攻撃力と守備力どちらも高いのに退屈なカード
演劇を観た!!
演劇の青山「アンダーカバー」を観た。
劇団レトルト内閣の福田恵さんが脚本にR-1グランプリ2024ファイナリストのどくさいスイッチ企画さん、演出にニュートラルの大沢秋生さんを誘って始まったユニットの初の本公演だ。
今回はその感想を書いていこうと思う。
前提状態
まず感想を綴る前に、簡単にこの公演を観る前の個人的な前提状態を書いておく。
僕は福田さんとは一度舞台で共演させていただいており、その時も凄まじい演技テクニックと、絶妙なユーモアを差し込む技術のなんと高いことかと腰を抜かしたのを覚えている。
とにかくチャーミングだし、僕如きが偉そうにと思うかもしれないが、ご自身の武器を隅々まで理解していて、かつほとんど100%の出力で使うことができる恐ろしい役者さんだと思った。
脚本のどくさいスイッチ企画さんの作品は、今話題のR-1ファイナリストであるというのに不勉強ながらYouTubeでいくつかの動画を見るくらいしか出来ておらず申し訳ない限りである。
そして今回の本公演にはジャンク堂のマナカくんも出演している。
彼とは友人で、共演もしたし、よくスペースなどで観た作品の話や感想やなんかをおしゃべりする仲だ。
是常さんもいろんな芝居でお見かけしていて、個人的に交流はないがとても素晴らしい役者さんだと思っている。
演出の大沢さんや長橋さん、桐山さんに関しては、僕の不勉強故、今回が初見となった。
こんな感じの前提状態で、しかし前作の30×30での作品も(僕は観れなかったのだが)評判は高かったようだし、やはり念願の本公演、そしてもちろん上手い役者、今話題のコント師の脚本が揃っているとあっては、期待値はグンと上がらざるを得なかった。
結論
まず早速結論から言ってしまうと、「笑えるけど退屈」だった。
あくまで僕の個人的な感想であることは重々強調しておきたいし、正直観劇中なんども笑ったシーンはあった。演者の皆さんは全員しっかり自分の仕事を全うしていたし、後述するがなにより主宰である福田さんがめちゃくちゃ輝いていた。
もちろん世に蔓延る全然おもしろくない芝居に比べると、先ず以てステージが違うということも強調しておきたい。
ベースのお芝居としてのランクはめちゃくちゃ高いことは間違いない。
攻撃力も守備力も申し分なく高い。
のに、退屈になってしまった。
それはなぜかを書いていこうと思う。
以下、あらためて強調しておくが、あくまで僕の個人的な感想であり、この作品自体やそれを楽しんだ方の感性を否定するものではない。
どくさいスイッチ企画さんの脚本
まず脚本だが、良くも悪くも「どくさいさんのコント師としての脚本だった」と思う。全体として大きなフックを以て大きなカタルシスに繋げる、ということはせず、物語の根幹となるフックのネタバラシ的なことは案外早めにやってしまい、むしろネタバラシをすることで、日常からミステリ、ミステリからサスペンス、そして最後の文字通り大芝居へと、物語のフェーズ自体を次へ次へと変えていくという構造だった。
この、目的がどんどん変わっていく構造自体は、個人的には面白いと思ったし、序盤のネタバラシからのフェーズが移行した瞬間は、この感じでどんどんヤバイことになっていくとしたらめちゃくちゃ楽しみだ、と期待した。
しかしやはり長編の物語としてみると、大きなメッセージ性や最後まで物語を引っ張る大きな目的やフックがないので(細かいフック自体はあるが各フェーズですぐネタバラシされていってしまうため)全体を通して大きなカタルシスがなく、単純にストーリー的な楽しみはほとんど持続しなかった。つまりやはり、コント的な、決められた空間の中で笑いを作りだすための設定だけで無理やり繋げている物語になってしまっているようにも感じた。
だから終わってみると、ストーリーがどうかと言われた時に、作中で繰り広げられる各騒動と結末を含めても、観てるこちらも「どうでもいいんだけどね」となってしまった。
しかしそれはそれとして、そもそもストーリーなどはさして重要ではなく、要所要所の笑いとしてのシチュエーションを見てくれという振り切った作りだと言われればそうかも知れない。
好意的な見方をすればそう観れなくもないが、普段どくさいさんが作っているコント作品に比べても長いストーリーになる分、突拍子のなさもそこまでではなく、結局「緩いコント」の域を出ていなかったように思う。
役者陣の圧倒的守備力
この「緩いコント」がより平熱になってしまっている原因のひとつが、逆に各役者の守備力の高さにあると感じた。
今回出演されている役者の皆さんは軒並み実力者で、下手くそな人は一人もいない。一目、一言目で役どころがわかるフィット感、表情や仕草、間、面白ポイントの勘所、どれも素晴らしいと思う。
いろんな場面を切り取ってみても、なにか引っかかったりするような部分は(噛んだり滑舌が甘かったりというところを除いて)ほとんどなかった。
つまりこれは脚本や演出、演者の守備力の高さによるものだと言える。全体のレベルの土台が盤石なのである。
しかしこの全員の満遍ない水準の高さが、「緩いコント」と合わさって、後述する”退屈さ”に今回は繋がってしまったと考える。
福田さんの破壊的攻撃力
ではこの作品の攻撃力は何か。
それは間違いなく「福田恵」である。
福田恵の福田恵力の凄まじさである。
僕が観劇を振り返って思う印象は
「どくさいさんの話面白かったなぁ」でも
「みんな面白かったなぁ」でもなく
「福田さん、やばいほど面白かったなぁ」だ。
この作品の中で、福田さんが抜群に面白い、いや「面白すぎる」のである。
攻撃力が一人だけ頭抜けてしまっているのだ。
実際本作の中で、基本的には福田さんの役どころがいわゆる「まともな人枠」で「ツッコミ」であり、周囲の四人は福田さんがあの絶妙なニュアンスのツッコミを繰り出すための「空間づくり」に徹してしまっているように見えた。
ここで「ボケ」としないのは4人の役者さんの「上手さ」故、コント的なボケというより、ストーリーキャラクターとしてのあくまで自然な振る舞いとしておかしなことになる、ということが徹底できているからだと思う。
つまり先ほど書いた守備力の高さ故である。
なので各人がキチンと面白いことをして、面白いことになっているはずなのだが、それは今回に関してはショートコント的な笑いではなく演劇的なストーリー展開の枠を出ないため、そして役者陣がその枠にしっかり収まっているため、「ギャグ」ではなく「おかしな空間」にちゃんとなってしまっているため、「笑えるシーン」というよりは「ベースがそういう空間」にまで押し上げられているため、つまりオモシロの平均値と質と頻度が高いので一周回ってもうちょっとしたことでは笑えないレベルに底上げされてしまったのではないかということだ。
そしてそのなかでやはり福田さんのあの絶妙な、作り物とリアルの間の綱渡りのようなニュアンスのツッコミやオモシロがより映えるし、逆にそこがこの作品の「笑えるポイント」として突出してしまっているように感じた。
そのため他の役者さんも面白いことをしているのに、福田さんの面白ポイントを越えない為、ほとんど福田さんがツッコむための環境と化してしまっており、そこにお話としての大きなフックの欠如と合わさって「(福田さんのポイントでは)笑えるけど(全体を通しては)退屈」という、なんとももどかしい感覚になってしまったのだ。
誰のための作品か
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