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STARTUP LIVE #3 福島良典氏——イベントレポート

5/29に出版された『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』(NewsPicksパブリッシング)の刊行を記念して、本書に登場する起業家の方々をお招きする連続イベント「STARTUP LIVE」が開催された。

第3回目は株式会社LayerXの福島良典氏をゲストにお迎えし、著者堀新一郎氏、琴坂将広氏と対談。その様子を書き起こしにてお届けする。

書籍のご紹介

福島良典氏のご紹介

STARTUP LIVEのアーカイブ動画(YouTube)

琴坂将広氏(以下、琴坂):みなさんこんばんは、STARTUP LIVEのお時間です。この番組は2020年5月29日発売の話題作、『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』の出版を記念して、この本に登場する起業家の方々をお呼びし、根掘り葉掘り質問しちゃおうという企画です。 #STARTUP本 でコメントもお待ちしております。プレゼンターは私、慶應義塾大学SFCの琴坂将広とYJキャピタルの堀新一郎でお送りします。

そして今日のゲストは福島さんです。

福島良典氏(以下、福島):こんばんは。よろしくお願いします。

琴坂:最近いろんなニュースが出ていますけど、一番気になっていることから教えていただけたら嬉しいです。

福島:堀さんと冗談で「NBAの話しますかね?」みたいな話をしていて(笑)。バスケットボールです。

琴坂:バスケお好きですよね。

福島:アメリカってスポーツビジネス1兆円ぐらいあったので、結構やばいと思うんですよね。それが(コロナの影響で)売り上げ0とまではいかないですけど。早く再開してほしいなというのと選手の安全が…みたいな状況ですよね。

琴坂:そこから入ると、今スポーツ領域で起業できそうですか?

福島:資本があるところで、メルカリがアントラーズ買うとか、楽天がヴィッセル神戸で過去最高収益とかあるので、「スポーツビジネスおもしろいな」と思うんですけど、かなり資本が要るのかなと思います。単純に買うにしても数十億とか、下手したら100億とかかかるわけじゃないですか。

琴坂:アーリーキャリアのスタートアップが挑んでいくのは難しいところですかね?

福島:そうですね。ジムとかスクールみたいな感じでライトに立ち上げてスケールしていったり、YouTubeとかの課金プラットフォームをうまく使ってスケールしていくモデルを作れるのであれば、それはそれでおもしろいんじゃないかなと。地域にスポーツスクールっていっぱいあったじゃないですか。ああいうのが全部オンライン化したらどうなるんだろう、とか考えたりはしますよね。

ソフトウェア的に経営する

琴坂:今はすでにLayerXに取り組まれてますけど、それ以外のアイデアも浮かんでくるんでしょうか? それともLayerX一本なんでしょうか?

福島:LayerX一本ですね。めちゃくちゃLayerX一本ですよ。

琴坂:この番組、(視聴者に)学生も多くて、LayerXがなんかすごいことをやっているイメージはあると思うんですけど、学生にわかりやすいようにLayerXがやっていることを教えていただいてもよろしいですか?

福島:みなさんが思うインターネット企業とはちょっと違って、どっちかというと、システムインテグレーター、SIerとかITコンサルがやってることの最新技術版、みたいな感じですね。大学生とかはイメージが湧きづらいかもしれないですけど、銀行とか物流業者の裏側のシステムっていうのは、かなり古いもので作られています。そこが主な理由で「紙の仕事が減らせません」「判子とかFAXの仕事が減らせません」みたいな、インターネットの世界からするとバカバカしいことが平気で残ってしまっている。

ただ、そこって変えるのは結構難しい。というのも、インターネットでは、情報が動けばお金が動くみたいに、全部ネット上に乗っかってるわけじゃないですか。でも、銀行とかは支店もいっぱいありますし、物流も運ぶ際のミスとか問題が起こった後のトレーサビリティも含めて、配慮しなきゃいけないことがいっぱいあるので、その基幹システムみたいなものを作るのは難しいんですよね。そこをモダンな技術で、新しいスクラッチとして作っていく、みたいなことをやってるんですよね。

琴坂:Gunosyのときは完全にコンシューマー向けのサービスというイメージでしたが、(LayerXは)BtoBでかなり大手企業とかを抱えていて、作り方って全然違うかと思うんですけど。

福島:実は一緒なのかなと思ってます。僕はtoCサービスにあまり向いてなくて、Gunosyではひたすらソフトウェア的な経営をやっていたんですよね。

僕、かっこいいデザインは思い浮かばないんです。ただ、数字が乗るデザインはわかるんです。なぜなら、ABテストひたすら繰り返して、「こういったユーザーインターフェイスがこのKPIに対してはこう効く」みたいなものを、必ず科学的に実験するので、勘で作る人よりも数字が出せるんです。それがクールなプロダクトかどうかは分からないですけど、数字は出せます。

あとは、アルゴリズムとか裏側の仕組みも勘で選んでるのではなく、全部ソフトウェア的な実験を繰り返して、その実験数をたくさん並行して並べていて。あと、職人の技って残らないけど、ソフトウェアの技って残るんです。ソフトウェアとデータという形で必ず保存されて、これは誰が動かしても同じ結果になって、改善点がずっと積み上がっていくんです。なので、ある種ソフトウェア工場みたいなものをずっと作っていたイメージです。

GunosyもメディアのDX(デジタルトランスフォーメーション)をしていたのかなって。普通のメディアが、「記事をどう作って、どういう人にどういう媒体でどう見せようか」みたいに考えるところを、まったく違うルールで、トヨタのものづくりみたいな視点でメディアを作っていたと思うんです。

琴坂:なぜそうなったのですかね?

