BTS "BTS Cypher, Pt.3: Killer" 忍びのこころ 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.074
BTS Cypher Pt.3: Killer (feat. Supreme Boi)
あんたが何をしてこようが
俺は 何でも受けて立つさ
何を どうしようとも
俺は本物になるだろう
良く見ろ
これが 正にお前が望んだ獣の姿
男は煙草 女は浮気に火がつく時
俺はビートを燻らせる
誰がお前に狂ってると言った?
どの輩がお前にイカれてると?
俺は怠惰なお前よりましだ
キーボードでヒップホップする奴らより
百倍は懸命に生きるさ
ラップ即ち単純なジャンル
それ故多すぎる大将気取り
烏合の衆よ 皆備えよ 品格を
バースひとつろくに書ききれぬ奴らが
ラップ程の音楽を 論じようとしても
そんなだからここは今も全く変わらず
右に倣えでこうやってラップするのさ
三文字或いは二文字ずつしか吐けない
皆 重病だよ クソったれ
失語症患者たち 全員 詐欺師ども
引っ込んで 鏡でも見とけ
掛かってくるなら独創的に
ちょっとやってみろよ なあ?
間抜け共の誠意は皆無
俺は怪物の名に従う
ようこそ 怪物の領域へ
これはサイファー 俺はライダー
自転車みたいに乗りこなしてやる
畜生 逆様に回してみろ ビート
お前は하수구、俺は구수하
実力がストライキ中のガキ共が
俺の後ろでやるデモは怖がるよ
一体何を怖れているのか?
俺はビートの上で堂々とし、
お前はほぼ全ての有り金と
持ち合わせない実力までもが貧しい
ジバンシイは要らない
俺自身が 星だから
ヒューゴも要らない
既に俺がボスだから
俺は仏にあらず、されど肉屋
まるで お前を刻んでしまう
取り替えろよ お前のiPhone
お前には必要のない機内モード
俺はローミングだけで大金を払う
まだまだこんなもんじゃないぜ?
稼げよ金を 石で
石でも売ってさ インチキ共め
サンパウロからストックホルム
お前らは一生座れない席に
俺は座る
文句言う奴らはごまんといるよ
でも問題ない 俺が静めてやる
俺を陥れる為に
過去を穿り返し続けるシャベル
でも気にしない
お前は俺の感情を制御できない
不信を堪え抜いた忍者になって
再び 戻ってきたのさ
この四枚目のアルバムは正規の観点
サイファー
この トラックが世に出れば
ヘイター共はブラックアウト
不法な状況に この曲は合法
落とし穴には尽く落ちるだろうね
毎日 皆に差し迫る脅威
沸き上がるよ みなぎる力
どこを行こうとブレずに進む
どこを行こうとまたいるね 全部'ヒプチリ'
お前らには当然の立ち位置
俺を貶すためには接続不能
だが俺は釣られたのか?ポン引きに
良く知る人は皆俺を'ポケベル'と呼ぶ
誰が俺を見て悪態をつくのだと、そう
お前の現状でも見てから来いと、そう
俺は羨ましいと思うものは無い
隠し事はひとつもないと、そう
嗚呼 俺はビート ビートの上
身体をくねらせ 音掻き鳴らし
ゴロゴロして ビーグルの真似
更に燃え盛る力で今、
リングを統べる神となり
その名が轟く王者となる
これは味見に過ぎない ほんの間食
俺のラップはお前の腹を即満たす韓食
そう、我が祖国 韓国
生半可な英語を抜かす
ラップ'マンシク'共よ
皆揃って 刮目しろ
今 誰がお前の上に居るのかを
なあ?
