AMERIと深澤直人さんの「ふつう」
「ふつう」という言葉にどんなイメージを持ちますか? 人から紹介されて会った人が「ふつうだった」、新しくできたレストランに行ってみたら「ふつうのお店だった」。どちらも少しネガティブな響きがあります。
私が最近出合った2つの「ふつう」は違いました。一つは、2年くらい前に読んだ深澤直人さんの『ふつう』という本。
深澤さんは、プロダクトデザイナーとして日用品や家具のデザインを手掛けています。この本は、深澤さんが具体物を挙げながら「ふつうとは何か?」を考察したエッセイ集です。
深澤さんのデザインするものは、まるで前からそこにあったように心地が良いのに、他を探しても簡単には見つからないものばかり。そう感じる理由がこのエッセイから伝わってきました(ぜひ読んでみてください)。
もう一つは今週掲載されている連載「ミライノツクリテ」に出てくるアパレルブランド「AMERI」の社長、黒石奈央子さんの言葉。
貯蓄が30万円しかなかった黒石さんがブランドを立ち上げ、またたく間に年商40億円になりました。ところがインタビューの中で彼女は、「私はふつうの人間」と言い切ります。
「アーティストってぶっ飛んだ人が多いし、この業界でもそういう方もいらっしゃいます。でも私はぶっ飛んでないし、個性的でもない。冷静に物事を見ていると思います。
でも、このふつうの人の気持ちが分かるというのが強みだと思っています。自分がふつうに生きてきたからこそ、一般の人の欲しいものが分かるところがある。だからこそ商品を客観的に見られて、そこにちょっとだけ自分の個性をプラスすることができるんだと思う」
この記事の中で出てくる別のアパレルブランド「N.HOOLYWOOD」CEOでデザイナーの尾花大輔さんは、黒石さんについてこう話しました。
「なんと表現していいのか分からないような何かとても強くて熱いものが黒石さんの中にあって、それが溢れるように飛び散っている。それがAMERIなんだと思う。あれは黒石さんでないとできない。でもそれが何なのかは僕にも分からない」
深澤さんと黒石さんの「ふつう」。その意味するところは少しずつ違いますが、共通するのは「ユーザーセントリック」と「デザイナーとしての目線」を何度も往復していることだと思います。
洋服が大好きで負けず嫌いだった少女時代、新卒入社したアパレル企業で覚えた違和感、60人いるというスタッフへの声掛けの仕方……。黒石さんの生い立ちから現在までのストーリーは、今週公開された4本にぎゅっと詰まっています。
(2023.3.2)