きっかけは家族の病気。ひとりの医師の立場を超え、 都市と地域をつないでいく
ローカルプロデュースプロジェクトを受講中の宮地 紘樹(みやち ひろき)さん。静岡県掛川市で地域医療に携わる宮地さんは、NewsPicks NewSchoolで何を得ようとしているのだろうか。
宮地さんは居酒屋バイトと海外バックパッカーを経て2004年に医師となる。10年間外科医として武者修行したのち、訪問診療医に転身した。
訪問診療医とは、病院に通えない方が自宅で自分らしく過ごすためのサポートを主にする医者だ。
現在は、世界で最も高齢化を迎える日本の現状を解決すべく、東京と静岡県掛川市の2拠点生活を開始し、医療、Aging、多拠点生活、シェアリング、旅行、カメラ、コミュニティなどを興味の軸として、都心と地方、日本と海外の枠を越えて人や文化を交流させている。
家族の病気が教えてくれたこと
宮地さんは、今、掛川市と東京の2拠点を軸に地域医療に取り組んでいる。なぜ、外科医から地域医療、しかも、2拠点という形にこだわって取り組むことにしたのだろうか?
外科医から地域医療へのシフトチェンジのきっかけとなったのは、妻の病気だった。妻が血液の癌になってしまったのだ。
宮地さんのこれまでの生活は一変するー
「今まで、自分が一家の大黒柱として稼いでると言う自負もありました。でも、妻がそんなことになって、結局、今までバリバリ仕事出来てたのも、妻が支えてくれていたおかげだった。ひとりでやれてるわけじゃなかったことに気がつきました」
外科医は、どうしても病院に貼り付きになってしまいがち。宮地さんは妻の病気をきっかけに、自分がこれからの人生、何を大切にしていくべきなのか改めて考え直すことになる。
「いくら仕事が出来て、たくさん稼いでも、家族がいなくなっちゃったら、意味が無いですよね」
幸いにも妻の病気は、寛解。しかし、妻の病は、宮地さん自身の生き方にも大きな変化を与えた。
向き合わざるを得なくなった幸せの意味、人生の意味。仕事中心の生活から家族との時間を大切にできる仕事の仕方へとシフトチェンジすることを選択する。
日本の地域医療の課題に向き合う
そうして、 見出した医師としての新たな道が、地域医療である。
なぜ地域医療? と尋ねると、外科医に比べると時間をコントロールしやすいと言う面と、少子高齢化の進む日本のなかで、地域医療が直面している課題が彼の口から飛び出した。
「これからどんどん亡くなる人の数が増え、2030年には、2010年と比べ40万人も比べて多く亡くなってしまいます。ただ、病院のベッド数は変わらず、このままだと死に場所が無いような状況になってしまいます」
特に地方では高齢化も進んでいるため、さらにこの問題は深刻だと言う。そんな地域医療の課題を解決していきたいとの思いから宮地さんが飛び込んだのが、東京から新幹線で約1時間半程のところにある静岡県の掛川市である。
「病院が地域のハブになるコミュニティホスピタル。これをまず掛川市で実現してみよう」
「以前シンガポール視察で見たコミュニティホスピタルの機能が、日本にも絶対必要になる」とここ数年頭から離れなかったのだ。
しかし、都会の人が理想を抱いて地域に行ってぶつかる壁もあるだろう。宮地さんにもそういったことはなかったのだろうか?
宮地さんは
「掛川に行く前に、いろいろな地域に視察に行き話をしました。その中で”こんなシステムを導入したい”といった話をしてみたのですが、こちらはすごく良いと思っていても地域側の反応はイマイチだったことが多くありました」
「どうも、”理想論だけではうまく進まないぞ”ってことは、実際に現地に行く前にある程度理解していました」
と言う。
ただ、医療専門職だけが集まる病院の中の世界と、その外の世界は大きく違うことを日々感じていると言う。
「例えば、地域の住民にとっては、自分が子供のころから診てもらっているクリニックのおじいちゃん先生に、子供も診てもらうようなあり方が慣れ親しんだ形だったりしますよね。そこに、自分が週に数日やってきて、こういうシステムを使えばいつでも相談できますよって言ってもすぐには受け入れてもらえないし、必要性も感じてもらえない」
「住民の人の目線になって何が困っているのか、何を望んでいるのかをしっかりヒアリングし、自分から歩み寄って受け入れてもらわないと何も機能しません。どんなに素晴らしいシステムでも現場には落ちていかない」
それでも、地道に話をしたり、実際に使ってみてもらったりということを続けることで、確かな手ごたえは感じつつあるという。
地域医療の課題を理解しているからこそ、宮地さんは地域にどうしたら受け入れてもらえるかを日々試行錯誤している。
2拠点居住という形にこだわっているのも理由がある。地域の課題解決は、それぞれの地域に任されている。しかし、実際にはそのリーダーシップをとれる人材がいる地域は多くはない。
2拠点居住という形で都市の人材が地域に関わり、地域の人材不足を解決する糸口を作ろうとしているのだ。
宮地さんはひとりの医師と言う立場を超えて、都市と地域をつなぐ新たな地域医療のカタチを模索している。
新型コロナでままならない事もあるものの、オンラインでつながることで、より幅広く地域のプロフェッショナル同士がつながるきっかけにもなった。
そんな思いを持った宮地さんが飛び込んだNewsPicks NewSchoolでは、医療×地域コミュニティの実際を学び、掛川市で持続可能な地域のあり方を実現したいと考えているという。他の地域で活躍しているメンバーとの知見共有をすることで、さらにプロジェクトを推進していくことを目指している。
まだまだ、宮地さんのプロジェクトの道のりははじまったばかり。ただ、そんな地域医療の未来を担う彼を家族が確かに支えている。
(2020年8月 文:おぐちあやこ)
宮地 紘樹さんについてさらに詳しく知る→みやちひろきnote
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