進学を決意した時の思いを振り返る
この記事は九州大学大学院医学系学府保健学専攻に進学した私の、PhD studentになる上での決意や動機を振り返ることを目的とした記事です. 温かい目で見ていただけると幸いです.
はじめまして. 九大保健学専攻の本田と申します. 私は現在、長崎県の臨床現場で診療看護師(NP)として活動しながら、2022年度より福岡県(長崎県からバスで2時間半くらい)にある九州大学大学院で学びを続けています. 2022年度に九州大学大学院医療経営・管理学専攻に入学、2023年度(2024年3月)に修了し、MHAの学位を取得することができました. その後、ある決意を胸に、2024年度(2024年4月)に同大学院保健学専攻に入学しました. 今後、おそらく4年間くらい社会人学生として修行の日々となります. この修行期間の支えになるよう「MHA修了(2023年度) から、PhD student(2024年度前期)になるまでの思いなどについて」記録に残しておきたいと思います.
*MSN ( Master of Science in Nursing: 看護学修士)
*MHA(Master of Health Administration: 医療経営・管理学修士(専門職))病院などの医療機関の経営や組織マネジメントを専門とする学位課程で、医療版MBAとも呼ばれている.
*PhD(Doctor of Philosophy : 博士号)
自己紹介
私は、長崎県で生まれ育ち、学童期を長崎県の離島で暮らしました. 人懐っこい性格と看護師である母親の影響で看護師という仕事に興味を持ち、「生まれ育った長崎県の住民に貢献(離島と本土の架け橋となる)すること」を目標に看護師になりました. 看護学生の時に、🇦🇺で怪我をし、その際に診察してくれた看護師がナースプラクティショナー(NP: Nurse practitioner)でした. そのような運命的な出来事をきっかけに、2006年頃から諸外国のNPについての個人的な探究を始めました(当時の日本にはNPの情報はほとんど見つからず). その後、NP資格取得を目指すために米国への留学を検討してしていたころ、2011年頃に日本でNPを養成する試みがあることを当時の所属長, 看護部長より話があり、2012年度に日本でNPに関する学問の探究とNP資格取得を目的に東京にある大学院(NP養成コース)に進学しました. 2014年3月に看護学修士 (MSN)とNP資格(一般社団法人 日本NP教育大学院協議会の定める認定資格)を取得. その後の2年間(2014-2016年)は、急性期から慢性期、新生児から高齢者まで幅広い分野の医学知識を習得するため、初期臨床研修医の先生方と共に、救急科6ヶ月、総合診療科6ヶ月、小児科+新生児科NICU6ヶ月、形成外科1ヶ月ローテートをしました. 2016年に脳神経外科(脳卒中領域が主)に所属し、離島を含めた地域住民への貢献をビジョンとした臨床実践(離島患者の帰島支援など)を担ってきました. 2018年には、離島医療の実情を肌で感じるために、長崎県の離島(高齢化率約40%)に移住し、内科・在宅ケア領域で経験しました. この経験が、現在の私の長崎県の住民(人々)を対象にした活動の動機になっています. 再び長崎県の本土の病院に復職し「離島と本土の架け橋」を目標とした実践を行いながら、日本NP学会副理事長、日本看護系学会協議会(JANA)のAPN制度推進委員会委員として日本全国の診療看護師(NP)、高度実践看護師(APN)の制度推進に向けた活動、さらに研鑽を積むためリスキリングにも励んでいます.
*APN(Advanced practice nurse: 高度実践看護師)
九大MHAプログラムで培った総合的な医療知識
九州大学のMHAプログラムは、2017年までは公衆衛生学修士(Master of Public Health: MPH)の学位を取得できるプログラムでした. このため、医療経営や管理学に加え、医療従事者や経営者、研究者に必要な公衆衛生の知識(疫学、環境保健、分子医学など)を幅広く学べる点が大きな魅力でした. 以下に示す通り、本当に医療全般の知識が学べます.
私は、M1(修士1年)の前期に、外科学、内科学、分子医学概論、医療政策学、医療財政学、医療管理学、医療コミュニケーション学、医療統計学、医療行政学、医療経済学、社会保険労務論などの単位を取得. 後期には、医療経営学、疫学、環境保健学、病院会計学、医療分析学を学びました. また、医療安全管理論、医療マーケティング論、医療オーガナイズ論、医療財務管理論、疾病管理学、衛生・公衆衛生学、人体構造・機能概論、病因論などの科目も履修可能でした. この実習では、学んだ知識を活かし、病院運営に関するディスカッションも行うことができ、非常に実践的な学びとなりました.
M2(修士2年)では、M1で得た知識を活かしながら、研究活動(演習)に取り組み、最終研究成果発表会(2024年1月)、そして学会発表(2024年3月)と修了月まで大忙しの一年間でした.
学びたいことを学び、充実した気持ちでMHAプログラムを修了!
そして、2024年3月、晴れて九州大学のMHAプログラムを修了し、MHA学位を取得することができました🎓 このプログラムに進学した主な動機を振り返ってみると「医療分野における多様な知識を学び、それを地元の医療に還元すること」「新たな医療提供体制の構築に必要な人材について深く考えること」この2つが大きな動機でした. この2つの目標に対しては、MHAプログラムでの学びを通じて必要な基礎を築くことができたと感じています. それが、私が充実した気持ちで修了できた!という思いの背景にあると思います.
