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#03 この服で救急車に乗れるか?乗ってみて思ったこと

遠くから救急車のサイレンが聞こえる。止まる。


意識は、あった。

何人もの人が、「せーの!」「せーの!」と呼吸を合わせながら私の身体をストレッチャーに乗せていく。「ママしんじゃうの?」娘の声もずっと耳元で聞こえる。一緒に乗り込んでいるようだ。

おそらく、スマホはここ、と指で示して取り出してもらったのだろう。電話番号を伝えたのか、履歴から呼び出したのか、救急隊員の方は夫に電話してくれた。


救急車の中で夫と電話した。

倒れちゃったよ、ごめんよ。娘が怖がっているから早く来てあげて

そんな内容だったと思う。


完全に気を失ってはいない筈だが、この時の記憶は薄い。

病院について、また何度も「せーの!」「せーの!」とストレッチャーからストレッチャーへ身体が動かされていく。何回も廊下の角を曲がる。
検査が始まる前に会社を抜けて夫が来た。


CTとMRIを取るようだ。

細い検査台に乗せられ、服から下着から全て脱がされていく。

クローゼット整理を指南するコラムに「自分がいつ救急車に乗っても恥ずかしくない服を着ているか」とか書いてあるが、乗せられてから語ってほしい。黒のリブタートルニットと、ヒートテック、キャミソール、ショーツ。薄いポンチ素材のロングスカート、タイツ、5㎝ヒールのブーツ。とりあえず、全部伸びる素材で良かったと思った。

「この、ブーツはだめです。安定感のある、スニーカーか何か、かかととつま先が覆われたものを持ってきてください」夫に向かって誰かが言った。

「コンタクトはしてますか!」「ワンデーですか」「2WEEKです」「じゃあ、とりあえず生食にいれよう」生理食塩水が入っているらしきビニール袋に自分でコンタクトを取って入れた。「でも、もう処分しちゃって良いです」。
院内では眼鏡で過ごすだろう。最後取らなければならないもの、結婚指輪。

……抜けない。私の指は第二関節が節榑立っている。
力の入る右手で、左手の薬指から思いっきり指輪を引っ張ったり、少しずつずらしてみたり。ようやく抜けた指輪を夫に託した。

ああ、指輪のクリーニングに全然行ってなかった、と思い出した。

#髄膜種 #入院記録 #2021年髄膜種入院記録  

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