文句言う奴らはごまんといるよ
でも問題ない 俺が静めてやる
俺を陥れる為に
過去を穿り返し続けるシャベル
でも気にしない
お前は俺の感情を制御できない
不信を堪え抜いた忍者になって
再び 戻ってきたのさ
SUGAまたの名をAgust D
ふたつ目の通り名
街を歩き往来すれば
密やかに交わされる俺の名
大邱から狎鴎亭まで
敷き詰められた俺のビート
全世界 四方八方に
息づく俺の 音楽のエナジー
俺はビートという押切に乗る
赤ん坊シャーマン それが俺
テレビの中に映る姿の
半分は影武者ではない
お前のその舌先三寸で
客気を働かせてみたところで無駄
それはただのお喋り 客引き行為
野郎共のメッキに向かって放つ
重厚な 俺の覇王ラップの覇気
生意気なお喋り 名もなき者たちを
捕まえて翻弄してしまう俺のフロウ
精々それ如きの言葉で
俺を 追い詰めた所で
俺は一層強くなる不可思議
俺はお前らの 妬み嫉みを
喰らって育つ プルガサリ
ご存知の通り
俺の声はまぁ'イイ'ものさ
男だろうが 女だろうが
ラップで香港行きにする
柔軟な俺の舌捌き
この食物連鎖の上で
俺は常に頂の上の頂 最上位
止まらない 狂人の如き才能
誰かが裏で 俺を陥れようが
お前らが遊び回る時
俺たちは 世界一周
うかつに歳を取った兄貴たち
俺の基準じゃお前も赤ん坊レベル
俺がなんかダサかろうが
俺がなんか如何様だろうが
どのみち兎に角
歌謡界の新基準
このラップは
煩い古参の耳垢に打ち放つ
嵐のビンタ chop chop chop
文句言う奴らはごまんといるよ
でも問題ない 俺が静めてやる
俺を陥れる為に
過去を穿り返し続けるシャベル
でも気にしない
お前は俺の感情を制御できない
不信を堪え抜いた忍者になって
再び 戻ってきたのさ
韓国語歌詞はこちら↓
https://m.bugs.co.kr/track/3637690
『BTS Cypher Pt.3: Killer (feat. Supreme Boi)』
作曲・作詞:Supreme Boi, j-hope, SUGA, RM
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今回は2014年8月リリースのフルアルバム第1集「DARK & WILD」に収録された、ラップラインのユニット曲 "BTS Cypher, Pt.3: Killer" を意訳・考察してみます。
楽曲はその後2022年6月リリースのアンソロジー・アルバム「Proof」CD2に、SUGAの選曲でトラックリスト入りをしています。
2022年10月15日に開催された「WORLD EXPO 2030 BUSAN KOREA CONCERT BTS <Yet To Come> in BUSAN」にてラップラインが披露したことが記憶に新しいこの楽曲ですが、その釜山コンでのパフォーマンスを最後に実歌唱を封印する心積もりである事がメンバーによって言及されています。
(出典:前日のナムさんによるWeverseへの投稿内容、Weverse Liveのディレイ放送で字幕に拾われていた内容)
※曲頭で「오늘 마지막을 이 노래를 보내주려(고) 합니다(直訳:今日(を)最後にこの歌を見送ってあげようと思います)」とナムさんが言っているのですが、おそらくWeverseの内容を把握できていなかったTBSチャンネル放送分の字幕は「ユニットステージ最後の曲です」と誤訳されてしまっています。
「封印」をする心境になった理由を探るべく、あの渾身のパフォーマンスに載せられていたメッセージの内容に迫ってみることにしました。
1.和のコンセプト
■忍びの心
韓国の音楽配信サイトに掲載されている楽曲紹介文にはいきなりこう書かれています。
あの「忍者」です。
忍者がいる国は世界中探しても日本だけなので、間違いなく日本の忍者です。驚きました。
確かに歌詞を追って行くと、楽曲のプロデューサーであり、キーボードとシンセを担当し、フィーチャリングまでもを務めているSupreme Boiがラップを披露するサビの部分で「忍者」が登場します。
※1 killには「殺す」の他に「消す」「静める」の意がある。(参考)
※2 動詞+대다…~しやがる、~し続ける、しきりに~する(参考)
※3 쉿=「shit」(突発的な負の感情を顕わにする際のスラング)
つまり、自分の感情は他人に制御されることはない、の意。
※4 ~아/어 내다…~し抜く 참아내다「耐える+~し抜く=耐え抜く」