+αの学び=学びの動機の芽生え
MHAプログラムで学ぶ意義とは?
医療分野で社会を切り拓ける人材になるには?
臨床家でありながら、研究に注力する情熱と保健学への探求心の高まり
また、医療従事者として、私たちが携わる医療提供体制は、通常の市場とは異なるロジックで成り立っていること、そして医療従事者の本来の目的が病気を治すこと、さらには病気を未然に防ぎ、健康な社会を築くことにあるにもかかわらず、現実には病院経営が患者の存在に依存しているという複雑な状況があることを大学院での学びを通じて再認識しました. 病気の予防やその発生メカニズムの探究は、"看護師"として果たすべき重要な役割の一つです. MHAプログラムを通じて、予防的介入の効果や意義、具体的な政策やケアのアプローチ、研究の重要性について深く学ぶ機会を得たことによって、臨床実践者<診療看護師(NP)>として、また研究者として、どのように社会に貢献できるかを模索し続けたいと考えるようになりました. この探究心の芽生えこそ、MHAで学んだ意義であったように思います.
保健学専攻 PhD(看護学)プログラムへの動機
臨床現場での経験を理論的に深めたい.
実際の医療現場で直面した課題を、研究の力で解決したい.
医療管理、ヘルスケア政策、疫学などの保健分野において応用したい.
自分の関心領域(予防医療、医療政策、離島医療、遠隔医療、診療看護師(NP)としての役割開発、高血圧、脳疾患 )と関連させた研究を実施したい .
社会全体への影響を視野に入れた研究の必要性を感じた.
医療経営、医療政策、臨床実践を横断するアプローチの重要性に気付いた.
上記に示す、思いや考えが在学中に頭の中を交差し、もっと時間をかけて研究をしたい、もっと学びたい. そう考えるようになりました.そこで、自分の学びのニードとマッチした同大学院の保健学専攻の門をたたく決意をしました. しかし、PhDとという学位、博士後期課程は、そう簡単に目指せることではないということを重々理解していたので、合格通知が届いた時は、数日間眠れず、悶々とした日々を過ごしていたことを思い返します. そんな私の様子を見ていた家族の「やるなら最後までやりなさい」の一言で吹っ切れ、最終的に進学を決意することができました. 家族の支え、理解がないと踏み込んではいけない領域であると改めて認識した瞬間でした.
(これからの挑戦)MHAでの学びと経験を、PhDプログラムの研究にどのように活かすか
保健学専攻D1(博士後期課程1年次:D1)の学びが始まってから、7ヶ月が経ちましたが、D1前期では、「ヘルスサイエンス論」「健康支援ケアシステム論」「国際プレゼンテーション論」を履修し、論文のクリーティークを通じて多彩な研究手法を学び、研究の実施や結果の考察の思考を醸成します. さらに英語で論文を執筆するために基礎(人に教えられるようになるためにもしっかり基礎から学びます)、さらに英語で研究結果をプレゼンできるよう学問だけでなく実践的な学びを経験することができました. さらに、臨床研究も目的をもって、自律的に進める必要があります.
私は脳神経外科で診療看護師(NP)として多くの患者さんを担当する中で、後遺症や経済的負担によって患者さんやご家族の生活の質が低下する現実を目の当たりにし、この疾患の予防に向けた対策が必要だと強く感じていますので、その課題解決に繋げるためのテーマを掲げ、公衆衛生学や医療政策、医療経済学などの学問を応用しながら、大規模データベースを活用し、予防的視点でデーターベース疫学研究を進めています.
研究の成果はこれからですが、嬉しいことも🏆
2024年10月13日に開催された「第46回日本高血圧学会総会」では、100万人を超える住民データを用いたデータベース疫学研究の成果を途中経過ではありましたが、発表しました. 本研究のテーマは「高血圧患者の受療状況と脳内出血発症との関連性に関する検討:LIFE Study」で、血圧管理が不十分な患者の脳内出血リスクを減らすことを目指しています. 幸いにも日頃の学びの成果が実り、若手研究者奨励賞 最優秀賞を受賞することができました!徹夜で研究した甲斐があった、長崎から頑張って通学してよかった、家族に良い報告ができる、そんな感情をいだきました. 最終選考時に拝聴した他の研究者の発表も非常に刺激的で、質疑応答を通じて多くの学びを得ることができました. これからもこの賞に恥じぬよう、探求心を持ち続け、「ひとに優しく、自分に厳しく、誠実に医療・看護を探求する」という自らの指針を大切にしながら、社会貢献を意識して研究を続けていきたいと思います.
できるだけ長く, 在学(学問に触れ)させていただきながら、研究のアウトプット!学びを深める!
おそらく人生最後の入学式. 多くの人は、学費もかかるし、早く修了し、はやく学位を取得したい. そう思う人が多いとおもいます. 私は、ちょっと変わり者で、人生
最後の学びは、”悔いのないように”、”人に教えられるくらい”、”研究実施が自立して実施できる”ように学ぶことが最終目標のため、できるだけ充実さを追求し、学生生活の日々をできるだけ長く、そしてその成果もしっかり残せるように、多くの支援者の皆様にご協力いただきながら、通学、研究の財源も確保し頑張りたいと思います.
人生最後の入学式が、息子の人生 最初の入学式と一緒でよかった
自分の子が成長して大人になったときに、自分(親)のことを誇りに思えるような人になりたい. 私の看護師としての旅は続きます.
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