「図解ビジネスファイナンス第2版」読書メモ
M&Aの理論と実践を学ぶ上での課題図書だったので復習がてら読んでみた。全体を整理しつながりを見返す上ではよかった。特に実務上どのような数字で計算しているのかについて結構具体的に書いてあるし、アンレバードベータや修正など降りてくるような数値などについても説明があり勉強になった。かなりEVAが好きだが、使い方だと思う。EVA=だめ、ではない。他にもかなり実務的な内容や実践的な使い方が書いてあるので興味ある人は読んでみると面白いと思う。プロや仕事でやっている人は読まなくて良いと思う。
企業価値とは
企業価値は、企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの現在における価値によって決まる
最終的には、事業の結果は全てキャッシュになる
キャッシュは全世界的な共有が可能なツール
PL、BSは会計基準によって変わるが、キャッシュは事実であり、どの会計基準を採用しても変わらない。だからファイナンスではキャッシュに注目することが多い。
日々の意思決定・活動等投資家の評価が将来キャッシュフローの現在価値、企業の市場価値を算出する
PLで算出される利益はキャッシュと連動しない費用がある
BSは取得原価で評価されているため、その時点の時価を適切に反映しない
企業価値は大きく負債の価値と株主資本の価値に分けることができる
株主価値は株式時価総額(株価*株式数)
将来キャッシュフローと現在価値
キャッシュは事実を示し、基準の影響を受けないため、他社との比較が容易である
キャッシュの流れ
フリー・キャッシュフロー(FCF)
営業活動-投資額=フリー・キャッシュフロー(FCF)
NOPAT(営業利益-税金)+減価償却費-運転資本-投資額=フリー・キャッシュフロー(FCF)
割引計算
投資プロジェクトは複数年に渡って行われるため、時間価値も考慮が必要であるため、現在価値を考える必要がある
割引現在価値が投資額を上回れば利益が出る投資、下回れば損失が出る投資として投資判断を行う
投資判断は、投資結果だけでなく、その他の影響(今後の案件の継続や新たな投資案件の獲得など)も考慮して行うことになると思われるので、実務では投資の利益、損失だけでの判断はしない
投資判断にまつわるコスト
機会コスト
ある投資意思決定をした場合、諦めなければならない他の投資機会から得られる利益
資本コスト(加重平均資本コスト)
投資家からの期待リターンであり、企業視点では資本コスト
割引計算をする際は資本コストを用いる
銀行や投資家からの調達をしたとしてもそれを上回る利益率を出せれば、調達する意義がある。そのため、資本コストは事業が継続できる利益率という考え方もできる
資本コストは負債コストと株主資本コストの構成比によって決まる
資本コストは加重平均資本コストであり、負債コストと株主資本コストに負債と資本の資本構成(割合)を加重平均して算出する
負債コストの方が通常低いため、負債による調達をすれば良いという考えもあるが、実際は負債が大きくなると財務リスクが高まるため、負債コストが上昇する(負債による調達には上限もある)ことから資本構成を考える必要がある
負債コスト
国債の利回り(リスクフリーレート)をベースに考える
企業の信用力によってリスクフリーレートに上乗せして信用リスクプレミアムも考える必要がある
格付けにも注意
節税効果(支払利息は損金算入されるので税金を減少させる効果がある)
株主資本コスト
負債コストよりも通常高い。企業に返済義務はなく、株主は株価の上昇と配当以外で回収する手段がないため、リスクが高いためである。
株主資本コストはCAPMモデルで算出する
CAPMモデルで必要な要素は、マーケットリスクプレミアム、ベータ、個別リスクと市場リスク
マーケットリスクプレミアムは4%〜6%程度
βは業界ごとに区分され、0.2〜1.4と幅が多いが実務上は1くらいで考えると良い模様
分散投資によって個別リスクは低減できるが、市場リスクは低減できない
投資判断
評価指標として回収期間法、割引回収期間法、IRR、NPVなどがある
正味現在価値法(NPV)
NPVが正の値なら価値創造をあらわす。正の値が価値創造額
M&Aを成功する際にはNPVの評価が重要になる
回収期間法・割引回収期間法
投資額が何年で回収できるかを投資額と各年の獲得するキャッシュ・フローを用いて計算
割引回収期間法は各年の獲得するキャッシュ・フローを現在価値に割り引いて計算
どちらにしても回収期間後のキャッシュ・フローが無視される欠点がある
内部利益率法(IRR)
投資のNPVが0になる割引率を算出する。
IRRが資本コストを上回れば投資
IRRは割合で表される数値であるため投資規模が加味されないことに注意
ターミナル・バリュー
投資が5年などで終わると限らないため、将来のキャッシュ・フローも予測する必要があるが、精緻に予測することが通常困難である
そのため、残りの期間については簡単な前提をおいて価値を推定する
算定方法は1年のキャッシュ・フローを(資本コスト-成長率)により算定された割引率で除して算出する
算出したターミナル・バリューは、資本コストで除して現在価値を求める
M&Aを成功させるにNPVは重要
買い手と売り手それぞれが考える企業価値のギャップが小さくなければ売買は成立しない
投資の評価方法
投資評価では複数のシナリオを想定し投資価値を算出する
シナリオは基本的な予想、楽観的な予想、悲観的な予想など複数のパターンを算出し発生可能性を推定して考える。
不確定要素については感度分析により、各変数の一定程度の変化がどれだけの影響を及ぼすかを把握しておく。
シナリオ分析は複数シナリオのNPVの加重平均だけでなく、モンテカルロ・シミュレーション法により価値を分布としてとらえることも可能。
業績評価指標の変遷
日本における評価指標の変遷
【〜1990年代以前】豊富な投資機会があったことから規模(成長)をあらわす指標が重要視される