福島:もともと僕みたいな発想をしてた人っていっぱいいたんです。そもそも僕がいた領域、ソフトウェア工学の領域とか機械学習の領域って、実験なんですよ。実験で勝ったやつが偉い、結果を出したやつが偉いという科学的な世界で戦っていたんです。

ただ、いろんな行動履歴、ログが取れないような時代に、新聞とかテレビとかを科学的に経営しようと思っても、できないじゃないですか。だから、勘に頼るしかない。でもソフトウェアがコントロールできる範囲が広がっていて、科学的に経営できるようになっちゃったんです。メディアはここ少なくとも10年。それが今物流、金融の世界にまでソフトウェアのコントロール範囲が広がろうとしている。

金融の世界って、ある一定のルールとか縛りがあるなかで、完全にソフトウェア化するのは難しいとなっていたところが、包含されようとしている。物流とかも、もちろんセンサーからデータを取ってくるとかは難しいんですけど、IoTの普及とか、自動運転とかそういったものすらも制御できるというなかで、ログも取れるようになった。これって、インターネットのメディアトラフィックの場合と評価の仕方は変わらないじゃないですか。

琴坂:つまり、最初福島さんがアプローチしたのがたまたまメディアであって、根本的にはそのときやられていたことと、今やられてることって実は方向性は変わらない。

福島:ソフトウェアで科学的に経営するということに興味があるという感じですね。

琴坂:応援の領域がすごく広がってきたので、LayerXはいろんな産業、いろんな大手の企業と連携してインプリしているという形ですね。

福島:そうですね。大手と連携する理由は、やっぱり(大手には)一朝一夕で得られないアセットがあるんです。トヨタが自動車の生産ラインを持ってるとか、販売系も含めて戦後から50年60年かけて作ってきた販売網ってベンチャー企業が手に入れられないネットワークじゃないですか。

僕ら三井物産とアセットマネジメント会社をやってるんですけど、それで何をやりたいかというと、三井物産が持っているアセットを流動化したいんですよ。そうなったときに、彼らってガス田とか航空機のサブスクの権利とか色々持ってるんですけど、それが今まで投資商品化されてなかった。そういうのを技術で投資商品化できるとなると、正直それは魅力的な利回りで安定したキャッシュフローでいける。

リプレイスのない世界をつくりたい

琴坂:きっとこれを聞いている方は、スタートアップでいきなり、この名だたる大企業の仕事を取ってこれるイメージは全くないと思うんです。福島さんはなぜそれができるのですか?

福島:そうですね。自分の強みとか、自分が社会からどう見られているかを考えると、1回ある程度結果を出しています。それをもって自分は実力があると言うつもりはないんですけど、少なくとも結果を出しているから僕の言葉に信用が生まれる

大企業の方々も、もし10年前だったら、デジタルかオフラインかでデジタルに振り切ることをためらう方が多かったと思うんです。でも、この10年間でデジタルと共存する、デジタルを活かすという考え方が当たり前になって、ソフトウェアがどんどんその領域を食ってるというのは、彼らも気付いています。分かってるやつを取り込むしかない、分かってるやつと組むしかないという大きなマインドチェンジが、実はこの10年間で起こったんじゃないかなと。なので、結構組めるチャンスはあると思います。

堀新一郎氏(以下、堀):スタートアップで、受託を大企業相手にやっていく会社ってここ数年ほとんどいなくて、あげるとするとPKSHAとかKudanさん。彼らの動きは少なからずLayerXの今のビジネスモデルに影響を与えたんですか?

福島:そうですね。あのやり方でうまくいくというのは僕の中でも新鮮というか、「なるほどな」と思って参考にはしています。あと、海外でもそういうスタートアップが増えてきていて「よく受託ですか?」と勘違いされるけど、受託じゃないんですよね。トランザクション型のフィーでとっていて、カスタマイズをめっちゃ頑張るSaaSみたいな。SaaSって個別カスタマイズせずに、営業でスケールさせていくみたいな発想なんですけど、逆にPKSHAとか僕らは営業する数を絞って、その代わりトップクライアントからしっかり予算をいただく。その代わりめちゃくちゃカスタマイズします。でもトランザクション型のビジネスで伸びていきますよ、みたいな。

琴坂:SaaS型が少ないと言ってるのは何でしょう?

福島:たとえば金融機関で証券会社だと、まともな証券会社って多分10社ぐらいしかないんです。でもSaaSが対象とする会社って何万社とかじゃないですか。10社にそんな汎用的なプロダクトを作る意味ってあまりないんですよね。

だから、ひと世代昔で行くと、シンプレクスとかフューチャー、ワークスアプリケーションズとかは、顧客何万社とかを相手にするんじゃなくて、たかだか100社から200社ぐらいの間でしっかり高いフィーを取って、しかもお互い利益が出るみたいなモデルだった。「シンプレクスさんがいないとコストが上がっちゃう」とか、そういう構造を作りながらうまくサービスフィーとトランザクションフィーを混ぜ合わせながら成長してるな、というのがあるので、意外となくはないかなという。

琴坂:そうすると、その領域のこのモデルで生存できる企業は少なくて、LayerXさんPKSHAさんとかいくつかで固まりつつあるようなイメージもあるんですけど、これから起業しようという人たちが入り込む余地というのはどこにあるのですかね? たとえば、福島さんが2周目、3周目じゃなくてゼロからスタートするとしたらどういうことをするのでしょうか?