「Hater들」と名指しで対象を挙げている点で、この歌詞が自らの存在を否定してくる者たちに対するメッセージであることがわかります。
その相手には【顔も見えないネット上のアンチ勢】と【バンタンのラップスタイルを否定してくる先輩同業者】が含まれます。
それでも彼らは「俺が静めてやる」と臨戦態勢は万全です。
「俺を埋めるために」=「俺を陥れるために」
「俺のキャリアに(を)掘り続ける」=「俺の過去を掘り続ける」
ヘイター達が自分の粗を探すために躍起になってしつこく過去をほじくり返してくる様子が「穴を掘るシャベル」として描かれています。
ここでも彼らは「俺は気にしない」と一蹴します。
ヘイター達が決して自分の感情をコントロールできないことを確認しておいた上で、「不信を耐え抜く」=「信頼を得られずにあれこれ難癖をつけられても、過剰に反応せずにひたすら耐え抜く」ことにより、まるで「忍者」のように寡黙に構えて自分を守り抜く術を得た、ということなのではないかと思います。
■カゲムシャはいない
楽曲の中には他にもSUGAパートに「카게무샤=影武者」という日本語が登場します。
(該当部分である楽曲の3:20あたりには「チャキーン」というチャンバラの効果音が挿入されています)
黒澤明監督作品の『影武者』(1980)がカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞したことをきっかけに、海外でも「カゲムシャ」の呼び方が浸透した、とのこと。
ここで「影武者」を登場させた意図は、あの激しいダンスと歌唱が両立できる上に制作側としての才能までもがひとりの人間に備わるはずがない、と疑う者たちへのアンチテーゼだと思われます。
☆
こうして追ってみると、タイトルにある「Killer」の一般的な和訳である「殺人者」の姿が、刀を持った刺客の姿にも見えてきます。
殺気を纏い、鬼気迫る勢いで繰り出される言葉たちのひとつひとつに耳を傾けていきます。
2.俺がスターだ
楽曲はRMのパートから始まります。
例によって例のごとくナムさんが書く歌詞では「文字」というハードと「意味」というソフトが縦横無尽に操られ、意図を伝えるために厳選された「言葉」たちが並びます。
ちょっとずつ気になった部分を挙げていきます。
「바람」は「風」という意味ですが、「浮気」の意味もあります。(参考)
「피다」は「咲く」以外に「(火が)熾る」とも。(参考)
煙草は言うまでもなく火をつけるものですが、浮気に「火が着く」という概念をもってきた上に、その後の「I smoke~」へと続くところがとってもお洒落です。
上記部分は歌詞が変更された時がありました。(性別に関する偏った表現をフラットにするため?)
2017年「WINGS TOUR THE FINAL」でのCypherメドレーにて、「누구가 담배, 누구가 바람 필 때(誰かが煙草、誰かが浮気に火をつける時)」と変更。釜山コンでは原詞に戻されています。
上記部分は、"Born Singer" の歌詞を踏襲しています。ネット上にアンチコメントを送り出す輩の象徴としてキーボードという道具を取り上げています。↓
そしてここでまた粋なのが、文字と意味とが交差した秀逸な次の部分。
※5 使用するハングルが一致する上に逆説的な意味を伴っているという数奇な関係にあるふたつの単語を並べ、巧妙に相手をディスっている。
・하수구…下水溝
・구수하다…(味・匂いが)香ばしい、快い
また、"여기 봐(Look Here)" でも披露されたような実在のファッションブランド名を取り入れた歌詞も現れます。
GIVENCHYは星柄のアイテムを多く展開しています。HUGOの正式ブランド名は「HUGO BOSS」です。
彼はこの頃(2014年)既にスターダムにのしあがっていた…というよりは、「RAP MONSTAR」の中に「STAR」が入っていることを引き合いに出しているようです。(CD付属ブックレットの "Cypher Pt.3" のページに、そのことが良くわかるイラストが描いてあります)
また、防弾少年団のリーダーとして「BOSS」の称号も得ています。
総じて、GIVENCHY、HUGO BOSSが共にハイブランドであることから自分自身の価値は纏うものでは変わらないし、既に自分にはそれだけの品格が備わっている、という気位の表れということにもなるのだと思います。
