《写真と文章》こいつの抱っこは良さそうや
半年前から歯科矯正を始めた。
月に1回ある調整日。歯のクリーニングをしてもらって、状態をみながら治療を進めてもらっている。歯が動くように調整するので受診後は大抵歯が痛くなる。
矯正歯科へは自転車で15分。
最近家にいることが多くて歩いていないので30分かけて歩こうかとも思ったけど、なんだかんだダラダラしてしまい間に合わず、結局自転車で行った。
珍しく治療に1時間かかった。
帰り道、橋を渡り家の近くの土手を自転車で走る。
夕暮れの感じがよくて、自転車を止めながら写真を撮った。
ちょうどモノレールがこちらにやってくるのが見えた。
したから撮るためにちょっと待ってみよう。
自分が写真を撮るために何かを待つ日が来るなんて。
撮り鉄の人の気持ちが少しわかる気がした。乗り物ってなんだか撮りたくなる。
土手を降りたところに送電鉄塔がある。せっかくだし撮ってみるか。
土手を降りると、おじいちゃんと孫らしき男の子がいた。
多分1歳過ぎくらい。見ただけですぐ子どもの年齢がわかるのは保育士をして身につけた特技。
その横を10mほど通り過ぎ、送電鉄塔の下まで歩いていく。
どこから撮るかなかなか決まらない。触るな危険の表示を入れて縦で撮ったり、下に潜ってみたりした。
後ろを振り返るとまだおじいちゃんと男の子がいた。
男の子は歩くのが楽しいのかいろんなところをテクテク歩いている。そして見守るおじいちゃん。
こちらをニコニコで見る男の子と目があった。かわいい。
ずいぶん上手に歩くなあと思っていたら、ズンズンこちらに近づいてくる。さすがにこれ以上は来ないだろうという予想を超えて私の目の前までやってきた。
手を前に出すのでタッチしたかったが、このご時世だし直接触れることを躊躇した。
が、無邪気に私も見つめ、さらに手を空へ広げる男の子。
抱っこをせがんでいる。見知らぬ私に。
私に張り付かんばかりに抱っこを求めている。
おじいちゃんに「(抱っこして)いいですか?」と聞くと「いいよ」と言ってくれたので、両脇を持ってすっと上に抱き上げた。
ずっしり重い。胴体にぎっしり何かが詰まっている感じ。心地よい柔らかさ。
くりっくりのまんまるおめめで私を見ている。
安心しているとか甘えるとかじゃなくて「やりきったー」っていう笑顔。「山頂辿り着いたぜー」って感じ。
「おいくつですか?」
「1歳1ヶ月です。2月に1歳になったばかりなんです。」
「人懐っこいんですね」
「そうなんですよ。この子のお姉ちゃんも誰彼構わず話しかけに行くんですよ」
お家がきっと近いのだろう、マスクをしていないおじいちゃんは口元を手で隠しながら答えてくれた。
話していると、もう満足したのかおじいちゃんの方に手を伸ばし、見知ったおじいちゃんの腕の中に帰っていった。
私は「バイバイ」と手を振った。
「まだバイバイできないんですよ。」とおじいちゃん。
きっとあと半年も経たずにできるようになりますよ。
と心の中で思った。
お別れをして、おじいちゃんと男の子、私はそれぞれの家を目指す。
男の子はおじいちゃんに抱っこされながら後ろにいる私をずっと見ていた。
このことを知人に話したら「わかったんやろな。この人抱っこ上手そうやなあって。」と言われた。
何かしらのセンサーが、(あの子の場合はあのかわいい目だなきっと)わたしの保育士経験をビビッと感じ取ったのか、な?
私の抱っこはどうだったかな。
100点満点なら見知らぬ人という不安要素を引いても80点くらいはもらいたいところです。