福島:カテゴリーキラーを作りますね。たとえば、僕らはキャディさんとか10Xさんとかと結構近しい発想で動いていて、キャディさんは製造業、10Xさんは小売りみたいな感じで、そのカテゴリに特化したソリューションを作っていて。よりサービスっぽいのだとOLTAさんとか五常さんとかも結構近い発想かなと。やっぱりカテゴリーキラーを作ればいろんなチャンスがあると思います。

琴坂:カテゴリーキラーを作って、一番上ではなくて中段下段のマスのある層をとっていくイメージ。

福島:そうですね。

堀:金融中心にブロックチェーンをやってらっしゃると思うんですけど、カテゴリーキラーって業種セグメントのことじゃないですか。ブロックチェーンってホライゾンタルで横軸の話で、LayerXに関して言うと金融×ブロックチェーンでやってると思うんですけど、ブロックチェーンにこだわりはないんですか? それともブロックチェーンはマストなんですか?

福島:そうですね。マストではあるんですけど、あまり表には出さないようにしたいなと思っています。結局企業がやりたいことってDXなので、たとえばPKSHAもアルゴリズムで課題を解決する会社であって、機械学習を頑張って導入させるという会社ではないと思います。彼らは前工程のコンサルもやるし、データクレンジングみたいな泥臭いこともやるし、BPR的な業務改善、業務全体を落としてワークフローにして行くみたいなこともやると思うんです。

そういう意味において、実は強いこだわりはないという感じですかね。技術として当たり前に選択されつつあるというのは中国の事例とかを見て思うので、技術選択として皆が思っている程ダメなもんじゃないという自信は持ってます。

堀:私は20年近く前にフューチャーシステムコンサルティングというところで働いていたのでわかるんですけど、当時、オープンソースで金融だったり小売りのシステムをリプレースしていくというのでバンバカ受注して、IBMとかのメインフレームをどんどん置き換えていたんですけど、それに近い話かなと思いましたね。

福島:そうですね。あと、リプレイスのない世界を作りたいと思っていて。たとえば、今のインターネット企業ってリプレイスっていう発想を持ってないじゃないですか。基本的にすべてサービスを出してからが勝負で、改善していきますというのがソフトウェア経営だと思うんですね。デジタル化するというのは全てがサービス化することだと思うので、経理活動すらサービスですと。

堀:バージョンアップしていくと。

福島:なので、そのインフラを作ってその先でとにかく継続改善されていく仕組みを作りたいなと。

堀:これは作った側からすると、ずっとチャリンチャリン儲かる発想でいいですね(笑)。

福島:(笑)

琴坂:そこのサイエンスって難しいですよね。そこは何が工夫になるんですか? リプレイスされないような仕組み、ロックインとか?

堀:どんどんバージョンアップしていったらズブズブに浸っていくから、他のものに変えられなくなるんじゃないですか?

福島:あとは、システムとして入れるのではなくて…たとえば、今インターネットのサービスだとマイクロサービス的な設計思想ってあるじゃないですか。入れるのはその設計思想とかオフィスインフラ、デブオプスとかの乗っかるシステムとかではなくて、ある種インターフェースが切られている。

たとえば、電子契約サービスを選びたいってなると今だったらサービスロックインされるじゃないですか。ではなくて、電子契約インターフェースみたいなものがあって、データもこっちに残ります。その上でドキュサインかクラウドサインか状況によって選んでいけば。

琴坂:それができるように大手企業側をトレーニングしていて、そういうサービサーにロックインされないように設計をしていくアドバイス、お手伝いをしているみたいな言い方になるのかな。

福島:究極的にはそういうところですかね。先方にCTOがいて、そこの採用まで手伝って…みたいな。ただ、オフィスインフラは入れてくださいみたいな。

琴坂:がっちりとそこの会社の戦略まで踏み込んでいって。

福島:そうですね。なので、ITコンサルとかアクセンチュアとかがやってることに近いと思います。ただ、僕らはソフトウェア視点でそれを全部作っていくみたいな。

顧客数を広げること=スケールではない

(質問)受託はスケールしづらいとよく言われます。どうスケールさせるのでしょうか? Gunosyとかメルカリのように広告で一気に伸ばしたりできないと思うので、SaaSのSmartHRみたいに営業人員を採用しまくって売上を伸ばしていくのでしょうか?

福島:そうですね。たとえばLayerXで行くと、アセットマネジメント会社を三井物産と一緒にやっています。そこに当然僕らのシステムを入れていってるんです。だけど、システムフィーで取りたいのではなくて。アセットマネジメントのビジネスって、ファンドサイズが大きくなれば、それに比例してマネジメントフィーもらえるというモデルなんですよね。だから、そこに乗っかるお金が10兆円とか行けば、勝手に1個のシステムでスケールするわけです。システム上に乗るトランザクションが多くなることが僕らにとってスケールで、顧客数を頑張って横に広げることではないと。

琴坂:それが乗っかっているとワンタイムのフィーではなくて、そこのマネジメントフィーというか。

福島:継続的にもらえます。僕らを外すと「そこのコスト効率が合わなくなるよー」みたいな状態をいかに作れるかという話かなと思っています。

(質問)カテゴリーキラーかつカスタマイズSaaSだと市場は小さくなりそうだと感じるんですが、どう市場を捉えているんでしょうか?

