j-hope "방화(Arson)" 消すか、燃やすか ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.054
방화(Arson)
さあ 燃やせ 燃やせ 燃やせ…
もう 終わりだ 終わりだ 終わりだ…
さあ 燃やせ
俺の熱情で燃やせ
俺の念願で燃やせ
俺の魂を焼き焦がせ
来る日も来る日も走った
止まれなかった
あの時 あの時代
俺は全てを焼き尽くし
そして 全てを求めた
名誉は最たるもの
金?言わずもがな
人気までもこの手にしたくて
汗水流して足掻く間
自らが過熱するしかなかった
何も知らない無知な俺の
野望の原動力
油を吹き付けて
火を焚べるように
ああ 俺の足、俺の両脚で
もっと熱く我が道を行け
加熱するヒットチャート
更に人気は最高潮
比例して生まれるヘイター
毎晩響く警笛さえも快感
俺のファンと一緒なら
俺の名前でなら
俺の仲間たちとなら
共に燃え上がるから 一日中
合理的な共犯
放火犯は楽しかった
恐れることはないさ
一寸先もクソ喰らえ
誰かが尋ねてくるならこう答えよう
「そうさ、この俺が火をつけたのさ」
もういい加減俺に問い質して選べよ
その火を消すか、
更に燃え上がるのか
終わった
俺の夢も叶った
大きな成果も出した
俺ができる役割も果たした
これ以上はない
過ぎたるは猶及ばざるが如し
拍手鳴るうちに去るが即ち粋
俺が火をつけたのは
俺のためだったのさ
世界が燃え上がると
誰が知り得ていたか
暫し冷静になってみると
自分の痕跡が見える
消すには大きすぎた炎
ひどい放火だったんだ 畜生
熱い やめろ 苦しい
眠りから覚めて俺の裏側と接続
恐ろしい状態
誰もできない、止められない
その火を消すには ただ
俺だけが可能だ
混沌の消防士
ああ 鎮圧しても灰のような
暗黒の道であろうと
自分自身に問え
一寸先の大きな関門
俺の取るべき手段を
一石を投ずる局面でも逸れていく一手
誰かが尋ねてくるならこう答えよう
「そうさ、この俺が火をつけたのさ」
もういい加減俺に問い質して選べよ
その火を消すか、
更に燃え上がるのか
誰かが尋ねてくるならこう答えよう
「そうさ、この俺が火をつけたのさ」
もういい加減俺に問い質して選べよ
その火を消すか、
更に燃え上がるのか
韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6169192
『방화(Arson)』
作曲・作詞:j-hope , Michael Volpe
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今回は2022年7月にリリースされたj-hopeのソロアルバム「Jack In The Box」ダブルタイトル曲のひとつ "방화(Arson)" の歌詞を意訳・考察していきます。
先行配信された "MORE" と共に表題曲として扱われているこの楽曲歌詞は、アルバムの代表として二曲が並列されている意味を考えながら読んでみると更に奥深いものになりました。そして何故 "MORE" が先行配信されたのか、その理由にも思いが至りました。
1.「箱」の中と外
楽曲の公式解説には "MORE" が箱の中、"방화(Arson)" が箱の外で彼が感じたことについて率直に書かれているとあります。
当初私は「箱」が「自我と外界を隔てているもの」だと思っていたのですが、蓋を開けてみて二曲を比較してみたら印象が変わりました。
ここで言う「箱」は〈秩序〉を保つための囲いで、それを開けた時の状態として〈混沌〉があるのではないか、と。
希望、欲望、野望、願望、そして渇望、絶望、失望といった〈望み〉にまつわる話について、
理性を働かせて「もっと」と求道心・向上心に置き換えたのが "MORE"
→秩序感情の赴くままに「放火」という背徳感溢れる行為に置き換えたのが "방화(Arson)"
→混沌
"MORE" では己の信条、理念に基づいて今後の方針転換も含め毅然とした前向きな姿勢をあらためて表明しているように感じました。
これが "방화(Arson)" に至ると、これまで重ねてきた努力を「自分の魂を燃やすしかなかった」と振り返り、果たしてきた偉業を「ひどい放火」と揶揄し、自らを「放火犯」として罪を自白するような仕掛けになっています。
果たして "MORE" で注意喚起されていた「不注意」な発言が、この "방화(Arson)" で現実のものとなったわけです。"MORE" が先行配信曲となっていた理由はここにあるのだと私は考えます。
それ故に、この二曲はダブルタイトル曲である必要があるのです。
2.突き動かすもの
この二曲に共通するキーワード、それが「원동력(原動力)」です。
これらは先ほど挙げた〈秩序〉と〈混沌〉という役割分担が、最も如実に表れている部分だと思います。
様々なことに挑戦し、新しい表現を手に入れ、それでも尚、誰かのお気に入りになるというアーティストとしての悦びが〈原動力〉であるとする "MORE"。「명예 부 다가 아니야(名誉や富が全てではない)」とも綴られています。
