線香花火が灯した”ブランドストラテジストへ”の道標
NewsPicks NewSchoolのブランド・ストラテジープロジェクトでは、講義の合間で課外活動が活発に行われている。活動の中心となるのは、有志により結成されたプレイング・ファシリテーター達。講師の工藤拓真さんを巻き込み、講義の理解を深めるスピンオフ勉強会や自社課題を検討する朝活、オンライン飲みなど数々の場が企画運営されている。そのメンバーである弥永拓也さんは、常に新しいアイディアにあふれ、確かな実行力で数々の提案を推し進めてきた。
現在、パナソニックのモビリティ事業開発チームに所属している弥永さんは、アイディアマンであり、推進者でもある。これまでどんな経験を積んできたのだろう。
そしてブランド・ストラテジープロジェクトを経た彼は、今何を見据えているのだろう。彼のこれまでとこれからを聞いた。
きっかけは線香花火
学生時代は当初、建築設計を専攻していた弥永さん。大学4年時に、地方のモノづくりの稼ぐ力を作る地域ブランディングへと興味の対象が移り、「地方創生事業とデザインの関係」をテーマに研究を行った。
彼は研究対象として「九州ちくご元気計画」という地方自治体の地方創生事業を選定した。福岡県筑後地方のモノづくり事業者のところへデザイナーを派遣し、商品の広告やパッケージの開発を行うことで商品力を磨いていく活動である。
例えば、福岡県筑後地方には「筒井玩具花火製造所」という、日本にわずか三カ所しかない国産の線香花火を製造する企業がある。現在私たちが手に取る線香花火はほとんどが実は中国産である。国産のものは大変希少価値が高く、その火花に宿るはかなくも強い美しさは独特のものだ。しかし、その企業は商品の魅力を十分に伝えきることできずに、当時、販路開拓に困ったいた。そんな線香花火がデザイナーによってパッケージが一新された後、とある見本市へ出展すると、これまで線香花火を扱っていなかった感度の高いショップからの引き合いが来るようになっていった。
この事例から、彼はブランディング可能性とその魅力に目覚めるようになった。同じ頃に彼の叔父が福岡県の田舎でカフェを開業するという出来事があり、この機会をブランド開発への挑戦と捉え、カフェのロゴづくりを担当し、無事にそのネーミングとデザイン、そして商標登録を完了させた。
ブランドづくりの面白さを知るきっかけとなったこの二つの経験は、後にパナソニックのコーポレートブランディングという仕事に繋がっていった。
一つのブランドに”深く長く”関わりたいという思い
パナソニックでは、入社して直ぐに、グローバル展示会の担当者として、世界的にもインパクトの大きいCES、SXSWやCEATECといった展示会の自社ブースの運営・企画を担当した。そして、パナソニックの一つの節目とも言える創業100周年記念イベントも担当することになった。出展する展示会のテーマに合わせて、社内から様々な活動を収集し、発信する形へ仕立てるという仕事は、世間の反応を見ることができるという点で非常に充実していたものだった。しかし、その満足感とは裏腹に異なる思いが芽生えていった。
「展示会の発信は、どうしても一過性のものになってしまう。何かひとつ、ゼロからブランドを作ることができるプロジェクトに携わりたい。」
心の中で燻っていたその思いを上司へ伝えたところ、2020年4月、立ち上がったばかりのMaaS(Mobility as a Service)関連のサービス開発を行う部署のコミュニケーション活動を担当することになった。
業界的にもトレンドとなっているMaaSに対し、パナソニックにとってBtoBモビリティサービスの事業開発にチャレンジするタイミングでもあり、念願のゼロからのブランド作りを担当できることになったのだ。
NewsPicks NewSchool へ
弥永さんは二つの目標を持ってNewsPicks NewSchoolのブランド・ストラテジーの受講を決めた。ひとつは、社外のコミュニティに入り新しい視点を取り入れること。もうひとつは、ブランディングについて語り合える仲間を作るということだ。
「社内には、様々なメディア発信のプロがいる。ただ、上位レイヤーから俯瞰してブランドを見れる人は少なく、これから必要とされていくのではないかと思いました。ブランディングって点ではなく面だと思うんですよね。そういうことを議論できる仲間が欲しくなったんです。」
大企業ならではの縦割り組織の中で社内の様々なテーマを扱ってきた経験上、「面で考えるブランディング」の必要性を感じるようになったのだ。
BeforeとAfter
NewsPicks NewSchoolブランド・ストラテジーのクラスでは1週間ごとの宿題として、比較的重量感のある課題が提示された。さらに平行して最初の1ヶ月間は、5人1組のチームで実際の企業へ提案するという課題もあった。
特にチーム課題は、企業の担当者相手に実際にプレゼンテーションすることが最終形態のため、プロジェクトで学んだこと以外にも様々な理論武装をする必要があり、各チームとも悩みながら走り続けた。
プロジェクトでは常に、ブランドのBeforeとAfterを明確に言語化することが求められた。これは、ブランド・ストラテジーの基本のキであり、ここが響くプレゼンができなければ何も動かず何もなし得ない。
一般的に、職業や考え方の習慣によって何となくではあるが自身を「右脳的」「左脳的」と分析したりする。ブランド・ストラテジーでは、主に「右脳」は0→1のアイディアを考える際に大きな力を発揮する部分、「左脳」は1→100とするマーケティングの能力を発揮する部分となる。
彼自身は、これまで自分のことを左脳派と思っていたという。しかし、プロジェクトでの右脳と左脳の行き来作業を嫌になるほど繰り返すことで「数字に対しての弱みがわかった。もっと鍛えないと・・・」という心境に至ったようだ。弥永さん自身のBeforeとAfterの顕在化だ。
そこで早速、自部署の課題解決の一助にプロジェクトで学んだことを応用し、新たなツールや仕組みを提案したのだ。ただの反省で終わらせず、次のアクションを見据えてポジティブな感情に変換するところが弥永さんらしい。
ブランドと今後どう付き合っていくのか
「自分が専門としている新規事業(0→1)と既存事業(1→100)では、ブランディングの考え方が異なるということを学べたのは、自分にとって重要な気づきだった」と弥永さんは言う。
「右脳と左脳のバランス」という言葉を取材中幾度となく口にしていた。たまたま取材時に居合わせたチームのメンバー曰く、「バランスがとてもいい人」だそうだが、「それってつまり、平均的ってことじゃない?」と笑って返す弥永さん。プロジェクトを経て自分、そしてブランドと向き合ったからこその仲間とのやり取りだ。
「自身の長期キャリアにおいてブランドというのは大事な要素。今回の受講を通じて、1→100のブランディングにも興味が湧き今後のキャリアの選択肢が広がった」
新規事業と既存事業のブランディング、どっちのプロになるべきか。ブランド・ストラテジーを受講して見えてきた新たな課題だ。
また、彼は自身のルーツも忘れてはいない。
「ベースとしてはデザインをやってきた学生時代もあるので、クリエイターマインドを持ちつつもストラテジスト、プランナーになりたいのだということに気づいた。」
過去と現在をつなげ、アップデートした形で進む。新たなキャリアを重ねるため、ブランド・ストラテジーの講座を経た弥永さんは、自分にしかできないブランドストラテジストを見据えて、次の仕事へ挑む。
(文:木村真衣)
NewsPicks NewSchool第2期
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