福島:これは本当に真実かどうかは分からないなと思っていて、シンプレクスの売上とかって調べたことありますかね? ほとんどのSaaS企業よりも遥かにデカイんですよ。彼らは売上2~300億ぐらいあって、営業利益3~40億とか、いい時は50億とか出してますみたいな話で、それって小さいんですかね? 

カテゴリの切り方次第かなと思います。別にカテゴリで最初のソリューションを作ったからって、永遠にそのソリューションを売り続けるわけではなくて、結局カテゴリに入るとそこから入ったゆえに他の課題が見えてくるわけですよ。最初は取引の契約管理を楽にしようと入ったんだけど、その裏側のERP的な、取引先の会計のマネジメントを苦労してるから、そこにソリューションつけようとか。カテゴリから入ってそこの課題を広げていくみたいなやり方をしていけば、全然大きくなると思います。

堀:なるほど。

「避けられる失敗」と「仕方がない失敗」

(質問)Gunosy時代の失敗の中でLayerXで特に活かしたいと思っていることは何でしょうか? 失敗はあったんですか?

福島:いっぱいありますよ。まず、避けられる失敗と仕方がない失敗があります。めちゃくちゃ成長していて多少組織が痛んだとしても、売上とか利益を追求するタイミングって会社経営ではある。だからといって、LayerXで同じような状況になった時にそこでブレーキを踏んで組織を壊さないような意思決定をするかっていうと、僕はあまりしないかなと思って。失敗ってどこかでトレードオフがあったりするんです。

組織がうまく回ってビジネスもうまく回って、将来のリスクも全部抑えられてるなんて状況はないので、今の利益を刈り取ってたら将来新しい新規事業を生み出すリスクを背負っちゃってるみたいな話もありますし、人のマネジメントにコストをかけすぎると文化を重視して成長が止まってしまうみたいなケースもあると個人的には思うんです。

琴坂:LayerXが取ろうとする反面、少し犠牲にしてることは何かあるんですか?

福島:短期的な急激な成長は切ってるかもしれないですね。広告費でポンみたいなビジネスではないんですよ。当たり前ですけど。トランザクションを育てなきゃいけないんで。アセマネ会社をセットアップしてライセンス取って、そこもいきなりアセットが溜まっているわけではないので色んな手を尽くしながら、アセットが溜まっていくようなサイクルを頑張って作ってみたいな、結構しんどいです。そういうのを1社1社保険領域だったらこれやって、とかってやっていかなきゃいけないので、いきなり2年3年で広告費100億ぶっこんで売上100億行くみたいな、そういうのはあんまりないかなという。

堀:銀行の会社になるとそういう時って手弁当でとりあえず作らせてくださいみたいな感じでやって、支払いが後になったりとか持ち出しが多くなったりするケースがあると思うんですけど。PoCから入って、お金が最初入ってこない、赤字から始めなきゃいけないケースも多いのかなと思うんですけど、その辺はうまくやれてるんですか?

福島:僕らは開発費はしっかり取りますね。そこはまた別の話なので。

琴坂:それは選択肢として取らないという選択肢はなかったんですか?

福島:取らないならレベシェア率をめちゃくちゃ上げます。そこのバランスだと思うんですよ。

優秀な人=未来のリスクを潰してくれる人

琴坂:スタートアップする中だと、「最初は実績を作るから値下げしなきゃ」とか、そういう誘因が働くのではと一般の方々は想像すると思うんですけどどうですか?

福島:値付けの問題かなと思います。一応、僕らSIerとかITコンサルがどれぐらいの値付けならどれくらいのパフォーマンスを出していて、どういうアウトプットが求められるのか、というのはすごく研究しています。その辺に対しては自信を持ってパフォームしてます。

琴坂:ちなみにこれはどうやって研究するんですか?

福島:一番早いのは中の人に聞くことですね。そういう人を採用して文化を取り入れちゃうとか。たとえば営業強化したいのならキーエンスの人採れば一番早いじゃないですか。するとそのDNA自体を輸出してくれるので。

琴坂:そこの知識の媒体者として人を取って、組織に吸収していくという。

福島:テレビ広告打ちたいんだったら電通の人を取るのが一番安上がりで、情報差分もなくなると思うんですよね。

琴坂:今の採用環境っていかがですか? 福島さんとLayerXがあって楽な部分もあると思うんですけど。

福島:マクロに見るとベンチャーに対する寛容度はどんどん上がってきてるので、まず大前提としてこの領域に来たいと思う人は増えてると思いますね。別に僕らみたいな産業に関わらず、スタートアップの中にももっといろんな産業があると思うんです。そこに対しての挑戦の寛容度もいろんな人の中で上がってきてるんで、10年前より採用は楽になってると思います。

琴坂:それでも福島さんが最初Gunosyを立ち上げてまたゼロから独立していくという中で苦労はされませんでしたか? (LayerXは)ハイプロファイルな方がいないと回らないビジネスモデルだと思うんですけど、どうやって説得されましたか?