(ちなみにその後彼らがジバンシイの服を着てステージに立った時には、この歌詞を引き合いに出すARMYが殺到したとかしないとか☺)
부처(仏)とbutcherのくだりも唸りますが、その後の돈(金)と돌(石)の話も奥が深いです。
海外公演で世界を渡り歩くため、携帯電話のローミング料金だけでバカ高い金額を払うが、その財力が自分にはあると前置きした後でのこの一節。
※6 돌팔이…疑わしい占いや物(石など)を売って人の不調や不幸を救うフリをすること(霊感商法)を生業にする者のこと。
돌파리 의사=ヤブ医者(参考)
中身が伴わない形だけのラップを元手にしても、そのパフォーマンスで大金は稼げない。お前が持つその偽りの石でカネが稼げるものなら稼いでみろよ、と挑発しています。
そして、南米ブラジルのサンパウロから北欧スウェーデンのストックホルムまで、凡人には一生乗る事が出来ないハイクラスの座席に座って移動する、という事実を述べて彼のパートが終わります。
(釜山コンではこの「ストックホルム」が「釜山」に置き換わっていました)
ナムさんが選んだ言葉たちを眺めていると、意味だけではなく文字自体に対する愛情も感じます。ハングルは発音と形態がリンクしているので、丁寧に韻を踏むと自ずと字面も揃っていくという特徴があります。彼の歌詞にはそんな美しさがあると感じます。
3.「暗号文」としてのCypher
次はj-hopeのパートです。
歌詞の中で「4枚目のアルバム」と言及されているこの「Dark & Wild」は〈正規(フルアルバム)第1集〉としてカウントされているアルバムですが、「2 COOL 4 SKOOL」、「O!RUL8,2?」、「SKOOL LUV AFFAIR」と続いた学校三部作の後にリリースされた4枚目であるということになります。
ここであらためて「Cypher」という単語の元々の意味…ヒップホップシーンでの位置づけとは異なる「暗号文」という意味を意識しながら、ホビの歌詞を「全解読」してみようと思います。
■正規の観点
ホビの歌詞はのっけから早速読み込みが必要な展開になります。
韻を踏ませるために改行が操作されていますが、"," の位置を考慮して組み立てていくと、文章の流れが見えてきます。
――この曲が世の中に出れば、やりたい放題なヘイターどもの立場は一気に暗転する。顔も名前も出さずに「不法」な手段で誹謗中傷を投げつけてくる奴らがいるこの状況で、顔出しで「正規の観点(=誹謗中傷を許さないという視点からの意見)」を述べるこの曲はいわば「合法」。
■落とし穴
・함정…落とし穴
・빠지다…落ちる、陥る
・다들…みんな(近しい仲間、メンバー)(参考)
・hang over…(危険が)差し迫る、~を脅かす(参考)
・bang…バン、ドン、バタン、ズドン(衝撃を表すオノマトペ)
・터지다…勃発する、爆発する
――ヘイターたちが다들(=バンタン)を陥れる為に「キャリアに掘り続けるシャベル」が掘る穴(=誹謗中傷)。
その(心理的な)攻撃は、執拗で悪質で無数であるが故に、気を付けていてもどうしても落ちて(=目にして)しまう。その脅威に脅かされる毎日。
■ピッピの正体
・swag…「イケてる」「カッコいい」の自己主張の意のスラング(参考)
・힙찌질이、힙찔…힙합(ヒップホップ)+찌질이(負け犬)=ヒップホップを理解しようとせずに悪く言う者たち。(参考)
・Busy…電話回線が使用中(話し中)で接続不能にある状態。
・~담…自問したり不平を言う意を表す語尾。(参考)
・삐끼…(とりわけ風俗店の)客引き。ポン引き。日本語が語源(参考)
・언니…女性が年上の親しい女性(親族以外も可)に対して使う呼称。
この「オンニ」の使い方には以下の疑問点があります。
【1】バンタン(男性)→年上女性は本来ならば|누나《ヌナ》が正解(参考)
【2】わざわざ「모든(あらゆる)」とことわりを入れ、更に「s」を付けて複数形としている
【1】の解
実は、性別にかかわらず男性が親しい目上の人を「オンニ」と呼ぶ文化が遅くとも1990年代までは残っていたということがわかっています。(参考)
【2】の解
男性女性に限らない全ての親しい目上の人=あらゆるオンニたち
このことを考慮すると、その後に続く歌詞にある「삐삐」は、
長靴下の「ピッピ」でもなく、ポケモンの「ピッピ」でもなく、
1990年代に利用者が全盛期を迎えた「삐삐=ポケベル」のことだと考えられると思います。
(1990年代にポケベルを使用していた世代は2014年の時点でアラフォー以上と推測し、まだオンニ呼びが性別を問わなかった時代を生きてきた世代でもあるから)