売上高
営業利益
経常利益
【1990年代】バブルの後処理が必要であったためリストラ実行のため効率を示す指標が重要視される
ROA
ROE
【1990年代後半〜】持ち合い解消が進み、株主価値を意識し、効率を伴った成長を示す指標が重要視される
FCF
EVA
ROA(Return on Asset 総資本(総資産)利益率)
ROA(%) = 利益/総資産
資産全部に注目しているため、BSの借方に注目している考え方とも言える
ROE(Return on Equity 株主資本利益率)
ROE(%) = 利益/株主資本(純資産)
株主からの資金に注目しているため、BSの右側に注目している考え方とも言える
EVA(Economic Value Added 経済付加価値)
EVA = NOPAT-資本費用
資本を使用して生み出した利益であるNOPATから差し引いてもとめる、企業が一定期間に生み出す価値を意味する
支払利息はNOPATの計算に含まれない(支払利息控除前の金額)
制度会計上の数値が事業の経済実態と乖離する場合は調整して歪みを取り除く(EVAの調整)
投下資本は総資産から無利子負債(買掛金や未払費用)を控除した金額
EVAを計算する際の投下資本は期首の投下資本を使用する(企業や事業によっては期首と期末の平均を使ったりすることもある。)
EVAはPL(NOPAT)とBS(投下資本)を統合した指標。
EVAとROA(ROE)の関係
”EVA = NOPAT-投下資本*資本コスト”を投下資本で括ると[(NOPAT/投下資本)-資本コスト}*投下資本になる
NOPAT/投下資本-資本コストは「EVAスプレッド」といい、割合で表されるため、事業の効率を示す数値になる
(NOPAT/投下資本)は投下資本利益率(ROC)でありROA(ROE)と近似する
EVAスプレッドによりROA(ROE)が十分に高いかどうかを判断、投下資本で規模の効果を判断する
EVAスプレッドがEVAの正負を決める
ROAの欠点
割合で考えるため、投資判断を誤るケースがある
既存事業のROAが良い場合、新規事業のROAも十分に良いにもかかわらず、既存事業よりROAが低い場合、全体としてROAが下がることになるため、投資を見送る判断に至ることがある
既存事業のROAが悪い場合、新規事業の結果としても悪いがROAが既存事業よりも良い場合に、EVAはどちらも赤字にもかかわらず、既存事業よりは良いため、投資を実行する判断に至ることがある
割合で考えるため、規模が無視されるケースがある
EVAの事業分析への活用
①事業効率と規模
②収益性と資本効率:ROCによる収益性と資本効率の評価、売上高を加味してNOPAT/売上高、売上高/投下資本でNOPATマージンと投下資本回転率の指標を見る
その他、デュポンシステムもあり、業績管理システムだけでなく、投資家による企業分析ツールもある
業績評価は各指標のみに依存することなく、各指標の意味を考えて活用し、投資判断や投資の成果を測る必要がある
業績指標と企業価値の関係
MVA(Market Value Added 市場付加価値)
MVA = 企業価値 - 投下資本
MVAは将来のEVAに対する投資家の期待をあらわす数値
業績以外から企業価値を算定する方法
価値倍率法
PER(Price Earnings Ratio 株価収益率)
PER = 株価 / EPS
PER = 株式時価総額 / 当期純利益
PBR(Price Book Ratio 株価純資産倍率)
PBR = 株価 / BPS
株価
ROE、資本コストとPBRとの関係
株式時価総額=当期純利益 / 株主資本コスト
(株式時価総額 / 株主資本) = (当期純利益 / 株主資本) / 株主資本コスト
PBR = ROE / 株主資本コスト
ROE>株主資本コスト:PBR>1、MVAは正の値
ROE>株主資本コスト:PBR<1、MVAは負の値
EBITDA倍率
EBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization 利払い前、税引き前、減価償却前、その他償却前利益)
EBITDAを使うことで、異なる地域の企業を比較する際に、国によって異なる金利水準や税理trainの差異を取り除いた評価が可能になる
ストック指標とフロー指標を適切に使い分ける
ストック指標:NPV、投資の価値、企業価値、MVA、投下資本、総資産、株価
フロー指標:FCF、EVA、会計利益、売上高
財務活動と企業価値
資金調達手法
負債:多くの制約がある
株主資本:情報開示が要求される
企業の価値は事業で決まる。資本構成では変わらない
負債による節税効果は一定まで。負債の構成割合を増加させることは倒産リスクを高めることになる
資金還元
配当:企業の将来の成長の自信(配当は通常継続することが前提にある)、成長機会がないというネガティブな捉え方をされる可能性がある、成長企業は配当しない
自社株買い:今の株価が安い、成長機会がない、株式を消却することで株式数が減りEPSが上昇する
転換社債保有者の想定と発行体の要望は異なる
業績好調(株価上昇)している場合:転換社債保有者は株式に転換したいが、発行体は節税効果の恩恵を受けたい(負債のままがいい)
業績悪化(株価低迷)している場合:転換社債保有者は社債のままがいいが、発行体は株式に転換してほしい(財務の安定性を図りたい)
株価に込められた将来期待
現行事業価値(COV:Current Operations Value)と将来成長価値(FGV:Future Growth Value)
FGVは市場で評価されている企業の価値のうち、COVで説明しきれない部分。そのため、COVを把握して差額でFGVを計算する
MVAは将来EVAの現在価値合計である。そのため、市場価値と投下資本の差であるMVAを計算できれば、理論上MVAに込められたEVAの期待水準を逆算できる