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四国を列車でぐるっと回って内子座へ
内子座で4年ぶりに文楽公演
〈行きたいときが行く時!〉コロナ禍を経て、がぜんあちこち旅行したい気分になっている今日このごろ。
四国の愛媛県内子町にある、レトロな木造二階建の芝居小屋「内子座」で、4年ぶりに文楽公演が開催されるというので、列車に乗って観に行くことにしました。
特急列車の自由席が3日間乗り放題、しかも、条件が同じ‘四国フリーきっぷ‘よりも5000円おトクという、夏の四国あちこちきっぷ(13000円)を使います。デジタルチケットを購入しました。
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本州側の児島駅と内子駅を予讃線で往復すれば、13000円の元は充分取れるのだけれど、乗り放題だもの、列車にいっぱい乗りますよお。
今回のルート(数字は出発時刻)
(岡山駅08:52ーーー)児島駅ーーー高知駅11:42===窪川13:21~~しまんトロッコ号~~宇和島駅16:02ーーー松山駅 (松山泊)
松山駅09:07ーーー内子駅【内子座文楽】13:49ーーー松山駅14:23===児島駅
まず四国を高知まで縦断、時計まわりに戻ってきます。
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アンパンマン列車 特急南風5号
岡山駅08:52発の‘南風5号’高知行きは、赤いアンパンマン列車でした。かつては出勤途中に〈乗ってみたいな〉と眺めていたので、なんかうれしい。
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天井にもアンパンマンたちが。
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‘夏の四国あちこちきっぷ’が使用できるのは児島駅からですが、‘しまんトロッコ号’(窪川~宇和島)の出発に間に合うように、岡山ー児島間の自由席特急券と乗車券を別に購入しました。
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児島を出発すると、列車はすぐに瀬戸大橋を渡ります。友達が岡山に遊びに来ると、よく児島ー坂出間を列車で往復します。何度通っても、瀬戸内海の風景はいいなあと思います。晴れた日は、夕日が沈む時間をねらって乗るのもおすすめ。
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列車は大歩危駅に近づいていきます。車内アナウンスによると、これは吉野川。流れが速く‘四国三郎’と呼ばれているそうです。
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ところでなぜ三郎? 太郎、次郎はあるのかな?
帰ってから、調べてみました。日本の暴れ川ランキング、利根川〈板東太郎〉、筑後川〈筑紫次郎〉、吉野川〈四国三郎〉だそうです。
一位、二位、三位と言わないところが、風流ですね。
窓の外に目をやると、大歩危駅前の歩危マートのにぎやかな看板。‘ぼけあげ’ってなに? 気になる。
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高知駅で、特急あしずり3号に乗り換える
高知駅11:30着。向かいのホームに‘あしずり3号’中村行きが止まっているので、ホームから、高知駅前の幕末3志士像の後ろ姿だけをパチリと撮って、乗車します。
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窪川駅から、しまんトロッコ号
窪川駅で‘あしずり3号’から下りると、ホームの先に、黄色い電車がいた! 四万十川に沿いを走る、その名も‘しまんトロッコ号’。
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窪川駅13:12発なので、25分ほど待ち時間があります。ここでお昼ごはんを調達するのがよさそう。わたくし、いそいそと‘しまんトロッコ号’に乗り込んでしまったため、あとでモーレツにお腹がすきました。反省~。
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土佐大正駅から江川崎駅の区間だけ、二両目のトロッコ車両に乗り移ることができます。ただし座席指定券が必要。e5489のサイトで購入し、事前に駅で発券しました。
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しまんトロッコ号の中はこんな感じ。
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車内で記念品をいただきました。
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四万十川といえば浮かぶのが、この和歌。
四万十に光の粒をまきながら川面をなでる風の手のひら 俵万智
俵万智さんの第二歌集「かぜのてのひら」(2017)のタイトルはこの和歌から採られています。
前から、この和歌の舞台となった川が見たかったのですよ。今回は台風と大雨の影響か、水が濁っていて、水面は光の粒のキラキラではないけれど、それは次回のお楽しみ。今度は途中下車をして、川のそばまで行ってみよう。
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空には雲がふたつ。構図は‘風神雷神’ですね。
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ほらね。
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おや、インパクトの強い駅名です。
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半家駅のホームのミラーに、いま乗車している、しまんトロッコ号が映っています。
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トロッコ車両の乗車は次の江川崎駅まで。一両目の車両に戻りました。
宇和島駅から松山駅に
しまんトロッコ号、宇和島駅着16:00。‘宇和海22号’松山行の発車時刻は16:02。間に合わないと思ったけど、バタバタとホームを走ったら乗車できました。
‘宇和海22号’は本日二つめのアンパンマン列車。天井の絵はアンパンマンとロールパンナちゃんだそうです。
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一日目は松山で泊まります
