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とめどなく、溢れて

郵便局の窓口に行くと、いつも対応してくれているお姉さんが受け付けて下さった。

急に思い出した。
このお姉さん。中学のときの社会科教師にとてもよく似ている。

ご利益のありそうな微笑み方と、白くて柔らかそうな肌質と、色素の薄い大きな瞳がそう思わせたのだろう。

作業しているお姉さんの気を散らしてしまわないように、カウンターの脇に置かれている販促物を眺めていると、

「7通で700円です。
 あっ!なんだか縁起がいいですね~
 きっと、今日はいいことありますよ!」

って、素敵なことを言って下さったので、

ささやかなことにも気付けるって素敵なことですねと返すと、

「毎日数字を見てるでしょ?そういう楽しみを見つけないと、この仕事やってられないんですよ。」と小声で教えてくれた。

なんて返したらいいのかわからなかったので、とりあえず微笑んでおいた。

実は、私も7通で700円であると知ったとき、一瞬、あ、ってよぎったのだけど、まあわざわざ言うほどのことでもないだろうと判断したのだ。


そういえば、そういうささやかなことを人に話さなくなった。
ずいぶんと前から。

過去に何があったわけでもない。

別にわざわざ言うほどのことでもないかと思ってしまうし、伝えたいとも、気づいて、知って欲しいとも思わなくなった。
ただ、それだけ。

自分だけがわかっていれば良いと思った。

ささやかなことだけではなく、良いことも、悪いことも、全部。


そうしているうちに、自分の思っていることや、感じたことを、自分の外に出すときに、一緒に涙が出てくるようになった。

悲しいことじゃなくても、素敵なこととか、嬉しいこととか。

気持ちが大きければ大きいほど。
とめどなく、溢れて。


だから、素直にしているのも苦手だ。
とても疲れるし。いい歳して、人前でボロボロ涙を流すわけにもいかないし。とてもやっかい。

こういうことに、どう向き合えばいいのかを考えていて。

いままでは、心を強くすればいいと思っていたのだけど。

そういう、涙が出ちゃうようなことを描いていけばいいんじゃないかなと思ったのだ。どう描いたらいいのかなんてまだわからないけど。

そういうことに、残りの人生使っていきたいなと思う。

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