福島:基本的には僕が考えていることをしっかり話す感じですかね。「なぜこの産業にかけるのか、その意味は何か」とか。多分そのハイプロファイルな方って給与とか条件とかで動かないという感覚があるんですね。僕の中では。

メルカリにいる人に「すごいtoCサービス作ろうしてるんすよ。来て下さい」と言っても多分何も響かないじゃないですか。メルカリは日本で一番成長したtoCプロダクトで、彼らよりも大きいのはLINEとYahooぐらいしか残っていないので「そこに行くか違う道に行きますか?」くらいの選択肢だと思うんですよね。そういう人に、「いやいや、実はDXという文脈がありまして、ソフトウェアがこうやって産業を食ってくんです。これが日本のこういった課題を解決していくんです」みたいな意味付けとストーリーを話すと来てくれるチャンスがある。

自分の会社のことなので、やっぱり始める理由があるわけじゃないですか。自分なりに事業にかける理由をストーリー立ててしっかり話していくというのが採用の基本かなと思いますね。意味がない会社には来ないですよ。

琴坂:それでもう全部行けますか? それともその先に何かあるのか、ビジョンが重要でそれがファウンデーションになるといろんな方がおっしゃってますけど、その先に何か最後の一押しになるようなスパイスってあるんでしょうか?

福島:タイミングじゃないですか? 全ての会社において、「採用したい人」ってかぶるんですよ。人気者は絶対かぶる。しかも、それって採用する側だけではなくて会社として引き止める側もいるわけです。

だから僕らは、経営陣が採用に関してはコミットするというのと、メンバーも一定時間コミットしていて、全体でも2割ぐらいはAクラスの人、Sクラスの人連れてくるために動いている。その上で半年とか1年かかる人もいるので、ずっと声をかけ続けます。

琴坂:福島さんの考えるAクラスSクラスの人材ってどういう人達ですか?

福島:一言で言うと「会社の未来のリスクを潰してくれる人」。たとえば僕らの会社で次のフェーズに行くと「アクセンチュアに対してどう勝っていくの?」とかを考えないといけない。開発資金もらいながらレベシェアみたいな美味しい状態ってそんな続かないと思うんですよ。

僕らは今希少な存在ですけど、DXできる会社、ブロックチェーンを使える会社は増えていくと思うので、そうすると競争にさらされるわけじゃないすか。100人ぐらいになるとそもそも組織の問題が起こってくるとか、資金調達ある程度大きな額しちゃってるので、ここで緩めちゃうと緩んだ組織文化が作られちゃうとか、普通に想定できるリスクっていっぱいあると思っていて。

あと、アカウントを開けるためにトップ営業をしなきゃいけないんだけど、トップ営業ができる人っていうのは、やっぱりマッキンゼーとかボスコン、キーエンスで経験してきた人。僕らはそういう経験してないので分からないから、そういうDNAを取り入れるみたいな。

会社の成長のボトルネックってあると思うんです。toCのプロダクトみたいなものを考えるとすごく分かりやすいと思います。シード終わりました、プロダクトマーケットフィット終わりました、の後にマーケをガン踏みしたとき、マーケティングが本当に上手い奴が1人いるかいないかで効率って2~3倍変わるんですよ。本当にそれぐらい変わるんです。その1人がいるかいないかで、10億円ぶっこんだ効果が2~3倍に膨れ上がるかどうかが決まっちゃうんで、そういう人がいないとまず駄目ですね。

あとそういうユーザーの増やし方をすると、サービスのインフラが絶対持たなくなるんですね。だからトラフィックをさばいた経験があるやつが必ず必要になるわけじゃないですか。次はある程度ユニットエコノミクスを確かにするためにマネタイズの方法を考えなきゃいけない、広告なのか課金なのか。それも経験している奴がいるかいないかで、冗談抜きで多分100倍ぐらい変わると思うんです。

堀:今までってGunosyだったじゃないですか。だからコンシューマー系のサービスでグロースできる人、必要な人採りに行くというところで、Yahoo!だったりスマニュー、LINEで働いている人に声かけてアプローチしたりとかはあったと思うんですけど、LayerXになったらエンジニアは別として、今までのご自身のネットワークがほぼ活かせないような気がして。福島さんがキーエンスとかボスコンの人と元からネットワーク持っていたような気がまったくしないんですけど(笑)、その辺ってどうやって構築されていったんですか?

福島:基本的には紹介でやっていくという感じです。

堀:ヘッドハンター、それとも友人?

福島:両方ですね。あとはやっぱりそういう人が1人入るとまたネットワークって広がるじゃないですか。そんな感じで採用もネットワーク的に考えてます。だからPRはめっちゃ頑張っています。それで言うと、そういう人たちが興味を持つ、申し込みたくなる、話を聞きたくなるような文言、タイミング、見せる角度を徹底的に考えてます。採用とかPRもある種のマーケティングだと思っているので、めちゃくちゃハックしにいきます。

堀:それはTwitter普段のつぶやきとかも結構関係しているんですか?