また、ポケベル=受信のみが可能であるということが、歌詞の解読に必要な要素であると私は考えます。
――自分の実力を信じ、沸き上がる勢いを頼りに何処であろうと真っすぐに進み続ける。
でも、どこに行ってもまた、ヒップホップを悪く言う負け犬たちに出会ってしまう。
それでも奴らは、奴らの行いに比例したそれなりの場所にしか存在できない。だから「正規の観点」で突き進む自分たちにその声は一切届かない(=接続不能)。
しかしこれだけ気を付けているのに、売り言葉に釣られてしまう自分がいる。親しい年上の人たちは皆口をそろえて「お前は全てを真に受けすぎだ」と諭す。「俺を見て文句を言う奴はどいつだ」とか「自分のことをよく見てから言えよ」などと少しは反論したらどうだと。
しかし彼は、彼らは、ヘイター達の言葉に同じ土俵で応戦はしません。
■神であり王者
――俺はお前(ヘイター)と違って人を羨むことはないし、隠すようなこともない。
俺はビートに乗って自在に踊り唄い、時には飼い犬のように賢く従って、一層みなぎる魅力で以て闘う今、リング上(音楽シーン)を支配する神となり、名高い王者となる。
つまり、自分はヘイター達の原動力となっている「嫉妬」を感じないので、アンチコメントに応戦する理由がそもそもないのだと言っているのです。
相手を卑下することで自分の居場所を維持するのではなく、純粋にパフォーマンスで世に認められ、音楽シーンを席巻し、その名を轟かせ、トップへと踊り出ることでヘイターを閉口させてみせるのだ、と。
■腹を満たす
・만식=만파식적(万波息笛)…「万の波を眠らせる笛」の伝説に由来する、ネット上のスラング。「聴くに値する」の意。(参考)
ここでは逆説的に自分のラップが「聴くに値する」と勘違いしている傲慢な者を揶揄していると共に、間食、韓食に掛けて「自己満足している輩」=「満」食(※実際にはない言葉)と表現しているのではないかと思います。
――こんなのまだ序の口だ。俺のラップはお前を速攻で参らせる。
そう、俺は韓国人。韓国語でラップして何が悪い。
カッコつけた形ばかりの英語にかぶれた中途半端なラップをぬかして自己満足している奴らよ、ひとり残らず見ろ。今、誰がお前の上にいるのかを。
■釜山コンでの変更点
こうして美しく締められたリリックですが、ホビは釜山コンの為に更に手を入れて、より現在の自分の状況に近づけた形で披露してくれています。
※以下、筆者のリスニング結果の為、実際の歌唱とは異なる可能性がある事を予めご了承ください。併記している行数はホビパートのみのカウント結果であり、https://music.bugs.co.kr/track/3637690に掲載のものを元にしています。
・부산(하다)…忙しない、騒々しい(参考)
・지껄이다…しゃべり散らす、しゃべりまくる(参考)
※7 지껄이는(現在連体形)は倒置されて부산にかかる
「여기는 부산(ここはプサン)」という前置きは、
☆都市の名前としての「부산」
☆騒々しいことという意味の「부산」
のダブルミーニングだと思われます。
「지껄이다(ぬかす、ほざくの意もある)」は誉め言葉ではありませんが、これを「饒舌」という良い意味で捉えるとすると、以下のように意訳できるのではないかと思います。
――万博誘致という目的に向かって邁進する釜山の上役たちが、街の魅力を巧みな話術(宣伝力)で積極的に世界中全ての人に発信している。
(周りを)見て見ろよ。みんな(釜山に)怖れをなしている。
と、このように、釜山コンの開催趣旨である「万博誘致」にのっとった内容になるのです。
…さすがホビ。さすがですね本当に。
4.またの名をAgust D
ラプラ三人のなかで最も「刀」や「刺客」のイメージが良く似合うのが「SUGAまたの名をAgust D」その人ではないでしょうか。(大吹打の印象が強いからですかね…)
後に "Ma City" で「コイツ毎度アルバム出す度に大邱の話をしても飽きないんだな」と自分でツッコミを入れている通り、ユンギの故郷・大邱がこの歌詞の中にも登場しています。この部分は、この後 "INTRO : Never Mind" にも同じフレーズを確認することができます。
狎鴎亭にはユンギがソウルに上京した後に通っていた高校があり、苦労して活動を続けた結果として地元からソウルに至るまで自分が作った音楽が浸透していることに誇りを感じている、という気持ちの表れとなっています。