ところが "방화(Arson)" では「명예는 first(名誉が一番)」とし、更に金銭的な対価や人気度までも意識して、自らの命を削るように燃やして体を動かし続ける〈原動力〉とするしかなかったと明かしています。
私は、このどちらもが彼にとっての正であり、事実であり、ひとりの「実在する人間」として生きる彼が自覚している自分自身の姿なのだと思います。
「箱を開ける」行為とは、誰もが持つ〈秩序〉と〈混沌〉を自ら認知し、それらをさらけ出すことに他ならないのだ、と。
3.消すか、燃やすか
韓国音楽配信サイトに掲載されているアルバム「Jack In The Box」のレビューには、"방화(Arson)" が「情熱の炎を消すか、更に燃やすかの選択の岐路に立ったj-hopeの苦悩を表現している」とあるのですが、私はその解釈に違和感を抱きました。
該当する歌詞は以下の部分です。
※1
묻다=質す(質問して確かめる)
(これより以下、熱く持論を力説してしますが、本人解説でしっかり「僕の情熱の炎」との発言がありました。大変失礼いたしました。
これもまたひとつの考察として読み流していただけたら幸いです。2022.7.19 追記)
―――誰かが(火をつけたのかと)尋ねてくるなら自白するから、もう(いいかげん)問い質してくれ。
そして選べ。その火を消すか、更に燃え上がるか。
これを読んで、ホビが自分の情熱の炎を消すか否かを迷っていると私は思えませんでした。
なぜなら「그 불을 끄기엔 오직 나만이 가능해(その火を消すには ただ俺だけが可能だ)」と炎を消す権限を持つ彼自身が、第三者に対して火を消すか否かを「選べ」と迫っているのだと解釈したからです。
そもそも、この部分で表現されている「火」は彼が内に秘める情熱の炎のことではありません。
楽曲がチャートを賑わせ、最高潮に達した人気が世界を席巻し、彼らをスターダムへとのし上げる「熱」。ARMYとバンタンが「합리적인 공범(合理的な共犯)」を犯して共に世界に放ったこの熱が、消すか否かの選択の対象となっている「火」なのです。
彼らの歌を毎日聴くようになってからまだたった1年の私が、このファンダムを内側と外側の境目辺りから眺めていると、その様子は「熱狂」という言葉がしっくりくるように思います。二次元・特撮界隈を経てきた自分の経験を振り返り「夢と現実の混在」の度合いをそれらと比べると、遥かにARMYの方が高いと感じています。実在の人物である彼らの姿に見ている夢の内容やその行動には、時に「狂気」すら感じます。
「합리적인 공범(合理的な共犯)」が指しているのは、アーティストとして成功するという欲を満たしたいバンタンと、それを応援することで自分の欲を満たしたいARMYの双方の利が一致したところに生まれた合理性が引き起こした「熱狂」のことなのではないかと思います。
本来、アーティストとして活動する上では絶対に守られなくてはならないはずの肖像権がほぼ放棄されているような現状が長い間続いていることも、その「共犯」の罪状のうちのひとつだと私は思います。
毎日その身を焦がして必死に走り続けたと振り返ったホビのその内なる炎は、その後世界を焼き尽くす「熱狂」の渦を生み出した「火種」のひとつだったのです。
そして彼は、その火を自ら消すタイミングについて言及しています。
―――火を付けたのは自分だ。そしてその火を消すことができるのも自分。
夢も叶った、成果も上がった、役目も果たした。
これ以上続けても、
過ぎたるは猶及ばざるが如し。
(度が過ぎたものは、足りないものと同様によくない)(参考)
歓迎されているうちに去る方がかっこいいものだ。
ところが、すでにその火は自分の裁量で勝手に消すことができない程に大きな炎となっていました。
そこで彼は自分の〈罪〉を認めた上で、これまで〈秩序〉を保つために閉じてきた「箱」を開け、明るみにしてこなかった「〈혼돈〉의 fireman(〈混沌〉の消防士)」の姿をもってして、世界に選ばせようとしているのです。
この火を消すか、更に燃え上がらせるかを。
☆
"MORE" と "방화(Arson)"、この二曲を読み込めば読み込むほど、彼が生身の人間として抱えてきたもの、抱えていこうとしているものの姿がはっきり見えてきたような気がしました。
彼の一貫した信条と、努力できる才能、足元を見失わないバランス感覚は、グループにとっても、彼自身にとっても、生涯の宝だと思います。
燃え盛る熱狂の火が自ら消える日は来なくても、彼によって消される日はもしかしたらいつか本当に来るのかもしれません。
彼にはその覚悟がある(あった)ということ。そしてその覚悟に見合った向き合い方を我々も意識すべきなのではないかということ。
それらのことから目を逸らしてはならない。この世界を照らすものが、コントロールの効かない燃え盛るだけの炎であってはならないのです。
「やったのは俺だ」だなんて、私は彼に言わせたくない。そう強く思ったのでした。
最後までお付き合い下さりありがとうございました。
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