福島:結構狙ってますよ(笑)。全然考えずつぶやくときもありますけど。

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すべてをシステムとして機械的に動かす

(質問)stand.fmにて「経営者がやるべきは、リソースを投下した時、その課題が解かれた時に、最も企業成長のボトルネックが解かれて成長が円滑化することに時間を使うこと」と仰っていたと思うのですが、そのボトルネックの特定のために普段何を見ていますか? また優先順位づけの基準を教えていただきたいです。

福島:常に会社を構造で捉えてます。定量的に把握できるところとできないところがあるんですけど、会社がどう成長しているのかドライバーを整理しておく。経営者ってボトルネックになっているところを把握できると思うんですね。どういう要素があって、どういう変数があって、ここがこうだとこう動くはずだみたいな仮説と検証みたいなところでズレとか差分を繰り返す。

たとえば僕らのビジネスだったら、法人営業かけなきゃいけないですよね。法人営業をすごい広い視点で見ると、顧客のファネルがあって、リード獲得にはPRでインバウンドで取ってくるのと、こっちからプッシュするのと、その間ぐらいでセミナーとかを開いて取れるのと…みたいな図があるわけです。それがまず次の一発目のミーティングに行く確率。その後何回か営業していて最終的に案件として成立するまで、それも一緒の顧客ファネルがあるわけですよね。そういうのを1個1個分解していって、何が足りてないのかを常に考えておくべきかなと。

自社のビジネスの構造をしっかり理解してどういうファネルで、そのファネルにどういう要素があって、その要素を変えたときに良くなったか悪くなったかというのを、科学的に完璧にやりきるっていうのは難しい。ですけど、本当に僕らの会社だと「えっ?」っていうぐらいのスピードで朝令暮改とかしてて、営業資料とかも同じ営業資料は使わないぐらい毎回換えたりしています。

琴坂:すべてを構造化して因数分解して、センスを必要としない経営をクールにしてるようにしか聞こえないんですけど、逆に言語化できなかったり科学的に分解できなくてエモさで勝負してる、意思決定するときとかはあるんですか?

福島:基本はそういうの徹底排除が僕のスタイルです。ただ、その上で言うとサービスとかの基本って、「そのサービスがあることによって世の中が喜んでいるという状態」だと思うんですよね。やっぱりそれを考えるのにはエモさが必要ですよね。ただ1回決めた後は、徹底的に合理と冷徹な意思決定で決めていくべきで、機械的にすべてがシステムとして動くようになれば必ず成功すると僕は思っています。

「機械的に」というのは「起こっている事象を観察して事実をもとに動く」ということだと思うんです。どうしても「統計的に1,000人に聞いてこれぐらいの反応が返ってきて…」とか、そういうのを想像しちゃうんですけど。1人の顧客が熱狂しているとか、めちゃくちゃ営業とかしていても、めちゃくちゃドン刺さりするものと刺さらないものって話してたらわかるんですよね。相手の反応とか事実に対してめちゃくちゃ誠実に動き続けるということかなと思っているんです。すべてを統計的に判断しているわけではなくて、ただ観察はめちゃくちゃしているという話です。

堀:人の採用する時とかパフォーマンスはすごく見られてると思うんですけど、そのときも(エモさを)徹底排除しているんですか? この人見ているとクスって笑っちゃうなとか、この人といると楽しくなりそうだなとかいう。

福島:実は僕は採用の判断をしてなくて、僕の役割は口説くことだと思ってるんですよね。上がってきた時点で結構いいなと思っちゃうんですよ(笑)。そういうのも含めて役割分担かなと思って。メンバーでシビアに人を見れる人とか、それこそ最近弊社に入社した石黒とかも含めて、人数めちゃくちゃ見てきているのでそこは全幅の信頼を持って任せる代わりに、口説くところは僕がコミットしてやります。

琴坂:科学的、数値、実験というと定量的とか統計的だと思われがちだけど、そうではなくて、目的に達するに必要なエレメントをちゃんと構造化して、それをひとつひとつ丹念に見て潰していくという作業があると。

福島:そうですね。

琴坂:そこにはエモいというか、経営者からの熱い情熱を語るみたいなものももちろんエレメントとして。

福島:そうですね。

堀:…福島さんには欠点とか弱みがないですね。

福島:ありますよ。

琴坂:何ですか?

福島:弱みというか、LayerXのリスクはいっぱいあると思いますよ。それが弱みな気がします。ひとつはやっぱり「わからない」というところですかね。どういう入り方で、どういう営業メッセージで、どういうプロジェクトの進め方をしていくといいのかとか。

あと、僕らはデジタルトランスフォーメーションという言い方を結構意識してるんですけど、トランスフォーメーションじゃなくてデジタルスクラッチの方が早いんじゃないかみたいな。Amazonみたいな会社がゼロから銀行を作っちゃう方が早い可能性があるんですよ。根本的な戦略の筋で負けている可能性はあるわけで、そういうのってどんなに努力して頑張っても抗えなかったりとか、そういうところはありますよね。

琴坂:DtoCも同じように言ってる人はいますよね。ダイレクトトゥコンシューマーを前提に設計されていくものに、すでにあるものをコンバージョンしていくプレイヤーは勝てないと。

福島:LayerXはスクラッチで作るのが難しいところを意図的に狙ってますけど。

琴坂:そこはあえて避けると。

福島:そうですね。そういう負け方をしないような業界をしっかり選んで、その上で時間がかかってもいいから本丸の人たちにデジタル文化を輸出していくみたいな。

LayerXが朝会を開く理由

(質問)受託は個別性が高くエンジニアが疲弊するとよく聞きますが、エンジニアの扱いはどうされてますか?