また、今回ユンギのパートには、韓国独自の文化や風習、言い回しを元にした歌詞が多く並んでいます。
■작두타기(押し切り乗り)
・작두를 타다…押し切りに乗る
・애기…赤ん坊(参考)
・무당…巫女、シャーマン
「押し切り」とは農具のひとつで、藁を切る際に使うものです。
この押し切りの歯を上に向けた状態で並べたものに素足で乗るパフォーマンスをし、巫女としての力を知らしめる、という古い習わしが韓国にはあるとのこと。(参考)
「〈赤ん坊の〉巫女」とあるのは、自分の才能がより神掛かりてきなものであるという主張、もしくは、〈アイドル〉としての立場が客寄せパンダ的な側面を持っているという自虐的な表現であるのではないかと考えます。
後にユンギは「ミンストラダムス」と呼ばれるほど予言的な発言が何度も話題になっており、シャーマンの気質があるといっても強ち嘘ではないかもしれません。
■뺑끼(ペンキ)
・뺑끼…日本語の「ペンキ」が由来。(参考)
「本来の良くないことをペンキで覆って隠す」という意味から、隠ぺい行為の例えとして使われる。
野郎共(=バンタンをディスってくる同業者たち)がいくら取り繕って己の才能を誇示しようとも、その中身のない軽いラップなんか自分たちの重みあるラップで化けの皮をはがしてやる。…といったところでしょうか。
日本で言うところの「メッキがはげる」という感覚に近いのかなと思いました。
■극딜(極 Damage Dealing)/불가사리(プルガサリ)
・극딜(極Deal)…主にオンラインゲームにおいて、相手に大きなダメージを与えるために全力を尽くして攻撃すること。「極 Damage Dealing」の略語。
(参考)
・불가사리(プルガサリ)…朝鮮に伝わる妖怪の名。鉄を食べれば食べる程大きくなるという無敵の怪物。直訳すると「ヒトデ」。漢字表記は不可殺(参考)
北朝鮮で撮られた映画や、韓国のドラマでその存在がモチーフとされている。
――渾身の力で放たれた罵声すらも、不思議とその負の色が濃ければ濃い程、自分の成長の糧とすることができる。
■香港送り
・~을 보내다…~に行かせる(参考)
この部分は「꼴리다」(ここではㅁで終えて名詞化)をはじめ読んで字のごとくな感じで、自分のラップには男女を問わず骨抜きにできる魅力があるということを絶妙な匙加減でまとめています。
「香港に行く」の意味を初めて知りましたが、こういう雰囲気の歌詞をサラッと書いて吐けるユンギのセンスにはやっぱり脱帽です。
■똘끼(トライ気質)
・똘끼…狂人の域に達している(参考1)(参考2)の意のネットスラング。
――強いものが弱いものを捕食して生き延びる世界において、凡人には到底たどり着けない境地に自分はその溢れでる狂人じみた才能で以てたどり着いたのだ、と。
■꼰대(面倒くさい先輩)
・꼰대…説教臭い年寄り。面倒くさい先輩。(参考)
・쌔리다…때리다(叩く)の慶尚道(←大邱はココ)・全羅道・忠清南道の方言(参考)
「꼰대」は "길(Road)" の歌詞にも登場しています。
このように、和訳するだけではわからない固有の意味まで拾ってやっとおおよその意図がわかるという、ホビパートに続いてユンギの歌詞も日本人の私にとっては「暗号」のようでありました。言うなれば言葉遊びが効いているナムさんの歌詞も暗号的ですよね。解読とても楽しかったです^^
☆
2014年のリリースから数えて、2022年の釜山コンまではおよそ8年。
彼ら自身が「先輩」と呼ばれる場面も増える中、先達に対する意見を主張するこの歌詞が既に彼らの現状にそぐわなくなってきた、というのが「封印」の理由のひとつなのではないかなと感じます。
こういった「封印」の必要性が後々発生するのは、その時その時の生の声を真摯に歌詞に反映しているからこその結果なのだろうなと思いました。
新規にパフォーマンスが観られなくなると思うと寂しいですが、その潔さこそがまさしく「バンタンスタイル」を貫いている姿であるのではと思います。
最後に、2016年のFESTA「HAPPY BTS DAY PARTY」で披露されたCypher Pt.3 テテver.の練習風景を収めた動画を貼って終わりにしたいと思います😊
とっても長くなってしまいましたが、今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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