞み込まれた実力主義の世界だ。
どれほど心血を注いで努力しても、どれだけ善意にあふれていても、どれほど強い信念を持っていても、提供するものを顧客が求めてくれなければ、ビジネスは立ち行かない。

事業だけではなく、キャリアにも同じことが当てはまる。キャリアにおける「市場環境」とは「あなたが人材市場に提供するのと同じものを、どれだけの人が提供していて、需要はどれくらいあるか」ということだ。

あなたのスキルにいくら「特別なものだ」という自負があったとしても、あるいはあなたの理念がどれほど心揺さぶるものであっても、人材市場のニーズに合わなければ、十分な競争上の強みにはならない。

「市場」は抽象的なものではないことも頭に入れておいてほしい。市場は、上司、同僚、顧客、生徒、直属の部下、投資家など、人の集まりである。あなたは彼らの判断に影響される他、彼らのニーズにも応えなくてはならない。

優れた起業家は、空想家で夢追い人かもしれないが、現実主義者でもある。最初から壮大な計画を描くわけではない。現実も理想もどちらも大切にする

夢を追いつつ、現実的であるのは簡単ではない。でも彼らは、星を目指しながらも、定期的に足元を見下ろして、ちゃんと地面を歩いているかも確かめるのだ。

スターバックスの元CEOハワード・シュルツは1985年、イタリアのコーヒーショップに似た店をアメリカで開こうとしていた。シュルツも仲間も、ただの思いつきで腰を上げたわけではない。

まず、自分たちが参入しようとする市場のしくみを知ることに全力を挙げた。ミラノとベローナのエスプレッソ・バーのべ500店を訪れて、できるかぎり多くを学んだ。イタリアのカフェはどんな内外装だろう? コーヒーをめぐる現地の文化や習慣は? バリスタたちによるコーヒーの淹れ方は? 

起業家にとってこのような市場調査は、創業当初だけ行う一度限りのものではない。

デービッド・ニールマンはジェットブルーという航空会社をみずから興し、最初の7年はCEOを務めた。そのあいだ、少なくとも週に一度は自社便に乗り、客室で接客にあたり、その経験をブログに記した。

「私は毎週ジェットブルーの飛行機に乗り、お客さまと言葉を交わします。こうすると、よりよい航空会社になるための方法が見えてきますから」

シュルツやニールマンはそれぞれ、起業にあたって壮大なビジョンを掲げていた。それでも、一旦営業を始めると、初日から顧客や利害関係者のニーズに焦点を合わせた。
ベンチャー・キャピタリスト、マーク・アンドリーセンの「市場が存在しなければ、どれだけ賢くても振り向かれない」という口癖の意味を、肝に銘じていたのだろう。

人材市場で評価されないかもしれないという事実は、あなたを不安にさせるだろう。でも、対価を払おうという相手が現れないのであれば、それが現実だ。

少し脅かしすぎたかもしれない。
市場環境の調査は、夢を諦めることと同義ではないことを説明しよう。

職種ではなく業界を選ぶ

起業家と投資家は常に、破竹の勢いで成長する業界、部門、製品カテゴリーに目を光らせている。

同様に、キャリアの契機になりえる勢いに乗った業界、場所や地域、人、企業はどんな時代にも存在する。潮流に乗ること、つまり、逆風ではなく追い風の市場に入っていくことが、人生戦略で大きな成功を収めるカギである。

直近の例としては、中国とインドの経済、人工知能、暗号資産とブロックチェーン技術、サステナブルな製品、クラウドコンピューティング技術、バイオテクノロジーなど、適当に挙げてみてもたくさんある(もちろんどれも、近いうちに時代遅れになるリスクはある)。

まだ最高潮に達していない波の特徴は、その技術の最初の考案者がまだ存命で活動していることだ。

マーク・ザッカーバーグはまだ若く、しばらくのあいだソーシャルネットワークは大きな波であり続けるだろう。
反対に、イーストマン・コダックの創業者であるジョージ・イースタンは、とっくに亡くなっており、プリント写真やデジタルでないカメラの市場もまた、過去の遺物となっている。