福島:そこは案件次第というか。LayerXの仕事って今のところはクリエイティブの仕事なんですね。疲弊する仕事で典型的な物って、まず何か自分たちがアンコントローラブルな状態で仕様が決まってて、それに対して人月をはめるだけの仕事です。しかもその仕様が結構ひどくて、下流の工程の人が苦しんで、めちゃくちゃ頑張ってカバーするみたいな。出戻りが発生して本質的には赤字なんじゃないかとか。そういう類の受託は結構キツいかなという。僕らは前工程から設計してたり、ワークフロー全体を変えようとかしているので、あまり疲弊する感じはしないですね。

堀:ちなみに、どんな感じの社風なんですか? 外から見てるとまったく見えないんですけど、みんな黙々とクールにやってる感じなのか。

福島:ウチの広報を手伝ってくれた子がいるんですけど、その子がTwitterに「すごいクールなイメージかと思ったら、朝会で『アニマル!』って叫んでるやばい集団だ」って書いてて。毎日朝会やってて、会社のバリューを叫んでいるんですけど、その中にメルカリのGo Bold的な感じで、「Be Animal」という標語があって、みんな叫んでるんですよ。…それだけ聞くと入社したくなくなると思うのですが(笑)、そういう面もあるよという。むしろ結構ウェットな感じですね。

琴坂:それは世間一般のイメージとズレてるところがあるかもしれませんね(笑)。

福島:良いかどうかは置いといて、そういうの僕は結構好きですね。結構ウェットですよ。最近だと、新入社員とかも含めてなかなかオフラインで会えないじゃないですか。なので、Zoomで新入社員歓迎会みたいなのをテスト的にやってみて、ブレイクアウトルームをうまく使ってやったりとか。

社内でもオンボーディング制度みたいな、社内メンターみたいなのを偉いとか偉くない関係なくつけて会社の文化を早く知ってもらうとか、文脈を早く知ってもらうために入社前からオンボーディングもかなり頑張っていたりとか。入社決まって入るまで3〜4ヶ月空くケースあるので、2週間に1回、最初の方は僕とか役員レベルが戦略とか会社の文化とか話して、アサインされそうなプロジェクトとかあれば、そこのトップとかメンバーが進捗をNDAとか結んだ上で共有していくとか、そういうところはかなりこまめにやってます。

起業家はフィードバックサイクルが極端に短い

琴坂:完成された起業家の話をこうやって聞いていると、自分たちはなれる気がしないと思う人がたくさんいると思うんですね。何が成長の契機、成長の糧だったんでしょうか? 

福島:自分自身が競争にさらされたことかなと思ってるんです。やっぱりこのスタートアップの世界ってサボれるわけですよね。自分でコントロールできるから、サボってもいい。ただサボっただけ、将来倍になって自分に自己嫌悪含めたダメージが降りかかってくる。起業家ってすべての時間を自分でコントロールできるわけじゃないですか。でも必ず結果って形で明確に現れるわけです。1年後2年後とかに今やっていることの結果が。それも客観的な指標で、時価総額とか売上とか利益で出てくる。自分で決めたことに対するフィードバックサイクルがものすごく早くて、(競争に)さらされてるなという感覚があります。

琴坂:その繰り返しが一番の成長だったという。

福島:そうですね。社員も自分を見てるわけじゃないですか。そういう中で社員に転職とかされると悔しいわけです。でもよくよく考えると自分が悪い。相手が悪いわけではなくて、自分に魅力がない、自分の会社に魅力がない、いるフェーズで意義を説明しきれなかったとか、いろいろあるわけですよね。

琴坂:人、機会、本など、これで自分は成長したというのはありますか?

福島:スタートアップというプロセスすべてで成長したなと思いますね。フェーズごとに。

堀:(本の中の)組織運営のところで、メルカリの小泉さんはmixiでの学びがあったからこそメルカリに入った際に企業文化、ミッションバリューにすごい気合入れたって話がありましたけど、GunosyからLayerXになってからのポイントってありますか?

福島:本当に1回目のスタートアップの人がそうすべきかという話はいったん置いておいて、知っていることによって避けられるリスクってあると思うんですよね。小泉さんみたいにデカい組織を何周もやっている人間からすると、「このタイミングで絶対組織崩壊するから、そこでミッションバリューがしっかりしてれば崩壊しない」とかも分かるわけです。メルカリって多分そういう人の集合体だったので、そういうのを前もってリスクだと認識して潰していた。

でも、1回目ってそれはリスクとして認識できないんで潰しようがないと思うんです。エンジェルとか取締役とかにそういう経験豊富な人を入れてあらかじめ潰す、みたいな方法はあるかもしれないですけど、小泉さんクラスの経験がある人ってそんな採用できないですから。

琴坂:前の経験の学びから勘違いしたとかってないですか? スタートアップは当然一社一社違う。前の学びを生かしてみたら今度は通用しなかったみたいな。

福島:スタートアップには情報がデジタルで完結するような会社特有のスピードってあると思うんですよね。プロダクト改善サイクルとか。そういうのが、やっぱり今やってる世界ではないので、それをやりたいとか、そこの正論を通そうとして煙たがられるみたいな話はありますよね。僕らが絶対善だと信じているものが業界によっては善ではないと。それが善であるということを説得しなきゃいけない。

堀:toCよりもtoBだからそこは違うと。

福島:同じやり方をしても別にうまくいかないなと思いますね。そういう意味で考え方めちゃくちゃ変えてます。最近だとリモートワークとかそんな肯定的じゃなかったんですけど、今回2ヶ月ぐらいやってみて、正直自分間違っていたなと思いましたね。それ含めて色々間違った事してるなという。

琴坂:間違っているって気づいて、すぐ変えるというスタンスですか?

