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真夏のコール&レスポンス

嫌な予感はしてたんだ。
6:30に目覚ましを止めて、その2分後にはむくりと起きあがって、ゴミ出しのためにドアノブを回す。
手が塞がっているから、体で押すようにして外へ一歩踏み出した。

ジャぐちゃ。
一瞬固まった後、3年くらい履いてるKEENをそっと持ち上げる。

カサッ。
ああ、やっぱり。
絶命した夏の風物詩の軽いからだが靴から離れた。

階段では小さなカナブンが、涼しい色で動かなくなっている。
夏場のマンション共用部は、虫たちの墓場のようだ。

東京郊外のこの街で、蝉の鳴き声はあまり聞こえない。
車の行き交う音が大きすぎるのかもしれない。

ここから車で15分の実家だとこうはいかない。
一晩中、ジワジワ鳴いている。
蝉時雨なんて風情はなく、蝉豪雨だ。
公団の周りは街灯が多いから、夜に気付かず狂い鳴くんだろうか。

今日は病院の日で、待ち時間は翻訳の課題を読み直した。
テーマはがん細胞の増殖の仕組み。
リーダー細胞というのが先導して、原発巣から遠位部へ移動するのだそうだ。

受診を終えて、バゲットサンドだけが美味しいコーヒーショップで小腹を満たす。
レシートに、コロナに負けるなと書いてあった。
似たような言葉を、コンビニや靴屋の入り口でも見つけた。

帰り道、角で別れた友だちに向かって「バイバーイ」と声を張り上げる少年とすれ違った。
姿が見えなくなった相手も「バイバーイ」と大声で返す。
何度も、何度も。
お互い背中を向けて歩いているのに、すごい信頼感だ。

小洒落た飲み物とか、落ち着くインテリアとか、特別な空間とか。
そんなんなくても、気が合う友だちがいれば楽しい。
少し前に、井の頭公園のベンチでダベったことを思い出した。
アイスコーヒーを飲み切ってもまだ話したりなくて、自販機でウィルキンソンを買った。
噴水が日を照り返して、キラキラしていた。

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