今日はお昼を食べそこねたので、松山に着いたらまずは食事!おいしい~。お鮨もおいしそうだったな。胃袋はひとつなので残念でした。
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定番の観光スポット、道後温泉に行ってみました。
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道後温泉本館は改修工事中。なんかすごいことになっている。思いきったことをしましたな。
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裏に回ると、お風呂は営業していました。
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二日目、内子へ
8月20日午前の部の開演は10時。「二人三番叟」と「壺坂観音霊験記」を観ます。内子駅を降りて歩いて行くと、のぼりが何本も立っていました。
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あ、ここだ。
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内子座は明治時代に建てられた建物を、保存して使っているそうです。
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内子座の中の様子。座席は二階でした。
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太夫と三味線の床はどんな感じかな?と身を乗り出してパチリ。
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昔ながらの建物を残しつつ、冷房も効いていて、照明設備もある。現代にあわせて上手に手を加えているところが、すごいなあと思います。
取り壊してコンクリートの建物に建て直すほうが、きっと手間も経費もかからないだろうけれど、いまの内子座には、長い時間とたくさんの人の記憶、つまり目に見えないものも一緒に保存されているから、わざわざ訪れたくなるのです、きっと。
文楽も生きている
「壺坂観音霊験記」は、観音様をのぞけば、お里と沢市しかでてきません。午前の部の解説をした豊竹藤太夫さんによると、登場人物が二人しかいない語りのほうが難しいそうです。文楽の大夫は、基本はひとりで、たくさんの登場人物のことばを語り分け、場面描写も語ります。たくさんの人を語り分けるほうが、むしろやりやすいのだとか。へーそういうものなの、と思いながら聞いていました。(こういうマニアックな芸談、大好き)
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壺坂霊験記(つぼさかれいげんき)
人形浄瑠璃。世話物。1段。角書〈卅三所花の山〉。通称《壺坂》。原曲は1875年ごろに書かれた浄瑠璃《観音霊場記》に2世豊沢団平・加古千賀女(ちかじよ)夫妻が補訂・作曲を施し,79年10月に大阪大江橋席で初演されたものだが,その後,改めて団平が作曲をし直した87年2月大阪稲荷彦六座上演のおりのものが,現行曲として定着した。3世竹本大隅太夫と団平の演奏が好評を博し,明治期以降の新作の中では代表的な人気曲となっている。(下略)[原 道生]*1879年=明治12年 *1887年=明治20年
両親を亡くしたお里は、伯父の家で、3歳年上の沢市といっしょに育てられ、やがて夫婦になります。沢市は疱瘡にかかって、顔にあばたが残り失明しています。夜中になると、お里がいつも家を留守にすることに気づいた沢市は、お里は外に男がいるのではないかと疑います。本当のことを言ってくれ、おれを捨ててもかまわないから、と迫る沢市に、お里は怒り、有名なクドキがはじまります。
「三つ違いの兄さんというて暮らしているうちに、情なや、こなさんは生れもつかぬ疱瘡で、眼かいの見へぬその上に、貧苦に迫れど何のその一旦殿御の沢市さん、たとへ火の中水の底、未来までも夫婦じゃと、思ふばかりかコレ申し、お前のお目を治さんと、この壺坂の観音様へ‥‥」
お里は夜な夜な、沢市の目が見えるようにしてくださいと、壺阪寺の観音さまにお参りしていたのでした。
「壺坂観音霊験記」は「三つ違いの兄さんと‥」とみんなが口にしていた人気作品。‥‥え、文楽が人気? 文楽は〈古典〉で〈伝統芸能〉と思うと身構えてしまって、観るのに緊張しますが、最近、「倍返しだ!」なんてセリフが流行りましたよね。ドラマ「半沢直樹」を観ていなくても、そのセリフは知っている‥‥それと同じようなもの。みんながそんな感じで、気楽に文楽を楽しむことができればなあ、と思っています。
ちょっと宣伝してもいいかしら
耳なし芳一のお話を、現代語の語りと浄瑠璃と三味線で仕立て直した、オリジナル作品「琵琶法師耳無譚」。「壺坂観音霊験記」も、スパイス程度に出てきます。
わたくしも浄瑠璃の作詞や脚本などにかかわっています。(古典監修をしたとあるけど、江戸時代は現代と地続き、古典っていう気がしないんだよね。個人の感想です)
東京公演は残席わずか。わかる!浄瑠璃(初演のアンケートより)、ご興味を持った方はぜひご覧ください。おもしろいですよ。
【東京公演】9月7日(木)19時開演 銕仙会能楽研修所
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【大阪公演】9月30日(土)15時開演 うえほんまち錢屋ホール
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※盛況のうち終了しました。次の公演をお楽しみに。
以上、宣伝おわり。
さあ、帰ろう
内子でお昼ごはん。
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そして、‘宇和海16号’(内子~松山)、‘しおかぜ22号’(松山~児島)を乗り継いで、帰ってきたのでした。
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一旦出て、ICカードで再入場した児島駅ホーム。あれに見えるは瀬戸大橋アンパンマントロッコ。
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次に乗るのはあれだな。
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JR四国は特急を主体に走らせる方針でしょうか。トイレはきれいだし、乗り換えの接続はスムーズだし、四国の列車の旅、とても快適でした。
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