福島:それはすぐ変えますね。

堀:福島さん、今日の番組のために500ページの本を一気読みしていただいたという。

福島:ちゃんと読んではいたんです。ただ、第5章だけちゃんと読み終わらなきゃなと思って読みました。

堀:僭越ながら、ご自身の出ているところでも構わないので感想があったらください(笑)。

福島:いいですよね。それぞれの人が「当時はこういう考えをして意思決定をしていたのか」というのをすごく感じられて。正解はひとつじゃないし、いろんな考え方があって。僕自身が絶対善だと思って意思決定していたことってひとつの経路でしかなかったんだなというのは改めて客観的に振り返れましたね。

堀:誰のどの話が一番面白かったですかそうですね?

福島:フリルの堀井さんですかね。最後のアンケートのところで熱いメッセージを書いていて、それが起業家としての強さだなって思いました。堀井さんとしてはめちゃくちゃ悔しいと思うんです。だって自分たちが(フリマアプリの分野で)先行していて、時価総額5,000億になれたかもしれなかった。しかも、別にプロダクトの質とかで負けてはいなかったと思うんですよね。経営の力で負けたという経験が、後に彼をものすごい起業家にすると思う。

琴坂:「逆にこれ違ぇーだろ」「ここはちょっとなー」みたいなのがあればご指摘いただければ(笑)。

福島:みんな結果出した人ですからね。個別論で間違っていることがあっても、些細な話ですよね。

スケールするビジネスの裏側を選ぶ

(質問)売上100億ぐらいはSIビジネスでもすぐ行きそうですが1,000億はかなり時間かかりそうなイメージです。10年20年かけてやっていくイメージですか?

福島:これは結構エグくていい質問ですね。確かにその通りだなって思います。僕の中で一応試していることが何個かあって、スケールするビジネスの裏側を選べれば一緒に伸びていくんです。

たとえば皆さんレガシーと思っていると思うんですけどNRI(野村総合研究所)ってセブン&アイ・ホールディングスがまだ全然デカくない時にレベシェア型で裏側の保守システムとか全部作って、売り上げの3分の1ぐらいをセブンで作ってるんです。3分の1は言い過ぎだったかな? 彼らの場合もともと野村證券の子会社から始まってるんで金融領域、証券会社領域が3分の1、小売が3分の1、その他3分の1みたいな感じで、小売3分の1っていうのを作ったのはセブンに賭けたみたいな。僕らもどっかに投資家的発想で賭けるみたいなところはありますね。

琴坂:波にすぐ乗れる場所に待ってるというか、大きなところに参加するにはそこにすぐ乗れるようにずっと見てる必要がある。そこにいるからこそ波が来たときにすぐ入っていける…そういう状況なんですかね?

福島:そうですね。あとどっかでリスクとってますよね。さっきの質問の通り、僕らみたいなやり方だと100億までは早いけど、その規模で結構どん詰まりになる可能性はなくはないと思います。

琴坂:あるタイミングでもっとリスクを取りたいということですか?

福島:実はもう取ってます。アセマネの会社とか自分たちで資本的なリスクを取って作っているんです。ちょっと新しいSIerモデルとかを作りたいなと。要はSIerってシステム納品して終わりなんですけど事業を持つSIerみたいな感じでスケールしていけないかなと思ってて、もしそれが当たったら売上1,000億はいけると思うんですよね。

琴坂:それはいつ頃でしょうか?何年ぐらいで?

福島:10年20年かかると思います。

琴坂:LayerXはどこかに終わりを設定しているのか、それともどこまでも行くというビジョンなのか、LayerXの到達点を見つめられてますか?

福島:分かりやすい指標で世の中のEC化率みたいなのあるじゃないですか。日本だと大体5から7パーぐらいかな? もっと大きく見た時に経済のGDPってあるじゃないですか。それのデジタル化率って何パーセントですかね? これが100パーセントになったらLayerXの挑戦は終わりかなと思います。つまり、終わらないということです(笑)。

堀:何歳ですか?今。

福島:32歳です。

堀:終わらないですね。あと40年は続きますね(笑)。

福島:それぐらいまで競争力を保ってやっていきたいなとは思っていますね。40年間とか50年間とか。人生100年時代、100歳まで現場にいられるような。

琴坂:挑戦し続けるわけですね。ありがとうございました。ではそろそろ閉じていこうと思います。

次回はfranky株式会社の赤坂さんです。この『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』は本当に学びが多い本ですので、皆さん是非読んでください。それをもとに新しい世界を作っていけるといいんじゃないかなと思っています。

今日は福島さんをゲストにお送りして参りました。今日も貴重なお話ありがとうございました。この本を早く買わないと入手困難になっちゃいますよー? ぜひ手にとってください。よろしくお願いします。

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後日、福島さんより以下のツイートがありました。

『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』書籍のご案内