勢いある市場のすごいところは、欠点を補っても余りある成長を遂げられるところだ。スタートアップの中には、平凡なチームによって開発された平凡な製品もあるが、白熱する市場にいればそれでも大きな成功を収められる。
市場自体がそういった企業から成功を引き出しているのだ。

力強い市場は、市場の成長自体がスタートアップのほぼすべての欠点を凌駕する。「職種ではなく、業界を選ぶ」べきなのは、それが理由だ。

いま熱い分野で働く。その会社で自分がこれまでに培ったスキルや、抱いている大志に近い仕事があればなんでもいいからやる。会社が成長を続けているあいだは、どんな仕事をするかはほとんど重要ではない。

まず業界に入って知識を得てから、会社を選ぶのだ。話題の業界で事業をしているなら、機会の源になるだろう。あるいは戦略として、偶然の幸運が起こる確率を上げることもできるだろう。

自分のニッチ分野をつくり出そう

競争優位に立つ明確な方法は、差別化を図るために自分の持ち味となるスキルを向上させることだ。もちろんこれは賢明な方法だが、他にもこれと同じくらい効果的なやり方がある。
競争の少ない市場に参入するのだ。

スキルの中身を変えるのではなく、代わりに環境を変える。競争があまり厳しくない市場に参入すれば、優位性を発揮できるからだ。

スタートアップの世界では特に、競争の有無や度合いは死活問題だ。

リンクトインはサービス開始当初から、競合サービスとは異なる路線をとった。採用の世界は、友人との写真を投稿したり、パーティーに誘ったりできる他のソーシャルネットワークサービスと比べれば地味だ。

しかし、地味な市場には才能豊かな競争相手が少ないことが多い。

リンクトインも、プロフェッショナル志向のネットワーク分野の中に特別な隙間をつくり出した。

プロフェッショナルに重宝される機能に力を入れ、ゲームなどサービスの競争力向上に役立たない機能は設けない方針を貫いている。金メダルを獲得できる、自社が定めた土俵で競争しているのだ。

ヨーロッパではプロとしてやっていけるほどではないサッカー選手は、えてしてアメリカのプロサッカーリーグでプロ生活を送る(なぜなら、率直に言えば、ヨーロッパのチームと比べると、アメリカのチームはいわばマイナーリーグのようなものだからだ)。

未開拓のニッチ分野に身をおこう。運がよければ競争がないか、あるいは少ないだろう。そうすれば、名を上げるのはずっとたやすい。あなたも、周りにいる賢い人たちとの差別化になりそうな選択をすれば、人材市場でニッチ分野を開拓できる。

スキル・情熱と「市場環境」を組みあわせる

優れたキャリアプランは、資産(スキルなど)、大志や情熱、そしてここまで説明してきた「市場環境」の相互作用から生まれる。

これら3つの歯車がぴたりと組み合わさり、うまく回転する必要がある。キャリアの分岐点に差しかかるときにはとくに、よりよい可能性を見出せるまで、この3つの歯車のさまざまな組み合わせを試してみてほしい。

キャリアのほぼすべての段階で、あなたは、目標を同じくする人々に対して差別化をしなければならないだろう。いまや、あなたは世界中の人々と競争しているのだ。

だが、競争は悪いことではない。人生を刺激的にするだけでなく、キャリア選択において、より創造的に、より戦略的になることを求めるからだ。

(本書『スタートアップ的人生(キャリア)戦略』へ続く)

目次
はじめに 人はみな起業家
第1章 強みを培う
第2章 「変化への適応」はプランニングできる
第3章 強いつながり、弱いつながり
第4章 偶然の幸運(セレンディピティ)を戦略的に引き寄せる
第5章 リスクに気づかずいたら、リスクのほうがあなたを探し当てる
第6章 他人の頭脳を拝借する