ホイットニーヒューストンを熱唱しながら通院

自分とは無縁だと思っていた、海外での医療保険のパワーが発揮される時がきた。

ある朝、起床すると、左のコメカミあたりが赤くなっている。
虫にでも刺されたのだろうか、と思い放っておいた。
昼頃には、耳下あたりにしこりのようなものができていた。ちょっと痛い。
翌朝、コメカミの赤みは増して痒くなり、今度は耳下のあたりも腫れて痛い。

なんだこれは、、、

病院に行こうかと思い電話してみたが、「初診料$440です」と言われて、うーん、もう少し様子を見てみますと言って電話を切った。

しかしやっぱり気になる。特に耳下のしこり。
信頼できそうな、経験値の高そうな知人に連絡してみると
「24時間経っても痛い?じゃあ何かあるかも。何もなくても安心料だし、保険が使えるなら病院に行った方がいい」
との答え。確かにそうだと思い、再度病院へ電話し、予約を取り付けた。

なんと病院への往復のタクシー代も保険のうちに入るとのことで、
頭もぼーっとすることだしUberを呼んだ。

Uberのドライバー情報の写真を見た限りでは、どう見ても男性だったのだが、気の良いオバちゃんドライバーが電話をかけてきた。

「あなたのお家のストリート、通行止めなんだけどー」
「知らなかった、じゃあ○○ストリートからまわって、△△アベニューまで来て!」
「オッケー」

というわけで、オバちゃんは迂回して迎えにやってきた。

「ハーイ、アンタ、通行止めなの知らなかったの?」
「全然知らなかった、ごめん」
「もー、最近はさ、ビルの管理人とか工事の業者とか、事前にお知らせしないのよねえ!ホント困っちゃう!」

どうやら、おしゃべり好きなオバちゃんだ。
車内では女性ボーカルグループのラップが流れ、オバちゃんは肩を揺らしてリズムに乗っている。

車が信号も何もないところでしばらく止まっているなと思うと、路上で大柄な女性が車に荷物を押し込んでいるために、道がブロックされて進めないらしかった。
オバちゃんは「Bi**h!!」と言いながら、緩いF**kのポーズをとる。
「みんな、自分が悪いってわかっててもなお、強気なのよねえ〜」
私はうん、そうだねえと相槌を打つ。

この頃は地下鉄移動ばかりだったので、タクシーで長い距離を移動するのは久しぶりだった。
久しぶりの車窓からの景色が楽しくて、しばらく夢中になっていると、いつの間にか車内のBGMがホイットニー・ヒューストンに変わっていた。もちろんオバちゃんは歌い出す。

有名な " I will always love you " が流れだし、オバちゃんがAメロを歌い出す。私もサビから参加する。
二人して「エンダアア〜ーーー〜〜ーイア〜〜」とノリノリで歌う。
ニューヨークの渋滞がロマンティックに見えてくる。
私はサビ以外歌えないので、サビの他はオバちゃんが全部歌う。
目的地が近づいてくる。
最後のサビも近づいてくる。
最後、キーが上がるところでオバちゃんが「Here you go!! It's yours!!!!」とキューをくれる。
ホイットニーになりきった私は、最後のサビをノンブレスで歌い上げる。
私が息継ぎをしないので、オバちゃんが歓声を上げる。

そうして、二人してお互いに拍手と歓声を送り合いながら、車が病院のあるストリートに滑り込んだ。

「サンクスギビングは祝うの?それとも2月にチャイニーズニューイヤーを祝うの?」とオバちゃんが聞いてきた。
「私は日本人なんだけど、日本では1月1日にニューイヤーを祝うよ。ここの感じとはちょっと違うけど、クリスマスも祝うよ。」と答える。

「私はBelieverなのよ。あなたも神を信じる?」とオバちゃん。
「私はShintoの神とBuddaを信じてるよ。日本の文化は二つがMixされてる感じ。」
「Shinto?ああ、ドラゴンがいるやつね!」
「む?確かにドラゴンいるわ!」

ここまで話したところで、病院前に車が止まった。

「ありがとう。ハッピーサンクスギビング!」と言って車を降りると、オバちゃんが車の窓を開けて「あなたにも、ハッピーサンクスギビング!」と手を振ってくれた。

なかなか明るい雰囲気の通院だったな、と思いながら診察を受けると、なんと帯状疱疹と診断された。免疫力の低下が原因らしい。

私は普段からコールドプレスジュースを飲んで、8時間以上寝て、お酒もタバコもせず、コーヒーのガブ飲みもしばらくしていないし、チキンとブロッコリのローストと米ばっかり食べてるのに何故!?!?とドクターに問うと、
「帯状疱疹になると、皆さん原因がわからないと言います。今まで通り寝て、美味しいものを食べ、楽しいことをして過ごして、神経質になりすぎないようにね」とのことだ。

「CancerよりMuch betterだね!」と言われるも、初の帯状疱疹に、現在戦々恐々としている。

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